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トヨタ、5年連続の賃上げ満額回答 「一人ひとりの力を引き出す」という人事本部 東崇徳本部長の会見全文掲載
2025年3月15日 09:34
トヨタ、春闘で賃上げ最大2万4450円、賞与7.6か月の満額回答
3月12日、春闘の集中回答日とも言われるこの日に多くの企業が労使交渉の結果について発表を行なった。日本を代表する企業であるトヨタ自動車もその1社になる。回答は、満額回答となる賃上げ最大2万4450円、年間一時金7.6か月というもの。5年連続での満額回答となるものの、そこへ至る過程は従来とは異なっていた。
2025年の年労使協議会では、“550万人の仲間のために”という観点での話し合いを、労使協議と併行して実施。日本自動車工業会、日本自動車部品工業会とも連携しながらTier深く(サプライチェーンの先) へ届けるための取り組みを推進するものにしていた。
具体的には、2月10日に仕入先に関する拡大労使意見交換として、関係会社・組合も交え、Tier深くへの浸透・波及に向けた取り組みを議論。自動車総連、全トヨタ労連、トヨタ労組とが議論し、デンソー、アイシン、豊田紡織、トヨタ自動車が議論した。
2月12日には、互いに申し入れ価格改定方針を発表。組合からの要求議論項目として、以下の3つの項目が挙げられた。
組合からの要求議論項目
・5年、10年、50年先の日本と自動車産業の「未来」と「笑顔」を創るため、トヨタで働く一人ひとりが果たしていくべき役割と責任について「多様性・成長・貢献」の観点から労使で以下を話し合いたい。
①自動車産業が大きなうねりを迎える中で、トヨタで働く一人ひとりが取り巻く環境や置かれている立場を正しく理解し、何を大事にしていくべきか、共通の目線に立つ。
②トヨタで働く一人ひとりが「働きがい(やりがい+働きやすさ)」をこれまで以上に高めトヨタで働いていて幸せを感じることができるために、やるべきこと、できることは何か?
③日本と自動車産業の発展に力を尽くせる会社・職場・人材であるために、今後、更に取り組みを進めること、変えるべきこと、挑戦すべきことは何か?
2月19日には第1回の労使協議会が開催され、トヨタを取り巻く環境と好業績に潜むリスク・仕入先・販売店を取り巻く環境を議論。漠然とした不安を健全な危機感へ変え、今、行動へ移すことが確認された。
2月26日には第2回として、本部・カンパニー単位で、“アクションを決める”ことにこだわって労使協議会を開催。
3月5日には第3回として、第2回開催を通じて得た学びと全社課題に関する議論の結果、あるべき労使の話し合いができていなかった気付き、従来の人事制度を超える多様な働き方への対応を検討した。
そして3月12日、春闘の集中回答日に第4回の労使協議会を開催。「総合的な人への投資」の取り組みに労使ともに合意し、前述の満額回答が行なわれた。
「総合的な人への投資」
1.各本部・カンパニーでの年間を通じた全員参加の話し合い
・本部長/プレジデントが“出された職場課題・困りごと”について現地現物で判断し、一つひとつ解決
→全社で進捗を確認する場を7月・11月ごろに設定
2.個人の成果や職場への貢献に向けて“行動する人”を後押しする仕組み/制度
①個の力を引き出す仕組み・制度(10月目途)
・全職種・資格での役割に応じたメリハリのつく評価
(賞与加点幅の拡大や資格の原資を超えた配分等)
・技能職の人事制度見直し
(職種や手当の再編、スタッフ系昇格の明確化等)
・新たに加わるメンバーの立ち上がりサポート
(職場先輩の役割明確化と配置徹底、派遣社員含めた受入HP立上等の研修の充実)
②個と職場に本気で向き合うマネジメントの育成(6月目途)
・配置前の研修新設と職場実践で改善に繋げるサイクルを導入
・脱一律の制度を運用していくための、対話力や評価・フィードバックスキルの改善支援
→労使専門委員会で、制度詳細や他に必要な取り組みについて議論
3.より貢献や成果に報いる賃金・賞与
・総額は要求通り
