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トムスが発表した5000万円超の「マルチシミュレーションシステム」を体験してみた

2021年12月10日 発表

本格的レーシングシミュレータ「トムス マルチシミュレーションシステム」

モータースポーツに触れ合える接点を生み出す

 トムスは12月10日、かつてない体験を作りだすことができる本格的レーシングシミュレータ「マルチシミュレーションシステム」を発表した。また、このシステムを体験できる機会が用意されていたので、開発の経緯や実際に乗ってみた感想をお伝えしたい。

 そもそもSUPER GTやスーパーフォーミュラなどモータースポーツ活動や、エアロやサスペンション、ホイールなどオリジナルパーツを手掛けているトムスが、なぜこんなに大掛かりなレーシングシミュレータを発表したのだろう?

トムス 先進技術開発室 室長 藤本哲也氏(左)、トムス 経営企画室 室長 デザインセンター センター長 田村吾郎氏(右)

 このトムス マルチシミュレーションシステムを手掛けているのは、田村吾郎氏と藤本哲也氏の両名。実は田村氏はトムスのスタッフでもあるが、社会活動と芸術活動を有機的につなぎ、新しいソリューションや有用な提案を行なうことを目的としたアーティスト集団「RamAir」の代表兼アートディレクターという顔も持つ。さらに、筐体のスクリーンや表示システムで協力しているWONDER VISION TECHNO LABORATORYの顧問と製品開発も担当、加えて東京工科大学デザイン学部准教授、総務省地域情報化アドバイザーと、とても幅広く活躍している。

 田村氏によると、トムスはこれまでモータースポーツを中心に活動してきたが、最近はその活動で培ったノウハウを使い、EV(電気自動車)やシミュレータの開発をはじめ、2021年4月にスタートした「フォーミュラ・カレッジ」など、新たな事業の立ち上げを押し進めているという。

 そして今回のシミュレータは「もっと多くの人がモータースポーツに触れ合える接点を増やしたい」との思いから2020年8月に開発がスタート。田村氏がこれまでに開発してきた技術と、トムスのモータースポーツの知見を融合させた結果このシミュレータが誕生したという。デジタルを使えば「まだ実車に乗るのは怖いと感じる人でも乗れるし、山奥に行かないと走れないラリーカーを体験することも可能だ」と田村氏は語る。

 当初このシステムを製作したのは、航空機のパイロット向けだったが、他にも利用価値があると考え、モータースポーツを取り込んだという。最近は「eモータースポーツの盛り上がりもあり、限定的ではなく柔軟性を持った幅広い展開を想定している」と田村氏は教えてくれた。また、田村氏自身も実際にフォーミュラカーに乗っていることもあり、その経験値をフィードバックして作り込んだという。ちなみにコースデータは「アセットコルサ」の共有データを活用し、そこに自社のデータを融合。なので、世界中のサーキットや首都高なども走ることができる。

2017年に実施したトヨタ「世界ラリー体験アトラクション」の筐体
2019年に実施した「立山黒部アルペンライド」の模様
2021年4月にスタートした「フォーミュラ・カレッジ」

 シミュレータの味付けは、初心者向けとプロのトレーニング向けだとまったく異なるとのことで、今回設定しているのは、一般の人が経験する初心者向けにしているとのこと。システムは使用する機材によって価格は変動するが、今回体験させていただいたのは、大型半球体スクリーン仕様(ハイエンドモデル)で、お値段5000万円~の筐体。販売だけでなくレンタルも行なってくれるという。

ステアリングにはボタンがたくさんあったが、今回は裏側にあるパドルシフトのみ使用
プロジェクターの映像を半球体ミラーに反射させ、スクリーンに投影している構造
36.5はトムスがモータースポーツで走らせているマシンのゼッケンが36と37で、その中間として付けたという
ハイエンドモデルは高さ5mを超える巨大な筐体になる

