「広州モーターショー」リポート
ワールドプレミアのレクサス「GX460」から、どこかで見たようなクルマまで

長城汽車が発表した5万7900元(円換算で約81万円)で販売する「リンアオー(凌傲)」。初めてクルマを購入する層を狙う

2009年11月24日~30日開催



 今年の年間販売台数予測は約1300万台! ついにアメリカを抜いて世界最大の自動車市場になることがほぼ確実となった中国。その中国・南部の広州でモーターショーが11月24日より一般公開された。広州モーターショーの位置づけは、国際自動車ショーとなっている北京や上海とは違い、地方で開催される“ローカルショー”の扱い。にもかかわらず、出展した企業は世界中から670社にも及ぶ。その規模は東京モーターショーをはるかに超え、展示面積では今年の東京モーターショーと比較して約3倍、出展社数では6倍にもなる。「東京モーターショーは重要度で中国のローカルショーにも抜かれた」。そんな声が聞かれたほどだ。

広州モーターショーの会場となった中国進出口商品交易会館。23日は朝早くから世界中のメディア関係者が大勢訪れた会場となった中国進出口商品交易会館はホール自体が二層構造。東京モーターショーが開かれた千葉・幕張メッセの広さをそのまま2倍にした感じとなる交易会館は周辺にもホールを続々と建設中。その規模は見ているだけで気が遠くなるようなビッグなサイズだ

 自動車大手各社は中国の自動車市場で2010年も2ケタ成長を見込んでおり、その中で富裕層の多い広州で高いシェアを握ることは今や至上命題。日本の自動車メーカーも、これまでにトヨタや日産、ホンダが相次いで中国国内で工場を建設するなど、この地域で積極的な投資を行ってきた。それが功を奏し、すでに日系自動車メーカーの広東省におけるシェアは約7割を達成。なかでも日産は中国市場で年間約60万台を販売してトップシェアを確保。それにホンダ、トヨタが続く。トヨタが中国市場では少々出遅れている感じは否めないが、今回のショーではかつてない規模で臨み、クラウンやカムリ・ハイブリッドなど新型車を続々と披露。レクサスブランドでは世界で初めての公開となったGX460(日本版:ランドクルーザー・プラド)をワールドプレミアとして発表し、中国市場重視の姿勢を鮮明にした。

トヨタが過去最大規模の3800m3で臨んだ会場。新型車45台を展示し、大勢の来場者で賑わった会場の中心に置かれた新型「クラウン」。富裕層の多い広州だけに、トヨタの高級車として高い関心を呼んでいたレクサスはワールドプレミアとしてレクサス「GX460」(日本名:ランドクルーザー・プラド)を世界に先駆けて発表した
インフィニティはコンセプトカー「エッセンス」をアジア初披露。中国進出2年目となるインフィニティは今年の売上を前年比で4割以上もアップした
広州ホンダはアコードの生産累計台数が100万台を達成したことを大々的にPR。会場の大半をそのスペースに充てていたアキュラもマイナーチェンジしたばかりの新型車「MDX」を初披露し、来年1月より発売すると発表した現時点で自前の工場を持たないスバルも人気女優のスー・チー(舒淇)を招いて新型「アウトバック」を披露。CM紹介をしながら車両のPRにつとめた

 そうした中で、伸長著しいのが中国の自動車メーカーだ。中国勢は2010年の新車販売台数を2009年見込み比で3割以上延ばす計画を表明し、とくに初めてクルマを購入する層へのアピールを積極的に行っている。大手自動車メーカーのクルマは車両価格が高めで、所得水準が上がっているとはいえ中国の一般庶民にとっては負担が大きい。そこへ2~3割ほど安い価格で車両を投入して市場拡大を狙っているのだ。

偽装パーツの交換でうり二つの“カローラ”に変身できるとして昨年22万台を売り上げたBYDの「f3」

 この中には、「○○にそっくり!」「コピー商品じゃないのか?」と言われるクルマも数多く、会場でもそうしたクルマが堂々と展示されていた。しかし、中国の人たちにとってはクルマが手頃な価格で買えるのは歓迎されるべきこと。クルマの売上げが拡大すれば企業としての力もおのずとついてくる。これから先、そうした急拡大するクラスでいかにシェアを握るかが、中国自動車市場で生き残る鍵となるのは間違いないのだ。

 また、今年の春、中国政府は年間生産・販売台数で200万台超の2~3社、100万台超の4~5社に集約する方針を打ち出した。ちょうど日本の自動車メーカーが棲み分けている状況を目指しているようなイメージだ。そのために各社はこれまでの合弁事業の見直し、経済的にも危機的状況にある海外メーカーを続々と買収。これによって自主開発能力を高め、独自ブランドとしての確立を狙う。なかでも中国最大の自動車グループ上海汽車は、今年中に自動車販売台数が265万台に達し、スズキとフィアットを超えて世界第8位の自動車グループになると発表。中国の自動車産業が着実に力を付けてきていることを実感させた。

 大手自動車メーカーもこうした状況に手をこまねいているわけではない。相次いで対応策を打ち出し始めている。今までなら新型車の投入に伴い、旧型車の販売を停止していた。ところが、新型車を投入しつつも旧型車を1~2割程度価格を下げて併売する形を採り始めているのだ。とくにトヨタならカローラクラス、ホンダならシティクラスがそれにあたる。中国の自動車メーカーが急速にシェアを伸ばす中、大手自動車メーカーも必死で応戦体制に入ったと言えるだろう。

 一方、市場が急拡大するなかで、中国にとっては温暖化対策は避けて通れない問題。トヨタはハイブリッド車を中国で積極的に販売する計画を持つほか、中国の電池メーカーからスタートしたベンチャー企業BYDが電気自動車を出展。クルマとしての完成度を疑問視する声もあるものの、内外のメーカーがそろって最新の環境技術を投入したクルマの発表を行ったことで、環境への関心が着実に高まったことは確かだ。相次ぐ新型車の投入、環境技術の発表など、広州自動車ショーはその中国市場に対する期待の大きさを感じさせるものとなったと言える。

バッテリーのベンチャー企業から出発したBYDが年内の量産化を発表した電気自動車「e6」。1回の充電で航続距離は約400kmを達成していると言う長城汽車は2010年のパリ・ダカール・ラリーに「ホバー(哈弗)」での参戦を発表。耐久性の高さをアピールする
MGからは15年ぶりの新型車となる「MG6」が登場。親会社が二転三転するという数奇な運命をたどってきたMGブランドの起死回生の策となるか

(会田 肇)
2009年 11月 27日