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豊田章男会長、CES2025でモビリティのテストコース「トヨタ ウーブンシティ」Phase1開始を紹介 2025年秋以降に入居と実証を開始
2025年1月7日 06:40
- 2025年1月6日(現地時間) 発表
CES2020から5年、豊田章男会長がCES2025でウーブンシティの入居と実証開始を宣言
日本時間1月7日(現地時間1月6日)、米国ネバダ州ラスベガスにおいて開催されている世界最大のテックイベント「CES2025」のプレスカンファレンスにトヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏が登壇。静岡県裾野市に建設中のモビリティのテストコース「Toyota Woven City(以下、ウーブンシティ)」を2025年秋以降にオフィシャルローンチすることを発表した。
ウーブンシティは、2020年1月のCES2020で豊田章男社長(当時)が建設構想を発表した未来都市。研究者や住人など2000人が住み、モビリティの実証都市としてさまざまな試みを行なっていくことを明らかにしていた。
これまで詳細な情報の出ることのなかったウーブンシティだが、2024年のパリ「Viva Technology」で、ウーブン・バイ・トヨタとして一部情報を公開。2025年のCES2025において、Phase1と呼ばれる第1段階の概要が明らかになった。
今回、明らかにされた2025年秋以降のオフィシャルローンチでは、実際に人が住み始め、ダイキン工業、ダイドードリンコ、日清食品、UCCジャパン、Z-KAI(増進会ホールディングス)が社外のInventors(インベンターズ/発明家)として未来のモビリティの可能性を実証するため、ウーブンシティをテストコースとして活用していく。
この5社は、2020年の発表以来申し込みのあった6000件の中から、思いを同じくする仲間として決定されており、すでにウーブンシティのパートナーとして発表されている、エネオス、NTT(日本電信電話)、リンナイとともによりよい未来に取り組んでいく。
パートナーがエネルギーや通信、水素関連など主にウーブンシティのインフラ面を行なっていくの対し、インベンターズはそれらを活用して、リアルな未来に取り組む人たちと位置付けられているようだ。
そして、ウーブンシティでは住人やビジターをWeavers(ウィーバーズ)と呼び、「モビリティの拡張」への熱意と、より豊かな社会を目指し未来をよりよくしていきたいという強い思いを持ち、ウーブンシティで行なわれるインベンターズの実証へのフィードバックを通じて、ウーブンシティにおける価値を共創する人と位置付けている。
このウィーバーズは、woven(織られた)の元になっているweave(織る、紡ぐ)と同じ流れの中にある言葉で、その源流はトヨタの祖業である豊田自動織機、豊田自動織機を発明した豊田佐吉氏にある。豊田章男会長は、この自動織機発明は豊田佐吉氏の「誰かのために」という思いがあると常々語っており、「誰かのために」よりよい未来をともに紡いでいく人たちをという気持ちを込めてウィーバーズと呼ぶようだ。
ただ、プライバシー保護問題の実証もあり、当初のウィーバーズはトヨタやトヨタ関係者を中心としたものとなり、将来の都市におけるプライバシー保護を確認していく。Phase1では最終的に約360名が住み、将来的には前述のように約2000人が居住し、敷地面積もPhase1の約5万m2から約70万m2へと拡充される。
ウーブンシティ Phase1基本情報
住所:静岡県裾野市御宿1117(TMEJ東富士工場跡地)
敷地面積:約5万m2(将来は約70万8000m2)
主なタイムライン:
2020年年1月7日 CES2020にてコンセプト発表
2021年2月23日 Phase1地鎮祭。同年3月より造成工事を開始
2022年10月10日 Phase1安全祈願祭。同年11月より建築工事を開始
2024年10月31日 Phase1竣工
2025年秋以降 Phase1オフィシャルローンチ
住民:
2025年秋以降トヨタやトヨタ関係者を中心に住み始め、Phase1では最終的に約360名が居住予定(将来的にはエリアで2000人に拡大予定)
モビリティのテストコースとは?