トムス、本格的レーシングシミュレータ「マルチシミュレーションシステム」

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1372951.html

いざ、マルチシミュレーションシステムを体験

 今回体験させてもらったのは、フォーミュラ・カレッジで使用するマシンで富士スピードウェイを走るといった内容。本物と同じ寸法で作られたコクピットに乗り込むと、思っていたよりも狭く、さらに座るというよりはやや仰向けに寝そべるような感じ。実際のフォーミュラカーって、こんな体勢で運転しているのかと驚き。

 シートポジションを決めて、6点式のシートベルトを締め、スタッフにOkサインを出すとエンジンが始動。すると微振動が体に伝わってくるのと同時に背後のスピーカーからエンジン音も聞こえてきて、まさにアイドリング状態を完全に再現。富士スピードウェイのピットロードにいるかのよう。続いてパドルシフトでギアを1速に入れてスタート。シフトチェンジをするとシフトショックはもちろん、サウンドもスピーカーから再現しているとのことで、ものすごくリアル。

 コクピットの下には6本の電子制御ダンパーが配置されていて、立体的な動きや微振動までも再現。さらに、フルブレーキングをしたときなど大きなGがかかるシチュエーションでは、シートベルトをモーターで引っ張ることで、あたかも体にGがかかったかのような衝撃まで再現している。また、今回は初心者向けの設定なのでタイヤのグリップ力は均一となっていたが、トレーニング用になると冷えている状態からスタートして、自分でタイヤを温め、周回を重ねるとタイヤが熱くなり過ぎてグリップが低下していくことも再現するという。もちろん走行データはすべてロギングされていて、あとから比較や検証に活用できる。

ロギングデータはリアルタイムに流れている
もちろん外からの走行映像も確認できる

 走り始めてまず感じたのはステアリングが重いこと。実際にフォーミュラカーは、ステアリグとタイヤの舵角はほぼ1:1だそうで、グリップ力の高いスリックタイヤを履いているためかなり重いという。周回を重ねるごとに少しずつ慣れていくものの、とにかく視界が低くてコーナリングのタイミングがつかめない。乗用車で走ったときはコーナーの縁石がよく見えるので、曲がり始めるタイミングが分かりやすかったのに、フォーミュラカーだとほとんど見えず、さらにブレーキがよく効くので乗用車と同じ感覚でブレーキングするとコーナーの手前で減速し過ぎてしまう始末。筆者のドライビングは動画の後半で、アクセルワークがギクシャクしているのがよく分かります。

【トムス】マルチシミュレーションシステム試乗(3分)

 7~8周走り終えると、コクピット内にこもる熱と重いステアリングを操作していたことと、下手な運転を後ろから見られている恥ずかしさも加わり上半身は汗だく。これにレーシングスーツを着て、もっと周回数を重ねたら相当なトレーニングになるのは間違いない。サーキットまで行ったり、タイヤやガソリンを消耗したりすることなくトレーニングできるのは、モータースポーツに参加するためのコスト的にも助かるはず。

 また、田村氏が言うようにモータースポーツとの接点やトレーニングだけでなく、さまざまな可能性を秘めているハイテクシステムだと実感。ちなみにこのハイエンドモデルも、すでに受注を獲得しているといい、モータースポーツ業界でも高い注目を集めているという。

開発の藤本氏のデモランを見学。自分は2分くらいだったが、1分40秒で走っていた
コースアウトして芝生を踏むとしばらくはタイヤに葉っぱが付着しているのも再現されていた
画面の左上にはタイヤの状態やアクセル・ブレーキ開度などを表示。中央にはギアと速度が表示されている

 マルチシミュレーションシステムで使用しているスクリーンや似た筐体を使った過去のイベント動画や、巨大な筐体を組み立てている動画なども公開されている。

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WV Sphere5.2 組み立て4Kラプス【WV Sphere5.2 Assembly 4K Time Lapse 2018.03.01 at KATAYANAGI Institute】(1分9秒)