→賃金・賞与共に、より一人ひとりの力を引き出す配分 とするべく、詳細は賃金分科会で決定
以上のようなことが労使双方で決まった後、トヨタ自動車 トヨタ会館において同社 総務・人事本部 本部長 東崇徳氏、同 人事部 部長 福田恭作氏が出席しての会見がリモートを含めて行なわれた。
東本部長あいさつ
みなさん、おはようございます。総務人事本部の東でございます。本日は第4回目の労使協議会をこちらのトヨタ本社で開催をいたしました。会社側は佐藤社長(佐藤恒治社長)以下、執行役員、プレジデントのみなさん、組合は執行メンバーと各支部長という形で、オンラインもつなぎまして、オンラインでは約2400人で話し合いをさせていただきました。
今日は回答日ということでございます。今回、労使協を4回開催いたしました。
1回目は双方を取り巻く、好業績ではありますけれど、中に潜むリスクを共有しながら、一人ひとりがどういう行動をしていくかという話し合いをしました。
まずは、どういうリスクがあるのだという、競合のリスク、我々の中に潜むリスク、こういうことを1回目に話し合いました。
その上で、2回目は、例ではあるんですけれども、各本部、カンパニーごとにしっかり話し合いをやって、当事者意識を持ってアクションをしていこうと。職場をよくするために、それぞれ職場で取り組みを進めてこうという形で、2回目の話し合いをしてまいりました。
3回目は、その内容を踏まえまして、それぞれどんなアクションができたのか、行動ができたのかという話を全社で共有した上で。もちろん各職場では判断できないこと、全社課題としてテーマアップするべきこと、こういうことを取り上げて、3回目の話し合いを行ないました。
具体的には、非常に今領域を広げて活躍している技能職、これ主に我々の中ではオフィスで働く事務・技術職と、サポートするいわゆる一般職と言われる業務職に加えて、製造現場を中心に技術部門で実験とか凄腕のメンバーとか、そんなメンバー、技能員という技能職、この技能職というのが非常にいろんなところで領域を広げて活躍している。
その人たちの貢献度合いをどう向き合っていくんだ、もしくは、いわゆる昔で言う一般職と言われる業務職の方々が今と同じような働き方をしてる人もおります。
こういうことに対して会社としてどう向き合っていくのかっていうことを話し合いました。
実は今日に至る前に、週末および昨日も含めて、両副社長(中嶋裕樹副社長、宮崎洋一副社長)がそれぞれの本部長とプレジデントと、本当に会社を変えようという覚悟があるのか、覚悟を問うような話し合いもしてまいりました。
組合も同じです。ある意味、今この組合要求に対して、がんばりだけで報いる回答をするということではなくて、非常に将来不透明な中で、例えば毎月賃上げ1万円した、12か月して7万人、20年続くとしたらですね、まさに根雪になるような投資です。単純に言うと2000億円とかですね、単純に仮定して言いますと、1か月1万円上げると2000億円ぐらい、20年にわたって。面積で言うと、そういう投資判断になる。
やはりがんばりだけではなくて、一人ひとりが「将来に向けた覚悟があるのか?」、それを確認する、そういう話し合いをやってまいりました。
今日の回答内容、佐藤社長からさせていただいたポイントは3点でございます。
で、その前に、まず3回の話し合いを振り返って、どうだったかっていう振り返りをやりました。
ここで改めて話し合ったのが、やっぱり本部長、プレジデント、それぞれ決めるっていうことの難しさは分かったよね。改めてトヨタっていうのがいろんなところで守られてる、一人ひとりが守られてるよねっていうところを話し合いの中で確認しました。
今の豊田会長が社長時代に「これほどの距離を感じたことはない」、そういうコメントが2019年の労使の話し合いでありました。お互い危機を感じて行動できているか? 本当に家族の会話になってるか? 大きく問題提起をされたのが2019年です。
そこから6年、昔のトヨタに戻ってないか?ということで、今日佐藤社長が言ったところを引用します。
