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スーパーフォーミュラ、ドライバーズファーストとカーボンニュートラルの実現を目指すテストカー「白トラ」「赤トラ」を鈴鹿で初公開
2022年3月5日 15:24
- 2022年3月5日 発表
カーボンニュートラルの開発テスト車両を公開
日本最高峰のレースであるスーパーフォーミュラを運営するJRP(日本レースプロモーション)は3月5日、ファン感謝デーの開催されている鈴鹿サーキットにおいて、ドライバーズファーストとカーボンニュートラルの実現を目指すクルマづくりの挑戦について発表を行なった。
JRPはすでに「SUPER FORMULA NEXT 50(ネクストゴー)」として、カーボンニュートラルフューエルを使った車両のテストを2022年中に行なうこと、デジタルプラットフォーム「SFgo」で新しい視聴体験を提供することによりドライバーズファーストの取り組みを行なうことなど発表しているが、今回の鈴鹿での発表ではカーボンニュートラルフューエルやサステナブル素材を使ったカウリングやタイヤが公開された。
具体的な開発計画については、JRP代表取締役社長 上野禎久氏が発表。2021年10月に発表したスマートフォンアプリの開発などデジタルプラットフォームの開発パートナーには、330名の枠に対して600名の応募が集まっていといい、「熱い期待が我々のプロジェクトの後押しになっている」と語る。
そして2022年度については、カーボンニュートラルの実験の年として位置づけ、さまざまな選択肢を広げながら進めていきたいという。さらにドライバーズファーストはぶれない軸として持ち、「ドライバーが走って楽しい、お客さんが見て楽しい」といったことを前提にこの技術開発を進めていくとのことだ。
このテストカーは本田技研工業のエンジンを搭載したホワイトカラーのものと、トヨタ自動車のエンジンを搭載したレッドカラーの2台を運用。カーボンニュートラルカーをドライブするのは石浦宏明選手と塚越広大選手になる。上野社長によると、この2人のドライバーを選んだのはトップドライバーであると同時にフォーミュラカーの経験が豊富なため。石浦選手はローラ、スイフト、SF14、SF19と乗っており、塚越選手もスイフト時代からの豊富な経験を持つ。
開発を行なう上では、以前とどう違うかを理解しておらねばならず、そういった意味でも、トヨタエンジン、ホンダエンジンに経験豊富なドライバーが選ばれた。
そしてこのネクストゴーのアンバサダーに選ばれたのは、レーシングドライバーであり、エンジニアであり、チーム監督である土屋武士氏。土屋氏はスーパーフォーミュラの解説なども行なっており、今シーズンはアンバサダーとしてネクストゴーの開発を広く伝えていく。土屋氏によると、いいこともわるいことも伝えていくといい、レースがカーボンニュートラルへ向かう過程をしっかり伝えてくれそうだ。また、チーム運営にも豊富な経験を持つため、カーボンニュートラル時代のチーム運営、サステナブルなチーム運営も模索していくと語ってくれた。
ネクストゴーのテクニカルアドバイザーには、スーパーフォーミュラのトヨタエンジン開発者として知られている永井洋治氏が就任。永井氏は2021年シーズンでトヨタカスタマイジング&ディベロップメント テクノクラフト本部 執行役員を退任しており、豊富な開発経験をカーボンニュートラルのレーシングカー開発に活かしていく。就任にあたって「クルマをよくするのは当然なのですが、この実験は失敗できない実験で、本気でやらねばならない。残りの人生は長くないが、本気で取り組みたい」と語り、この開発にかける熱い気持ちが伝わってきた。
2022年シーズンの3つの開発目標
上野社長は、2022年シーズンは3つのテーマで開発を行なっていくという。「1つはカーボンニュートラルに向けた素材。タイヤ、燃料の実験です」と語るとおり、どのようなカーボンニュートラルフェールがよいのかテストを通じて複数の燃料を試していくとのこと。タイヤについては、ワンメイク供給する横浜ゴムが天然ゴムなど天然由来の素材などを使用したサステナブルなタイヤを開発。シーズンを通してテストを行なっていく。
