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奥川浩彦のキヤノン「EOS R7」でモータースポーツを撮ってみた(後編)
2022年10月7日 16:08
キヤノンから新型ミラーレスカメラ「EOS R7」が発売された。EOS 7D Mark IIなどEFレンズ(マウント)システムの一眼レフカメラを利用してきたユーザーは「いよいよミラーレスへ移行のときが来たか」と思っている人もいるだろう。前編では高感度ノイズ、小絞りボケ、連写性能、SDカードによる連続撮影枚数などEOS R7の基礎的な検証を行った。後編では「レンズは一新する?」「どのレンズから買い替える?」など悩めるEFユーザーに向けて「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」対「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」といった具体的な比較を実施して、ミラーレス移行の参考となるさまざまな情報をお届けしよう。
筆者自身がEOS 7D Mark IIユーザーで現在3台を保有している。サーキット撮影で使用している主なレンズは「EF24-105mm F4L IS USM」「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」「EF300mm F2.8L IS II USM」。前述の「いよいよミラーレスへ移行の時が来たか」と思っているのは筆者自身だ。
いきなり余談だが筆者が中古のCanon A-1を買って一眼レフ&サーキット撮影デビューしたのは1982年の秋。ちょうど40年前だ。その後銀塩(フィルム)のEOSでオートフォーカスカメラ+EFレンズに移行し、EOS 20Dを発売直後に購入し筆者のデジタル一眼レフ時代がスタートした。大きく分けると「フィルム+マニュアルフォーカス(FDレンズ)」「フィルムEOS+オートフォーカス(EFレンズ)」「デジタルEOS+オートフォーカス(EFレンズ)」と3世代を経て「ミラーレス+RFレンズ(マウント)」は4世代目となる。
レンズシステム(マウント)だけ見ればFD、EFに次ぐRFを3世代目という見方もあるが、フィルム時代のEFレンズとデジタル時代のEFレンズはコーティングなどの技術が別物で、お蔵入りしている古いサンニッパ(EF300mm F2.8L IS USM)は夜間のレースでハイビームにレンズを向けると激しくゴーストが発生する。EF時代はフィルム、デジタルを別世代と見るべきだろう。
サーキットのメディアセンターではEOS R5(2020年)が出たころからミラーレスへの移行が始まり、EOS R3(2021年)で加速、現在はRFレンズシステムが主流となりつつある。筆者自身は「もう歳だし、EOS 7D Mark IIで困ってないし、ミラーレスに行く前に引退かなぁ」などと思っていたが、予想外に早くEOS R7が発売された。
筆者はEOS 20D、40D、7D、7D Mark IIを購入してきた。筆者の曖昧な記憶では、いずれも発売時期は秋で、EOS 7DはF1日本グランプリの金曜日(=発売日)のセッションが終わってから、名古屋の自宅近所の宅配便の店舗に取りに行き、土曜のFP3がデビューだった。2022年にEOS R7が発売されると噂を耳にして、なんとなく秋だと思っていたので、5月24日の発売のニュースを見て「もう出るの」と驚いてしまった。
その後、デジタルカメラマガジン編集部からお声がかかり8月20日発売の「デジタルカメラマガジン9月号」と9月29日発売の「キヤノン EOS R7完全ガイド」で撮影・執筆をすることとなり、富士スピードウェイで開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権 第6戦(7月)、SUPER GT第4戦(8月)、鈴鹿サーキットで開催されたSUPER GT第5戦(8月)をEOS R7でたっぷり撮影する機会を得た。
今、筆者の「ミラーレスに行く前に引退かなぁ」という心境はジワジワ変化しつつある。EOS R7のさまざまなテスト撮影は読者のためなのか自分のためなのか……両者のためだ。EOS R7が2台、RFレンズが3本、マウントアダプターが2種類、総額100万円超の機材を使って検証結果をお届けしよう。
高感度ノイズを比較する
基礎的な比較としてISO感度を上げたときの高感度ノイズを見てみよう。EOS R7とEOS 7D Mark IIで低感度は差がないので、ここではISO800からISO25600を並べてみた。
EOS 7D Mark IIはISO1600からノイズが増え始める。EOS R7と比べその差は歴然、ISO6400になると「えっマジですか」というほどの差だ。テクノロジの進歩はすさまじく、EOS R7は超高画素APS-Cとは思えないほど低ノイズを実現している。