「私たちが労使関係のあり方を見直す転換点となったのは2019年の労使協議会でした。一体感が足りず、家族の話し合いもうできていなかった。それから6年、気を抜いたらすぐに普通の会社に戻ってしまう。2019年、豊田会長に最大のリスクは『トヨタ大丈夫という社内の慢心である』ということを伝えていただきました。そのような環境の中、仕事に取り組む中で守られてるということ。『失敗してもいいよ』って今言ってもらえます、だから挑戦ができます。認証問題が起こったときも、真っ先に記者会見に立ってくれたのは豊田章男でした。でも、昨年の株主総会、トヨタグループの認証問題の影響を受けて、豊田会長だけが信任率70%台へと低下しました。もし豊田章男がいなくなったら、もしトヨタが普通の会社に戻ってしまったら、トヨタらしさや稼ぐ力というのは一瞬で失います。『トヨタは大丈夫』って思っていると、私たちは足下をすくわれます。絶対にそうさせないという覚悟を持って、一人ひとり行動を変えていかなければなりません」
こういうような、ある意味、本部長・プレジデントの危機感と当事者意識、これを問う上で、こういう話を佐藤さんからまず投げかけをしていただいた上で、3点回答を申し上げました。
1点目が、引き続き各本部・カンパニーごとで年間を通じて全員参加で話し合いをやっていく。本部長・プレジデントが出された職場課題について、困りごとについて、現地現物でしっかり事実確認しながら解決していく、こういうことを約束いたしました。
(2025年)7月、11月ごろに進捗を全社でもしっかり確認、フォローしていきたいと思います。
2点目、個人の成果や職場への貢献に向けて行動する人を後押しするという仕組み、制度に変えていく。個の力を引き出す仕組み・制度を10月までに、労使専門委員会を作って、10月までに結論を出していく。
そして、賃金、賞与についてです。総額は要求どおり満額回答でございます。ただし、賃金、賞与ともに、より一人ひとりの力を引き出す、配分するように、これから労使で回答の配分について話し合っていきます。
この3点、本日回答させていただきました。
まさに今日をスタートとして、しっかり労使で話し合いを続けてまいりたいと思います。今回、話し合いを始める前に、我々、やっぱりトヨタの取り組みが、しっかり見てから結構グループ会社さんとか、仕入れ先さんとか、判断されるところも実際あると思ってます。
それを避けるために、2月の1回目の労使協議会前に仕入れ先さんに関する懇談会というのを、デンソー、アイシン、そして豊田紡織の調達のメンバーにも入っていただきながら、いかに仕入れ先さんの困りごとに我々がティアワン(Tier1、一次仕入れ先)とともに向き合って対応していくかという話し合いを行ないました。
その直後に価格改定の方針(調達価格の引き上げなど)で、人材育成・労務費についても今年も引き続き対応していくという発表をさせていただいております。
販売店のみなさんに対しても同じで、合わせて我々を取り巻く中で言いますと、委託先会社さんでありましたり、派遣社員の派遣会社さん、こういうところとも昨今の物価上昇を踏まえた価格転嫁というところをしっかり対応してまいりますという発信をさせていただいております。
こういう発信をさせていただいた上で、我々中の話し合いにフォーカスして今回やってまいりました。
まずは、私からの説明は以上です。みなさんからのご質問をいただきます。
記者との質疑応答
──要求への回答について、組合側の要求としては9950円から上限が2万4450円で職種ごとに要求する形を採っていました。額は今後変わり得るのでしょうか。原資としては要求どおりではあるものの、組合の要求に対しては満額回答と言っていいのか分からない部分もあるものの、その辺りを説明いただきたい。
東本部長:賃金については実質総額では満額です。それをいかに配分するか、を今後具体的に進めていく形になります。賃金については、業務職、技能職、半年かけて制度を作り上げます。もちろんそのときに必要な原資も出てきます。追加での原資も今回の配分を一部活用して人事制度変更に備えていくこと。これを1つやっていきます。
