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スバル、水平対向2.4リッターターボ+6速MT+DCCDフルタイム4WDの新型車両 MBD活用でスバルの未来を追求

スバルが富士24時間レースで公開した次期スーパー耐久参戦車両。WRXに似ているがWRXではないとのこと

 スバルは5月24日~26日の3日間にわたって富士スピードウェイで開催されたスーパー耐久第2戦富士24時間レース内において、次戦である第3戦オートポリスから投入する新型車両を公開した。新型車両の詳細は、24時間レース内で実施された複数回のトークショーで徐々に開示、日曜日に行なわれた最後のトークショーなどで明らかにされた最新情報をお届けする。

 オートポリス戦から投入される新型車両は、現在スバルが販売しているWRXに外観が似ているが、WRXの後継車両などではなく、将来のスバルの技術的可能性を追い求めるものだという。そのため、現時点では極力量産車の部品を使用して作り上げられ、外観がWRXに似ているのはそのため。WRXの部品が使用されているから似ているように見えるけど、別物の車両というのがスバルの説明になる。

ハイ パフォーマンス エックス フューチャー コンセプトの仕様

 ST-Qクラスに参戦し、現在のBRZと同様にトヨタやマツダとまったく同じカーボンニュートラル燃料を使用。カーボンニュートラル時代へ向けた開発を進めていく。

 エンジンは、BRZと同様に水平対向4気筒 2.4リッターのFA24ではあるが、BRZが自然吸気に対し、ターボチャージャーを装備した過給仕様。現時点の仕様で最高出力300PS以上、最大トルク400Nm以上と発表されているものの、やや控えめな感じ。開発が進むにつれて伸びていくものと思われる。

 トランスミッションはスバルが持つ最新の6速MTで、最新のDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)を組み合わせるフルタイム4WD。つまり、前41:後59を基本にトルクを不等配分し、トルク感応機械式LSDと制御可能な電子制御LSDを組み合わせる形式。フロントおよびリアデフについては、オープンデフなのか、なんらかの制限デフなのかは答えていただけなかった。

 外観はWRX、パワートレーンは水平対向2.4リッターターボ+6速MT+DCCDフルタイム4WDと、スバルファンにはまってましたという仕様なのだが、あくまでこれはスバルが現在持つ量産車のスポーツ技術を組み合わせたものだという。

 このスバルならではの技術を、スーパー耐久のST-Qという開発クラスで突き詰めていく。

車名は後方に掲示されているようにWRXではない。そのまま市販化できそうなほどのスタイルとなっているのは、量産パーツで作り上げたマシンであるからとのこと
オーバーフェンダーは3次元プリンタで作り上げた一品もの。空力解析にはスバルの航空宇宙部門も協力する

 たとえばカーボンニュートラル燃料だが、当初BRZ vs. GR86対決でカーボンニュートラル燃料が導入されたときに、1.4リッターターボエンジンを用いるGR86だけにカーボンニュートラル燃料がピストンリングを越えオイルに侵入していく「オイル希釈」という現象が起きた。一方自然吸気のスバルエンジンでは、その問題が小さく、後に出力を向上させた段階で出たと聞いている。

 トヨタ、スバルの技術陣に聞いたところ、過給エンジンではカーボンニュートラル燃料のオイル希釈問題が起きやすく、スバルは2.4リッターターボとすることで、同社を代表するスポーツエンジンの天井を見極めていく。カーボンニュートラル燃料が普及する未来へ向けての技術開発を行なっていく。

 また、6速MT+DCCDフルタイム4WDだが、これはスバルのアイデンティティであるシンメトリカルAWDを突き詰めていくもの。高出力に耐えられる6速MTを使用し、電子制御機構が入っているDCCDで多様なシチュエーションでの4WD制御を研究していく。この車両はプロペラシャフトが入っているフルタイム4WDだが、4WDという意味ではどこにどれだけトルクをかければ効率よく走れるかということが大事なので、得られた知見は2モーター4WDへも適応可能とし、スポーツシーンにおける4WD制御の未来へ取り組んでいく。