モータースポーツの撮影は夜間の撮影は多くないので、EOS 7D Mark IIで困ることはないが、航空機や鉄道、で夜間の撮影をする人や屋内スポーツを撮る人は1日も早くEOS R7に移行すると幸せだろう。念のために付け加えるとEOS 7D Mark IIの方がシャープだと感じた人がいると思う。確認するとピクチャースタイルの設定がEOS 7D Mark IIは筆者の普段の設定で「シャープネス 6」。EOS R7のピクチャースタイルの設定が「シャープネス 0」になっているため差がでてしまった。言い訳をすると、2か月の間にデジタルカメラマガジン編集部と何度も機材が行ったり来たりしていて、リセットされて戻ってきたカメラ設定をやり直すのにかなり時間がかかる。キッチリ合わせられなかったために差異が出てしまった。
「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」と「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」で比較撮影
望遠レンズが主となるモータースポーツの撮影。EFレンズでは「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」がサーキット撮影を代表するレンズだった。RFレンズでは「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」がその地位を取って代わるだろう。
2台のEOS R7を用意。1台に「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」、もう1台にマウントアダプタ「EF-EOS R」を介し「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」を装着し撮影を行った。撮影場所は鈴鹿サーキットのデグナー立ち上がり、ヘアピンに向かってフル加速するポイントだ。
先に撮影したのは「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」、後に撮影した「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」は薄日が差して光線にやや差がある。実際のセッション中に撮影した写真なので厳密な比較とは言えないが同じ車種で比較して見よう。
光線の影響が少ない向かって左側のフェンダーの文字を見比べると、どちらも「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」がシャープに見えるが、レタッチ、リサイズをしたら見分けが付かないレベル。「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」が秀逸なレンズであることは間違いないが、マウントアダプタを介して「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」を使用しても不満を感じることはないだろう。
EFレンズの機能制限
ほとんどのEFレンズはマウントアダプタを利用してEOS R7で使用することができる。ただし、機能制限があるので、用途によっては注意したい。例えば手ブレ補正は「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」は7段、「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」は4段と差がある。
手元にある「キヤノン EOS R7完全ガイド」によると、いくつかのレンズは連写中にズーム操作を行なうと露出が変化する、6本のEFレンズが該当し、筆者が使用している「EF24-105mm F4L IS USM」が含まれている。このレンズはII型が出ているので、設計が古いということだろう。
これ以外にも「マニュアルフォーカス時に撮影距離が表示されない」「フォーカスリングの回転方向や反応感度が選べない」などさまざまな機能制限があるようで、気になる人はキヤノンのWEBサイトで調べるか「キヤノン EOS R7完全ガイド」を参照していただきたい。
注目の可変式NDフィルター付マウントアダプタ
EFレンズをRFマウントに装着できるマウントアダプタは4種類用意されている。
①「マウントアダプター EF-EOS R」
②「コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R」
③「ドロップインフィルター マウントアダプター EF-EOS R ドロップイン 可変式NDフィルター A付」
④「ドロップインフィルター マウントアダプター EF-EOS R ドロップイン 円偏光フィルター A付」
名称が長い。4つのマウントアダプタに交換アクセサリとして「ドロップイン クリアフィルター A」「ドロップイン 可変式NDフィルター A」「ドロップイン 円偏光フィルター A」もラインアップされている。
