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日産、車内温度の過度な上昇を防ぐ「自己放射冷却塗装」の実証実験

2024年8月6日 発表

燃費や電費の向上に貢献する自動車用自己放射冷却塗装の実証実験を公開

 日産自動車は8月6日、燃費や電費の向上に貢献する自動車用自己放射冷却塗装の実証実験を公開した。

 今回開発した塗装は、物体の温度上昇を引き起こす太陽光(近赤外線)を反射するだけでなく、メタマテリアル技術の活用により熱エネルギーを放射するため、エアコンの使用を抑制しながら涼しく快適な車内環境の提供が可能になるという。

 塗装に使用している塗料は、放射冷却製品の開発を専門とするラディクールと共同開発したもので、電磁波、振動、音などの性質に対し自然界では通常見られない特性を持つ人工物質「メタマテリアル」を採用。今回は「熱のメタマテリアル」として、晴れた冬の夜間から早朝にかけて起こる放射冷却と同じ現象を人工的に引き起こすとしており、これによって太陽光を反射するだけでなく、クルマの屋根やフード、ドアなどの塗装面から熱エネルギーを大気圏外に向かって放出することが可能となり、車内の温度上昇を抑制する。

 開発段階において、この塗料を塗装した車両と通常塗料を塗装した車両を比較した際、外部表面で最大12℃、運転席頭部空間では最大5℃の温度低下を確認。これにより、炎天下に長時間駐車していた車両への乗り込み時の不快感を軽減し、エアコンの設定温度や風量の最適化により、燃費や電費の向上を図ることができるという。

 今回の塗装を開発したのは、総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員の三浦進氏。塗装の開発においては2018年からラディクールとの共同開発の可能性を探り、2019年にはフィルムによる冷却効果を確認。さらに自動車への適用を考慮し、2021年から塗装の共同開発を進め、今回の実証実験にいたっている。

 なお、メタマテリアルの技術を利用した放射冷却塗料は建築用途には使用されているが、建築用塗装は自動車用塗装と比較すると塗膜が非常に厚く、ローラーで塗布することを前提としており、自動車の塗装に必要であるクリアトップコートの使用も想定されていない。そのため日産は、この塗料をクルマに適用できるようエアスプレーでの塗布や、クリアトップコートとの親和性、日産の厳格な品質基準など、さまざまな条件への対応に取り組んだ。

 約3年の開発期間において、三浦氏をはじめとした研究者が総合研究所で100以上のサンプルを作製し、一般的な自動車塗装に用いられるエアスプレーでの塗装に成功。また、今回の実証実験において、塗装の欠けや剥がれ、傷、塩害などの化学反応に対する耐性、色の一貫性、修復性にも現時点で問題がないことも確認しているとのこと。

 さらに、自動車用塗装への適用として重要な要件の1つである塗装膜厚においては、同等の冷却性能を確保しつつ開発当初の120μm(0.12mm)から大幅な薄膜化に成功した。現在、トラックや救急車など炎天下においての走行が多い商用車への特装架装としての採用を検討しており、商品化に向けてさらなる薄膜化に取り組んでいる。

塗装の効果と耐久性を検証するため、日産は羽田空港において2023年11月から1年間の実証実験を実施している

 この塗装の効果と耐久性を検証するため、日産は羽田空港において2023年11月から1年間の実証実験を実施している。ラディクールの日本法人の販売代理店を務める日本空港ビルデングの協力により、ANAエアポートサービスが空港で日常的に使用しているNV100クリッパーバンに当該塗料を塗装して評価を行なっているという。

自動車用自己放射冷却塗装:快適な車内環境を実現するイノベーション(1分31秒)