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SUPER GT、第6戦SUGOでの事故の見解を明らかに 服部レースディレクター「過失割合は9:1、ピットインするときにウィンカーを出していれば避けられた」

事故が起きた状況の概念図(GTAの説明から筆者作成、各車両の位置を概念として示したもの)

過失割合は9:1、ピットインしようとした56号車側に過失があるとGTA服部レースディレクター

「仮に公道の事故に当てはめるなら9:1の過失割合になるというのが自分の見解だ。1は何かと言えば、両方とも動いている以上10というのはあり得ないからだ」と、SUPER GTのプロモーターであるGTアソシエイション レースディレクター 服部尚貴氏は第6戦スポーツランドSUGO戦の37周目に発生した事故に関してGTAの見解を語った。

 第6戦で発生した事故は、GT300の56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ/名取鉄平)がピットインしようとしているところに、後ろからきた100号車 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)がそれを避けきれず接触して大クラッシュが発生したというもの。

SUPER GTのレースディレクター 服部尚貴氏

 バラバラになりながらストレートに静止した100号車からドライバーの山本尚貴選手は救い出され、検査のために病院へ搬送された。精密検査の結果、「外傷性環軸椎亜脱臼」および「中心性脊髄損傷」と診断され、現在は復帰に向けて精査治療入院を続けており、今シーズンの残りのレースは欠場となることがチームなどから発表されている。

 GTAは10月14日、SUPER GT第7戦が開催されているオートポリスにおいて、代表取締役 坂東正明氏、SUPER GTレースディレクター 服部尚貴氏、レース事業部 事業統括部長 沢目拓氏が出席して囲み会見を行ない、第6戦の事故に関してGTAの見解などを説明した。

 囲みでは本来は非公開のコースカメラによる動画、事故前後の該当車両のオンボード映像などを報道向けに公開。こうした映像は今回の事故に限らず非公開になっているため撮影不可という条件の下で公開になる。記事では、映像などのないことはお断わりしておく。

 元レーシングドライバーで、SUPER GTのレースディレクターを長年にわたって務めている服部氏は、56号車と100号車の事故が起きた当時の状況を説明した。

 前掲の図は筆者がGTAの説明を聞き便宜的に作ったもので、文章で説明するよりも位置関係を示すためによいと考えて作ったものになる。そのため、実際の位置関係などを示す公式のものではなく、あくまで位置関係を概念的につかんでもらうために作ったものになる。

 まずコースの右側(以下進行方向に向かって右、左と表現する)を56号車が走っていて、さらにコースの左側を同じGT300の10号車 PONOS GAINER GT-R(安田裕信/大草りき)が並走して走っており、56号車を抜こうとしていた。その2台の後方により速いGT500車両、14号車 ENEOS X PRIME GR Supra(大嶋和也/山下健太)と100号車が追い付き、56号車を追い越そうとしていた。この状況が事故の始まりだったという。

 実はこのとき56号車はピットに入ろうとしている状況で、スローダウンしはじめ、ブレーキを踏んでピットに入ろうとしたのだという。服部氏によれば、実際にチームに確認したところすでにこの状況以前にピットインの指示が出ており、ドライバーにはピットに入る意志があったと判断しているという。

 しかし、服部氏によれば「ドライバーはウインカーを出していなかった。このため、後ろの14号車と100号車には56号車がピットに入るとは分からなかった。左側にはGT500に比べると遅い10号車がいて、左に行くという選択肢をドライバーは採れず、右に行くとするしかなかった」とのことで、56号車がピットに入る意志を見せることなくブレーキを踏んだことが事故の最大の要因だったと説明した。

 実際服部氏はオンボード映像なども確認したほか、100号車のドライバーだった山本尚貴選手にも確認して、56号車がウインカーを出していなかったことを確認したという。

 その結果、14号車はなんとか右側をすり抜けられたものの、100号車は右側をすり抜けられず、ピットに入ろうとした56号車と接触してしまいクラッシュしたというのが事故の状況だと服部氏は説明した。「山本選手にとっては当たった段階で初めて56号車がピットインしようとしていると分かったと言っていたし、自分から見てもそうだと思った。この事故に関しては、56号車がピットインは無理だと判断してもう1周してくるか、あるいはピットインのときにウインカーを出してから寄っていけば避けられた事故と考えている。昨年の第2戦富士での事故からウインカーを出してくれとずっと言ってきたが、残念ながら今回もそれが守られていなかったから起きた事故というのが自分の見解だ」と述べた。

