ホンダ、2輪車用「デュアル クラッチ トランスミッション」を開発 カブタイプに搭載可能な新型ATも |
本田技研工業は、2輪車用の「デュアル クラッチ トランスミッション」を世界で初めて開発し、9月8日に2輪車用新型AT技術発表会を開催した。発表会では、カブ系バイクに搭載可能なATである「CVマチック」についても発表された。
代表取締役社長である伊東孝紳氏は「スポーツバイクを愛用されるお客様は、よりゆったりと、時にはよりスポーツ走行を楽しみたいと、趣向の多様化が見られ、加えてより高級で上級志向を求める声が高まっている。今回発表する大型2輪車用AT技術であるデュアルクラッチトランスミッションは、こういったお客様の要望にお応えする技術の第一弾と位置づけている」と述べた。続いて、本田技術研究所常務取締役の鈴木哲夫氏は、ホンダのこれまでの技術開発に対する取り組みについて説明した。
代表取締役社長 伊東孝紳氏 | 本田技術研究所 常務取締役 鈴木哲夫氏 |
本田技術研究所 二輪R&Dセンター 小笠原敦氏 |
■世界初の2輪車用デュアル クラッチ トランスミッション
デュアル クラッチ トランスミッションについては、開発者である本田技術研究所 二輪R&Dセンターの小笠原敦氏が解説を行った。同様のデュアル クラッチ式ATを搭載する横置きエンジンの4輪車の場合、全長を短くするためにアウトプットシャフトを多軸化するなどしている。しかし、同じ横置きエンジンでも、2輪車の場合、車体を傾ける際にバンク角が必要になるなど、レイアウト的にもいっそう制約が厳しく、複雑で重量も重くなる4輪車用のような構造にはできなかったと言う。
そこで、2輪車用にコンパクトでシンプル、軽量にするため、エンジンケースとトランスミッションケースを一体化。さらにメインシャフトを2重化し、奇数段をインナーシャフト、偶数段をアウターシャフトにつなぐことで、2軸レイアウトを可能とした。奇数段用と偶数段用のクラッチも同軸上に直列に配置し、クラッチディスクの内側に制御用油圧ピストンを設けることで、横方向の張り出しを抑えている。また、油圧回路はすべてエンジンカバーに集約し、軽量化とサイズダウンを実現たと言う。
4輪車のデュアル クラッチ式ATの例 | 2輪車へ搭載するため、エンジンとトランスミッションのケースを一体化 | アウトプットシャフトを1本化 |
従来の2輪MT車同様シンクロ機構をなくすなど構造をシンプルに | メインシャフトを2重構造とすることで2軸化を実現 | クラッチディスクの内側に制御用油圧ピストンを設けコンパクトに |
油圧回路はエンジン右側カバーに集約 |
変速機構については、従来の2輪車MTと同様にシフトドラムの回転でシフターギアを作動させるシフトドラム式を採用。2つのクラッチの変速切り替えはすべて1本のシフトドラムの回転で行われるため、シンプルでコンパクトな構造にできたと言う。また、シフトドラムの回転はモーターで行う。
シフト操作は、ハンドルに配されたスイッチによって行うと言う。状況に応じて自動で変速する「ATモード」と、乗り手が任意で変速できる「MTモード」を持て、さらにATモードには、燃費走行からスポーツ走行までをカバーする「Dモード」と高回転をキープしスポーツ走行に適した「Sモード」が用意される。
小笠原氏は、デュアル クラッチ トランスミッションのメリットとして、有段のままフルオートマチックにすることで、ダイレクト感のある走りが満喫でき、途切れのない変速により、ゴーストップの多い市街地走行でも快適。さらにMTモードやATモードによってさまざまなシチュエーションで楽しめ、最適な変速タイミングによりMT車と同等以上の燃費走行が可能だとした。テスト車ではMT車に対しモード燃費で5.5%向上したと言う。
■カブタイプに搭載可能なVベルト式無段変速機
新型AT技術として、コンパクトでカブタイプのエンジンにも搭載可能なAT、「CVマチック」についても発表した。CVマチックは、スクータータイプと同様のVベルト式無段変速機構を持つ。
カブタイプのバイクは、アジアの新興国を中心に広く活用されていると言う。スクータータイプに比べ、エンジン搭載位置とチェーン駆動により、タイヤ径を大きくできるカブタイプは、新興国の舗装の行き届いていない道でもハンドルが取られにくいのがメリット。しかし一方で、運転が容易なスクータータイプのATへの要望も高いと言う。
「CVマチック」の解説は、開発者である本田技術研究所 二輪R&Dセンター 鍋谷真氏が行った | アセアン地域では、近年ATのスクータータイプの需要が伸びている | チェーン駆動によりタイヤサイズを拡大できるカブタイプ |
今回開発したCVマチックは、従来のスクータータイプと比べプーリーの軸間を約半分にしたことでコンパクト化し、さまざまなカブタイプのフレームに搭載可能なサイズにしている。
さらに従来のスーパーカブと同等の耐久性を確保するため、クラッチは湿式とし、また、従来より短くなり屈曲回数が多くなるベルトには、高弾性ゴムを採用、従来のスクーターと同等以上の耐久性を確保していると言う。
従来のMTモデルと比べ若干のサイズ拡大に抑えている | クラッチはエンジンと同じオイル室内に配置した湿式 | 温度が上がりやすい変速機室内は効率的に換気し、またオイルを冷却することでエンジン油温も下げる |
CVマチックのカットモデル | スクータータイプと比べ、プーリーの軸間距離を半減 | クラッチは耐久性の高い湿式クラッチを採用 |
(瀬戸 学)
2009年 9月 10日