賞与については、夏と冬で2回ございます。賞与の構成は、ベースの部分と本人のがんばりや成長に応じた加算。上位資格になればなるほど加算の幅が広いです。若手や下位資格はほとんど「報いてくれているのか?」という幅です。「ありがとう」「がんばってくれたよね」とフィードバックするのですがあまり実感がない。がんばっている人と、がんばりが十分でない人との違いがつけにくい実態があります。原資の幅が少ない場合、横の人から原資を奪って与えることになり、それに関するマネジメントの裁量も少なかったと思います。
本人の活躍に報いる部分を広げていこう、原資をしっかり配分していく。賞与についてはそういうようなやり方。個人のがんばりの幅を広げるという形で考えています。
──つまりは賃上げの最大2万4450円も一時金の7.6か月も幅が決まっておらず、これからの議論で変更が生じるということですね。
東本部長:はい。
──組合側としては若手に重点配分をすることを含めて賃金の職種ごとに提示をいろいろしてきたが、それにそのまま応じなかった理由は。
東本部長:1回、2回、3回の話し合いを通じて、お互い合意に至った、確認に至った話し合いの結果だと思っています。要求時点の内容が途中で変わるからこそ、話し合いをしていて結果に反映すことが大事だと思っています。今回はそれが象徴的に現われた結果だと思います。
──経営環境をどう見ているのかをうかがいます。トランプ政権で自動車に関税政策を検討しているが、直近、あるいは将来の経営環境をどう見ているか。
東本部長:1回目でも将来は不透明な環境の中で我々はいるなと。他のOEMさんを見てても苦労している会社もある。中国メーカーの働き方も、中国の上田本部長から共有があって、こういうところと同じ働き方をするのではなくて、どうやって伍していくのかという話。トヨタという大きな組織の中でコミュニケーションミスとか、いろいろな無駄、調整の無駄とか、会議の無駄とか。襟を正しても自然と無駄が生じてしまう。こういうところをどう解消していくのか。1回目でも関税の問題については言及していないが、そういう将来に不透明な中でどう向き合っていくのかという議論をした上で、今までの労使の話し合い、春の交渉というのは、5年くらい前までは組合がここまでがんばってきた、要求に回答してほしい、というようなやり取りでした。
終盤の回答前も、100円を積み上げるか、がんばりをいかに会社が受け止め、それをどう報いるのかというところにフォーカスしてまいりました。
でも、これからそれで会社が生き残れるのかどうか。やはり、賃金というのは先ほど述べたように根雪のように将来に影響します。人への投資も去年の労使協議会から、5000億円を超える投資をやってまいりました。これを稼ぎ出そうと思うと、相当一人ひとりが働き方を変えていかないといけない、意識を変えていかないといけない。
そういう将来へ向けた一人ひとりの覚悟を問うと。投資としてそれが本当に我々の働き方で回収できる見込みがあるのかという話し合いをした結果として、今回がんばりと、将来に向けた覚悟を確認し合ったというのが、今回の労使の話し合いだったと思っております。
──先ほど賃金と賞与について、総額では満額回答ということなんですが、今後配分を決めていくというやり方を採るというのは、トヨタさんとして初めてなのかっていうのが1点。とはいえ、まず満額を回答しようという、そこの思いというか狙いは、どのようなことなのかというのを改めてお聞かせいただけますでしょうか。
東本部長:はい、ありがとうございます。具体的な配分はこれから、賞与も含めて決めていく形になります。
満額回答に込めた思いというのは、やはり働いているメンバーの実質賃金をしっかり守って、不安なく働いてほしいというところ。トヨタ自身がある意味賃金、物価上昇に直面してる組合員を含め、働く人の不安を解消して、世の中のブレーキ役になってはいけないなと思っています。
ですので、漫画解答に込めた思いはそういうところ。組合員の生活を守ることで活力にしてほしい、というところが満額回答に至っている背景の1つでございます。
ここまで話し合いの中で配分を変えるというのは、初めてだと思います。
