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コレクタブルカーの共同所有サービス「ランデヴー」、“奇跡のポルシェ 930ターボ”公開

コレクタブルカーの共同所有サービス「ランデヴー」が展開する1975年式のポルシェ911ターボを、モータージャーナリストの山田弘樹氏がレポート

1975年式のポルシェ911ターボ

 車体ナンバー「93005700051」。“奇跡の930ターボ”に出会った。

 これは「RENDEZ-VOUS(ランデヴー)」によってレストアされた、1975年式のポルシェ911ターボだ。1975年といえば初代911ターボが発売された正にその年であり(プロトタイプの発表は1973年9月のフランクフルト・ショー。そして市販モデルの正式発表は翌年のパリ・サロンだ)、この個体は初年度に約280台販売されたうちの1台。その上で、なんと日本納車第1号というヒストリーを持っている。

 ちなみに車体ナンバーには下5桁「00050」番も存在したが、この個体は当時のディーラーであったミツワ自動車のデモカーとして使われたようで、その後の消息はつかめていないとのこと。そしてこの51号車はフルオリジナルのまま1人のオーナーが乗り続け、オドメーターが3万7331kmの数字を刻んだところで、20年以上そのまま地方のガレージに眠っていた。

 もう少しだけ初期型930ターボについて説明すると、1975年から1977年までのモデルはエンジンが3.0リッターで、圧縮比を6:5へと低めた空冷・水平対向6気筒エンジンに過給機を搭載することによって260PS/5500rpmの最高出力と、35.0kgfm/4000rpmの最大トルクを発揮した。そして最高速は250km/h、0-100km/h加速は5.2秒をマークした。しかし日本仕様は排ガス対策の関係で245PSだった。

 その数値だけを見れば今となっては微笑ましいばかりだが、当時のタイヤのグリップやシャシー、および空力性能を考えれば、これはすごい数字だったはずだ。ちなみにステアリングはノンアシストだ。さらにシングルターボであり、筆者は残念ながら未経験だが、これを運転したドライバーは一様に口を揃えてその過給圧特性を「ドッカンターボだった」と懐かしそうに語る。

 ちなみにその排気量は1987年モデルで3.3リッター(288~285PS)まで排気量を拡大し、1989年まで生産されてType964にバトンをつないだ。そういう意味でも初期モデルは非常にレアであり、筆者もエンジンルームにインタークーラーがないターボは初めて見た。

初期型930ターボが搭載する空冷・水平対向6気筒エンジン

ミツワ自動車の元メカニックがレストアに携わる

株式会社RENDEZ-VOUS 代表取締役 浅岡亮太氏

 このプロジェクトを推進したランデヴーは、コレクタブルカーの共同所有サービス「RENDEZ-VOUS」を運営する会社だ。2022年5月に創業した同社は「共同所有」という新たな選択肢で、憧れのクルマとのカーライフを提案している。

 その代表取締役CEOを務める浅岡亮太さんはご実家がクラシックカー販売店を営んでいたこともあり、幼いころからこうしたヒストリックカーに親しんでいたという。また大学在学中には自動車メディアを立ち上げるほどの根っからクルマ好きであり、社会人になってからはDeNAでC2Cのカーシェアリングサービス「Anyca」(エニカ)の立ち上げメンバーとしてセールス/コミュニティマネージャーを兼任。その後は「メルカリ」で自動車プロジェクトチームの責任者になるなど、新たな手法で自動車ビジネスを展開してきた人物だ。そして同じく自動車に精通する仲間たちと共に、3年前このランデヴーを立ち上げた。今回の930ターボもそうしたクルマ好きのネットワークが引き寄せた出会いだった。

 こうしてランデヴーは、1975年式の930ターボを甦らせるべくレストアプロジェクトをスタート。まずは自社のホームページでそのコンセプトを発信し、敢えてそのままの状態で2年前の「オートモービルカウンシル」で展示を行なって、共同オーナーを募った。すると4人が声を上げ、レストアがスタートしたのであった。

1975年式のポルシェ911ターボのアンベールのようす

 そのレストレーションを請け負ったのは、御殿場に居を構える「ポルテック」だ。同社も2024年に創業したばかりの新しい整備工場だが、そこで働くメカニックたちは、かつてミツワ自動車で働いていた面々だった。

 しかしそんな名手たちにとっても、この930ターボを復活させるのは一筋縄では行かなかったという。最たる理由はこの個体が1975年モデルだったからだと、当日プレゼンテーションに参加していたポルテック代表の上野氏は語った。

「まずこの1975年式は現存する台数が非常に少ないんです。『ポルシェが作ったターボ』ということもあって、その速さは折り紙付きだろうと、そのほとんどがレーシングチームによって買い占められてしまったという歴史があるようなのです」

 現存数が少なければ、パーツ供給のリクエストも少なくなる。かつ1975年式モデルは翌年以降のモデルと比べるとまだ各部が体系化されていない、非常に簡素でワンオフ的な造りだった。だから1975年式にこだわると、パーツの入手がすごく難しかったのだという。