CES2025で「モビリティのテストコース」と位置付けられたウーブンシティだが、モビリティのテストコースには単に実証都市、未来都市、スマートシティとは異なるクルマ屋であるトヨタの思いが込められている。
トヨタテクニカルセンター下山に代表されるトヨタのテストコースでは、日々新しいクルマのテストが行なわれている。豊田章男会長は下山の完成式典で、自身がテストして不具合を現出させ壊したGRヤリスを展示し「私が下山で横転して壊したクルマです。『走る、壊す、直す』の象徴として、あえて直しておりません」とあいさつ。クルマ屋のテストコースがどのようなものであるか、トヨタの目指す「もっといいクルマづくり」がどのようなものであるかを来賓に強烈に印象づけた。
ウーブンシティが掲げるモビリティのテストコースにも同じ思いが込められており、モビリティの未来を「作る、壊す、直す」を実現。アイディアに優れるインベンターズに試作の機会を提供し、自動運転車のみが走る地下道などピュアなデータを取得できる環境を用意。作って、データを集めて検討し、不具合があったらまた作り直すというトヨタのカイゼン文化を、未来のモビリティへのチャレンジャーに提供していく。
モビリティのテストコースにはそのような意味が込められており、トヨタがこれまで培ったもの作り文化を象徴しているように思える。
2011年3月11日の東日本大震災で東北に生産機能を一部移転、縮小する日本市場の中で東富士工場を閉所。1人の従業員の言葉がきっかけで始まった街
このウーブンシティは、静岡県裾野市で53年間トヨタのクルマを生産してきたトヨタ自動車東日本 東富士工場が閉所し、生産機能を東北に移転した跡地に建設されている。よく知られているように2011年3月11日の東日本大震災で東北が大きなダメージを受けた際に、豊田章男社長(当時)は単なる寄付ではなく、東北に雇用を生み出すことを決断。トヨタの生産車種の一部を集中的に東北地区に移し、同時に関東自動車工業、セントラル自動車、トヨタ自動車東北を合併しトヨタ自動車東日本株式会社(以下、TMEJ)を生み出した。
TMEJは現在トヨタ第3の故郷として「ヤリス」などを生産、東北に雇用を生み出し、税収を生み、東北の生活を再建する一助になってきた。宮城県利府町 町長の熊谷大氏はそのトヨタのサポートを「荒野のような被災地に、お金や寄付や食べ物や服や下着や家電ではなくて、生産すること、真面目に仕事と向き合うこと、技術を学ぶこと、そして製品を作り、みんなが喜んでくれる『ものづくり』という日本の伝統で、その手を、支援の手を差し伸べてくださいました」とラリーイベント開催の際にあいさつ。深い感謝がうかがえるものだった。
ただ、その一方で縮小する日本市場に対応し、生産を集中するために東富士工場の閉所と生産機能移転を2020年に発表。その前の2018年7月に行なわれた従業員との対話がウーブンシティ誕生のきっかけになっている。詳細はトヨタのオウンドメディアであるトヨタイムズ「豊田社長年頭挨拶 ~一歩踏み出した人たちへ」で映像が公開されている。
1人の従業員は、「東北に行って、またクルマを作っていきたいという気持ちがあるんですけど、いろいろと事情があって、本当は行きたいんだろうけど、やはり家族のことを考えると一緒には行けないし、辞めざるを得ないという人もやっぱり中にはいると思うんです。そういう人のことを考えると、やっぱり喜んで向こう(東北)には行けないという気持ちが正直あるんで、今後この会社、トヨタとしてどういう風に(東富士が)なっていくのか考えていることを今教えていただければありがたいと思います」と豊田社長に質問。豊田社長は、その質問に答える形で、ウーブンシティの原型である「コネクティッド・シティ」構想を語っている。
そのような東富士工場への思い、従業員一人ひとりの思いが込められている土地に作られるウーブンシティには、TMEJ東富士工場の建屋が一部残してあり、ウーブンシティにおけるモノづくりの起点として活用すべくリノベ-ショーン工事を進めているという。Phase2の造成工事もすでに始まっているとしており、Phase2ではPhase1での学びを活かしながら、モビリティのテストコースとして求められる要件を明確にし、Phase2以降の計画に反映していく。
なおウーブン・バイ・トヨタは、モビリティの拡張を目指してロケット開発を行なうインターステラテクノロジズに対して約70億円の出資を決定。トヨタのモノづくりの知見を活かして、ロケットの量産化をサポートしていくという。