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NSXのエンジン音が赤ちゃんに笑顔をもたらす「赤ちゃんスマイル ホンダサウンドシッター」 5年越しで製品化を実現
2023年11月10日 10:27
- 2023年10月28日 発売
- 8250円
赤ちゃんのために玩具メーカーと自動車メーカーのコラボが実現
タカラトミーアーツは10月28日に、本田技研工業の全面協力を得てスポーツカー「NSX」のエンジン音が流れるぬいぐるみ「赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER(ホンダサウンドシッター)」を発売した。価格は8250円。発売に合わせて「ホンダウエルカムプラザ青山」にて、商品説明会が行なわれた。
この商品が誕生するきっかけは、2018年当時ホンダの登那木氏が、自動車だけでなくホンダの財産や強みを生かして何か社会貢献や課題解決ができないかと模索していたころ、たまたまネットで「ぐずっていた赤ちゃんが自動車に乗ると泣き止むのは、エンジン音が母親の胎内音に近いかららしい……」という都市伝説のような話に賛同する人が大勢いたことと、自身も似たような話を聞いたことがあったことから、「それなら真相を確かめてみよう」と一念発起。また、ぐずりやすい乳幼児を連れてのお出かけを面倒に感じている母親が75%もいるという自社での調査結果もあり、赤ちゃんがぐずりにくくなる商品が課題解決につながるのではと開発がスタートしたという。
登那木氏は青山本社にあった当時の最新モデルや、モビリティリゾートもてぎのホンダコレクションホール(博物館)にある旧モデルまで、実際にホンダ車30台ほどのエンジン音をコツコツと録音。続いて音の専門家の中でも、音が心身に与える影響を専門に研究しているサウンドヒーリング協会理事長の喜田氏の門をたたいた。自然音や体感音響を使った快適環境作りなどを手掛ける喜田氏は、「これまでに人工的に作られた音は基本的に人間にとって不快に感じられることが多いという研究結果があり、エンジン音も同様に人工的に作られた音のため難しいだろうと思ったが、実際のエンジン音を聞いてみたら、それほど不快には感じられず、むしろ低音をベースに心地いい音にデザインしているサウンドだと感じ興味がわいた」と協力を快諾。
登那木氏が録音した約30台のエンジン音を調査すると、中でも「S2000」や「S600」「S800」「NSX」「インテグラTYPE-R」といったスポーツカーのエンジン音は、低音が多く含まれていて胎児が母親のお腹の中で聞く胎内音(心音や血流音、会話など)と周波数が近いことが判明。最終的に2代目NSXのエンジン音がもっとも胎内音の周波数に近いとのことでエンジン音を使用する車種が決定した。
喜田氏によると、「人間はうれしくなるとセロトニンやオキシトシンといったホルモンが分泌されると最先端の医学研究で判明していて、心理的変化を科学物質に置き換えて数値化できる」といい、人間は胎内音に近い音を聞くことで母親の胎内にいた記憶を呼び覚まし、セロトニンやオキシトシンが分泌され、リラックスした状態になるという。
そこで喜田氏は「クルマのエンジン音で乳幼児が泣き止むか?」という実験を実施。生後半年~1歳半の乳幼児12名にぐずっている状態で2分間エンジン音を聞かせたところ、11名の表情が穏やかになるとともに、泣き声が聞こえない状態になり、そのうち7名は心拍数も安定したことから、「乳幼児がエンジン音を聞くことで、母親のお腹の中にいたころの心地よい記憶を思い出し、安心することで鎮静効果が生まれ、泣き止む可能性がある。また、公に発表していないが大人数名にも試してみたところ、同様に心拍数が安定する効果が得られた」と喜田氏は結果についてコメントしている。