──全体のロードマップについて。全社の進捗確認を7月と11月に設定し、個人の成果は6月と10月をめどとしているが、このような目安はどのように決めたのか? (11月に進捗確認があることから)最終的には、12月の賞与から(金額が)変わるという理解でよいか。
東本部長:はい、まず7月、11月というところですね。
これは各職場のコミュニケーションを四半期ごとにしっかりやっていただく。4、5、6ということで、今日以降6月までしっかり各本部、カンパニーで継続的に会話をやっていただいて、そこで新たにまた全社でないと課題解決できないことも出てくると思います。
それを7月に。で、また7月から始まる7、8、9というところを踏まえて、そのローリングを、次11月ぐらいに。で、また来年の労使の話し合いにつなげていく。
1つの目線として7月、11月というのを出させていただいたところでございます。
もう1つは賃金制度の見直し、評価制度の見直しでございます。
これ、半年かけてっていう、10月をめどと書いている背景は、これ、僕自身、結構パンドラの箱を開けてしまったなと思ってます。
ある意味、事技職、業務職、技能職、それぞれの賃金制度があって、人事制度があって、それの中で「ルールこうだからしょうがないよね」というフィードバックも、本人のがんばりに対してあったと思うんですね。
これから一人ひとりのがんばりに向き合う話をして、制度を変えていくことは、相当マネジメントの評価のトレーニングも必要ですし、しっかりフィードバックすることも必要ですし。そもそも人事制度自体が、非常に硬直的なところもあると思います。
例えば技能職でいうと、我々の連続2交代制勤務という交代勤務を前提とした働き方・制度になってます。
今、工場は2交代で働いておりまして、その方々を前提として、基準賃金と交代手当と、深夜勤務と、残業というふうに、そういう組み立てになっています。
これがもし、連続2交代の人が「DX(デジタルトランスフォーメーション)の仕事をちょっと昼勤務でがんばってよ」と言われたときに、ある意味、6万から8万くらい月給が下がります。
いろいろな手当がなくなって、基準賃金と残業手当だけになってしまうということで、チャレンジしてる人が何かお母ちゃんとかから見たら、「なんか給料が下がったよね、チャレンジしてるって言ってるけど、なんかあんたわるいことしたんちゃうの」といういう風に思われるような、そういう制度に一部なっています、技能職のところ。
どこの職場にいる人でもしっかり報いていくような、「そういう制度作りってどうできるのかな?」っていうのを、ちょっと時間をかけながら、結構制度・賃金の根幹をいじるところになりますので、半年しっかり考えていきたいという、半年でやらせていただいてます。
もう1つの「職場に本気で向き合うマネジメントの育成」は、6月をめどと書いてますけれども、これは何かって言うと、今、キャリア入社の人が非常に増えてます。採用の半分ぐらいがキャリア入社の方になってます。
現場で言うと、技能実習、海外の事業体から技能実習の枠組みを使ってトヨタで働きに来てるメンバーもいたり、いろんな国籍の人がいます。期間従業員の方、派遣会社からの方、いろんな方がおられます。
この方々がいきなりなじむっていうのは非常に難しいと思いますし、しっかりそこをサポートする、そういうことを職場で応援する環境を早急に作っていきたいということで、6月をめどにという形で、一旦目線として出させていただきました。
何かやっぱり我々、基準を決めるときに納期を決めながら、いつまでにやる。そこまでできたこと、できないことを振り返りながら、反省して改善していきたいと思っております。
──給与改定、賞与改定のスケジュールについては?
配分の見直しで、早ければ(今年の)冬賞与からです。配分の変更はやっていきたいと思っております。
実際の給与変更は早ければ来年の4月以降、(来年の)4月をターゲットに考えていきたいと思っております。
──賃金、賞与のところでなんですが、今後配分をこれから議論していくというところで、今回そういった決定に至ったのはなぜか?
