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雨天の交通事故は晴天の5倍、タイヤのウェットグリップ性能の違いを実感
ブリヂストンプルービンググラウンドで実演
(2015/6/25 12:56)
- 2015年6月2日 開催
ブリヂストンは6月2日、同社のテストコースである「ブリヂストンプルービンググラウンド」(栃木県那須塩原市)において、報道陣向けにタイヤのウェットグリップ性能の違いを実演した。また、この実演と合わせて、ウェットグリップ向上に向けた同社の最新技術などが紹介された。
夏タイヤにおいては、2010年1月よりJATMA(日本自動車タイヤ協会)の制定した「低燃費タイヤ等普及促進に関する表示ガイドライン(ラベリング制度)」が運用されている。これは時代の要請に応えて、転がり抵抗の小さい低燃費を実現するタイヤの普及を図るとともに、転がり抵抗性能と技術的に相反するウェットグリップ性能の向上を同時に図ろうというもの。
転がり抵抗係数をAAA~Cまでの5等級、ウェットグリップ性能をa~dの4等級に分類し、転がり抵抗係数がA以上(AAA、AA、A)のタイヤについては「低燃費タイヤ」と規定している。
これにより、なかなか分かりにくいと言われることの多いタイヤ性能の“見える化”が行われ、夏タイヤの性能競争が一気に加速。転がり抵抗係数が最高の「AAA」、ウェットグリップ性能も最高の「a」を実現するタイヤもすでに市販化されている。
ブリヂストンでは、「ECOPIA(エコピア) EP001S」がAAA/aのタイヤとなり、サイズは205/55 R16と195/65 R15をラインアップ。通常市販タイヤは30サイズ以上ラインアップされることを考えると、いかに転がり抵抗性能とウェットグリップ性能の両立が難しいことかが分かる。
ウェットグリップ性能の違いによる停止距離の違い
ブリヂストンプルービンググラウンドではウェット試験路を使って、低燃費タイヤの頂点であるエコピア EP001S(AAA/a)と、スタンダードタイヤ「NEXTRY(ネクストリー)」(A/c)」のウェットグリップ性能を比較実演した。
写真や映像を見てもらえば分かるとおり、その差は圧倒的なものがある。ただ、誤解してほしくないのはネクストリーの性能が決して一般的に低いものではないこと。JATMAではウェットグリップ性能d以上であれば、転がり抵抗性能次第で低燃費タイヤ表示を許可しており、cのネクストリーはウェットグリップ性能が1段よいことになる。エコピア EP001Sが素晴らしい性能を持っていると理解すればよいだろう。
ウェットグリップ性能も大切だが、タイヤの残溝管理も大切
ウェットグリップ性能が高いタイヤを買えば、後はいつでも安心かというとそのようなことはない。タイヤは経年劣化するとともに、距離を走れば摩耗していく。摩耗するとトレッドパターンの溝深さが減り、排水性能が落ちていく。
この残溝による性能の違いも実演してくれた。
用いたテストコースはウェット旋回路で、装着タイヤは同社のフラグシップタイヤ「REGNO(レグノ) GR-XI」。ラベリング制度による性能表記は「A/b」で、静かさや操縦性、ドライ&ウェットのグリップ性能を「高次元でバランス」させたタイヤだ。
このレグノを、1台は新品のまま装着、もう1台は表面を削ってスリップサインが出た状態で装着。スリップサインが出た状態は残溝1.6mm以下で、一般公道を走ると違法になる。通常は、ここまで溝が減るには経年劣化も伴うが、これはブリヂストンスタッフが新品を削ったものなので、コンパウンドの経年劣化はない。純粋に残溝の違いによる性能比較ができるわけだ。
新品レグノとスリップサインの出たレグノの違いは、コーナリングの軌跡。レグノといえども残溝が1.6mm程度になると排水性能が低くなり、トレッド面ではハイドロプレーニング現象の発生でグリップが失われる。その結果、アウトに飛び出すような挙動となる。
ウェットグリップ性能向上のメカニズム
転がり抵抗性能の向上とウェットグリップ性能の向上が相反する技術というのは、直感的に理解できる部分だと思う。転がる性能を向上させると、なんとなくグリップ力が低下すると考えてしまうのは正しい推論で、それをいかに両立させるかがここ数年のタイヤ開発のテーマとなっている。
一般的にタイヤは、トレッドパターン、コンパウンド(素材)、プロファイル(断面形状)、構造の技術要素に分類するのが理解しやすく、転がり抵抗性能向上とウェットグリップ性能向上を両立させるために欠かせないのが、新世代のコンパウンドだ。
このコンパウンドについて、ブリヂストン タイヤ材料開発第一本部 北條将広氏が詳細に解説。ウェットグリップ性能を向上させるために用いた技術の一端を明かしてくれた。
北條氏によると、転がり抵抗とウェットグリップ性能を両立させるためのポイントはエネルギーロスの制御にあるという。通常の状態で転がっているタイヤの振動数は10~100Hzほどの領域にあり、ウェットグリップが要求されている状態の振動数は10kHz~1MHzほどの領域にあるとのことだ。つまり、ウェットグリップ要求時のタイヤの状態は、ブレーキを踏んだ状態で高速微振動を起こしている。“ダダダダッ”となっていることを指しているのだろう。
その振動数の違いでエネルギーロスの異なる素材を作ればよく、ポリマー分子配列制御や、カーボンブラックよりも理想的な特性を持つシリカの投入&分散制御で性能を両立する素材を実現している。と書けば簡単だが、実際に素材で実現するには相当な開発が必要だろうし、ましてや生産まで持っていくには語られなかったノウハウが相当数あるのだろう。
ただ、結果としてそのような理想的な素材が実現できており、製品としては多数のサイズを展開する市販低燃費タイヤ「エコピア EX20」で、AA/aのウェットグリップ最高性能を量産展開している。
タイヤパターンもウェット性能向上に寄与
ウェット性能向上に寄与しているのはコンパウンドだけではない。タイヤパターンの進化もその1つで、パターンについてはレグノや「POTENZA(ポテンザ) RE-71R」のパターンも手掛けた、ブリヂストン イノベーション本部 デザイン企画部 部長 氷室泰雄氏が解説を行った。
氷室氏が主に話してくれたのは、トレッドパターンの排水性能の進化。1984年のポテンザ RE71では方向性パターンを採用することで排水性を強化。1993年のRE710ではスーパースラントパターン、1995年のS-02ではスーパースラントノンストレートパターン、1997年のRE711ではF1ノーズパターンを採用することで、次々に進化してきた。とくにRE711では立体的なブロック形状を実現しており、パターンだけでなく製造・生産の技術レベルが上がっている。
このように、コンパウンドだけでなく、パターン面からもウェット性能向上を実現。今回はプロファイルや構造に関するプレゼンテーションはなかったが、そのあたりにも相反する性能を両立する技術要素はあるのだろう。
プレゼンの最後はCSR推進部が「タイヤの月次点検の重要性」を訴求。東京管区気象台の発表した“雨の日の交通事故は晴れの日の5倍”という統計結果を示し、溝深さの点検や、溝深さの片減りを防ぐタイヤローテーションの大切さを訴えた。
すでに梅雨の時期となり、各地から大雨のニュースが聞こえてくる。梅雨でなくともいきなり豪雨になることは珍しくなく、ウェットグリップ性能を気にしつつタイヤ選びをしてみるのはありだろう。ただ、その前に行っていただきたいのは、タイヤの残溝チェック。まずは、スリップサインが出ていないか、減りすぎていないかなど、安全に走ることができるかどうか、タイヤの状態をチェックしていただきたい。