 100号車が、10号車の側に避けた方が安全だったのでは?という質問も出たが、服部氏は「ドライバーの立場に立ってみればそれはあり得ない。なぜなら、GT500の2台に比べて速度が遅いからだ。レーサーはレースをしている。ブレーキを踏まないといけないという状況にはならないようにするだろうし、何よりもそっちも大きな速度差があった」と述べ、100号車にとっては左に行って10号車の後ろでブレーキをかけるという選択肢はなかったという見解を明らかにした。

56号車のチームもドライバーも謝罪にいっていると坂東代表、GTA側もコーナリング速度の高さには対策の必要性を感じている

株式会社GTアソシエイション レース事業部 事業統括部長 沢目拓氏

 囲みにはGTAの坂東代表も同席しており、「今回こうした囲み会見を開かせていただいたのは、56号車のチームが公式に言っていないことが、流布するような状況が発生しているためだ。事故の後で、56号車は近藤監督とドライバーが謝罪に行っている。そしてウインカーを出していたということは公式には言っていないのだが、それがさも事実のように流布している状況がある。56号車のチームもドライバーもきちんと自分の非を認めて謝罪しているのに、その若いドライバーの未来を閉ざすことが本当に正しいのかみなさんにもよく考えていただきたいからだ」と述べ、事実ではないことが事実であるかのように広がっている状況に懸念を表明し、正しい事実をきちんと報道関係者やファンに伝えるために今回の囲み会見を開いたのだと説明した。

 また、スポーツランドSUGOのピットイン時のホワイトラインをもう少し長くして、現在は芝生になっている部分を舗装してもらい、もっと最終コーナーの側からピットインのホワイトラインを引くような形にするように申し入れていることも同時に明らかにした。

 坂東代表は「速度が違うGT500とGT300が混走しているレースがSUPER GTの基本的なコンセプトだ。それを破壊するのではなく、そのクオリティを高めていく取り組みを行なっていきたい」と述べ、GT500にせよ、GT300にせよ年々車速が上がっていること、タイヤの性能が上がっていることなど、さまざまな課題を総合的に解決していくことで、速度の違う車両が混走していても、より高い安全性を実現したレースを実現していきたいと述べた。

 GTAのレース事業部長 沢目拓氏は「スピードが速すぎて危ないということはGTAもしっかり認識している。トップスピードというよりはコーナリングスピードが上がっていることは危険だと認識しており、それに対して対策を講じる必要性を感じている。GTAにはスポーツ部会、500と300それぞれにテクニカル部会という3つの部会があり、スポーツ部会はスポーティングレギュレーションを、テクニカル部会は車両の方のレギュレーションを決めていく部会になっている。さらにスポーツ部会の下にはタイヤワーキンググループがあり、タイヤメーカーも含めて議論をしている。ただし、対策といっても、直ちにできるもの、コストや納期も考えると中長期的に考えないといけないものがあり、スポーティング部会では短期的にできるものを話し合っており、中長期的なものはテクニカル部会で話し合っている」と述べ、現在GTAでも速くなりすぎているコーナリングスピードを抑制する話し合いがあることを明らかにした。

 坂東氏の言うとおり、SUPER GTの本質は「速度の違うGT500とGT300が混走していて、さまざまな車両がコースのいろいろなところを走っているのでサーキットで見ていて面白い」という点にある。もちろんそれもドライバーの安全を確保できた上でという条件がつくのは当然だ。山本尚貴選手が今シーズンの残りのレースを欠場するというけがを負ってしまった以上、それに対して何らかの対策が必要という議論になるのは当然だと思う。その点はGTA自身も認めているとおりで、今年中に決めなければいけない来年のスポーティングレギュレーションという議論の中で何らかの対策が採られる可能性はあるだろう。

 中長期的には2020年代後半に投入されるGT500新型車両レギュレーションの中で、抜本的な対策が採られていくことになるのではないか。

 そして、坂東氏の言うとおり、自分の非を認めて謝罪しているドライバーやチームをこれ以上不必要に批判する必要がないのも明らかだろう。大事なことはどうして避けられなかったのだと責めることではなく、どうやったらそれが起こらないようにできたのかということを検証し、それを未来に活かすことだと思う。

 最後になるが、山本尚貴選手の早期の回復とサーキットへの復帰を心より願ってこの記事のまとめとしたい。