東本部長:配分内容を、よりチャレンジしてる人とか、がんばっている人に報いていくことに変えていきたいということで、それが2回目の各職場、本部別、カンパニー別の話し合いで1番声が大きかったのが、ここです。
技能職の方も連続2交代ではなくて、DX開発とかいろいろなところで活躍されてます。10年前と比較しますと、連続2交代勤務以外の人の割合が社内で35%でした。それが今、足下で言うと43%になってます。これは技能職全体の中で、連続2交代勤務以外の方の比率が8%増えてます。
人数で言うと3000人ぐらいが、新たな領域でチャレンジしている、連続2交代ではない働き方でチャレンジしている人が増えています。
例えばトヨタの中だけではなくて、仕入れ先さまに支援に行っているメンバー、社外で働いてるメンバー、凄腕のメンバー、常務係、保安のメンバー、いろいろなところで、上勤務って言ってますけれども、そういうところで働いてるメンバーがおります。そういうメンバーが増えてきてるっていう実態。
もう1つは、業務職っていうところ。以前、これも労使の話し合いでいろいろ議論しました。もっとアシスタント業務だけじゃなくて、自分たちがしっかりとオペレーションを行なって、それを活躍して評価されるようにしてほしいということで、業務職、初級、中級、上級っていう制度があったのですけれども、これを見直して、3級、2級、1級、S級、そして主任職、場合によっては基幹職に、業務職からある意味、どこでも行けるよという制度に変えました。
加えて、業務職から事技職に変更できる、そういう職種またぎの制度もやりました。
でも、今、今を見てほしいっていう人の声も結構あります。今、私は、僕たちは、事技職相当と一緒の仕事してるじゃないかと。
今を見てほしい、今の役割を見てほしいということで、昔でいうと、どちらかというと職種とか学歴とか経験年数とかで評価していた評価軸から、これからは役割とかですね、今がんばっているのか、成長しようとしているのか、行動を起こしているのか、こういうところを評価軸に変えながら、そういう人に向き合っていくっていうことを、今年しっかり話し合ってやっていきたいと思っております。
そういうやり取りをして、今回の配分でどう報いていくのかっていうのを対応していきたいということでございます。
──労組側からも若手に重点的に配分をしてというところで、17種類で要求額を示されていたわけですけど、年だけではなく、役割だとか、どれだけ負荷とかも含めて、そういったところをより重視していくべきだという、そういうことなんでしょうか。そういった配分について、この4回の議論でどのような、若手ばかりに配分すべきではないとか、どういったものがあったのかおうかがいできますでしょうか。
東本部長:はい。配分も含めて、ある意味賃金はこの半年かけてしっかり話し合って対応していく形になります。
賞与は加点幅を広げるということで、本番では具体的に詳細は議論していません。がんばった人にしっかり報いていく、そういう配分にしていこうと。
それ以降の取り組みについては、賃金分科会とか労使専門委員会で、我々人事の方でしっかりあずかって、もちろんトップとも相談しながら作っていく形になります。
──脱一律の制度についておうかがいしたいのですが、特に説明いただいて、その技能職であったり、その業務職のところにフォーカスを当てて議論が進んだのかなという印象です。仕事の領域が広がっているということもあると思うのですけど、取り巻く経営環境からも、経営環境も踏まえて、技能職の方、業務職の方の活躍の幅を広げる必要性がどう高まっているのか、経営環境を踏まえて力を引き出していく必要性というのを、どのように考えているのか。将来的に総合職というか、事技職、業務職、技能職というのを、区分けというか、維持する必要性もあるのかというのも合わせておうかがいできますか。
東本部長:はい、ありがとうございます。社内でもウェルビーイングサーベイというのを取っています。トヨタの結果の特徴として大きいのが、トヨタは社会的な影響度合いが大きくて、社会貢献もしている会社、会社に対しての誇りというところに対しての肯定回答率は非常に高いです。
一方で、日本企業独特かも分かりませんけれども、自分の力が発揮できているかどうか、自分が成長できているかどうかというところのスコアがまだまだ伸びしろが大きい。率直に言うとまだ低いと思ってます。
これからの時代、一部の人だけががんばるということではなくて、やはりいろいろながんばりたいけどそれを阻害されてしまっているとか、それを後押しできてない環境というのを解消して、一人ひとりの活躍の道を作っていきたいということ。これが業務職、技能職というところに今年スポットライトが大きく当たったと思います。
事技職は相当いろいろ制度改正しながらやってきてはいるんですけども、ある意味今年は、人にしっかり魅力ある職場にしていく、活躍の場を提供していくということも含めて、技能職、業務職というところをフォーカスしていきたい。
