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トヨタ、カニ走りも可能なインホイールモーターEV試作車両「GRIP」をTRI Expoで公開 同相・逆相4WSシステムで異次元の走り

Toyota Research InstituteのHuman Interactive Driving部門で開発中の「GRIP(Global Research Innovation Platform)」

 トヨタ自動車の研究機関であるTRI(Toyota Research Institute、トヨタリサーチインスティチュート)は2月15日(現地時間)、研究成果を報告する「TRI Expo」を開催するとともに研究所内を初公開した。Human Interactive Driving部門を率いるアヴィナッシュ・バランチャンドラン(Avinash Balachandran)ディレクターは、研究・開発中である同相・逆相4WSシステムを搭載したインホイールモーターEV試作車両「GRIP」を披露。現在取り組んでいる運転領域の拡張について説明した。

 GRIPの正式名称は、Global Research Innovation Platformになる。このGRIPは、前輪と後輪を同じ方向に切ることができる同相制御、前輪と後輪を逆方向に切ることができる逆相制御可能な4WSシステムを搭載したEVとなっており、いろいろなクルマの運動を現地現物で確認できるようになっている。

TRI Expo Human Interactive Driving

 駆動に関してもステアリング制御のじゃまにならないようにインホイールモーター搭載タイプとなっており、前輪をハの字、後輪を逆ハの字にした場合は、戦車の超信地旋回のようにその場でグルグル回り続けることもできるような想定がされているとのことだ。

 GRIPはプラットフォームと名前が付いているように、あくまで実験用のテストベット車両になる。アヴィナッシュ氏はさまざまな実験ができるような作りにしているといい、フレームは後加工のしやすいようにアルミではなく鉄で構成。各部もボルト止めになっているために、ホイールベースの変更なども見据えている。

 最大の特徴は、前輪と後輪の同相制御や逆相制御を自由にパソコンで切り替えられることで、前輪と後輪を同じ方向に切る同相制御であれば「Crab Walk(カニ走り)」ができ、前輪と後輪を異なる方向に切る逆相制御であれば、とても旋回半径の短い超小回りができる。

 と、アヴィナッシュ氏は説明するが、実際このGRIPがどのように動くのかを実感として得るのは難しい。もちろんアヴィナッシュ氏もそこは理解しており、試乗が可能になっていた。

インホイールモーターEV試作車両「GRIP」。右が前
左前輪を前から。アッパーアームはダンドラからの流用
左後輪を後ろから。ステアリングロッドが見える
ステアリング部分を横から。ステアリング軸が残っている

カニ走り可能なGRIPへ試乗

Toyota Research Institute「GRIP(Global Research Innovation Platform)」

 試乗を行なったのは、TRIの地下にあるガレージ兼駐車場の一角。パイロンで規制されたコースを、最初は通常のクルマと同様に前輪ステアリングのみ、次は前輪と後輪が同相のカニ走りで、最後は前輪と後輪が逆相の小回りで走行した。

 ただし、ガレージ内のためインホイールモーターの出力はとても絞ってあり、ほぼ人が歩く程度の速度での試乗。つまりタイヤのグリップ限界内の試乗となっていた。

 まずは通常のクルマと同じ前輪のみの2WSで走り出す。非常にアシストの効いたステアリングフィールで、とろとろ走りながらもステアリングを切れば、思った方向に向きが変わっていく。一般的にクルマの旋回運動は、前輪のステアリングを切ることで横方向の力が発生し(コーナリングフォース)、それにより車体に横滑り角を付けるような力が働き、後輪は車体の横滑り角と前に進む方向の力のずれを伴いながら曲がっていく。同時複合的な力のバランスで曲がっている。

 ただ、普通に運転をしていれば当たり前の状態として身に着いているため、ケージで囲まれた異様さはあるものの、「まあ、クルマだよね」という感覚で向きを変えていく。誰もが想像できる範囲の動きだ。

最初は、通常のクルマと同じく前輪のみのステアリングで

 次にとても狭くパイロン規制されたスラロームコースは、前輪と後輪を同じ向きにする同相制御で走る。つまり、カニ走りで走るモードを体験する。

 これはもう想像の範囲外の動きをする。右にステアリングを切れば突然右斜め前に走っていき、左にステアリングを切れば突然左斜め前に走っていく。ステアリングを切って、車体に横滑り角を付けて、後輪に力を発生させてという流れが体に染みついた記者にとって、なにもかもが突然に起こる。

 右に切ったらドンと右に、左に切ったらドンと左に進むため、ある意味後輪が消えたような感覚での走りになる。理屈では後輪も前輪と同方向に向いているため、後輪の横滑りが発生せずグリップ限界に余力がある状態で走っていることになるだが、感覚では後輪のずれを体感できないため後輪が消えていると表現するしかない状況だ。違和感モリモリのモードだった。

 最後は、前輪と後輪を逆相に切る超小回りモード。これも違和感があるかと思ったが、違和感があるものの経験している違和感になる。それは、前輪に対して後輪が高速で外に出ていく状態となり、まるでドリフトをしている感覚を得られる。前輪のステアリング操作に対して、後輪が過剰反応している状態だ。実際、アヴィナッシュ氏によると、このモードは超小回りのほかドリフト感覚をつかむ練習に使えるとのことだった。

ドリフト練習にもなるという逆相モード

 同相のカニ走りについては、狭いパーキングエリアへの駐車が行なえるほか、高速なレーンチェンジも視野に入れているとのこと。実際、現在の4WSも同相や逆相は高速での安定したレーンチェンジのために使われており、前輪と同様のステリング角度となることでコントロール範囲を広げている。ただ、そのコントールはこれまで人が培ってきたコーナリングの認識速度を上回っているようで、人の能力を超えた運動範囲をAIの制御下に置くことで、より安全なクルマの動きを極めていくようだ。

 タイヤを自由に動かすことで、タイヤのグリップ限界内にある摩擦円を拡張。グリップ限界を広げるので「GRIP」という名前を付けたのではとアヴィナッシュ氏に聞いてみたら、「いえ、Global Research Innovation Platformです」との答えが返ってきた。ただ、それにしてはつづりも語呂もよいのでグリップの意味もありますよねと聞いたら、アヴィナッシュ氏は苦笑いしながら「では、2つの意味があることにしましょう」と語ってくれた。アヴィナッシュ氏がいい人であるのは間違いない。

 今後の発展の方向としては、前輪がステアリン軸とつながっている(リアはバイワイヤ)ので、そこをバイワイヤにするなどしていく。前輪も後輪もバイワイヤとなることで、人の入力と異なる値で前輪を動かすことができる自由度も高まるので、さらに現場でさまざまな状況を確認していくことができる。

 衝撃のカニ走り試乗だった。