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「エアレースを取り戻したい」、世界チャンピオン室屋義秀選手が「エアレースX」を立ち上げた背景 10月8日~15日の福島からスタート
2023年3月29日 09:00
「エアレースを取り戻したい」という思いから始まった「エアレースX」
3月28日、日本人で初めてエアレース世界チャンピオンを獲得した室屋義秀選手(LEXUS PATHFINDER AIR RACING)が、現在のエアレース世界チャンピオンでありオーストラリア在住のMatt Hall(マット・ホール)選手、カナダ在住のPete McLeod(ピート・マクロード)選手とともに、新しいエアレースシリーズ「エアレースX」を立ち上げることを発表した。
室屋選手ら世界的なエアレーサーは、2022年にエアレースシリーズの再開を待ち万全の準備をしていたが、コロナ禍などの問題によりエアレースシリーズは運営側の都合などで結局キャンセル。2022年はエアレースシリーズが開催されない年となった。
2023年もシリーズの再開を待つという手もあったが、「エアレースを取り戻したい」(室屋選手)と語るように、待つのではなく自分たちで新しいエアレースの形を企画。5次元モータースポーツ「エアレースX」として、「ムーブメントを起こすことにした」という。
このエアレースXでは、これまでのように1つの都市に集まって競う「リアルラウンド」のほかに、それぞれの国や場所で飛んで飛行のデジタルデータを精密に計測、サーバーに集めて競う「デジタルラウンド」が予定されている。このデジタルラウンドがあることで、大きな可能性を秘めたシリーズ提案になっている。
室屋選手はエアレースX着想のきっかけが2022年シーズンのレース中止にあったという。「昨年レースが中止になって9月か10月、10月にはもうレースがないのがはっきり分かっていくなか、ピートらと『どうする?』という話が始まっていきました。デジタルというアイデアはまだなくて、規模の大小を調整して、レースを何かの形で開催できないかと検討していました。検討した結果、場所とか費用とか輸送とかを検証するなかで、結構難しいよねと。それが(2023年の)1月とかですかね。VR(仮想現実)のイベントがあって、そこのスペシャリストとかと話をして、いろいろな人と会って、技術的にできるねってなったのが2月ですね」(室屋選手)と語るように、デジタルラウンドが着想・検討されたのは1か月前になる。
そこから構想を詰め、3月28日の発表につながった。
2023年は各国の選手がそれぞれの国や地域で飛ぶデジタルラウンドの詳細を詰め、秋に第1戦を開催。2024年はリアルラウンドやデジタルラウンドを開催しつつ、さらに精度を高めて、2025年からエアレース世界チャンピオンシップをかけて戦うワールドシリーズ戦を作り出そうとしている。
正直、スポンサー集めやスタッフ集めなどはこれからとのこと。とくにデジタルラウンドでは、AR(拡張現実)や世界の気候や温度変化の補正を加えた飛行データの精密なマッチングなど、レースとして成り立たせるための仕事も数多い。まずはこうして、世界的なトップエアレーサーの参加を打ち出して、実際にデジタルラウンドを開催することで、仲間を募っていく。
2023年の第1戦は、10月8日~15日を予定しており、室屋選手は本拠地である福島スカイパークからデジタルラウンドに参戦する。この1週間は天候を見つつ、整備をしつつタイムを詰めていくレースウィークとなり、「ラリーのピットみたいなイメージでしょうか。天気がよくなったら出てきてちょろちょろ飛んで調整して」(室屋選手)と語るように、15日の本戦に向けて何度も飛ぶという。観客としてもいつ飛ぶか分からないものの、飛行機がエアレースに参加する姿を整備も含めて見えるようだ。
また、エアレースXではホストシティという考え方が入っているがポイントになる。ホストシティと組むことで、ホストシティに合わせたコース設定を行ない、ARやVR(仮想現実)によるレース展開を見ることが可能になる。デジタルラウンドがあることで参戦航空機のデータも存在し、室屋選手ら一流のエアレーサーとシミュレータで競うことも可能になるかもしれない。いわゆるエアレースのeモータースポーツ化も行なえ、飛行機を持っていない人でもエアレースを楽しめることになる。
この辺りについて室屋選手に聞いてみたが、当然その部分などは構想に入っているものの、まずはデジタルラウンドをしっかり開催してエアレースXをシリーズとして作り上げることを優先していくようだ。もちろん、デジタル技術の協力などいろいろな形での参画は歓迎の方向で、秋の開催へ向け進めていくとのことだ。
(c)AIR RACE X / Suguru Saito