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「2025 WEC 第7戦 富士6時間耐久レース」、ポルシェ 6号車のローレンス・ヴァントール選手に最終戦への意気込みを聞く

2025年9月28日 決勝
ポルシェ ペンスキー・モータースポーツ6号車(ポルシェ963)をドライブするローレンス・ヴァントール選手にインタビュー

タイトルの行方は最終戦バーレーンへ

 9月27日~28日に富士スピードウェイで開催されたWEC(FIA世界耐久選手権)で、ポルシェ ペンスキー・モータースポーツ6号車(ポルシェ963)をドライブするローレンス・ヴァントール選手にインタビューすることができた。

 ご存じWECは、「ル・マン24時間耐久レース」をカレンダーに組み込む、年間8戦の耐久レースシリーズだ。富士ラウンドはその7戦目に当たり、ポルシェに取ってもシリーズチャンピオンの行方を大きく左右する大切なステージとなっていた。

 ちなみにポルシェは、トップカテゴリーのハイパーカークラスにおいては2023年から、アメリカのペンスキー・モータースポーツとワークス関係を結んで活動している。そして2024年はヴァントール選手が、現在もチームメイトであるケビン・エストーレ選手、日本でもおなじみのアンドレ・ロッテラー選手とともにドライバーズタイトルを獲得している(マニファクチャラーズ・タイトルはトヨタ)。

 そして今シーズンも、この富士で6号車が3位入賞(15ポイント)を果たしたことから、タイトルの行方は最終戦バーレーンへと持ち越された。現在、ドライバーズランキング首位は115ポイントを獲得している♯51 フェラーリ AFコルセのフェラーリ499P(アレッサンドロ・ピエール・グイディ/アントニオ・ジョビヴィナッツィ/ジェームス・カラド)。そして2位にも102ポイントで♯83 フェラーリ AFコルセ(フィル・ハンソン/ロバート・クビサ/イーフェイ・イエ)が着けている。

 対してポルシェはワークスカーである5号車(ジュリアン・アンロエア)がランキング9位(46ポイント)だから、94ポイントの6号車が唯一の希望だ。

 またマニファクチャラーズランキングは、フェラーリの204ポイントに対してポルシェが39ポイント差の165ポイントとなっている。最終戦バーレーンは8時間でポイントも約1.5倍となるため、ポルシェ5号車と6号車が上位入賞を果たし、フェラーリ51号車に21ポイント以上、83号車に8ポイント以上の差を付けられればミラクルが起きる。

土曜日は予選をポルシェのピットで観戦。二段階式予選となるハイパーポールへの進出を逃した6号車のケビン・エストーレ選手が、極めて不機嫌なようすで降りてきたのが、むしろ少しコミカルで印象的だった
工具箱の上に置かれたハブとカーボンブレーキ。ハブはアルミのインゴットをマシニングしたものか? とにかくゴツくて、見た目がきれい。カーボン製のブレーキローターは、その分厚さと外周に開けられた通気口が独特。恐らく内部はベンチレーションになっているのだろう、C/Cコンポジット製法だからこそできるデザインだ
カーボンカウルに貼られたエンブレムは、軽量化のためにカッティングシートで作られている。対してリアカウルの「PORSCHE」は市販車と同じようなアプライドタイプになっているのがおもしろかった
カウルで強度が求められる部分には、ケブラーも織り交ぜられているようだ
ハイパーポールを獲得したのは♯7 アストンマーティン THOR Team(アストンマーティン ヴァルキリー)。決勝レースは♯35 アルピーヌ・エンデュランス・チーム(アルピーヌA424)が優勝。2位には♯93 プジョー・トラルエナジーズ(プジョー9×8)、そして3位に♯6 PORSCHE・ペンスキー・モータースポーツ(ポルシェ963)が入った。それ以外のポルシェ勢は6号車が4位、99号車が11位だった
ピットを走るハイパーカーの多くはモーターで走り出し、突然の爆音と共にエンジンが掛かるからビックリする。いずれはピットレーンの全てをEV走行するというルールができたりするのだろうか。ちなみに市販車をベースとするアストンマーティン ヴァルキリーLMHは6.5リッターV12エンジンを搭載。市販車では1000馬力以上のパワーを1万1000rpmで発揮させているエンジンを、レギュレーションに合わせて出力制限して使っている

富士の3セクターが好き

ローレンス・ヴァントール選手(左)

 そんな緊張感もどこへやら、予選前となった土曜日のインタビューは、終始なごやかなムードだった。

――2024年はタイトルを獲ったけれど、今シーズンはどうですか?

ローレンス・ヴァントール:今年はちょっと難しい(シーズンだ)ね。昨年はとても楽に闘えた。優勝もしたし、表彰台にも何度も立てたからね。

 今年もマシンには勝てるポテンシャルはあるんだけれど、レースの展開には恵まれなかった。特にシーズンの始めがそうだったね(序盤3戦は第2戦イタリアでの4ポイントのみ)。

――昨年よりも競争は激しくなっていますか?

ローレンス・ヴァントール:このレースはいつも難しいんだよ。なぜなら……

――BoP(バランス・オブ・パフォーマンス:性能調整)?

