ニュース

ホンダ、新型「ステップワゴン」開発陣による商品コンセプト解説

2022年1月7日 公開

事前説明会で登壇した開発スタッフ。左から、AIRのエクステリアデザイン担当 花岡久和氏、SPADAのエクステリアデザイン担当 大西優一氏、インテリアデザイン担当 矢口史浩氏、CMFデザイン担当 唐見麻由香氏、パッケージデザイン担当 市川聡子氏、開発責任者 蟻坂篤史氏

新型ステップワゴンの商品コンセプトとは

 本田技研工業は1月7日、新型「STEP WGN(ステップワゴン)」をオンラインにて初公開した。正式発表・発売は2022年春を予定しているが、「いち早く商品を知ってもらいたい」との想いから事前説明会が開催され、本田技研工業 四輪事業本部 ものづくりセンターからは開発責任者の蟻坂篤史氏、本田技術研究所 デザインセンターからは、エクステリアデザイン担当の花岡久和氏、大西優一氏、インテリアデザイン担当の矢口史浩氏、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザイン担当の唐見麻由香氏、パッケージデザイン担当の市川聡子氏が参加。さらに、ホンダアクセスから純正アクセサリー開発責任者の松岡靖和氏が参加し、各パートの解説が行なわれた。

本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター 開発責任者 蟻坂篤史氏

 まず最初に開発責任者の蟻坂氏が登壇し、新型ステップワゴンの商品コンセプトを語る前に、ステップワゴンの世界観をイメージしたアニメーションを上映。子供のころステップワゴンで育った思い出を持つ主人公は、就職して日々の忙しさに没個性に陥りそうになる中で、結婚して子供ができ、生活は一変。そして自分たちの幸せは自分たちで決める。欲しいのは、安心と温もりのある毎日や、自由で可能性のある未来が見える「素敵な、暮らし」であることに気づく。父になり子供のとの時間を優先しているうちに妻のほうが運転が上手になっていたり、子供が泥んこのまま車内に乗っても大丈夫な内装など、どんなに忙しくてもステップワゴンさえあれば、家族はいつも家族でいられて、どこまででも走っていける。家族の可能性をもっともっと広げてくれる。そんな素敵な暮らしに寄り添ってくれるのがステップワゴン……という内容。

 この動画について蟻坂氏は「今の年齢が30~40歳の子育て世代で、初代ステップワゴンが登場した1996年ころに親がミニバンに乗っていて、ミニバンに慣れ親しんでいるメインターゲットに向けて製作した」と解説。そのターゲット層が求めている「あらゆる用途に使えて、生活を豊かにしてくれるアイテム」として開発を進めてきたという。

 特に購入重視点上位である「外観デザイン」と「シートアレンジ」については、先代モデルは他社に劣っている部分もあったと考え、改善に注力することでミニバンの基本価値の向上を図っている。また、時代の移り変わりとともにターゲット層のニーズにも変化があり、子供のころからテロや世界恐慌、自然災害などを目の当たりにしてきたこともあり、「信頼や安心」を求めていることに加え、共働き世帯が7割を超えていて、日々の煩わしさから解放された「自由」を求めているという。そこでホンダはミニバンの基本価値観をターゲット層の価値観に基づき進化させ、他社ミニバンとの差別化も図りたいと考えて導き出したグランドコンセプトが、家族みんなが安心と自由を感じ、生活が広がるように思わせてくれる「#素敵な暮らし」であると紹介。

グランドコンセプト
この文字を見ると、オブラディ・オブラダが流れる初代ステップワゴンのCMが思い出される
ターゲットユーザー
開発の方向性

 そして「安心×自由」というキーワードに基づいて「ミニバンの新たなスタイリング」「すべてにおける信頼性」「空間の開放」を具現化したことで、新型ステップワゴンが完成。デザインの方向性は奇をてらわずに、どんなシチュエーションにもマッチして、どんな風景にも違和感がなく、どんな角度から見てもきれいに見えるものを目指したという。これはエクステリアもインテリアも一貫して採用しているデザインコンセプトだと蟻坂氏は言う。

