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ヒョンデ、新型EVバス「エレクシティタウン」5台の納車式を屋久島で実施 島全体のカーボンニュートラル実現に貢献
2025年4月22日 11:50
- 2025年4月21日 実施
ヒョンデ(Hyundai Mobility Japan)といわさきグループ(岩崎産業)は4月21日、ヒョンデの新型BEV(バッテリ電気自動車)バス「エレク シティ タウン(ELEC CITY TOWN)」5台の屋久島(鹿児島熊毛郡屋久島町)への納車式を実施した。ヒョンデの商用EVの国内導入は今回が初となる。
1993年に姫路城・法隆寺・白神山地とともに、日本で初めてユネスコ世界自然遺産に登録された屋久島は、島内の約90%が森林で占められ、電車はなく住民の移動手段は主に自家用車や路線バス。鹿児島県は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指していて、屋久島は2010年3月に制定された「県地球温暖化対策推進条例」にて、「県は、再生可能エネルギーである水力の豊富な屋久島が、脱炭素社会の先進的な地域となるよう、地球温暖化対策を積極的に推進するものとする」と定められている。
現在屋久島は、島全体で使われる総電力の99.6%を自然エネルギー由来の水力発電でまかなっていて、残りの0.4%は災害時などのバックアップ用の火力発電などとなっている。そこで、学識経験者などからなる屋久島CO2フリーの島づくりに関する研究会から提出された「先端技術を活用する環境と人間との新たな共生~屋久島におけるCO2フリーの島づくりの試み~」の意見・提言書に基づき、2010年からBEVおよび充電設備の導入を促進している。
今回ヒョンデのEVバスを導入したいわさきグループは、鹿児島を拠点に約30社のグループ会社があり、鹿児島交通・垂水フェリーといった公共交通ネットワークや、指宿・種子島・屋久島ではいわさきホテルズを中心に幅広く事業を展開。公共交通事業の担い手として、バス部門では鹿児島県内のバス路線の約75%を運行する「乗合バス」をはじめ、「空港リムジンバス」「スクールバス」、地域を巡回する「コミュニティバス」なども運行している。
身近なバス路線からのCO2削減を目指しつつ、近い将来には屋久島の自然エネルギーを使いながら、島内のすべてのバスとタクシーをZEV(Zero Emission Vehicle)化することで、「屋久島のゼロエミッション」の実現を目指すいわさきグループは、屋久島のゼロエミッション化に尽力したいとの想いから、今回の中型EV路線バス「エレク シティ タウン」の導入を決定。この日、同社が運営している「屋久島いわさきホテル」で納車式が行なわれた。
Hyundai Motoe Group副会長 張在勲氏も実際にヤクスギランドを訪問
納車式で登壇したHyundai Motoe Group副会長の張在勲(チャン・ジェフン)氏は、「EVバスのエレク シティ タウンが初めて屋久島へ導入されることとなり、非常にうれしいです。先日ヤクスギランドを実際に巡ってみましたが、まさに多くの命とともに暮らす“生きた自然博物館”で、ゼロエミッションアイランドとしてもっと注目を集めるべきだと思いました。このような自然の美しさを守り続けるべく、持続可能性の理想を体験するこの地にEVバスを導入できることは、カーボンニュートラルの実現に向けた大きな一歩であります。住民や観光客の方に快適で静かな移動手段を提供するだけでなく、島全体のCO2排出削減にも貢献し、貴重な自然環境の保全に貢献します。この環境保全と技術革新、地域活性化を両立する、この屋久島初の新しいモデルを世界に向けて発信します」と、この日の納車を祝った。
鹿児島を中心に事業を展開する岩崎産業 代表取締役社長の岩崎芳太郎氏
続けて、岩崎産業 代表取締役社長 岩崎芳太郎氏は、「この屋久島は非常に特殊な島です。世界遺産に指定されたから特殊なのではありません。逆に屋久島は特殊な島だからこそ、その一面が世界自然遺産に指定されました。この島の電力は99%以上が水力でまかなわれていて、こういう島は多分世界でも本当に数えるほどしかないと思います。今、世界はカーボンニュートラルの方向に向かっております。私個人的に簡単なものではないと思いますが、屋久島は豊かな自然があり、エネルギーが水力という最も自然の恵みである形で電気が享受され、CO2排出をゼロにできる理想的な、世界が目指すべき1つの島になりうる島だと思っています」。