筆者が注目しているのは③の「ドロップインフィルター マウントアダプター EF-EOS R ドロップイン 可変式NDフィルター A付」だ。
何ができるのか。快晴の日、スローシャッターを切ろうとすると絞り値がF22、F32などになることがある。APS-Cセンサーを搭載したカメラは画素ピッチが狭く小絞りボケが発生する。少しでも絞りを開けるためNDフィルターを装着するか、スローシャッターで撮影することを諦める。諦めることは大切で、雨の日には雨だから撮れる写真を、晴れた日には晴れだから撮れる写真を撮るのも選択肢だ。
筆者は以前は67mmと77mmのND4とND8、計4枚のNDフィルターを持ってコースサイドに出ていた。67mmは主に「EF70-200mm F4L USM」用だったが、「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」を主なレンズに切り替えてから77mmのみとし、ND8は合焦率が低く絵もシャープ差が足りない気がして現在は77mmのND4のみを使用している。
NDフィルターはND2なら光量が1/2で1段分の効果がある。ND4なら光量1/4で2段分。1段はシャッター速度なら1/30秒←→1/60秒、絞りならF5.6←→F8となる。ND4を装着するとF22をF11に変更することができる
ドロップイン 可変式NDフィルターはND3~ND500相当の濃度調整が可能だ。ND3~なので1段半~の効果となる。視度調整のダイヤルに似たつまみを回すとND値を変えることができる。実際の操作はファインダー内にF22と表示されたときにつまみを回しND値を上げるとF16、F11と変化させることができる。従来のNDフィルターのようにレンズに合わせて67mm、77mm、ND4、ND8と複数のNDフィルターを用意することなく、マウントアダプタの先に装着したすべてのEFレンズが1つのマウントアダプタで対応可能だ。レンズ先端のNDフィルターを付けて外しての繰り返しは時間に追われるセッション中にはわずらわしく思えるので、ツマミを回すだけの操作性は素晴らしい。
試してみた。ISO感度と絞りを固定して、シャッター速度が1段ずつ変化するようにツマミを回して撮影したので、スタートがND3、そこからND6、ND12、ND24、ND48となる。
結果はND3相当はシャープ差が維持されているように見える。ND6はややシャープ差が失われ、それ以降は変化がない。ND6以降は等倍で見れば差があるが、絞りをF32にしてボケボケになるよりは手間なく操作ができる点を考えると魅力的なマウントアダプタだと思われる。そもそもこれまでNDフィルターのありなしの画質比較をしたことがないので、ND8がイマイチと感じることを考慮するとドロップイン 可変式NDフィルターの方が画質への影響は少ないかもしれない。
実際に使用してみて副産物と感じたのは撮像素子にホコリが付かないこと。わずかなホコリも撮像素子に付くとガッカリな写真となるが、レンズの前玉に小さなホコリが付いてもそれほど影響はない。撮像素子の前に常にNDフィルターがあるとレンズ交換の際の安心感は高い。
実際に「ドロップインフィルター マウントアダプター EF-EOS R ドロップイン 可変式NDフィルター A付」を使用して撮った写真を何枚か掲載しておこう。
そのほか
ミラーレスカメラはバッテリがもたないと聞くが、撮ってみると満充電のバッテリで約1万2000枚が撮影できた。これだけ撮ることができれば十分だろう。EOS R7には縦位置グリップのオプションがない。電池ボックスの奥を見てもコントロール用の接点がないので将来的に縦位置グリップが発売されることはなさそうだ。人物など縦位置の撮影が多い人はよく考えていただきたい。
筆者がEOS 7D Mark IIからEOS R7に移行するなら、まずボディを2台と「マウントアダプター EF-EOS R」「ドロップインフィルター マウントアダプター EF-EOS R ドロップイン 可変式NDフィルター A付」を購入する。年齢と能力的に操作性の異なるEOS 7D Mark IIとEOS R7を併用するのは筆者には難しそうだ。
レンズはお財布と相談で、優先するのは「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」。「EF24-105mm F4L IS USM」はドロップイン 可変式NDフィルターと組み合わせてスローシャッター用に持っておきたいレンズだ。「EF300mm F2.8L IS II USM」は現在も雨天、夕方など暗めのときに活躍しているので、マウントアダプタとセットで使用したい。
筆書は一眼カメラ歴40年で4世代目を迎えようとしている。将来もテクノロジーの進歩で十数年に1度は大きな変革が続くであろう。振り返るとフィルムカメラからデジタルカメラに移行するときも「フィルムは超えられない」と言う人がいたが、時を経て筆者自身は「フィルムに戻れない」と思っている。ミラーレスが当たり前の時代はすぐにやってくる。テクノロジーの進歩は撮影者をアシストしてくれるので前向きに検討をしていただきたい。