職種の区分けについては、1つにする会社さんも結構いると思うのですけど、僕自身、今それぞれの職種で、それぞれの矜持を持って、役割を持って働いていただいてると思っています。
この職種を一本化するっていう結論よりも、働き方とか、役割とか、貢献度合いとか、学びとか、成長とか、こういうのに変えていった先に、もし職種を一本化する必要があれば自然と答えは出てくると思います。
けれども答えは決めずに、ちょっとまずは一人ひとりに向き合っていく。今の職種、それぞれのプライド・矜持を持った人たちの気持ちをしっかり刺激しながら活躍していく後押しをしていきたいと思っています。
──1点お尋ねしたいのが、2月10日に仕入れ先に関する拡大労使意見交換というのをやって、Tier深くへの浸透、波及について、少なくともこの経営側としては、この4社が合意している中で、デンソーさんは2月17日に回答し、アイシンさん、今日集中回答日と言われている今日を待たずに先週回答し、トヨタは集中回答日に回答する。少なくともデンソー、アイシンはそれぞれ波及みたいなところへの考慮という言及をしているわけですが、三者三様のこの結果になっているところをどう捉えているか教えてください。
東本部長:個人的には非常にうれしいです。昔で言うと、トヨタが決まって、トヨタマイナスアルファをどうするかというのをグループ会社さんが集まって議論していた、うちはこうしよう、ああしようっていう議論が実施されていたと聞いております。
それがデンソーさんの場合は去年の11月ぐらいから労使でいろいろな話し合いをして、集中回答日の前に、それも(トヨタの)1回目が始まる前に回答されるという。それはもうデンソーさんのコミュニケーション、労使関係の中で出された内容だと思いますし、アイシンさんもそうだと思います。
我々は実質回答が決まったのは昨日の夜です。佐藤社長、中島副社長、宮崎副社長も含めて、本部長、プレジデント、あと組合の覚悟をどう感じたのかというのを、昨日の本当に夜まで話し合いながら、「よし、それなら今日はこういう方向で回答しようよ」という覚悟を確認し合ったっていうことで、最初から満額回答が決まっていた感じではなく、結構ギリギリまで、昨日の夜までかかって、今日の朝の執行役員ミーティング、そして本部長が集まるミーティングで方向性を確認して、「これでいきますよ、いいですか」という確認をして、決定して、今日に臨んでいます。
そういうことで各社さんがバラバラになってきたというのは、本当にそれぞれの労使の話し合いが進んできた結果じゃないかなと思っております。
デンソーさん、アイシンさんも波及を考えてやっていただいたと思いますし、我々も1回目が始まる前にこういう懇談会とかメディアのみなさんにもいろいろ取り上げていただいた結果として、記事が広がっていく。
トヨタイムズで記事化してもらうということで、一定程度の波及の思いは実現できたのかなと思います。でも、これからだと思います。各社さんがそれぞれで話し合いを今されている最中だと思いますので。
──先ほどもサプライヤーへの影響の波及が今回の春闘では焦点となっていると思いますが、今後具体的にこういう取り組みをしていくとか、そういったところが決まっていれば教えていただきたいです。
東本部長:はい、ありがとうございます。多分賃金だけではなくて、働く環境とか、トヨタとの関係とか、そういうところも含めてしっかりとコミュニケーションを、全トヨタ労連にも入っていただきながら継続してやっていきたいと思います。
トヨタが今年だけの一過性の取り組みだと思われないようにしていきたいということと、我々の働き方が仕入れ先さんとかの生産性を阻害しているとか、そういうことがあってはいけないと思いますので、決してこの波及っていうのがお金の部分だけじゃなくて、我々自身が働き方とか、もしくは保全の専門家をしっかり派遣させていただいて、こういう人の交流っていうのもあると思います。
いろいろな面で、まさにもの作り産業、今ほんとに採用で人に来ていただくというのが日本全国的に難しくなってる中で、いかにこの産業を盛り上げていくか、魅力ある産業に仕立てていくかっていうところを一緒に仲間として考えていきたいと思っておりますので、継続してしっかりいろいろな面でやっていきたいと思います。
──今回の労使協で2回目の協議を職場ごとにやったということだと思うのですが、改めてどのような狙いで、個別協議というものをうながしたのか。職場が一杯あるので議論はまちまちだと思うのですが、どういう議論が見受ける限りあったのか。また、それを通じて3回目以降の協議をしたと思うのですが、どういう手応えを持っていらっしゃるのか、来年以降も続けるのか、そんな効果というか手応えを感じていらっしゃるのか、その辺りをお願いします。
東本部長:はい、ありがとうございます。実は去年6月から、本社工場から、まさに技能系、話題になっている技能系職場から……何歳からトヨタに入りました?(と、いきなり一緒に会見をしている福田恭作 人事部 部長に話を振る)
福田人事部長:私ですか?