「弊社はヒョンデの大型観光バス“ユニバース”を日本に輸入して10年ちょっと経ちますが、EVバスを日本に輸出販売する話を聞きまして、一歩でもゼロエミッションに近づけると思いましたので、いの1番に導入を決断しました」と、「エレク シティ タウン」導入の経緯を紹介。
また、ゼロエミッションという最終ゴールに向けて岩崎氏は、「まだまだやらなきゃいけないことがいっぱいあると思いますが、商用車やバストラックの分野でかなりの研究開発をしているヒョンデのバックアップを得られたことで、かなり現実味を帯びてきたと考えています。ゼロエミッションに近い形で島がうまく新しい環境を作り出せれば、多分世界的にも珍しい理想的な島として、多くの人が屋久島に訪れるようになるのではないかなと思っています」と地域にかける思いを述べた。
自由民主党 幹事長 衆議院議員 森山裕氏からの祝電も
自由民主党の森山幹事長は、「1993年にユネスコ世界自然遺産に認定された屋久島は、民営電力の約99%を再生可能エネルギーでまかっており、脱炭素に1番近いポテンシャルを有しております。エレク シティ タウンは、屋久島の道路事情に合わせた中型低床バスとして高効率モーターが搭載され、電気性能や走行安定性が高く、乗車時の静粛性や快適性も優れているとのことで、屋久島初のEVバスとして導入されることは、意義深いと思います。エレク シティ タウンが屋久島の人々の身近な生活のうちとして愛されますとともに、屋久島のCO2排出革命政策に寄与され、眼光産業の健全な活性化が図られますことを期待しています」と祝電を寄せた。
1月にHyundai Mobility Japan代表取締役社長に就任した七五三木敏幸氏
Hyundai Mobility Japan代表取締役社長の七五三木敏幸氏は、「エレク シティ タウンは、私たちが提案する次世代の地域交通インフラです。その最大の特徴は、地球環境と地域社会に優しいゼロエミッションのEVバスであることです。走行中にCO2をはじめとする排ガスを一切排出せず非常に静かに走るバスは、世界自然遺産に登録されている屋久島の自然環境と、そこで暮らす皆さまの日常に調和する存在となるはずです」。
「また、私たちはその第一歩として、2024年の5月に岩崎グループの協力を得て、山間部があり厳しい走行条件とされる往復30kmのヤクスギランドルートと、往復25kmの白谷雲水峡ルートにて、弊社EVバスのテストカーを使った走行試験を行ないました。その結果、山間部、積載、長い登坂も問題なく走れました。特に2段階の回生ブレーキは想像以上に有用で、登坂路で消費したエネルギーを回生ブレーキで補いながら、一般道路や山間部でも停止直前以外はフットブレーキを使う頻度が減り、ブレーキまわりの消耗品交換頻度が拡大に減ると想像されます」とEVバス導入までの背景を説明。
続けて、「私たちがこのEVバスを屋久島に導入したいと強く願う背景には、安全で快適、そして持続可能な地域交通を実現するという思いがあり、エレク シティ タウンはその思いを実現するための“安全性”と“快適性”と“経済性”を備えています」。
「安全性では、前方衝突警報、車線逸脱警報、ドライバーの状態を検知するセンサーなど、乗客だけでなく歩行者や自転車など周囲の交通環境にも非常に配慮した先進の安全システムが整っています。また、高電圧遮断システムを採用することで、日本の厳格な安全試験をクリアし、十分な信頼性を確保しています」。
「快適性では、モーター駆動による滑らかな加減速と静粛性により、地域住民の方や観光客の方に快適な移動体験を提供します。さらに、バリアフリー対応の低床設計、広々とした車内空間、USBポートも備え、高齢の方や小さなお子さま連れの利用にも安心なうえ、観光バスとしての運用も想定し、外装の質感や空調性能にも大変こだわりました」。