この実験結果は、2018年当時ホンダのリリースとして正式に発表。同時に非売品だが「ホンダサウンドシッター」のプロトタイプを製作したほか、特設サイトでホンダサウンドシッターに採用したエンジン音を聞けるようにしたり、実際にぬいぐるみのホンダサウンドシッターを体感できるイベントも開催。
実はその体感イベント会場に、当時タカラトミーアーツの開発を務めていた神田氏が、商品化するための企画書を持参して訪れていた。しかし、当時ホンダでは製品化の予定はまったく考えておらず製品化の話は断られた。それでも継続して製品化へのアプローチは続けられ、ついに2022年に製品化が決定。神田氏が2023年3月に定年を迎えることもあり、神田氏の上司は「エデュケーショナルトイ(知育玩具)のフラグシップ製品にしよう!」と後押ししてくれ、1度は製品化を断念した神田氏は49年間の開発人生の集大成として臨んだという。
製品化でキーとなるのはもちろん音。神田氏は安価でありながらNSXのエンジン音をしっかりと再現できるサウンドユニットをゼロから開発することに。胎内音のように低音がしっかり再現できなければならず、なんども試作を実施。反響する音を計算し、器のサイズや内部の仕切り版の位置や厚みなどを変更したほか、サウンドユニットを覆う黒い布もサウンドの再現をじゃましないように何度も生地を見直したという。
何度もサンプルを製作し、時には自身の孫たちにも使ってみてもらいつつも、コスト面や安全面、エンジン音をいかに玩具レベルで再現できるかなど課題も多く、「開発途中では4度ほど製品化をあきらめかけた」と語る神田氏。特に喜田氏の“お墨付き”をもらうために完成品を持参して訪問した際は、「神に祈るような気持ちだった」と振り返る。
また、玩具には機械的安全性、可燃安全性、化学的安全性を検査する「ST(Safety Toy)基準)」があるほか、0歳からの乳幼児向けの玩具やぬいぐるみ、子供用アクセサリー、乳児用品、運動具、ゲーム、幼児教材、子供用ベッドなどに関しては「ASTM F963」という厳しい安全基準がある。しかし、そこは長年ぬいぐるみ製作で培ってきたノウハウを生かし、手触りや赤ちゃんが舐めたり、たたいたりひっぱたりしても大丈夫な形状や堅牢性を両立。
さらに内部のサウンドユニットを取り外して洗えるようにするなど、安全面だけでなく清潔面まで担保した製品に仕上げた。デザインが音源であるNSXではないのは、“より親しみを持てるもの”として両社で検討した結果、ホンダの往年の名車「S600クーペ」をベースに、プロトタイプもオマージュしつつ、ホンダのコーポレートカラーである赤をイメージするなどこだわっている。
日本玩具協会が2008年から「東京おもちゃショー」で各賞の発表と授賞式を行なっている「日本おもちゃ大賞」は、自動車業界の日本カー・オブ・ザ・イヤー的なもの。2023年は「エデュケーショナル・トイ」「ベーシック・トイ」「アクション・トイ」「コミュニケーション・トイ」「キャラクター・トイ」「ハイターゲット・トイ」「共遊玩具」の全7部門が用意され、37社から全325点の玩具がノミネートした。
そこで赤ちゃんスマイル ホンダサウンドシッターは、「異業種とコラボすることにより、赤ちゃんにもっと安心を、家族にもっと移動するよろこびを与えることができ、親子がともにワクワクし成長していく過程に寄り添う商品」として高く評価され、エデュケーショナル・トイ部門で大賞を受賞。神田氏のタカラトミーアーツにおける最後の開発製品に花を添えた。
最後に神田氏は、「赤ちゃんスマイル ホンダサウンドシッターは、赤ちゃんだけでなく一緒にいる家族も笑顔になりますし、これをプレゼントした人も笑顔になれる。そんな製品だと思います。世界中の人に笑顔になってほしいですね」と語ってくれた。
なお、赤ちゃんスマイル ホンダサウンドシッターは、玩具店や通販のほか、東京のホンダ本社1階のホンダウエルカムプラザ青山でも購入可能となっている。