東本部長:はい。15歳……?
福田人事部長:15歳ですね。
東本部長:15歳からトヨタ工業学園に入って、技能系職場で働いて、今、多分トヨタで初めて人事部長が技能職の方ということで、福田さんに少し解説いただいて、私もちょっと補足させていただければと思います。
福田人事部長:はい、ありがとうございます。今紹介ありました福田と言います。今回初めてのケースですよね。みなさんご承知の通り。その第2回目を中央同士でやるのではなくて、もっともっとこう職場ごとに広げてやっていこうっていうのは。これはいろいろ話をしていく中で自然と流れとして決まったことです。
最初からシナリオができているわけでもなく、やはり話を聞いた上で今ここで何をしなければいけないかを考えたときに、本当にこの会社として、あるいは組合執行部として考えているそういったものがどこまで落ちているんだろうという疑問がありました。そういったことを今回の労使は一人ひとりが覚悟を持って何かアクションを起こしていくことだと思いました。そういったことから、やはりそういったものにつなげていこうという結果、そうなったというのが2回目のやり方のところです。
東本部長:これ結構各職場でやったんですけど、マネジメントが現場に向き合っているか。豊田会長からも「2回目、どうせこれはうまくいかんぞ」と言われました。その心は「現場で事実に基づいて本部長・プレジデントがちゃんと判断できるか? これをやれるようになったらこの会社強くなるぞ、でもそんな簡単なもんじゃないだろう」ということで、この本部別、カンパニー別の話し合いをやるときに叱咤激励をいただきながら、「まずやってみろよ」ということで。
案の定、話し合いできて会話できてよかったねって終わっている本部もあれば、それぞれの職場に向き合って例えばマネジメントの時間をメンバーに向いて使っていくとか、希望者に対しては本部内でFA制度をやるとか、いろいろ本部長・プレジデントの権限でできること、でも一方でできないこと。これは本社に、全社に、コーポレートに持ち帰って議論しようよっていうことで。手応えとしては、まず僕自身も含めて自分の職場のことを労使協議会期間中に考えてたという、ある意味、人事部の施策、これはトップと人事のコーポレートイベントじゃなくて機能イベントでしょと。でも、これ、まさに全社イベントだと思います。
当事者意識を今回、本部長・プレジデントのみなさんに持っていただいた。実力値が今分かったと思います。これから1年、どう行動していくかというところが、気づきを行動に移せるかというところが非常に大事だと思っております。成果としては、気づきを得た人が生まれ始めたんじゃないかなっていうところだと思います。
──今、会長が「うまくいかないぞ」とおっしゃったのは、個別の職場で議論していくという取り組みがということですか?
東本部長:会長が言っていたのは、「我々、本部長とかがですね、そんな日頃意思決定できてるか?」と。僕はこのメッセージは、「上ばっかし見てるんじゃなくて、ちゃんと現場に向き合えよ」と。「マネジメントは、現場で何が起こっているかというのを自分で見て、自分で声を聞いて判断しなさい」と。
それがやっぱりこの6年で会議室・会議が多くなっていたり、調整業務が多くなっていたり、自分で決めずに上位にだけ任していくとか、そういう風潮を多分感じられて、やってみろ、うまくいくかどうか分からんだろうけどという言葉につながったと思います。
こういうのを素直にストレートに言う、言い合うっていうのを執行チームともやってこいよっていう話は今まさにしているところです。
──終えてみて、会長の反応とか感想とかはまだですか。
東本部長:どうでしょう。今日終わってから報告したいと思います。2回目、3回目のときはそんなにうまくいかんぞと。でも、さっき申し上げたように、繰り返し現地で、現場で。このプレジデント、本部長とか部長クラスが現場に向き合って、事実に基づいて。事実というのは職場の声ですね。本音を引き出すのって本当に難しいからなと。「それを行動できる一人ひとりができると強くなるよね」というのは、これは繰り返し言われてます。「それをしっかり実践していきなさい」ということで。
今、佐藤社長以下、去年、認証の問題があって以降も、佐藤社長も毎週各職場に行っている。そういう繰り返しをしながら、まず上が変わって、部長、室長、グループ長、課長が変わっていくという、そういう会社にしていきたいなと思います。