今回のプロジェクトの背景、想いについて。出会いは2020年3月

 筆者も1995年式の911カレラを直しながら7年ほど乗り続けているから、その理由がよく分かる。ポルシェは未だにクラシックモデルのパーツを、全てではないが供給し続けている。これ自体はとてもすばらしいことなのだが、たとえばType993でも世代をまたいでパーツがアップデートされ、次のモデルと部品が共用化されることもあるのだ。

「それでもスペインとか、これまで購入したことのない国からもパーツを集めて、粗雑な作りを直しながら組み立てたりしました」(上野氏)。救いだったのは、走行距離が少なくてエンジン本体の固着がなかったこと。「圧縮を測ったときコンプレッションがなくて『だめかなぁ……』と思いましたが、ピストンやシリンダーなど、入手困難な部品が再利用できた。そういう意味でもこの個体は本当に全てがラッキー。仮に同じ1975年式の930ターボがあったとして、元通りにしてほしいと言われてもできるかどうか分かりません」とのことだった。

 プレゼンテーションでは、この930ターボの純正度は「99%」だと語られた。では「残りの1%は何なのか?」と質問すると、それは「サンバイザー」とのことだった。骨組みはオリジナルのままだが、アウターだけはどうにも使える状態ではなかったのだという。

 内装はカビくさかったが、あとは腐りもなかった。塗装も一部劣化はあるものの、あえて直さずオリジナルのまま残した。現存度の高さという面でもまさにこの1975年式930ターボは、“奇跡の1台”だったわけである。

「文化的な価値を持つ車を再生させ、後世に残していきたい」との思いでレストアされた930ターボ。ワンオーナー車両で、ほとんどオリジナルの状態を保つ1台。930ターボの所有期間は1年間と定められている
1975年式としては信じられないほど美しい状態を保つ一方、ステッカー類などは当時を想起させるもの
室内のコンディションもすばらしいもの。トランスミッションは4速MT。930ターボの純正度は「99%」としており、サンバイザーのアウターだけは非純正
総走行距離は3万7331km

共同所有に必要な価格、そして売却について

 こうして約2年の歳月を経て完成した930ターボだが、前述のとおり完成車は4人のオーナーの「共同所有」となる。ちなみにオーナー1人当たりの費用は一括600万円で、4人だから2400万円だ。ちなみにレストアには800万円以上かかっており、浅岡代表も「当初の予定を大幅に上まわってしまいました」と苦笑いしていた。

 システム的に言えばここから1年間は、4人のオーナーがこの930ターボを共同で所有する。1人あたりの利用可能日数は4人の場合年間72日間で、オーナー専用アプリで予約を入れれば、ランデヴーのガレージからいつでも利用可能だという。

 おもしろいのはその間の維持費やメンテナンス費用が、ガソリン以外はすでに支払い済みであること。もちろん車両保険にも加入しているが、自らの過失による事故やパーツ及び機関の故障はオーナーが負担する。

 そして1年後には車両を売却する。しかしその目的はこの「日本第1号車」を日本に残すためだから、海外からの問い合わせには応じない。また車両購入の権利は、この4人に優先権が与えられるのだという。

 果たしてその販売価格がいかほどになるのかは想像もつかないが、そのレストア費用や歴史的価値を考えればかなりのものになるのではないか。そして売却金は、オーナーに分配される予定だという。

 となると品のない言い方になるが、資産価値のある車両を数人で購入してレストアし、それを売却すればかなりの投資になるという図式が成り立つのではないか? しかしランデヴーが提案するのは、好きなクルマとの暮らしを純粋に楽しむこと。911ターボのケースは初期の事業形態であり、現在は売却後の分配というシステムはとっていない。

 現在はさらにコストを抑えた「月額制」で共同オーナーを集っており、契約が終了した1年後に要望があれば再契約が可能となる。もしくはそのうちの1人が購入を希望したり、時期を見てマーケットに向けた販売を行なったりなど、フレキシブルに対応していく考えだという。

 たとえばガレージにあったマツダ RX-7などは、月額5万2000円で保険やメンテナンス、税金等をまかなえるといい、930ターボよりも低コストなシステムだ。ちなみにランデヴーのCSOである山田健氏も、その共同オーナーの1人だという。

 そんなランデヴーに対するホームページからの申し込みは現時点で425台と、当初の予想を4倍以上も上まわったオーダーが入っているという。そしてこのうちマッチング済みの台数はまだ26台と、全ての希望に応え切れていないのが現状だ。

 新しい価値観で展開する、趣味のクルマの共同所有ビジネス。今後どうなっていくのかが非常に興味深い。

ランデヴーに対するホームページからの申し込みは現時点で425台、このうちマッチング済みの台数は26台。なお、ランデヴーの拠点は第三京浜道路 羽沢IC近くにあるYokohama Baseの1拠点となるが、5月に二子新地に2拠点目を開設する予定