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トヨタの8モデル、ホンダの9モデルが対応する救急自動通報システム「D-Call Net」

ドクターヘリ基地に事故の状態を自動通報

2015年11月30日発表

記者説明会で行われたフォトセッション。左から本田技研工業 取締役 専務執行役員 福尾幸一氏、日本緊急通報サービス 代表取締役社長 倉田潤氏、救急ヘリ病院ネットワーク 理事長 篠田伸夫氏、救急ヘリ病院ネットワーク 会長 國松孝次氏、救急ヘリ病院ネットワーク 理事 益子邦洋氏、トヨタ自動車 専務役員 吉田守孝氏

 認定NPO法人の救急ヘリ病院ネットワークは11月30日、トヨタ自動車、本田技研工業、日本緊急通報サービスと共同で、ドクターヘリやドクターカーの出動を早期判断する救急自動通報システム「D-Call Net」の試験運用をスタートさせたことを発表。同日に東京・お台場にあるアミューズメント施設「メガウェブ」で記者説明会が行われた。

 D-Call Netは、2000年からサービスを開始した緊急通報システム「ヘルプネット」のシステムをさらに発展させ、これまで以上に交通事故における救命率向上を図る新システム。交通事故発生時に車両に装備された各種センサーなどが計測したのデータを活用し、新しく開発した「死亡重傷確率推定アルゴリズム」を使って乗員の死亡重傷確率を推定。
既存のGPS位置情報の送信やオペレーターによる会話での確認などと合わせてドクターヘリ基地の病院に事故発生を通報することにより、ドクターヘリやドクターカーの早期の出動判断が行われる。

救急自動通報システム(D-Call Net)実働訓練(6分15秒)

 発表の11月30日時点では、トヨタ「ランドクルーザー」「クラウン マジェスタ」「クラウン アスリート」「クラウン ロイヤル」、レクサス「LX」「RX」「GS」「GS F」、ホンダ「アコード ハイブリッド」「フィット」「オデッセイ」「ヴェゼル」「レジェンド」「グレイス」「ジェイド」「シャトル」「ステップワゴン」と、トヨタの8モデル、ホンダの9モデルがD-Call Netに対応。両社とも今後も採用拡大を目指すとしたほか、他メーカーにも参画を呼びかけていくとのこと。

トヨタの「ランドクルーザー」や「クラウンシリーズ」、レクサスの「GS」「RX」など8モデルが対応。レクサスモデルではオプションの有無などに寄らず、これからも基本的に全モデルで対応していくとのこと
ホンダ車では2013年6月に発売された「アコード ハイブリッド」以降に登場したモデルで、純正カーナビの装着車が対応となる

自動車アセスメントの評価項目に救急自動通報システムの導入も予定

救急ヘリ病院ネットワーク 会長 國松孝次氏

 記者説明会ではまず、救急ヘリ病院ネットワーク 会長の國松孝次氏が登壇。「今までのシステムでは通報されてくる事故情報の内容が少し不足気味で、とくに事故に遭った人の重傷度や怪我の程度などがはっきりとは分かりませんでした。ドクターヘリやドクターカーといったものは重症患者のところに行かせることを専らとしており、確信を持って送り出すことができないでいました」「そこで2010年からこれまでの通報内容を増やし、2012年からは『先進事故自動通報システム(AACN)』というものを作り、各分野の専門家のみなさんに賛同いただいて研究開発を進めてきました。その成果として、死亡、重傷発生を予測するアルゴリズムがある程度のところまで完成して、これに連動してドクターヘリが出動するという連続性のあるシステムが構築されました」と解説。これからの試験運用で成果について検証し、効果測定をしながら2018年中を目指す本格運用に繋げていきたいと語った。

国土交通省 自動車局次長 和迩健二氏

 また、来賓として登壇した国土交通省 自動車局 次長の和迩健二氏は、「交通事故による死者、負傷者は減少傾向にはありますが、昨年は4113人が亡くなり、負傷者も70万人と深刻な状況が今でも続いております。政府としては本年度を最終年とする第9次交通安全基本計画に基づきさまざまな安全対策を講じてきましたが、残念ながら年間死者数を3000人以下とする目標は未達に終わりました。現在は平成28年度から平成32年度を計画期間とする第10次交通安全基本計画を策定中です。人、道、クルマの各側面でさまざまな追加対策が検討されているところで、車両の安全対策を担当する国土交通省 自動車局では、これまでも車両の安全対策による死者数削減目標を設定し、事故分析の結果と技術レベルをふまえた安全基準の強化・拡充、自動車アセスメントによる安全な自動車の普及促進など施策を推進してきました」と国土交通省におけるこれまでの取り組みなどを紹介。

 さらに「事故の発生を未然に防ぐ対策が注目されていますが、これらに合わせ、不幸にも事故が発生してしまった場合に、一刻も早く救命・救急機関に通報し、被害に遭った人を病院に搬送することが人命の救助、後遺症の軽減に大変重要となります。本日より開始される救急自動通報システム『D-Call Net』の試験運用は画期的なものです。国土交通省でもD-Call Netの効果の算定や実現に向けた課題の洗い出しなどを進めており、今後は自動車アセスメントの評価項目に導入するなどによって、システムの早期、円滑な普及に向けて検討したいと思っております」と語っている。