 ラインアップに関しては、従来のようにアイテムを足していくのではなく、初めから価値観の異なるグレードを設定。シンプル&クリーンの「AIR(エアー)」とスタイリッシュ&クオリティの「SPADA(スパーダ)」の2グレードを設定。スパーダについては「先代モデルにもあったが、今回はまったく違う美しさを追求したデザインになっている。またスパーダには派生形のプレミアム ラインも設定している」と蟻坂氏は締めくくった。

提供したい価値
デザインとラインアップの考え方と求められる価値
2つの世界観

「エアー」と「スパーダ」の違いとは

株式会社本田技術研究所 デザインセンター エクステリアデザイン担当 花岡久和氏

 エクステリアデザインに関しては、まず「エアー」を担当した花岡氏が登壇。エアーはサブコンセプトとして「Life Expander BOX」を設定。ユーザーが主役でその家族を引き立て、可能性を広げてくれるような存在を目指したという。

 また、通常スタイリングコンセプトは、「○○フェイス」など別に設けることが多いが、新型ステップワゴンでは、車両コンセプトがそのままスタイリングコンセプトとし、ユーザーに提供したい「安心」と「安全」という価値が見ただけで伝わることを目指したという。「がっしりしたキャビン、それを支えるしっかりとした足まわり、どこへでも行けそう、アクティブセーフティを感じる“塊勝負”のデザインにした」と花岡氏。

 基本的には塊だけで語り尽くせることをイメージしつつも、最小限のディテールのみを追加。全体的にいろいろな繊細なチューニングを施し、さまざまなトライを行なったうえで最終的にこのデザインに決まったという。

エアーのコンセプトボード
エアーのスタイリングコンセプト
エアーのデザインスケッチ

 フロントは、最近のミニバンではあまり見かけなくなったスッキリとしたイメージとしているが、あまりスッキリさせすぎると商用車のようになってしまうため、どこから見ても質感の高い乗用車に見えるように注意したという。また、細いメッキを左右に通すことでワイド感を演出。もっとも苦労したのが目つきの作り方とのことで、表情を持たせたいが可愛すぎず、威嚇しないような、精悍でありながら親しみのある目つきを生み出したという。ヘッドライトはL字の細いポジションランプがウインカーも兼ねていて、ウインカーは流れるようなシーケンシャルタイプを採用している。

 サイドビューでは、Aピラーを後方に下げて起こしたことが最大の特徴。そもそもステップワゴンは「視界のよさ」「運転のしやすさ」「居心地のよさ」といったユーザー中心の考え方があるので、それにに基づき開発チームでエクステリアデザインにフィードバックしたという。また、新型ではベルトライン(ガラスパネルの下端)を上げていて、ボディにしっかりとした厚みが出て、安心感を高められたという。さらなる“こだわり”は、初代や二代目と同じようにDピラーを復活させ、後方のがっしり感を高めて“守られている感”を高めたという。

 リアまわりについては、誰が見てもステップワゴンと分かる縦長のテールランプが、初代や二代目ステップワゴンへのオマージュで、「とてもスッキリとしたデザインとしつつ、積載性の高さも伝わるリアビューに仕上げられた」と花岡氏は言う。

株式会社本田技術研究所 デザインセンター エクステリアデザイン担当 大西優一氏

 次に「スパーダ」のエクステリアデザインを担当した大西氏が登壇。スパーダのサブコンセプトは「Prime Life BOX」といい、家族をしっかり守る存在にするために「力強さ」「伸びやかさ」「品格」をキーワードにデザイン。同じ箱型ではあるものの、エアーとは印象がまったく異なり、力強さ、分厚さ、大胆さなどを全面に押し出している。

 フロントはエアーに対してオーバーハングを20mm伸ばし、パーツ配置については精悍な顔つきにするためにメッキパーツの配置と量も徹底して整理して、金属から削り出したようなフロントフェイスに仕上げたという。

