ブリヂストン インディジャパン300マイルリポート【決勝編】
ディクソンの優勝で、タイトル争いは三つどもえの戦いへ

スタート直後。ポールポジションのスコット・ディクソンがそのままトップに立つ

2009年9月19日決勝開催



  9月17日~19日の3日間にわたり、ツインリンクもてぎ(栃木県茂木町)のスーパースピードウェイ(オーバルコース)において、インディカー・シリーズの第16戦となるブリヂストン インディジャパン300マイルが開催された。米国のオープンホイールフォーミュラの最高峰となるインディカー・シリーズだが、オーバルコースを300km/hを超える速度で疾走するその迫力はほかのレースでは味わえないスピード感にあふれており、5万人の観客(主催者発表)を魅了した。

 9月19日に行われた決勝では、前戦までのシリーズリーダーであるチーム・ペンスキーのライアン・ブリスコー、シリーズ2位、3位のターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングのダリオ・フランキッティとスコット・ディクソンの3人によるチャンピオンシップを争うにふさわしいレースとなった。

 優勝したのはスコット・ディクソン、2位にはチームメイトのダリオ・フランキッティが入るなどチップ・ガナッシチームの圧勝となったが、そうした展開を招いたのはライバルとなるライアン・ブリスコーの自滅だったのだ。

レースの折り返しとなる100周あたりまでは淡々とレースが進行
 決勝レースは、1周1.5マイル(約2.4km)のスーパースピードウェイを200周する形で行われた。スタートから最初の100周は、波乱なくレースが進行した。若干の順位変動があったものの、おおむね予選どおりの順位のままレースは進行していった。

 スタートから飛び出したのはポールポジションを獲ったターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングのスコット・ディクソン。そのチームメイトであるダリオ・フランキッティも、予選で自己最高の2番手を記録したKVレーシングのマリオ・モラレスを抜き2位に上がり、それにモラレス、予選4位のチーム・ペンスキーでランキングトップのライアン・ブリスコーが続く展開。

2週目に入ったところ。ディクソン、フランキッティ、モラレス、ブリスコーの順ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングのスコット・ディクソン同じくターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングのダリオ・フランキッティ
KVレーシングのマリオ・モラレスチーム・ペンスキーのライアン・ブリスコー

 インディカー・シリーズの中でもオーバルレースの醍醐味は、フルコースコーション(コース全体でイエローフラッグが振られていて、減速を強いられ前車を抜いてはならない状態)で導入されるセーフティーカーによる隊列の再調整で、トップと同一周回の車の間が詰まり、スタート時と同じような再スタートが見ることができることなのだが、今回のインディジャパンでは、フルコースコーションになるようなインシデントは、100周近くまでは何も起こらず淡々とレースが進んでいったのだ。50周あたりで行われた各車のピットストップも、アンダーグリーンと呼ばれる通常の走行下で行われた。

2回目のピットイン。タイミングはドンぴしゃだが自滅したブリスコー
 そうした、ともすれば退屈なレースが大きく動いたのは、104周目に起こったマイク・コンウェイのターン4でのクラッシュだ。これでレースはフルコースコーションとなり、セーフティカーが導入された。

 この時、まさにドンぴしゃのタイミングでピットインしていたのが、チーム・ペンスキーのブリスコーだ。正確に記すなら、ブリスコーがピットロードに入った後、コンウェイのアクシデントが発生したのだ。通常、インディカーのルールでは、フルコースコーションになるとピットは閉鎖され、燃料が足りなくなった車に対しての緊急ピットイン(タイヤ交換や多量の燃料補給は不可)を除けばピットインしての作業は許されない。しかし、ブリスコーがすでにピットロードに入ってからコンウェイのアクシデントが発生し、フルコースコーションという流れになっているので、ブリスコーはそのまま通常の作業(給油とタイヤ交換)を行うことが可能になったのだ。

ターン4でマイク・コンウェイがクラッシュ。セーフティカーが導入された

 これはブリスコーにとっては圧倒的に有利な状況が発生したことになる。スタートから1位と2位を走ってきたターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングの2台はすでにピットストップを終えており、イエローコーションでスローダウンを強いられることになる。計算上、ブリスコーはチップ・ガナッシ2台の前に出ることが可能になり、場合によっては周回遅れにすることすら可能なほどだと思われた。

 ところが、ピットアウトしたブリスコーは誰もが自分の目を疑うアクシデントを起こしてしまう。ピットロードで加速しようとしたブリスコーは焦ってアクセルを開けすぎたのか、左のフロントタイアをピットロードの壁に激しくヒットしてしまい、かつそこにあったパイロンを巻き込んでしまったのだ。

 その後ブリスコーは1度はトップとしてセーフティカーの後ろに並ぶものの、左フロントのダメージは見た目にも分かるほどで、数回のピットストップを繰り返し大きく後退し、完全に優勝争いから後退することになった。

ブリスコー自滅後は、チップ・ガナッシの2台によるマッチレースに
 その後のレースはチップガナッシの2台とパンサー・レーシングのダン・ウェルドンの3台で争われる展開になる。

