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トヨタ、7つの特徴を持つアーク溶接新技術「SFA」を32号車GRヤリスに投入 鈴鹿でホワイトボディを展示

鈴鹿サーキット「SUZUKA-ZE」前に展示されたGRヤリスのホワイトボディ。アーク溶接新技術「SFA」が採用されている

3週間~2週間かかっていた工程を3日間に短縮できる、アーク溶接新技術「SFA」

 トヨタ自動車は9月29日、アーク溶接新技術「SFA(Sequence Freezing Arc-welding)に関する説明会をスーパー耐久開催中の鈴鹿サーキットにおいて実施した。このアーク溶接新技術SFAは、モータースポーツで使われるロールケージの生産性向上を目指したもので、GAZOO Racing Companyと安川電機らによって共同で開発を進めてきた。

 GRヤリスのチーフエンジニアである齋藤尚彦氏によると、その生産性の向上は「ロールケージの生産に3週間~2週間かかっていたものが、3日間になった」という驚くべきもので、安川電機のロボットに熟練工の溶接技術をティーチングすることで実現している。「きっかけはモリゾウさん(豊田章男会長)がフィンランドに行って、ラリー2マシンの製造においてTPS(トヨタ生産方式)による改善を検討したこと」(齋藤チーフエンジニア)と語るように、2023年夏に豊田会長がフィンランド ユバスキュラのTGR-WRT内にある、GRヤリス ラリー2製造工程を視察したことにより、ロールケージの生産期間の長さが浮上した。その解決に、1年間取り組んでいたことになる。

アーク溶接新技術「SFA」による溶接点

 このSFAには7つの特徴があるという。

特徴1:溶接強度の向上と軽量化
特徴2:アークでのショット溶接が可能
特徴3:抜け落ち抑制制御による板隙へのロバスト性向上(隙があっても溶接が可能)
特徴4:上向き 上り/下りアーク溶接の精度向上
特徴5:ブリッジ溶接が可能
特徴6:長いワイヤ突き出し量による局所溶接が可能
特徴7:エッジ溶接が可能(溶け落ち制御ができる)

 このSFAによるアーク溶接が行なわれたGRヤリスのホワイトボディは、金曜日からサーキットレストラン「SUZUKA-ZE(すずかぜ)」向かいのパドックエリアで展示されており、とくにレース関係者から大きな反響が起きている。

アーク溶接新技術「SFA」を行なう安川電機のロボット
アーク溶接新技術「SFA」によってボディ強化された32号車 GRヤリス

 このSFAでは、溶接面も美しく、熟練工以上の仕上がり。軽くて強度もあり、短納期で仕上がることから、レーススケジュールに追われる関係者には強力な武器となるのは間違いない。

 このSFAの開発を行ない、現場説明も実施していたGAZOO Racing Company GR車両開発部 GRZ ZR1 主査 川喜田篤史氏によると「溶接の反響ももちろん大きいが、どこに溶接を行なったかじっくり見られる方もおられる」とのこと。スポット溶接やアーク溶接をすればするほど強度は上がるが、当然ながら重量も増えてくる。そのため、強度が上がるポイントを効率よく溶接することが求められるが、それはノウハウの塊になる。そのノウハウの塊が、大々的にレストランの前で展示されているのだから、ボディ設計に詳しい人、ボディ生産に詳しい人から見れば、ありえない事態が起きていることになる。

 説明エリアには、GAZOO Racing Companyスタッフに加え安川電機のスタッフもおり、プレゼンテーションを見られるほか質問などもできる。鈴鹿を訪れているのであれば、ぜひ立ち寄ってみていただきたい。

展示エリアで説明にあたっていたトヨタ自動車 GAZOO Racing Company GR車両開発部 GRZ ZR1 主査 川喜田篤史氏(左)と、鈴鹿を視察に訪れたトヨタ自動車 副社長兼Chief Technology Officer 中嶋裕樹氏