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ホンダ、型式指定申請における不正行為について会見 三部敏宏社長「判断に対するチェックが不足していた」
2024年6月3日 22:17
- 2024年6月3日 開催
本田技研工業は6月3日、同日に国土交通省より発表された型式指定申請における不正行為について、Honda青山ビルで記者会見を開いた。記者会見には取締役 代表執行役社長の三部敏宏氏、取締役 代表執行役副社長 コンプライアンス&プライバシーオフィサーの貝原典也氏、執行役 品質改革本部長の玉川裕氏の3名が出席した。
ホンダは国土交通省から1月26日に「型式指定申請における不正行為の有無等に係る実態について」の調査指示を受け、社内調査を過去15年にさかのぼって実施。その結果、過去に販売した四輪車で型式指定申請時の認証試験に関する不適切な事案があったことを確認した。
その内容としては同社が過去に販売した四輪車について、型式指定申請に必要な騒音試験や原動機車載出力試験などで、試験条件の逸脱や、試験成績書に実測値と異なるデータを記載するといった事案があったという。現行販売や今後販売を予定している四輪車の認証試験における不適切な事案は確認されていない、とした。
また、不正行為により型式指定申請が行なわれた車種については、社内で技術検証や実車試験などを行ない、規定された法規基準を満たしていることが確認できているため、法規に関わる完成車性能への影響はないとのこと。このため、当事案の対象車種を現在利用しているユーザーにおいては、使用を継続するにあたって対応をする必要はないとしている。
なお、不正行為により型式指定申請が行なわれた対象車種は、「騒音試験における不適切事案」では22車種63形式の264万台、「原動機車載出力試験(ガソリン機関)、電動機最高出力及び定格出力試験における不適切事案」では8車種23型式の約127万台、「原動機車載出力試験(ガソリン機関)における不適切事案」では4車種9型式の44万台。
説明会の冒頭、三部社長は「当社は今年1月、国土交通省より型式指定申請における不正行為の有無などに関わる実態についての調査指示を受け、社内調査を行なってまいりました。その結果、過去に販売した4輪車の型式指定申請において、騒音試験と出力試験で不適切な事案があったことが明らかになり、国土交通省に報告をいたしました。認証制度に関わるさまざまな試験は、お客さまに安心、安全に製品をお使いいただくための大前提となるものであり、私どもホンダはこの結果を大変重く受け止めております。お客さま、販売店、サプライヤーをはじめとする多くのステークホルダーの皆さまに多大なご心配をおかけすることになったことを深くお詫び申し上げます」と陳謝。
また、「当事案の対象となる車種への影響につきましては、法期に定められた適切な手順に則り、社内で技術検証や実車による試験などを再度行なった結果、規定された法規基準を満たしていることが確認できており、法規に関わる完成車性能への影響はないと考えております。従いまして、対象車種を現在お使いいただいているお客さまにつきましては、ご使用を継続していただくことにあたっては、当事案に関して対応いただく必要はございません。また、現在販売中の4輪車や、今後販売を予定している4輪車の認証試験については不適切な事案は確認されておりません」と説明した。
具体的な内容については貝原副社長が説明を行ない、その経緯について「今年1月26日に国土交通省より、型式指定申請における不正行為の有無などに関わる実態調査の指示を受けました。当社では速やかに調査体制を整え、通達に基づく調査を開始いたしました。調査内容ですが、保管されている測定結果のデータと審査で提出したデータの整合性を確認するために、保管されている測定結果と審査で提出した知見、成績書を比較し、不適切なデータ処理などの有無について調査を実施いたしました。4月26日には、経過報告として調査を継続中であること、並びに5月中に調査をした結果を報告することを国土交通省にお伝えいたしました。その後、5月31日に調査結果を国土交通省に報告いたしました」と説明。
「騒音試験における不適切事案」では、騒音試験には最も重量が重いグレードのクルマを用いて行なう定常走行騒音試験と、最も軽いグレードのクルマを用いて行なう加速走行騒音試験があり、これらの試験では定常・加速どちらの試験も、車両重量を目標諸元値に対して±2%の範囲で実施することが試験条件に定められている。今回の事案では、試験車両の重量が大きく範囲を超えた、より厳しい条件設定で測定されており、これが試験条件の不備に該当した。