ローレンス・ヴァントール:………(笑顔で無言)。今年はエンジンパワーやさまざまなスペックが上下したよね。多くのマシンが今年はより重たくなっているから、ドライブするのもセットアップも簡単じゃないと思う。

 でも……BoPはボクたちじゃコントロールできないからね(苦笑)。

――世界にはたくさんのトラック(サーキット)があるけれど、富士はどう?

ローレンス・ヴァントール:富士はこれで2度目。去年は勝っているコースだから、私たちにとって相性は良いと思うよ。だからここではいいレースをしてエンジョイしたいね。コース的にもユニークだし、運転も楽しいよ。

――どのセクションが好き?

ローレンス・ヴァントール:ラストセクター(3セクターのこと)だね。

――あそこはフラストレーションがたまらない?

ローレンス・ヴァントール:クルマのセッティングが決まらないとそうだね! でもクルマがいいと楽しいよ。

ポルシェにとって「富士スピードウェイは相性が良い」とローレンス・ヴァントール選手

――BoPはあるけれど、その上でポルシェ963の強みはどんなところ?

ローレンス・ヴァントール:たとえばあなたがベストなマシンを作ったとしても、BoPで他のクルマたちと性能が同じくらいにされてしまう。それって、とってもフラストレーションでしょ?

 そういうレースでアドバンテージを築くのって、とっても大変なんだ。

――その上でポルシェのストロングポイントを!

ローレンス・ヴァントール:2人のドライバーだよ!(笑)。

――では言い方を変えて、ポルシェ963ってどんなキャラクターのマシン?

ローレンス・ヴァントール:自分はポルシェ963しか運転していないから他とは比べられないけれど、ほかのマシンはかなり重たいみたいだね。あとはエンジンパワーがあるね。そして、とってもサイズが大きいクルマなんだけど、運転していてとっても楽しい。

 GT3マシンと比べてもずっとパワフルで速いし、ダウンフォースもあって、カーボンブレーキもいい。すごく低速なコーナーだとGTカーの方が小まわりが効くし、速いこともあるけどね。

――タイヤはどう?

ローレンス・ヴァントール:タイヤはみんな同じだから(特に問題はない)。3つのコンパウンド(ハード/ミディアム/ソフト)があるんだけど、ミシュランがそのうち2種類を選んで(ル・マンは3種類仕様可能)、それを使うんだ。F1と同じやり方だよ。

 タイヤは気温に合わせて選ぶんだけど、(BoPで)クルマが重たくなると、そのリアクションがさらに大きく変わるんだ。だからタイヤの選び方はコンディションの変化にすごく左右されるよ。

ポルシェ963は「運転していてとっても楽しい」という

――去年はドライバーが3名だったのに、今年は2名になって問題はない?

ローレンス・ヴァントール:それはいつも議論されることなんだけど……。2名ならそれぞれのプラクティスの時間が増えるし、セットアップが見つけやすかったりする。

 でもレースだと体力的にもチャレンジングだったりするよね。富士は体力的にもハードだし、オースティン(第6戦アメリカ)なんかはとっても暑かったり。

 でも2人か3人かは、ポルシェが決めることだから(笑)。

――富士で勝つためには何が大切?

ローレンス・ヴァントール:まずはポールを取ることが大切だよね。フェラーリは強いし、シーズンの始めからポイントを獲得して、アドバンテージを築いている。でも、明日勝てればチャンピオンシップへの道がもう一度開かれる。

 最終戦は50%ポイントが多くなるし、優勝すれば38ポイントだから、まだボクたちにも可能性がある。もちろん勝つのは簡単なことじゃないだろうけれど。

 フェラーリは昨年あまりいい状態じゃなかった。でも今年はとってもクルマが速いよね。それって今年の僕たちと同じ関係性だ。だから最終戦では、彼らに大きなプレッシャーが掛かることも想像が付く。きっとミスも起こるだろう。そんなときって、みんなが心を強くもって仕事しなきゃいけないんだ。自分たちはそういう場面でミスをしないでやって来られたし、最終戦も同じようにやるつもりだよ。

2024年のバーレーン戦

 ヴァントール選手と話をして、とても誠実な印象を持った。

 語り口調はとても静かだけれど、その内容は歯に衣着せぬ物言いで、とても正直。忖度もなければ誇張もない、しかし的を射たコメントばかりだった。こうした表現が許されるのも、おそらく2016年からファクトリードライバーを務めて、ポルシェとの強い信頼関係が築かれているからなのだろう。

 果たして第7戦富士ラウンドは、彼が望むポールポジションこそ取れなかったが、6号車が3位に入り、5号車までもがそれに続いた。対するフェラーリは83号車がかろうじて9位(2ポイント)に入ったものの、50号車が12位、51号車が15位と下位に沈んだ。

 ちなみに10月8日、ポルシェが今シーズン限りでWECから撤退することを緊急発表。今後はフォーミュラEと、北米IMSAに注力することがアナウンスされた。耐久レースをアイデンティティとするポルシェにとって、WEC復帰の可能性は「除外しない」とされているが、どうやらEVの販売減少や、アメリカの関税導入によるダメージは相当に大きいようだ。それだけに最終戦バーレーンでは、一時的な別れだと仮定した上で、有終の美を飾ってほしい。

 最終戦バーレーンは11月8日から始まる。

運命の最終戦バーレーン・ラウンドは11月8日にスタートする