佐藤琢磨選手、2010年はKVレーシングからインディカーシリーズに参戦 「インディ・ジャパンで日本のファンに恩返ししたい」 |
F1世界選手権を7シーズンにわたって参戦してきたレーシングドライバー佐藤琢磨選手は2月18日、都内で記者会見を開催し、米国のオープンホイールフォーミュラ選手権となるインディカーシリーズ(Indy Car Series)にKVレーシングテクノロジーからフル参戦することを明らかにした。
佐藤選手によれば、すでに2月15日には米国フロリダ州セブリングにあるサーキットで極秘裏にテストを済ませたとのことで、今月末に米国で行われるインディカーシリーズの公式テストに参加し、3月にブラジル・サンパウロで開幕する予定の開幕戦でデビューすることになる。
■F1復帰の可能性が絶たれ、インディカーシリーズの可能性を検討
佐藤琢磨選手は、2008年のF1世界選手権スペイングランプリを最後に所属チームのSUPER AGURI F1 TEAMが解散した後、F1復帰を目指してさまざまな活動を続けてきた。よく知られているところでは、2008年末に2009年のシート獲得を目指してToro Rossoチームでテストをし、最後までレギュラーの座をセバスチャン・ブルデー選手と争った(最終的にはチームはブルデー選手を選択)。
今シーズンのストーブリーグでも、佐藤選手の名前は多くのチームのドライバー候補にリストアップされた。海外の報道などによれば、来年からF1に参戦するロータスチームの候補として、ヘイキ・コバライネン選手とシートを争ったほか、今年から体制が一新されたルノーチームのレギュラー候補としても名前が挙がっていた(最終的にルノーはロシア人のピーター・ペトロフ選手を選択)。
実際佐藤選手自身、F1復帰に向けて精力的に動いていたようだ。「昨年の鈴鹿の日本グランプリでパドックを訪問し、それこそ全チームと話をさせていただいた。その中で交渉を進めてきたが、つい数週間前に最終的にチャンスがなくなったと分かり、インディカーシリーズの話にシフトした」(佐藤選手)と、最後の最後までF1チームとの交渉を続けていたことを明らかにした。佐藤選手は具体的な名前こそ明らかにはしなかったのでどのチームのことを指しているのかは不明だが、つい数週間前という具体的な時期から想像すると、ルノーがペトロフ選手をレギュラーに指名した時期と重なるので、おそらくそこまではF1の復帰を第一に考えていたが、その可能性がなくなったので、インディカーシリーズの交渉を本格化させたというのが一連の流れだろう。
佐藤選手はKVレーシングからインディカーシリーズに参戦する |
■昨年のインディ500を観戦して感じたインディカーシリーズの可能性
佐藤選手がインディーカーシリーズを本格的に検討し始めたのは、昨年の5月に米国のインディアナポリスモータースピードウェイで行われたインディ500を観戦したあとだと言う。「昨年のインディ500を観戦してよい意味での驚きと刺激を受けた。それから本格的にインディカーシリーズ(参戦)のオプションを検討し始め、それこそすべてのチームと話をした。その中で、KVレーシングは最後までシートを空けて待ってくれていたし、トップを目指すという観点から可能性があるチームだと考えた」「以前からインディカーシリーズには興味を持っていた、インディカーではシャシー、エンジン、タイヤすべてがワンメイクでイコールコンディション。もちろんチームの総合力が問われる戦いになるが、逆に言えばがんばれば誰にでも勝つチャンスがある。F1で頂点を目指していた気持ちと同じように、インディでもやるからには頂点を目指していきたい」(佐藤選手)と、インディカーには腰掛け気分ではなく、本格的に取り組んでいくのだという姿勢を強調した。
もっとも、F1の可能性も捨てたわけではなく「まずはインディカーシリーズで一歩一歩がんばっていきたいと考えている。そうして結果を出していけば新しい展開があるかもしれない」(佐藤選手)と、F1復帰の可能性にも含みを持たし、それを実現するためにもインディカーシリーズで結果を残していきたいと述べた。
佐藤琢磨選手(左)と、KVレーシングテクノロジーの共同オーナーであるジミー・バッサー氏(右) |
■佐藤選手が加入するのはKVレーシングテクノロジー
佐藤選手が加入するKVレーシングテクノロジーは、インディーカーシリーズに吸収されたチャンプカーシリーズの興行主でもあったケビン・カルコーベン氏と、1996年のCARTシリーズ(チャンプカーの前身、当時の米国オープンホイールレーシングの最高峰)チャンピオンであるジミー・バッサー氏の2人が共同オーナーを務めるレーシングチーム(2人のイニシャルからKVとなっている)で、2008年まではチャンプカーシリーズに参戦し、昨年からインディカーシリーズに本格参戦してきたチームだ。
昨年、KVレーシングテクノロジーは新人のマリオ・モラエス選手を走らせ、何度か表彰台に立つなどの結果を残しており、新興チームとしてはかなり有力なチームだと言ってよい。ただ、佐藤選手にとって厳しいのは、昨年のインディカーシリーズでは、唯一ジャスティン・ウィルソン選手がデイル・コイン・レーシングで優勝した以外は、チップ・ガナッシ・レーシング、ペンスキーの2チームがすべてのレースで優勝しており、事実上その2チームでの選手権という趣になってしまっていることだ。
KVレーシングテクノロジーが今シーズンに関してどのような体制(スポンサーやチームメイト)で参戦するかは明らかになっていない(2月23日に米国で発表される予定)ため、現時点でKVレーシングテクノロジーがどの程度の競争力を持っているのかもなかなか語れないところだが、昨年の状況を勘案すると決して楽なチャレンジではないことは事実だろう。
すでにテストなどを行っていると言う |
■9月に行われるインディ・ジャパンで結果を残したい
それでも佐藤選手は、非常に前向きに今回のチャレンジを考えているのが印象的だった。「2月15日にフロリダ州のセブリングへ飛んで、1時間半程度だったがテストに参加してきた。コクピットに戻ったのは2008年の末以来で、本当にうれしくて最高のプレゼントをもらった子供のような気持ちだった」(佐藤選手)と、レースに戻れることがうれしくて仕方がないという様子が報道陣にも伝わってくるほど。
報道陣からはインディカーシリーズの最大のイベントであるインディ500に焦点を絞っていくのか?という質問が出たが「インディ500は確かに重要なイベントだが、序盤だし、まずは一戦一戦確実に走っていくことが重要。2月24日、25日に行われる公式テストでチームとしっかりした仕事をして、開幕戦に備えたい。現時点で最も重要と考えているイベントは9月に行われるインディ・ジャパン。そこにターゲットをあわせて、応援してくれた日本のファンに恩返しをしたいと考えている」(佐藤選手)と述べ、9月17日~19日に栃木県のツインリンクもてぎで行われるインディ・ジャパンで結果を残したいと豊富を語ってくれた。
(笠原一輝)
2010年 2月 18日