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セガの最新レーシングゲーム「プロジェクトモーターレーシング」について、開発に携わるプロドライバー山野哲也氏に聞く

応募者の約10分の1しか参加できない狭き門、「ファクトリードライバープログラム」とは?

2025年9月25日~28日 開催(東京ゲームショウ2025)
7590円
セガは「Project Motor Racing」に登場する車両の挙動をリアルに仕上げるため、実車のドライバーやシムレーサーからフィードバックを受ける「ファクトリードライバープログラム」を立ち上げている。レーシングドライバーの山野哲也氏もそのプログラムに参加している

レーシングゲーム「Project Motor Racing」が11月25日に発売

 スイスのゲームパブリッシャー・GIANTS Software社とパートナーシップ契約を結んでいるセガは、11月25日に発売予定のPlayStation5/Xbox Series X|S/PC(Steam/Epic Games Store/Windows)用ソフト「Project Motor Racing(プロジェクトモーターレーシング)」の製造・販売を担当。9月25日~28日に幕張メッセで開催される「東京ゲームショウ2025」では、セガブースで本作の試遊を実施する予定だ。

 価格はパッケージ版、デジタル版ともに7590円。パッケージ版の販売はPlayStation5のみとなる。

2025年11月25日発売予定のPlayStation5/Xbox Series X|S/PC(Steam/Epic Games Store/Windows)用ソフト「Project Motor Racing(プロジェクトモーターレーシング)」。価格は7590円

「Project Motor Racing」はカーレースの世界を舞台とするレーシングゲームで、プロレーシングドライバーのトレーニングのために使用するシミュレーターとしても使えるリアルさを追求したものを目指して開発されているだけでなく、50年にわたるモータースポーツの歴史をリスペクト。史実で活躍をしたクルマの中から70台以上のマシンを収録。そして数々のドラマが生まれた10種類を超えるレースクラスに対応し、コースも実在する18か所のコースを忠実に再現している。

 こうしたゲームの舞台のリアルさを高めるために採用されたのが、720Hzの物理演算エンジン。この採用により天候や温度の環境変化、それらが影響した路面状況の高度なシミュレーションも実現できるものとなった。

 ゲームのモードは、本格的なモータースポーツキャリアを体験できる「シングルプレイヤーキャリアモード」のほか、世界中のプレイヤーとレースが可能な「オンラインレースモード」も用意されている。そしてこのゲームはPCをはじめとする各種プラットフォームではMODにも対応しているので、プレイヤーがゲーム体験を拡張することも可能となっている。

ゲーム内に登場するクルマは70台を超え、レースカテゴリーも10種類以上となっている。写真はポルシェ 911 GT1
日産 フェアレディZ GT4

「Project Motor Racing」での大きな特徴として挙げられるのが、ゲーム内の車両の挙動をよりリアルに仕上げるために、実車のドライバーやシムレーサーから開発チームへ直接フィードバックを行なう「ファクトリードライバープログラム」という仕組みを持っていることだ。

「Project Motor Racing」の開発を担当したのは、シミュレーションレーシングの世界で著名な制作会社「Straight4 Studios」。このゲームの開発に対して「Straight4 Studios」が持つ20年にわたるレーシングシミュレーター開発のノウハウを生かし、タイヤデータ、メーカーCADデータ、ドライバーの感想、チームデータなど膨大な情報を使って物理挙動を構築しているが、さらにリアルさを求めていくと、現実世界に直接のデータが存在しないパラメータ(熱劣化モデルや、路面再現度など)も考慮するべき部分が多くあると判断。そういった不足分を補うために、実際のドライバーが感じた「感覚」を取り込むことでの調整が必要とされ、立ち上がったのが「ファクトリードライバープログラム」となる。

 このプログラムの参加者は開発中のゲームをテストし、挙動や操作感についての詳細なフィードバックを専用サイトやフォーラムで提供。情報を受けた開発側はデータだけでは補えないリアリティを実現するための開発を進めていく。

1秒間に720回の演算を行なう物理演算エンジンの能力を活かして、さらにリアルさを追求したゲームとなる

 具体的なやりとりは、参加者のフィードバックを適切にゲーム開発に反映できるよう、質問事項と選択肢が用意された専用サイトを使用。そこでは車両ごとにセットアップ、リアリズム、スピードの追求、耐久レース、路面変化といった5つのカテゴリーに分けられ、プログラム参加者はその中で自分の感じたことを回答していく。質問の総数は約40個ほどになるという。

「ファクトリードライバープログラム」は一般からの応募も受け付けていて、選ばれた参加者は開発チームと直接やりとりしながらゲーム開発に協力しているので、レーシングゲームが好きな人にとってはぜひ参加したいと思うことではあるが、開発チームからプログラム参加者への要求レベルは高く、応募があった中でも約10分の1しか参加できない狭き門となっているようだ。

「ファクトリードライバープログラム」は現役ドライバーとトップシムレーサーを対象としたプログラムなので、開発チームが要求するレベルは非常に高い。そのため、応募者の10分の1も参加できないものとなっている

MX-5カップカーの挙動を山野哲也氏のフィードバックで徹底的に再現

 セガでは東京ゲームショウ2025の期間中、「Project Motor Racing」の魅力を来場者に体感してもらうためブースに体験機を用意。車両はマツダ MX-5のワンメイクで開催された「グローバルMX-5カップ ジャパン」仕様車で、体験機でドライブできる車両は2017年のグローバルMX-5カップ ジャパンでシリーズチャンピオンを獲得し、同年アメリカのラグナセカにて開催された世界一決定戦にも参戦したレーシングドライバー山野哲也氏によるフィードバックが反映された車両となる。

