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8気筒サウンドのフォーミュラマシンが次戦SUGOのCN開発テストで走行へ 永井洋治氏が詳細説明
2022年5月23日 15:48
次戦SUGOのCN開発テストで8気筒サウンドのフォーミュラマシンが走る
5月22日、スーパーフォーミュラ第4戦オートポリスが開催された。決勝レースは、8位からスタートした平川亮選手(20号車 carenex TEAM IMPUL SF19)が荒れたレースを制して逆転優勝。第1戦に続き2勝目を挙げた。2022年は野尻智紀選手(1号車 TEAM MUGEN MOTUL SF19)が強さを見せているものの、この勝利により平川亮選手はポイント差を詰め、ランキング首位である野尻選手の67ポイントに7ポイント差としている。
毎戦激しい戦いが見られるスーパーフォーミュラだが、2022年はレースと並行してカーボンニュートラル燃料を搭載したテストマシンでの開発を実施。CN(カーボンニュートラル)開発テストとして、燃料の確認、ボディへのサステナブル素材の適用、横浜ゴムによるサステナブル素材タイヤの開発が進められている。すでに、第1戦・第2戦 富士、第3戦 鈴鹿、第4戦 オートポリスと開発メニューは進んでおり、次戦の第5戦 SUGOでもレース開催日(6月18日~19日)の翌日・翌々日にCN開発テスト日が組まれている。
第5戦 SUGO 6月18日~19日(テスト 6月20日~21日)
第6戦 富士 7月16日~17日(テスト 7月18日~19日)
第7戦・第8戦 もてぎ 8月20日~21日(テスト 8月17日~18日)
第9戦・第10戦 鈴鹿 10月29日~30日(テスト 10月26日~27日)
このCN開発テストにおけるスーパーフォーミュラ テクニカルアドバイザー 永井洋治氏にSUGOの開発メニューを確認したところ、ここでは驚きのマシンが走るという。
開発テストには、トヨタエンジンを搭載した「赤寅(アカトラ)」、ホンダエンジンを搭載した「白寅(シロトラ)」の2台のフォーミュラマシンが用いられているが、赤寅マシンに排気系を新開発したエンジンを搭載するという。
開発テーマは、モータースポーツにおける音の追求で、より心地よいレーシングサウンドを開発するのが目的になっている。
現在のスーパーフォーミュラには、NRE(ニッポンレースエンジン)という直列4気筒 2.0リッター直噴ターボの共通規定エンジンが積まれており、SUPER GT 500クラスのマシンとエンジンを共用している。トヨタ製、ホンダ製、日産製(日産はSUPER GTのみ)とあるわけだが、いずれにしろ直列4気筒サウンドのマシンである。
永井氏は、この直列4気筒 2.0リッターエンジンから8気筒エンジンの音を奏でられるようにするという。よく知られているように、エンジンは多気筒になればなるほどエンジンの爆発燃焼から発生する排気音が連続するようになり、官能的な音が発生するようになる。例えば、フェラーリの12気筒や、ホンダの12気筒などはその典型で、○○ミュージックと呼ばれていたりする。
4気筒のエンジンがよくないというわけではないが、「4気筒エンジンから8気筒エンジンの音がしたら楽しいと思いませんか?」(永井氏)と言い、具体的には新開発の排気管を用いるという。
4気筒エンジンから4気筒の音がし、8気筒エンジンから8気筒のエンジンの音がするのは、爆発間隔のため。4ストロークエンジンは1気筒あたりでみると2回転に1回爆発するので、クランクシャフトが2回転する720度での爆発間隔を基準とする。
振動面を考えるとなるべく等間隔に燃焼爆発させたいので、4気筒エンジンでは180度間隔での爆発を、8気筒エンジンでは90度間隔での爆発が行なわれている(もちろん不等間隔爆発などもあるが、永井氏は等間隔爆発について話していた)。単純化すると、8気筒エンジンは4気筒の倍の排気爆発音が聞こえており、それを機械的に再現するという。
具体的には排気管に手を入れ、DOHC4バルブのため排気側にある2つの排気弁それぞれに排気管を設置。片側の排気管の排気管長を伸ばして、音が集合部に届く時間をコントロールするという。180度間隔の爆発の間に長い排気管からの爆発音が届くようにすることで、90度間隔相当の排気音、つまり8気筒エンジンの排気音を再現できるとのことだ。
この音も常時出るのではなく、「特定のところで出るようにする」と永井氏は言う。ウエストゲートの仕組みを用いており、ウエストゲートの際に片側のバルブの排気管が開いていくという。つまり排気側の圧が高まったときということになるが、具体的な回転数などについては教えていただけなかった。
ここで同じような機構を吸気管側に用いたエンジンがかつてあったのを覚えている人もいるだろう。トヨタで言えば1G-GE型などに搭載されていたT-VIS(Toyota Variable Induction System)、日産で言えばRB20DE型やCA16DE型などに採用されていたNICS(Nissan Induction Control System)になる。これらのエンジンはDOHC4バルブ構造を活かし、トヨタは吸気面積の変化で、日産は吸気管長の変化で低回転域から高回転域まで効率よく空気を送り込んでいこうとしていた。管長の異なるものをコントロールする点では、今回トヨタが排気側に用いたものはNICSに近いように思える。
ただ、今回の目的は性能向上ではなく、官能性能を向上しようという取り組みになる。カーボンニュートラルの話題はともすれば今まであったクルマの魅力の削っていくものが多い中で、この取り組みはクルマの魅力をアップする取り組みになるという。「おそらくこのような取り組みは世界初となり、私自身ワクワクしている」(永井氏)と語るとおり、カーボンニュートラルだかこそ官能性を上げられるというのは今まで誰もやってことなかった取り組みになる。
排気量自体に変更はなく排圧も変わらないため、おそらく排気音の音圧は上がらず、周波数帯域が上がるのではないかと予測しているとのこと。排気管長や形状によっては、周波数域を打ち消すようなノイズキャンセル機能を持たせたり、逆に強調したりもできるが、「そのような考え方はまだ入れていない、まずはテスト」(永井氏)と語るとおり、第5戦SUGOのCN開発テスト日(6月20日~21日)が初の実走テストになるとのこと。
一般のスポーツ走行日になるためCN開発テストは観客席から見学可能で、4気筒エンジンから発せられる8気筒エンジン音が観客にどのように聞こえるのかは気になるところだ。永井氏にお勧めのサウンドチェックポイントを聞いたところ、ウエストゲートのON/OFFで音が変わる仕組みのため、「最終コーナーからホームストレートへ向けて駆け上がるところがよいのでないか」とのこと。また、1コーナーへの突っ込みの音も聞いてみてほしいという。いずれにしろホームストレート付近に陣取って聞くのがよいようだ。