 車両がWRに似ているというのもポイントで、この開発は全日本ラリーに新井敏弘選手が参戦するWRX S4にも反映されていく。というより、WRX S4の知見が取り入れられた形で、オートポリスに参戦する。つまり、ラリーで試されてきたエンジン制御、4WD制御がサーキットでも有効なのかということを検証していく。

新型車両のコクピット
コクピット内は安全面のレギュレーションに従う部分が多く、そのまま市販車というわけではない
水平対向4気筒 2.4リッターターボ
カーボンニュートラルエンジンに6速MTを組み合わせる。駆動はDCCD4WD

 さらに、この車両の開発には全面的にMBD(モデルベース開発)を投入する。MBDでデジタルツインを作り出し、MBD車両がバーチャルコースを走って制御を煮詰めていく。ラリーシーンは、路面や天候の問題が非常にシミュレーションしづらく、開発の煮詰めが難しかったが、サーキットという安定した路面を得ることで、エンジン制御、4WD制御をよりよいものにしていく。

 そのために、今ある市販部品が(ボディを含めて)選択され、WRXに似た車両になったということ。これを新型WRXと捉えることも可能だが、詰まっているのはスバルの未来。スバルは、未来を水平対向エンジン(燃料はガソリンではないかもしれない)と、4WD技術(プロペラシャフトはないかもしれない)で勝ち抜くと宣言した車両になる。

 そのため、スバルがこの車両に付けた名前は、「HIGH PERFORMANCE X FUTURE CONCEPT(ハイ パフォーマンス エックス フューチャー コンセプト)」と思いの詰まったもの。思いが詰まりすぎてやや長い気がするものとなっていた。

 スバルの思いはとても理解できるが、もっと短くしていただければありがたいとスバル側に伝えると、スバル側でも短い愛称を募集中とのことだった。#SUBARUでSNS投稿すれば、スバル側の目にとまるかもしれないので、よい名前を思いついた人は投稿してみていただきたい。個人的なリクエストとなるが、記者的には記事を書きやすい名前がウェルカムだ。

 ハイ パフォーマンス エックス フューチャー コンセプトが描く将来は、スバルのスポーツ車好きにとって期待できるものの、今、スバルのスポーツ車が欲しい人にとっては少し遠い未来になるのかもしれない。であるならば、WRXに2.4リッターターボと6速MT+DCCD4WDを組み合わせた仕様に、未来への開発投資となるカーボンニュートラルファンドを組み合わせて販売することなどはできないだろうか? クルマを買う人はスバルの未来への投資を同時に行なって気持ちよくクルマを購入できるし、さらにその車両を買った人にはMBDの提供も受けて開発にも参加できるなどの特典があるとうれしいかもしれない。

 よく知られているように、スバルユーザーにはIT技術者が多く存在し、MBDデータを自分の環境で回してくれる人もいるだろう。ST-Qクラスは公開開発を目的にしたクラスと公言しており、それは単にレースを見るだけではなく、MBDで動きをシミュレーションして見てもらうというのもありだろう。クラウドコンピューティングができる現在は、ユーザーも(もちろんスキルや環境のある方となるが)一緒に開発できるようになっている。

 いずれにしろ、スバルはサーキット、ラリー、MBDによるデジタルツインで水平対向と4WDの開発を強化・加速する方向にかじを切った。カーボンニュートラルの未来へ向け、スバルらしさとは?を突き詰めていくことになる。

主な仕様

エンジン:2.4リッター DOHC直噴ターボ DIT
駆動方式:AWD(常時全輪駆動)
トランスミッション:マニュアルトランスミッション
車両寸法(全長×全幅×全高):4670×1865×1425mm
ホイールベース:2675mm
車両重量:-
サスペンション(前輪/後輪):ストラット式独立懸架/ダブルウィッシュボーン式独立懸架
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク(対向6ピストン/対向4ピストン)
エンジン形式:FA24
排気量:2387cc
圧縮比:10.6
最高出力/最大トルク:300PS以上/400Nm以上
燃料タンク容量:85L
燃料種類:ガソリン代替カーボンニュートラル燃料
先進安全装備:アイサイト