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マツダ、サーキットでロードスターをより安全に楽しめる新制御システム「DSC-TRACK」公開開発 ボッシュの次世代ESP10使用

マツダが公開開発を行なっている「DSC-TRACK」装備のロードスター

マツダ「ロードスター」で開発中のDSC-TRACK

 マツダ「ロードスター」といえば、ライトウェイトスポーツカーの代名詞として世界中で愛されているFRスポーツカー。世代を経て成長はしたものの、FRによる素直なハンドリングは定評のあるものだ。

 そして、そのロードスターのハンドリングやスポーツ性をたっぷり味わってほしいとマツダがサポートしているのが「ロードスター・パーティレース」になる。パーティレースは、北日本や東日本、西日本のシリーズ戦が開催されているほど人気のワンメイクレースで、11月20日にはモビリティリゾートもてぎでファイナルラウンドが開催されている。

岡山サーキットで話をするマツダ株式会社 梅津大輔氏

 そんなスポーツ性の高いロードスターにマツダが持ち込んでいるのが、「DSC-TRACK Concept」と描かれた開発中の車両。DSCという文字から一般に横滑り防止装置と言われる「Dynamic Stability Control」に関すること、TRACKという文字からサーキットに関することが開発されていることが読み取れる。

 このDSC-TRACK Conceptとはどのような装置なのだろうか? 今回、この開発に携わっているマツダ 車両開発本部 操安性能開発部 上席エンジニア 梅津大輔氏と、サプライヤーとして共同開発を行なっているボッシュの牛丸幹根氏、佐藤大介氏、田村誠志氏に話をうかがった。

マツダ株式会社 梅津大輔氏(車両開発本部 操安性能開発部 上席エンジニア)
ボッシュ株式会社 牛丸幹根氏(シャシーシステムコントロール事業部ブレーキシステム 開発統括 カスタマープロジェクト技術2部 プロジェクトマネジメントGr.2)
ボッシュ株式会社 佐藤大介氏(シャシーシステムコントロール事業部 アプリケーション技術一部 プロジェクトグループ1)
ボッシュ株式会社 田村誠志氏(シャシーシステムコントロール事業部 アプリケーション技術二部 プロジェクトグループ2)
開発風景

DSC-TRACKは、エンジントルクを絞らない横滑り防止装置

 マツダの梅津氏は本誌にも何度か登場しているように、i-ACTIV AWD、G-ベクタリング コントロール プラスなどを開発してきた技術者になる。自然なG制御による荷重コントロールなど、他社に波及していった技術などもある。

 その梅津氏が今取り組んでいるのが、いかに安全に、いかに楽しくサーキットを楽しんでもらうかというところ。エントリー層向けのレースとして知られるパーティレースは初めてレースに挑戦する初心者も多く、それだけにコースからはみ出してしまう人もいる。その際にはみ出すだけならいいが、あちこちをぶつけたり、最悪はコントロール不能になってスピン。クルマが壊れてしまうような事態になってしまうこともある。

 昔であれば、「経験を積んで速くなればよい」のかもしれないが、どんな形であれクルマを壊してしまえばお金もかかるし、レース参加がきらいになってしまうかもしれない。そんな人が一人でも少なくなるように開発されているのがDSC-TRACKになる。

 一般的にDSCというと、タイヤが滑りそうになったらエンジンを絞り、とても安全方向にタイヤの滑りを制御していく装置となる。エンジンを絞るため安全なのはよいが結果的に遅いタイムとなり、サーキットを走っていても楽しくなくなってしまう。梅津氏自身、開発のためにパーティレースに参加しており、DSC OFFとONでは、ONのほうが岡山国際サーキットでは3秒程度遅くなってしまうとのこと。

 ところが、このDSC-TRACKであればエンジンを絞る制御は行なわないため、エンジンパワーがドライバーの意思と関係なく落ちてしまうといったことがなく、現時点でDSC ONに比べて約2秒速く走ることができているという。

 それでいて、スピン状態に入ろうとする場合に4輪をそれぞれ制御。スピンに移行しがちなオーバーステア(ステアリング操作よりクルマが曲がる状態)時への対処を重視して制御を行なっていく。

 逆にアンダーステア状態にクルマがあると判断した場合は、クルマがドライバーのコントロール下にあると解釈するとのこと。オーバーステア状態からスピン状態に移行する際にタイヤに介入していくことになる。

 実際にどの値を見ているか聞いたところ、時間あたりの回転量である角速度の変化量、つまり角加速度(rad/s2)によって制御しているとのこと。ボッシュスタッフによれば、ある一定量を超えると介入が始まるとのことだった。

DSC-TRACKで安心・安全にサーキット走行を楽しんでほしい

ボッシュの次世代型ESP「ESP10」

 梅津氏によると、DSC-TRACKは現状DSC ONよりは約2秒速く走れているが、DSC OFFよりは約1秒遅くなっているという。制御を磨き上げてこの差を小さくする作業などもパーティレースの現場で行なっている。

「(DSC-TRACKの)開発目標は、DSC OFFと同じタイムで走れるようにすることです。ただ、開発の目的は速く走るためのものではありません。ロードスターのパーティレースでは、若い方が参加するケースが増えてきています。若い方だと大胆な走りをする方が多く、それはそれでよいのですが、(経験の少ない方の)クラッシュなどを防ぎたい。安心・安全にサーキット走行を楽しんでほしい。最初は、DSC ONで走って、次にTRACKで走って、最後はDSC OFFで走って」(梅津氏)と語るように、市販車に実装される際は、DSC ON、DSC-TRACK、DSC OFFと3つのモードを持つようになる。自分の技量に応じて、DSCを変更できるようになる。

 このDSCだが、実は現行のボッシュのESP(Electronic Stability Program)システムではなく、次世代型のESPが使われている。現行のボッシュの最新ESPは「ESP9シリーズ」で、このロードスターで開発中のものは次世代型の「ESP10」を使用しているという。これはより緻密な制御が必要になるためとのことで、次世代型のESPが使われていることから、市販車の登場までにはしばらく時間がかかるかもしれない。

 梅津氏にDSC-TRACKはFFなどにも効果があるのか、搭載予定はあるのかと聞いたところ、この技術はどのようなクルマにも適用できるとのこと。ただし、DSCは公道での搭載義務があり、そもそもDSC-TRACKはサーキット走行に向けて作られており、そのサーキット走行を一番楽しんでいるユーザーが多いロードスターでの搭載を目指しているとのこと。「ロードスターは、ショートホイールベースで速く向きを変えやすい」と梅津氏がいうように、機敏な操縦性がロードスターの美点だ。ただ、その機敏な操縦性故に、初心者・初級者は初めてのサーキット走行などは不安感がある。その不安感を解消しつつ、DSC ONより速く・楽しく走れるのがDSC-TRACKになるのだろう。

 実際、梅津氏が岡山国際サーキットのパーティレースにDSC-TRACK搭載プロトタイプで出場した際の注目度は非常に高かったとのこと。発売要望も強かったようだ。マツダとしてはDSC-TRACKを、レース参戦を通じて公開開発を行なっていき、ユーザーの反響などを採り入れていく。