 サイドは「より低く、より伸びやかなシルエットを目指した」といい、フロントバンパー下部にあるメッキが、そのままサイドシルを経由しながらリアまでつなげることで低さをアピール。サイドシルの断面も、よりタイヤが踏ん張るような力強さを印象付ける作り込みが行なわれている。Bピラーガーニッシュもピアノブラックとすることで、ガラスとの一体感を出し、上質感を高めている。テールゲートスポイラーも、伸びやかなシルエットに貢献しているという。

 リアについてもフロントと同様に、エアーよりもオーバーハングを20mm延長し力強さを表現。さらに、再下端を10mmほどさげて低さを強調したという。そして、テールゲートスポイラーに角を与えることで、リアビューをより大きな四角に見えるようにデザイン。また、「リフレクター(反射板)をテールランプ内に収めているため、すっきりと上質なリアバンパーとなっている」と大西氏は解説した。

スパーダのコンセプトボード
スパーダのスタイリングコンセプト
スパーダのデザインスケッチ

大空間のインテリアデザインの特徴とは?

 続いてインテリアデザイン担当の矢口氏を中心に、CMFデザイン担当の唐見氏、パッケージデザイン担当の市川氏の3名がインテリアデザインについての解説が行なわれた。

 矢口氏は「歴代のステップワゴンで築き上げてきた、家族のための大空間をさらに進化させたいと考え、ミニバンネイティブ世代にもっと安心できること、家族の成長と共に自由で柔軟な空間を使えることを大切に開発してきた。もっと遠くに行きたくなったり、もっと遊んでみたくなったり、そんな気持ちを後押しできる空間を目指した」と語る。

インテリアデザインコンセプト
インテリアデザインスケッチ
インテリアデザイン

 また、インテリアデザインスケッチには、「普段は人の絵は入れないが、今回はイメージを膨らませやすいようにあえて入れてみた」と矢口氏。家族全員が安心して居心地よく過ごせるために、空間全体を心地良い素材で包み込んだという。また、エクステリアデザインからも見て分かるとおり、フロントガラスとサイドガラスの下端を一直線にそろえたことと、2列目3列目シートの着座位置を少し高くしつつヘッドレストの大きさも形状を変更したことで、どの席に座っても外の景色がよく見えるようにデザインしたという。矢口氏は「ホンダ史上最大空間を感じ取ってもらいたい」と、車室内空間の完成度の高さをアピールした。

 これは運転席も同様で「ダッシュボードからの視界も水平基調のラインにそろえたことで、駐車したりする際にボディの大きさを把握しやすく、運転しやすい視界を実現した」とパッケージデザイン担当の市川氏。また、交差点で歩行者を見つけやすくするために、Aピラーを70mm手前に移動させ、サイドミラーも窓の三角部分を使わずドアに直接マウントさせることで、広い視界を確保。ボンネットフードも車両感覚をつかみやすい見え方を追求したという。

安心して遠くに行けるパッケージ技術1
安心して遠くに行けるパッケージ技術2
自由に居場所が選べるパッケージ技術
モニターを通してインテリアを解説する矢口氏
2列目シートの可動範囲の大きさを実演してくれた市川氏

 また、実車に乗り込んだ矢口氏は「運転席の視界は、ワイパー、スピーカー、窓ガラスの曇りを解消するデフロスターの吹き出し口までも視界に入らないように徹底的にデザインした。ダッシュボードにも窓ガラスへの映り込みをさせないために複雑な形状物は一切配置せず、自然と意識が外へ向き運転に集中できるように配慮した」と解説。また助手席側では、箱ティッシュの入る収納や小物置き、凝ったステッチを入れた内装、汚れても拭きとりやすい素材を使用し、子育て世代への扱いやすさを紹介。

 運転席まわりではほかに、エアコンの吹き出し口が新型「シビック」から導入している可動範囲の広い新タイプを採用している点、ボタンの配置が初心者でも分かりやすいように工夫を凝らしたという点、メーターに大きくて見やすい10.2インチの液晶デジタルディスプレイを採用した点、フロントシートにフィットやヴェゼルですでに使用している長距離の運転が疲れにくくなる「ボディスタビライジングシート」を採用している点などを説明した。乗降性についても小柄な人でもスムーズに乗り降りができるように形状などを工夫しているという。