また、貝原副社長は「試験成績書に記載する設定車両重量が、実際に試験を行なった車重とは異なる数値にデータの書き換えをしておりました。具体的には、実際に試験を行なった車両の重量とは異なる、法規で定められた規定範囲内の数値を試験成績書に記載しておりました。こちらが虚偽記載となります。この背景と理由ですが、社内試験実施以降に設計変更などに伴い車両重量が変化した場合は再試験を行なう必要がありますが、より厳しい条件の重量で試験を行なえば性能上の適合性には問題がなく、再試験を実施しなくても済むと考えてしまったことが理由に挙げられます。この事案の対象は、2009年2月から2017年10月の間に実施した、旧騒音法規での定常走行騒音試験及び加速走行騒音試験となります。対象は22車種63形式が該当いたします」と説明を行なった。
「原動機車載出力試験(ガソリン機関)、電動機最高出力及び定格出力試験における不適切事案」については、試験対象となる車両の最高出力値及び最大トルク値を測定し、試験成績書に記載する際、すでに型式指定を取得している同一諸元のエンジンや電動機を搭載する機種の諸元値に近づけるように書き換えており、これが虚偽記載となった。
このことについて貝原副社長は、「この背景と理由ですが、試験結果が同一諸元であるエンジンの出力時に対して未達または過達の場合、追加の解析が発生する可能性がありますが、その差がわずかだった場合にはそれは性能のばらつきの範囲内であると考え、すでに型式指定を取得している他機種または同一機種で、マイナーモデルチェンジ実施前の出力値に近づけるよう書き換えることで追加解析の発生を回避し、工数を増やさずに済むと考えてしまったことが理由として挙げられます。この事実につきましては、2013年5月から2015年6月の間に実施した原動機車載出力試験、電動機最高出力試験及び定格出力試験が対象で、8車種23型式となります」と述べた。
そして「原動機車載出力試験(ガソリン機関)における不適切事案」については、この試験を実施する際に、発電機(いわゆるオルタネーター)を発電して試験を実施することが規定されているが、オルタネーターを発電せずに試験を実施し、過去に実施した同一諸元のエンジンの別の試験結果から得られた補正値を用いて数値を算出し、これをオルタネーターを作動させた状態と同等の試験結果とみなしていたという。
この事案について、貝原副社長は「この試験においては、オルタネーターを作動させた状態で測定するという試験条件が試験マニュアルに規定されておらず、補正値を用いて算出した数値が定められた条件での試験結果と同等であると解釈してしまったことが理由として挙げられます。対象は2013年4月から2015年1月の間に実施した原動機車載出力試験であり、4車種9型式が該当します」と説明した。
なお、今回改めてホンダでこうした事案が起きたことの受け止めについて聞かれた三部社長は、「ホンダといたしましては、数十年前からこういったことが起きないように、例えば開発分野、生産分野とは別の独立した組織(認証法規部)で認証試験をやってまいりましたので、本来こういうことがあってはならないと考えております。今回のわれわれの不適格事象の中身といたしましては、認証行程の中で技術的な解釈、今回の場合は都合のいい技術的解釈と言ってもいいと思いますけども、例えばそのばらつきの範囲内であれば、少し数字を変えても実際問題としてエンジンの性能には影響しないとか、あとはそのワーストケースで保障していれば法規上は必ず満たしているのであるという、そういう解釈の元に判断が行なわれていたこと、さらにはその判断に対するチェック、これが不足していたと。コンプライアンスという領域においての認識の甘さから出たものであって、決して性能が出ていないものに対しての改ざんとかそういうことではないと解釈をしておりますが、かねてからコンプライアンスに関しても教育は行なってきておりまして、2018年以降は発生しておりませんので、ある程度そういう教育も含めて成果はあると思います。過去の事例におきましてもこういうことが起きたという事実は真摯に受け止め、今後われわれとしては改善の糧として、さらに遵法の精神というものを全社、経営陣はもちろんですけども全従業員が再度認識し、認証業務にあたっていきたいと考えています」とコメントしている。