そして2つ目が「ドライバーの力を最大限に引き出せるエアロダイナミクスの改善」。この改善の方向性としては、ダウンフォースを下げる方向での改善を行ない、前車からの影響をより少なくしてオーバーテイクの可能性を増やしていくという。テクニカルアドバイザーの永井氏によると、とくにリアのフロアに手を入れる形でエアロダイナミクスの改善を行なうとのことなので、テスト車両のリアまわりの変化に注目したいところだ。
最後はエンタテイメントの価値向上へ向けての車両開発。ネクストゴープロジェクトではデジタルプラットフォーム「SFgo」を通じて、スマートフォンアプリでのテレメトリデータの提供、ドライバー無線の提供を約束しているが、各サーキットで実際に各車両から映像データを転送し続けることができるか、テレメトリデータを転送し続けることができるか確認していく。この電波関連のテストはシーズン前半で行ない、後半は実際のアプリの開発を行なっていく。
テストはスーパーフォーミュラ全戦で行なっていく。第1戦・第2戦は4月9日~10日の富士スピードウェイから始まるが、テストは4月6日~7日に実施。毎戦そのテスト結果の報告を行なっていく。
世界的に見ても、カーボンニュートラルフェールを使ったエンジン開発、サステナブル素材のタイヤ開発、ボディ素材開発などを継続的に公開する試みはなく、最先端の技術開発の試みになる。
第1戦・第2戦 富士 4月9日~10日(テスト 4月6日~7日)
第3戦 鈴鹿 4月23日~24日(テスト 4月25日~26日)
第4戦 オートポリス 5月21日~22日(テスト 5月18日~19日)
第5戦 SUGO 6月18日~19日(テスト 6月20日~21日)
第6戦 富士 7月16日~17日(テスト 7月18日~19日)
第7戦・第8戦 もてぎ 8月20日~21日(テスト 8月17日~18日)
第9戦・第10戦 鈴鹿 10月29日~30日(テスト 10月26日~27日)
横浜ゴムは天然素材由来のタイヤを供給
カーボンニュートラルフューエルについて、現在検討されているのは「e-Fuel」や「バイオFuel」。シーズンを通じて複数の燃料をテストしていく。その成分などは今回公開されなかったが、SUPER GTとは共通の燃料を使うので、どこかのタイミングで公開されていくだろう。
また、今回登壇者として訪れていたのは、横浜ゴム 理事 タイヤ製品開発本部 副本部長 MST開発部 部長 清水倫生氏。横浜ゴムはスーパーフォーミュラにタイヤをワンメイク供給しているが、このネクストゴープロジェクトでは天然素材由来のタイヤ開発に取り組んでいく。
タイヤ開発の素材としては、天然ゴム以外に天然由来のさまざまなものがあり、それを組み合わせながらテストをしていくとのこと。ドライタイヤとウェットタイヤの開発を行ない、ドライタイヤでは現状のドライタイヤと同等の性能を発揮するよう年間を通じて開発していく。ここにはさまざまな方向性があるとのこと。
一方、ウェットタイヤについてはシリカ素材が性能の中で大きな要因を占めるため、その素材をどうしていくかがポイントになるという。ある程度開発の方向性が見えているようだ。
素材についていくつか突っ込んだ質問をしてみたが、現時点で特許の取れていない(もしくは出願中?)の素材があるため明かせないとのこと。こちらも順次情報が開示されていくだろう。
清水氏によると、このような最先端の開発をトップフォーミュラという最速の場で行なえるのは貴重な機会だという。さらにこのようなことができるのはワンメイク供給しているためとのこと。これら開発の知見は市販タイヤを含むさまざまな製品に活かされていく。
開発テスト車両の名前は? 「白トラ」と「赤トラ」
ちなみに発表会の中では、開発テスト車両の名称について質問がおよんだ。上野社長は、「考えてなかった」とか「SF19開発テスト車両」とか語りつつも、そのカラーリングからホンダの開発車両は「白トラ」、トヨタの開発車両は「赤トラ」と内部で呼称しているとのこと。この名前は分かりやすいので、今後は「白トラ」「赤トラ」で通用していくのではないだろうか。
虎柄のカラーリングがされているのは、土屋アンバサダーによると「寅年」のため。アジア市場などグローバル市場に対してもカーボンニュートラルレーシングマシンの開発を訴求していくためだという。世界でも最先端のカーボンニュートラルレーシングマシン開発となるスーパーフォーミュラの2022年シーズンに注目していただきたい。