「経済性でも高いポテンシャルを持っています。電気代はディーゼル燃料に比べて大幅に安く、燃料コストを年間で大きく削減できるほか、エンジンオイルや排気系部品のメンテナンスが不要になるため、整備コストやダウンタイムも低減されます。車両価格だけでなく、ライフサイクル全体で見たときのコストパフォーマンスに優れていることも導入決断の大きな理由だと考えています。さらに、大容量リチウムイオンバッテリを搭載し、災害時には移動型の電源車としても活用できます。この停電時に避難所へ電力を供給するなど、地域のレジリエンス強化に貢献できるところが評価され、本日岩崎グループ、屋久島町、弊社の三者間で災害時の電力供給に関し、“屋久島における電気自動車を活用した包括連携協定”を締結する運びとなりました」と新たな取り組みもスタートしたことを紹介。
最後に七五三木氏は、「世界自然遺産の価値を守りながら、多くの方にこの屋久島の魅力を体験していただくための移動手段として、エレク シティ タウンが役割を果たせることを大変誇らしく思います。この1台が全国各地への広がりのきっかけとなり、未来の公共交通のスタンダードになることを願ってやみません」とあいさつを締めくくった。
屋久島で生まれ育った荒木耕治町長の目指す未来像とは
納車式後の質疑応答で、屋久島のカーボンニュートラル実現に向けての意欲を聞かれた荒木耕治町長は、「日本には420ほどの離島があり、いろんな形態の島があります。現在屋久島は、全体の99.6%を水力発電でまかっていますが、私はこの島に生まれて、この島で育ち、町長に就任したときから、99.6%と100%では全然違うので、まずはこれを100%にしたいと思っていました。離島という弱点を逆にプラスにできるのは何かと言ったら、まさに2050年に向けてのカーボンニュートラル実現だと私は思います。屋久島は世界自然遺産の恩恵を受けて、この30年経済活動をやってきましたが、これからはもう1つの軸(カーボンニュートラル)を掲げ、2トップで活動しようという思いがあります」。
「すでにEVはたくさん走っていますが、充電に使用する電力は、必ずしもCO2を排出していないとは限りません。しかし屋久島は、発電している電気からCO2を作っていないのです。すべてをCO2フリーにできるのは、屋久島だけだろうと私は思っています。また、すでに15~6年前から県と一緒に補助金を使ってBEVの導入を推進していていますが、町は財政的に豊かではありませんから、今後も補助金をうまく活用していきます」。
「屋久島は約100kmの外周路があるのですが、その道のりは平坦ではなくアップダウンがあり、仮にカタログ値で100km走れるとしても、実際は100kmは走れないだろうなと個人的には思っています。ただし、ヒョンデをはじめBEVもどんどん技術争いで高性能なクルマができていきますから、今日こういう機会ができたことは、屋久島町にとっても私個人にとっても非常に素晴らしい出来事だと思っています」と思いを語った。
現在島の総電力の99.6%を水力発電でまかっていることから、もし島のすべてのモビリティがBEVになったら電力は足りるのか問われた屋久島電工の寿恵村社長は、「現在の発電能力は年間で3億kWほどあり、約4分の1を島民、観光関係に供給していて、残りの4分の3は半導体やファインセラミックス、研削材、耐火物などの材料となる炭化ケイ素(商品名:ダイヤシック)を製造し販売しているので、キャパシティは十分にあります」と説明。
また、島内バス路線の課題について岩崎社長は、「現在路線の統廃合を進めていますが、一番の要因はドライバー不足です。外国人ドライバーの起用も推進したいところですが、現在の規定だと日本語能力試験のN3(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)レベルが必要で、できればN4(基本的な日本語を理解することができる)レベルに引き下げてもらいたいと考えています。そのほかにも、都市部ではライドシェアが進んでいますが、例えばホテルの従業員にタクシーの2種免許を取得させることで、業務の幅を広げることもできるかと、いろいろ考えています」と対策案について言及した。
ヒョンデが屋久島町に2台、岩崎産業に1台のBEVを寄贈
今回の新型EVバス「エレク シティ タウン」の納車と「屋久島における電気自動車を活用した包括連携協定」の締結を記念して、ヒョンデから屋久島町にBEVの「IONIQ 5」「INSTER」が、岩崎産業に「アイオニック5」が寄贈された。荒木町長は「まずは自分でも1台乗ってみて、BEVをアピールしていきたいと思います。もう1台も公用車としてスタッフに使用してもらいます」とコメントした。



