インパネ上部やドアライニングには、汚れを拭きとりやすいプライムスムースを採用(スパーダ)
撥水撥油加工を施し、掃除がしやすい「FABTECT(ファブテクト)」を採用(エアー)

 さらに最大865mmという「超ロングスライド」を実現した新開発の2列目シートは、シートベルトを内蔵することで移動範囲に制限がなく、そこにホンダ初となる前後左右の稼働を実現する「ワンアクションレバー」を搭載し、子供でも自分で調整できる手軽さも両立。運転席の直ぐ斜め後ろにシートを配置できる「赤ちゃんお世話モード」も可能としたほか、スパーダには足を伸ばしてくつろげるフルフラットオットマンも搭載した。

 床下収納が特徴の3列目シートも改良が加えられ、従来モデルではやや硬かったクッションは、新型ではクッション厚を20mmへと拡大し快適性を向上。ドリンクホルダーはもちろん、USBポートも設置されている。

株式会社本田技術研究所 デザインセンター CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザイン担当 唐見麻由香氏

 唐見氏も「汚れを気にせずクルマを使えるのは快適さに重要なポイントである」と説明しつつ、スパーダはインパネのアッパー部とドアライニングにプライムスムースという汚れを拭きとりやすい合皮を使用しているほか、エアーは撥水撥油加工を施し、掃除がしやすい「FABTECT(ファブテクト)」を採用しているという。

 また「エアーとスパーダの違いをカラーでもより印象付けた」とのことで、それぞれの世界観を分けるために、エアーは子供たちの声が聞こえてくるような、楽しいリビングにいるような雰囲気のあるソリッドライクなカラーを採用。ボディカラーには「フィヨルドミストパール」と「シーグラスブルーパール」の専用色を設定したほか、インテリアカラーはグレーとブラックの2種類を用意したという。2列目と3列目のシート背面は、子供が靴を履いたまま蹴って汚しても拭きとりやすいプライムスムースを採用しているのもポイントであると解説した。

エアーのCMFコンセプト

 スパーダは、たまには1人の時間に浸ることも大切にしたい成熟した家族に向けたグレードで、重厚な色をメインにラインアップ。ボディカラーは世界観を大切にするためにダーク系を軸にラインアップ。専用色は「トワイライトミストブラックパール」と「ミッドナイトブルービームマテリアル」を設定。インテリアはブラックのみで高級感のある室内を表現したとしている。

スパーダのCMFコンセプト
矢口氏が自ら描いたエアーとスパーダの家族と過ごすイメージイラスト

純正アクセサリーでステップワゴンを家族みんなのすーぱーかーに

株式会社ホンダアクセス 純正アクセサリー開発責任者 松岡靖和氏

 最後はホンダアクセスの純正アクセサリー開発責任者である松岡氏から、商品の説明が行なわれた。グランドコンセプトは「どこでも行けて、いろいろ選べて、何でもできる、家族みんなのすーぱーかー!!」と設定して商品を開発。ミレニアム世代ファミリーの「共感価値」と「子育てニーズ」に応えるラインアップを目指したという。

 エアーをベースとした「SPORTS MIX」は、ボディ下方に装着するエアロパーツやアルミホイールなど、趣味と暮らしの共存をあえて見せるカッコよさを表現。スパーダをベースとした「Emotional Solid」は、フロントグリル、フォグライトガーニッシュ、アルミホイールを設定し、かたまり感のある上質なカッコよさを演出したとしている。また、フロントグリルとフォグライトガーニッシュは、スパーダとスパーダ プレミアムライン用に表面処理の異なる2種類を設定しているという。

 ナビは11.4インチとホンダ史上最大となる画面サイズを実現。もちろん「Honda CONNECT」にも対応する。また、こちらもメーカー系では最大級となる15.6インチのフルHDディスプレイを採用した「リア席モニター」をラインアップするという。

グランドコンセプト
エアーベースの「SPORTS MIX」
スパーダベースの「Emotional Solid」