救急ヘリ病院ネットワーク 理事 益子邦洋氏

 D-Call Netの概要については、救急ヘリ病院ネットワーク 理事の益子邦洋氏が、医師でもある自身の経験などを交えながら解説を行った。

益子氏が「生涯忘れることのできない事故事例」と紹介する25歳男性の事故。いち早く適切な判断と処置が行われていれば救えていたと、ドクターヘリ発足の一因になっているという
益子氏は米国での研修中にドクターヘリに触れ、多くの人を救っている現状に感動したとのこと
1999年8月に救急ヘリ病院ネットワークが発足
2014年にはドクターヘリが全国で44機まで増えている
すでに38の道府県に導入され、全国を網羅するドクターヘリ体制が実現した
交通事故死亡者数は減少傾向ながら、この10年ほどは鈍化傾向
ドクターヘリの作業フロー。治療開始まで38分をほど要している
外傷患者の死亡率を表現した「カーラーの救命曲線」。早期治療開始が死亡率を低減させるという
D-Call Netの作業フロー。これまでのヘルプネットではオペレーターから消防本部に出動要請が行われていたが、D-Call Netではこれに加え、事故発生時に車両データなどがドクターヘリ基地のある病院に情報が送られる
事故発生時に「衝突方向」「衝突の厳しさ」「シートベルト着用の有無」「多重衝突の有無」などのデータをセンターに送り、過去に発生した280万件の事故データから統計処理する「死亡重傷確率推定アルゴリズム」が確率を推定
2011年に行われたテストでは、治療開始までの時間を17分短縮。すべてのクルマにD-Call Netが装着されていた場合、年間で282人の救命効果に相当するという
D-Call Netは11月30日現在で9個所のドクターヘリ基地病院が協力している
トヨタ車の対応状況。レクサス車は「LX」以降に変更が行われた4モデルがすべて対応。「ランドクルーザー」「クラウンシリーズ」はオプション設定の「T-Connect」対応カーナビを装着している場合に対応となる
ホンダ車の対応状況。2013年6月発売の「アコード ハイブリッド」以降にモデルチェンジなどが行われ、標準装備、またはオプション設定の「インターナビ」を装着し、携帯電話などをBluetooth接続している場合に対応となる
試験運用で効果検証などを行い、まだ参加していない自動車メーカーにも参加を呼びかけていくとのこと
産官学医が連携して取り組む「D-Call Net研究会」も発足している

 このほかに記者説明会では質疑応答も実施。対応モデルを公開したトヨタ、ホンダの登壇者に対して今後の展開などについて質問が行われ、これに対してトヨタ自動車 専務役員の吉田守孝氏は「トヨタ自動車としてはこのシステムの開発初期から参画しており、自動車の安全技術は自動車だけでなく、人、あるいはインフラなどすべてを合わせた形でなければ死亡事故低減になかなか結びつかないと思う。実際にトヨタの搭載車種は高級車に限られているが、今後は設定をトヨタ車全体に広げていき、サービスや価格などの商品力をレベルアップさせていくことで普及を進めていきたい。具体的に、いつ、どのぐらいといった点については差し控えたいが、いずれにしても交通死亡事故低減のために、今後も自動車メーカーが連携してこの活動を積極的にバックアップ、参画していきたいと思う」とコメント。

 また、本田技研工業 取締役 専務執行役員の福尾幸一氏は「我が社では2013年から純正ナビゲーションにシステムを搭載しており、お客さまの携帯電話と繋がっている前提でこのシステムに参画する製品を拡大してきています。お客さまの携帯電話を経由するということで初期投資をなるべく低くしてシステムを普及させていきたいと考えています」と語っている。

質疑応答のようす
トヨタ自動車 専務役員 吉田守孝氏
本田技研工業 取締役 専務執行役員 福尾幸一氏
会場ではレクサス「LX」、ホンダ「アコード ハイブリッド」を使い、事故発生からの流れを紹介するデモンストレーションも実施。レクサス「LX」ではインパネ中央の12.3インチワイドディスプレイが、衝撃検知によるエアバッグ展開の模擬信号を受け、表示を地図画面からヘルプネットのオペレーター通話に変更。オペレーターが応答がないことを確認して消防本部に出動要請を行う。ここまでは現行のヘルプネットと変わらない
D-Call Netでは消防本部への出動要請に加え、車両が感知したデータを統計処理の「死亡重傷確率推定アルゴリズム」と合わせて死亡、または重傷確率の推定を実施。このデータはドクターヘリ基地病院に設置されたi Padに送られてランプが点灯。隊員はこの情報をチェックして現場に出動するか判断する。地図の右下にYahoo!のロゴが入っているのは、表示にYahoo!の地図データを利用しているため。アプリ内に組み込む用途に適したデータだったことで採用された
トヨタ車のD-Call Netでは通信に「DCM(車載通信機)」を使用。基本的な仕様に変更はないが、「衝突方向」「シートベルト着用の有無」といったこれまで扱っていなかった情報をやりとりするためコネクターとケーブルの仕様を変更。このため、新仕様の機器を搭載する車両がD-Call Net対応車となっている
「ランドクルーザー」「クラウンシリーズ」はオプション設定の「T-Connect」対応カーナビを装着した場合にD-Call Net対応となる
会場にはドクターヘリも展示された
ドクターヘリの機内

【お詫びと訂正】記事初出時、記事内の一部車名が間違っておりました。お詫びして訂正させていただきます。

(編集部:佐久間 秀)