 コンウェイのアクシデントによるフルコースコーションは119周にリスタート。2台のチップ・ガナッシの独走は引き続き続いた。それに続いたのがパンサー・レーシングのウェルドン。ウェルドンはこれまでインディ・ジャパンは2勝を挙げており、ツインリンクもてぎを得意としている。予選こそ8位に終わったものの、スタートするや前を走るアンドレッティ・グリーン・レーシングのダニカ・パトリック、マリオ・モラレスらを抜き、ブリスコーの自滅もあり、3位まで上がってきていたのだ。その走りには勢いがあり、2位のディクソンにせまる走りを見せていたが、抜くまでには至らず、ディクソン、フランキッティ、ウェルドンの順で、次のピットインのタイミングを迎えつつあった。

 最初に動いたのはウェルドン。それに続いたのがチップ・ガナッシの2台で、フランキッティとディクソンが同時にピットインした。ところが、まさにチップ・ガナッシの2台がピットに入ったとき、またもターン4でアクシデント発生。これによりフルコースコーションとなり、2回目のピットストップのブリスコーと同じようにドンぴしゃのタイミングでピットに入ったガナッシの2台が圧倒的に有利になった。

 これに対して不利となったのがウェルドン。ガナッシの2台より前にアンダーグリーンでピットインをしたため、ウェルドンは一時的に周回遅れとなってしまったのだ(最終的には同一周回の最後尾になる)。これにより3位に上がってきたのがニューマン・ハース・ラニガンレーシングのグラハム・レイホールとオリオール・セルビアの2台。これで全車最終ピットストップを終えたため順位はほぼ確定し、そのままの順位でチェッカーフラッグとなった。

2回目の再スタート。ディクソン、フランキッティの順となった先行するディクソンをフランキッティが追いかけるシーンは何度も見られた

 結局順位は1位ディクソン、2位フランキッティ、3位レイホール、4位同セルビア、5位はモラレス、6位にアンドレッティ・グリーン・レーシングの最上位となった昨年のインディジャパンの覇者パトリックとなった。アクシデントで大きく遅れたブリスコーは18位。なお、最多ラップリードもディクソンが獲得し、ポール・ポジションの1ポイントに加えさらに2ポイントを追加している。

ピットアウトのミスによって優勝を逃してしまったブリスコー見事ツインリンクもてぎ初優勝となったディクソン。快調に周回を重ねた2位になったフランキッティ。後方は周回遅れのライアン・ハンターレイ
3位のグラハム・レイホール。マクドナルドカラーのため、子供からの声援も多かった左から、2位になったダリオ・フランキッティ、優勝したスコット・ディクソン、3位になったグラハム・レイホール
順位ドライバー
優勝スコット・ディクソン
2位ダリオ・フランキッティ
3位グラハム・レイホール
4位オリオール・セルビア
5位マリオ・モラレス

期待の武藤英紀は予選のクラッシュがたたり17位完走と不完全燃焼
 期待された日本人選手だが、いずれも厳しいレースとなってしまった。アンドレッティ・グリーン・レーシングの武藤英紀は、予選でクラッシュし、スペアカーで22位からの追い上げを狙ったものの、前日のクラッシュによる痛みなどもあり思うように走ることができなかった。結局14位となり、故郷に錦という訳にはいかなかったようだ。

予選でクラッシュしてしまった武藤。そのため決勝ではスペアカーを使うことに
決勝では見事な追い上げを見せたものの、14位にとどまった

 また、スポット参戦の2人もいずれも厳しいレースとなった。コンクエスト・レーシングの松浦孝亮は、急なスポット参戦ということもあり、レギュラー勢にはついていけず、最終的には17位で完走した。ドレイヤー&レインボールド・レーシングから出走したロジャー安川は、途中マシントラブルが発生し、長い間ピットに張り付くなどの不運もあり、結局20位完走。途中では武藤とやり合うなど見せ場をつくったが、マシントラブルに泣いた。

17位となった松浦孝亮20位でフィニッシュしたロジャー安川

チャンピオン争いは8点差の中に3人がいる激戦、最終戦の勝者がチャンピオンに
 この結果により、レース前はシリーズリーダーのブリスコーに25点差で3位だったディクソンが570点でシリーズリーダーに、2位のフランキッティが5点差の565点で続く。これに対してブリスコーも12点を加算したため562点となり、トップのディクソンから8点差の3位となっている。プレビューの記事でも触れたとおり、インディカー・シリーズのポイントシステムは1位50点、2位40点となっているため、8点差であればブリスコーも優勝し、かつポールポジションか最多ラップリーダーを獲れば無条件でチャンピオンになれる点差だ。つまり、最終戦で勝ったものが今年のチャンピオンになるという分かりやすい構図ができ上がった。

順位ドライバーポイント
1位スコット・ディクソン570
2位ダリオ・フランキッティ565
3位ライアン・ブリスコー562
4位エリオ・カストロネベス403
5位ダニカ・パトリック381
6位マルコ・アンドレッティ368
7位グラハム・レイホール366
8位トニー・カナーン354
9位ダン・ウェルドン342
10位ジャスティン・ウィルソン334
11位武藤英紀325

 3人がチャンピオンを争うという大激戦となったインディカー・シリーズは、最終戦が米国フロリダ州マイアミにあるホームステッドで10月10日に行われる。なお、インディカー・シリーズは日本では地上波では放送されていないが、CS放送のGAORAで生中継ないしは録画中継が行われており、ホームステッドの模様は10月11日5:00~8:30に生中継される予定だ。注目のチャンピオン争い、生中継を楽しみたい場合にはGAORAの視聴契約を検討してみてはいかがだろうか。

(笠原一輝、Photo:奥川浩彦ほか)
2009年 9月 24日