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元NDロードスター開発主査 山本修弘氏が校長を務める世界初の“マツダ車特化”専門学校「マツダ自動車整備専門学校 神戸」2026年4月開校

2024年8月8日 開催

2026年4月に開校予定の「MASTeC KOBE」メディアカンファレンスで行なわれたフォトセッション

 マツダ車の販売などを手がける神戸マツダは8月8日、2026年4月に開校する自動車整備の専門学校「マツダ自動車整備専門学校 神戸:Mazda Automobile Service Technical College Kobe(MASTeC KOBE)」について紹介するメディアカンファレンスを開催した。

 MASTeC KOBE(マステック神戸)は、神戸マツダが目指している確かな自動車整備技術を身に着けた“自立型人間”の育成を目的とする、マツダ販売会社として世界初の自動車整備専門学校。神戸マツダが設立、運営を行ない、メーカーであるマツダとも連携。マツダ車に特化した技術教育を行ない、最新の整備機器を使った研修によって整備現場に即した整備技術を学ぶことで二級自動車整備士資格の取得を目指すと同時に、社会人としての礼節や心構えなどを備える人材育成に必要な教育プログラムを採用。「自動車整備技術の習得」と「自立型人間の育成」を同時に行なう専門学校を目指していく。

 校舎は現在、神戸マツダ本社の来訪者向け駐車場として利用されている土地に建設され、3月にはボーリング調査を実施。3階建ての校舎はマツダの「新世代店舗」ともイメージを共通する黒を基調としたデザインを採用する予定となっている。

 また、校長にはマツダの4代目(ND型)「ロードスター」の開発主査などを務めた山本修弘氏が就任することになっている。

MASTeC KOBEの校舎外観イメージ

「自動車整備士が誇れる社会になることを強く願っている」と橋本社長

株式会社神戸マツダ 代表取締役社長 橋本覚氏

 メディアカンファレンスでは最初に、MASTeC KOBEの理事に就任する神戸マツダ 代表取締役社長 橋本覚氏がMASTeC KOBE設立の趣旨などについて解説した。

 橋本社長は最初に、運営の母体となる神戸マツダについての説明を行ない、自動車整備士を育成するMASTeC KOBEを設立することも、同社の長期ビジョン「Value Changer 2030」で掲げている「そこまでやるか? やるんです」という副題で取り組んでいる社会貢献活動の1つになると説明。これまでにもコミュニティバスの運行や女性の社会進出をサポートする保育園の開園などさまざまな社会貢献活動を手がけてきたが、新たなMASTeC KOBE設立は、とくに本業ど真ん中に踏み込んでいく一歩になると意気込みを語った。

神戸マツダでは5つの幸せを実現する「5HAPPY」のテーマを掲げており、社会貢献活動もこの1つとなる
神戸マツダの社内カンパニー「コミュニティカンパニー」を通じてさまざまな社会貢献活動に取り組んできた

 整備業界の現状では、自動車整備の売上高はコロナ禍の2020年に一時的に落ち込んだものの、そこから回復して増加傾向となっているが、一方で自動車整備士はコロナ禍で減少して以降は右肩下がりの状態になっており、合わせて整備専門学校の入学者数は10年以上に渡って定員割れの状態で、2023年には全国で7000人以下という「緊急事態になっている」と紹介。有効求人倍率も4.5倍程度になっているという。

 このように整備士が減少し、自動車整備士という仕事の魅力が低下していることは自分たちの本業に直結する社会的課題だと受け止め、神戸マツダでは1年半前から自動車整備専門学校を設立する構想をスタートさせた。

 また、入学者数が定員割れを起こしている現状を踏まえ、これまでにない魅力を持った学校作りを行ない、留学生にも入学してもらうことも重要だとの考えから、文部科学省と国土交通省の認可を得る必要はあるものの、多彩な人に入学してもらえる学校法人として設立する方針をとっている。

自動車整備の需要は増えているが、自動車整備士や整備士を目指す学生などの人数は減少傾向が続いている
整備士の減少は本業に直結する社会的課題と認識して、自動車整備専門学校の設立に向けて活動をスタート
留学生にも入学してもらえるよう、学校法人として設立する

 独自の魅力を持たせるため、MASTeC KOBEでは「自動車整備技術取得」と「自立型人間育成」という2点をコンセプトに設定して、それぞれに独自のカリキュラムを導入していく。

「自動車整備技術取得」では二級自動車整備士(総合)の資格に加え、マツダ独自の資格認定制度「マツダサービススタッフ資格」のエンジニア C級仮認定を取得するための各種訓練を実施。