 そこでセガは、東京ゲームショウ2025を前に報道陣を対象に山野氏への取材会を開いた。

Car Watch読者には説明不要の人物である山野哲也氏。現在はレース活動と並行してイベントやスクール企画、コーチ、開発ドライバー、ジャーナリストなどマルチに活動している

 まずは山野氏が「ファクトリードライバープログラム」へ参加することになった経緯から紹介しよう。

 山野氏がドライビングの達人であることはCar Watchの読者であれば周知のことだが、その技術はレーシングゲームやシミュレーターで培ったものではなく、すべて実際のクルマをドライブすることによって身に付けたものであった。それだけにゲームの依頼がきたことに最初おどろいたそうだが、セガからの依頼は「バーチャル(ゲーム)とリアルの差を埋めること」で、それを聞いた山野氏は「自分が参加する意味がある」と感じたそうだ。

 山野氏はゲームやシュミレーターを体験する機会があまりなかったので、現在のレーシングゲームに詳しいわけではないが、それでも何度かプレイする機会があったという。しかし、リアルと言われるゲームでも、リアルのドライビングとの差を激しく感じたそう。そうしたこともあってゲーム内のクルマを思うように走らせることができなかったという。

 そんなこともあり、山野氏にとってレーシングゲームは「自分は下手」という印象が残るものとなっていたので、自然とゲームとは距離を置いていたようだ。でも、そういった気持ちがあったからこそ、自分がファクトリードライバープログラムへ参加することで「バーチャルとリアルがほぼ狂いなく、精度の高いものとして実車と同じような存在になる」ことに大きな魅力を感じたとのこと。そして本当にリアルなクルマの挙動を体験できるゲームを通して、大人も子供も幅広くモータースポーツの魅力が広まっていくと思うと「楽しみで仕方ない」と語った。

山野氏が「ファクトリードライバープログラム」への参加を決めたのは、サーキットを走るリアルなクルマの走りをゲームで体験することで、モータースポーツに興味を持つ人が増えてくれることに期待してのもの

 では、実際にゲーム内のMX-5カップカーをドライブしたとき、どこに違和感を感じたかを聞いてみたところ、山野氏はステアリングに違和感を感じたそうだ。具体的には速度によってステアリング操作に対する画面の反応が変わってくるそうで、60km/h以下であれば山野氏の操作に忠実に反応するが、それ以上のスピードでステアリングを切ると画面の反応スピードが変わってくる印象を受けたそうだ。

初めてプレイした時は映像や音、そしてクルマの挙動のリアルさに感銘を受けたそうだが、走り込んでいくとステアリング操作に対する画面の反応の遅れが気になった。こうした情報を開発チームに伝えることでゲームは進化していった

 それともう1つ、ステアリングを通じて伝わる路面からのインフォメーションに関しても一部注文をつけた。山野氏が言うにはクルマがコントロール下にある状態では、ステリングのインフォメーションに問題は感じられないが、限界を超えてスピンモード入るようなときの挙動に違和感を感じたそうだ。

 でも、限界を超えている状態なので、そこでのステアリングインフォメーションの正確さに何の意味があるのかと思うところである。そんな質問をしてみたところ「はい、そこは大事なところです」と前置きした後に、山野氏は「レーシングスピードでの運転はリカバリーが命みたいなところがあるのです。コーナーの限界を100だとすると、速く走るためには平均で100の値で走ることが求められます。ただギリギリを狙っていけば限界を超えてしまうこともあり、そのためリカバリーのテクニックが必要になります。そして100を越えて101になり、そこで立て直して99に戻すという操作をしていくことで“平均で100”で走れるということになります」と解説する。

 このことをバーチャルの世界でやるとなると、ゲーム内のクルマやセットアップ変更が実車と同じものでなければ、山野氏は「Project Motor Racing」に対して納得の評価は下さない。でも、感想として語ったのは「今はもう違和感がないんです」だった。

限界を超えた後のリカバリーが実車同様にできるのであれば、限界のギリギリを使って走り続けることできる。山野氏が「ファクトリードライバープログラム」に参加したことによりリアルさはさらに向上したのだ
ゲーム内のセットアップ画面。MX-5カップカーの場合スプリング交換はできないが、ショックは伸び圧、縮み圧をそれぞれ調整できるので、それらもリアルに再現されている。アライメントの調整も可能
LSDの組み付け状態やカム角の選択までできる
風景の見え方もドライビングに大きく影響するものだという。その点に関しても山野氏は満足だと語る。ちなみにロールケージに巻かれたパッドの質感やパッドを止める結束バンドの使い方など細かい作り込みにも関心していたのが印象的だった
取材時のレベルでもかなり仕上がっていたそうだが、追加で指摘した部分もあり、そこは東京ゲームショウ2025当日には反映されているに違いない

 昨今のレーシングゲームのリアルさはおどろくべきレベルにあるが、「Project Motor Racing」はその最先端を行くゲームであることは間違いなさそうだ。そしてその世界をいち早く体験できる場が東京ゲームショウ2025のセガブース。「ファクトリードライバープログラム」という独自のシステムと山野哲也という名ドライバーを用いてリアルさを磨きに磨いたMX-5カップカーの走りは、東京ゲームショウ2025の大きな見どころになるだろう。

「東京ゲームショウ2025」の現場で「Project Motor Racing」のリアルさを体験してほしい