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富士24時間、トヨタのGR86 CNF conceptはカーボンニュートラル燃料によるオイル希釈問題克服がポイント

2022年6月3日~5日 開催

カーボンニュートラル燃料を使ってST-Qクラスに参戦している28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept(蒲生尚弥/豊田大輔/大嶋和也/鵜飼龍太/関口雄飛)

24時間レースでカーボンニュートラル車対決

 富士スピードウェイで6月3日~5日の3日間にわたって開催される富士24時間レース。スーパー耐久カテゴリの車両が参戦するレースだが、2021年に水素燃焼エンジンカローラなど開発車両が参戦できるようST-Qカテゴリを新設。当初は水素カローラとGRスープラの開発車両のみが参戦していたが、2022年はガソリンエンジンに適合するカーボンニュートラル燃料、ユーグレナのバイオディーゼル燃料などを使って走るカーボンニュートラル燃料対応車が参戦。カーボンニュートラル車開発の最前線のような色合いとなっている。

 その中でも注目の1台と言えるのが、トヨタ自動車の28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept(蒲生尚弥/豊田大輔/大嶋和也/鵜飼龍太/関口雄飛)。GR86をベースに、エンジンを水平対向4気筒2.4リッターからGRヤリスベースの直列3気筒1.4リッターターボへと換装。ダウンサイジングコンセプトのマシンとなっている。

GR86 CNF Conceptが搭載する直列3気筒1.4リッターターボエンジン。エンジンの搭載位置がコクピット側に大きく寄っているのが分かる。いわゆるフロントミッドシップ搭載となっている(第1戦鈴鹿で撮影)

 使用する燃料は、カーボンニュートラル燃料。燃料を含めて開発することで、カーボンニュートラル社会を築いていこうとするものであり、トヨタの掲げる「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の最前線のクルマでもある。

 この28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、富士24時間に挑むにあたってどのような課題を克服しようとしているのだろう。富士24時間のテストデーに開発者である藤原裕也氏(トヨタ自動車 GAZOO Racing Company GRプロジェクト推進部 GRZ 主幹)に話をうかがった。

明らかになったカーボンニュートラル燃料によるオイル希釈

 藤原氏によると、GR86 CNF Conceptが直面している問題は「カーボンニュートラル燃料によるオイル希釈」と言う。通常のガソリン燃料と異なり、カーボンニュートラル燃料では燃焼後、ピストンリングやオイルリングを越えてエンジンオイルにカーボンニュートラル燃料が徐々に混ざってしまう現象が発生しているとのこと。

 もちろんそれは微量なのだろうが、1分間に7000rpm近く回ると3500回は爆発しているわけで、徐々に大きな問題となっていく。オイルが薄まるということは潤滑ができなくなるということで、徐々にオイル温度が摩擦熱によって上がり、オーバーヒートはもちろん、最悪の場合はエンジンの焼き付きにつながってしまう。

 もちろんそこまでのトラブルは第1戦の鈴鹿5時間でも起きていないし、カーボンニュートラル燃料を初めて使った耐久レースをしっかり完走している。初戦で大トラブルなく完走というのは驚くべき結果なのだが、エンジンまわりに関する大きな問題点がカーボンニュートラル燃料によるオイル希釈のようだ。

 実はオイル希釈は、同じカーボンニュートラル燃料を用いるスバルの61号車 BRZ CNF Conceptではあまり問題となっていない。これはスバルの水平対向4気筒 2.4リッターが自然吸気であり、GR86 CNF Conceptがターボ車であることに起因しているようで、過給圧をかけることが影響しているとのこと。ちなみにスバルのFA24型エンジンのボア×ストロークは94.0×86.0mm、GR86 CNF ConceptのG14E-GTS型(と思われる)のボア×ストロークは87.5×77.0mm(編集部予測)。FA24型のほうがビッグボアとなるためオイルの制御は難しそうな気もするが、過給エンジンであるG14E-GTS型のほうが高圧(ゆえに高温)燃焼を行なっていると予測され、それが影響していることになるのだろう。

 この対処について藤原氏は、「燃料メーカーと話はしているものの、まずは燃焼コントロールで解決をしていく」とのこと。燃料の噴射量や回数、噴射タイミングを条件によって調整していくことで、オイル希釈が起こらない(燃料をきれいに燃焼させる)ようにしていく。

 24時間レースでは徐々にオイル希釈のダメージが蓄積していくので、状態をみながら対処していきたいとした。幸い富士24時間レースではメンテナンス時間が取られているため、いざとなったらそこで一気にエンジンオイルを入れ替える戦略もあるという。

 一方、車体面においては2.4リッターエンジンに比べて軽くなった1.4リッターエンジンのメリットを活かした開発が行なわれている。直列3気筒エンジンは水平対向4気筒エンジンに比べてコンパクトなため、GR86ボディに対する配置の自由度が高い。そのため藤原氏は、G14型エンジンをフロントミッドシップに配置しているという。

 ただ、重心高については低くワイドな水平対向エンジンのほうが優れており、GR86 CNF Conceptのほうが高くなっているという。単なるラップタイムの速い遅いではない、BRZ CNF ConceptとGR86 CNF Conceptの動きの違いなどもじっくり見比べることができるのが24時間レースのよいところだろう。エンジンの違い、そして車体の作り込みの違いに着目していただきたい。