「自立型人間育成」では、神戸マツダが掲げる「5HAPPY」のテーマを教育方針にも採り入れるため、学校法人としての名称にも5HAPPYを採用。また、メジャーリーガーの大谷翔平選手が学生時代に実践したことでも知られる「原田メソッド」の生みの親である原田隆史氏を学校の理事として迎え、原田メソッドを授業に採り入れていくという。

MASTeC KOBEでは「自動車整備技術取得」と「自立型人間育成」を目指す
MASTeC KOBEの設立目的
神戸マツダが掲げる5HAPPYのテーマを学校法人としての名称にも採用
MASTeC KOBEの概要

 最後に橋本社長は、ドイツやイタリアでは中世に存在したギルド制度の名残から、職能を極めたマイスターと呼ばれる技術者が社会的に大学進学者と変わりのない評価を受けていると紹介。また、コロナ禍の日本で浸透した「エッセンシャルワーカー」という言葉は、主に医療従事者を指す言葉となっているが、自分では自動車整備士も日本の交通インフラを守るエッセンシャルワーカーだと考えていると述べ、日本でもエッセンシャルワーカーである自動車整備士が誇れる社会になっていくことを強く願っているとアピールして解説を締めくくった。

「日本でもエッセンシャルワーカーである自動車整備士が誇れる社会になっていくことを強く願っている」と橋本社長

「マツダ特化型カリキュラム」で「マツダ愛」を“心のエンジン”として会得

株式会社神戸マツダのアドバイザーも務めている山本修弘氏

 続いて、MASTeC KOBEの校長に就任予定の山本修弘氏から、新たに設立される専門学校の概要について説明された。

 山本氏はマツダで50年に渡って働いた自身の経歴について紹介し、新車開発の主査として得たマーケティングや商品企画、開発、生産、広報、サービスといった新車にまつわる幅広い経験を学校経営に生かしていきたいと説明。2023年にマツダを退職したあと、6月になって橋本社長から新学校の校長就任について打診され、自動車整備の専門学校開設に向けた熱い思いに感銘を受けて依頼を受託。現在は神戸マツダのアドバイザーという立場から学校設立と開校に向けた準備を進めているという。

 学校の愛称となっているMASTeC KOBEについては、自分たちが文化や経済、産業が集まる神戸という土地を誇りに思っていることに加え、いつの日か神戸以外の場所にもMASTeCが開校する日が来てほしいという願いが込められている。校章では頭文字となるMを基調としながら、タイヤのカーブとステアリングのV字をシンボライズしたデザインとなっている。

マツダの歴史と山本氏の経歴
Mの文字を基調に、タイヤとステアリングをシンボライズした校章を採用する

 MASTeC KOBEの教育では二級自動車整備士資格の取得を基板に位置付け、「マツダ特化型カリキュラム」「自立型人間育成」「神戸マツダの寄り添う支援」を学びの3本柱に設定。学生たちはこの3本柱により、自分らしい生き方と未来を切り拓いていく力を育てて社会に貢献できる人材として成長。就職後には自信と誇りを持って、豊かな人生を過ごしていく姿をゴールとして描いているという。

「マツダ特化型カリキュラム」では、マツダの提携校として他校では学ぶことのできないマツダ独自の各技術について深く知ることができ、合わせてマツダが持つ情熱やチャレンジング精神を学ぶことを通じて「マツダ愛」を“心のエンジン”として会得していく。

「神戸マツダの寄り添う支援」は、校舎と神戸マツダ 本店が隣接している立地を生かし、単にクルマを整備するだけの立ち位置にとどまることなく、顧客が安心してカーライフを楽しめるよう支える神戸マツダの整備現場を実際に体験することが、将来に向けて役に立つ経験になると山本氏は説明。これ以外にもイベント参加やボランティア活動など、生徒たちには体験の場を積極的に提供していくという。

「マツダ特化型カリキュラム」「自立型人間育成」「神戸マツダの寄り添う支援」が学びの3本柱
他校では学ぶことのできない「マツダ特化型カリキュラム」
「自立型人間育成」については続いて登壇する原田隆史氏に説明が託された
隣接する神戸マツダ 本店で「神戸マツダの寄り添う支援」を体験

 重要な卒業までに取得できる資格と就職については、就職率100%を目標として学生には就職先を自由に選んでもらい、マツダグループへの就職にとどまらず、生徒1人ひとりの自己実現を全力で応援すると説明。就職後に即戦力として活躍できるよう、二級自動車整備士資格を中心とした各種資格の取得についてサポートするほか、社会のデジタル化で求められるDX化への対応や生成AI活用などについても準備を進めている。

 学校の認可に向けたスケジュールでは、3段階を想定したフェーズの最終段階まで進んでおり、建設中の校舎は2025年4月に完成を予定。兵庫県に対する申請を審議する私学審査会は第1回が7月末に完了し、2025年3月の第2回、同7月の第3回で審査が行なわれ、続く8月には国交省への申請を経て認可を受ける段取りが進んでいる。

就職後に即戦力として活躍するための資格取得もサポートする
学校認可に向けたスケジュールはフェーズ3まで進んでいる

 山本氏は「私たちは学生の募集は非常に厳しいと認識しております。兵庫県下の学生の7割は大学に進学し、専門学校を希望する学生の数は非常に少なくなっています。そんな学生たちとのタッチポイントを増やすこと、そして自動車整備士の魅力をもっと伝えていくこと、それらが大きな課題だと考えております。学生からは『MASTeCに行きたい』、保護者や学校からは『MASTeCに行かせたい』、地域や社会からは『応援したい』と言ってもらえるようになりたいと考えております」とコメントして締めくくった。

学生たちとのタッチポイントを増やすこと、自動車整備士の魅力をもっと伝えていくことが大きな課題と語る山本氏

社会のヒーローになるような自動車整備士を育てていきたい

株式会社原田教育研究所 代表取締役社長 原田隆史氏

 MASTeC KOBEが持つ独自性の1つである自立型人間育成のカリキュラムについては、原田メソッドの生みの親である原田氏から説明された。

 原田氏はまず、メディアカンファレンスも後半に入って疲れが見えはじめてきた会場の記者たちに、軽い手の運動や顔のマッサージ、作り笑顔などで心身をリラックスさせるメンタルトレーニングを体感してもらい、自身の理論の一端を披露して説明をスタート。パリオリンピックでも日本人選手が活躍を見せており、10代前半の選手たちが物怖じすることなく世界の強豪を相手に実力を発揮して、外国の報道でも「日本人選手はメンタルが強くなった」と報じられるなど、人の心、メンタルは強くする方法があると語った。

来賓や記者を巻き込んでのメンタルトレーニングで、会場の空気を一気に自分のものにしていく原田氏

 新たな学校設立にあたり、MASTeC KOBEでは学生をどのように育成していくか議論されたとき、やはり自動車整備士として高い技術を備える技術者を育てることが第一の要素としてあげられたが、続いては「MASTeC KOBEの卒業生に任せておけば大丈夫だ」と信頼してもらえる人材であることが大事になるのではないかと述べ、それを「心の強さ」「人間力」と表現できると定義。これはMASTeC KOBEに限らず、これから少子高齢化が進む日本社会における人材育成には「自立型人間」が求められるとした。

 心の土台の上に能力が乗ることで実力が発揮され、仕事ができて信頼できる人、仕事力と人間力をバランスよく育成することを自動車整備士の育成現場で実現することをMASTeC KOBEでは目指しているという。

 また、橋本社長の説明でも使われたエッセンシャルワーカーという言葉にも触れ、エッセンシャルワーカーや自動車整備士を「縁の下の力持ち」と表現することもあるが、自分では縁の下ではなく、縁の上で社会を作っている人たちだと考えていると表現。MASTeC KOBEでは社会のヒーローになるような自動車整備士を育てていきたいと意気込みを語った。

「人間力」の上に「仕事力」の乗った自立型人間の育成を目指す

 自立型人間としての力を持った自動車整備士を育成するため、原田メソッドでは「思考力」「行動力」「活用力」「指導力」「人間力」の5点を柱として、各項目で3つの力を設定した合計15の力で、自動車整備士の技術力にプラスアルファとなる人間力として同時に教育するカリキュラムを展開していく。

 世の中では従来から評価の中心となってきた「テストの成績」「偏差値」「順位」といった認知能力から、「情報を使って自らアウトプットしていく」「イノベーションを起こしていく」といった非認知能力を持つ人材の育成が急務になっており、非認知能力の元になっていくのがこの15の力であると原田氏は述べた。

原田メソッドで育成する15の力

 さらにMASTeC KOBEでは、英語のメンタルトレーニングを「心づくり」という日本語に置き換えて教育の柱に設定。本気や真面目さ、素直さを重視する「心をきれいにする」、未来を描いていく、将来設計をする「心を使う」、継続する力を育む「心を強くする」、自己効力感や自己肯定感で自信を育てる「心を整理する」、感謝の気持ちを持つ「心を広くする」といった5種類のアプローチにより、人格や人の心を育成しながら新しい自動車整備士を世に送り出していく。

 最後に原田氏は、「これはわれわれMASTeC KOBEだけじゃなく、自動車整備士だけじゃなく、エッセンシャルワーカーだけじゃなく、すべての人が自立に向けて、なんとかよい教育ができるように、われわれがその形を提供して、皆さんと一緒に成長していきたいと真剣に願っています」とコメントして説明を終えた。

5種類のアプローチで学生たちの「心づくり」に取り組む