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“インディ500ウィナー”佐藤琢磨選手のファンクラブイベント「TCM2017」レポート
レイホール移籍は「アンドレッティがホンダ陣営に残るか不透明だったため」
2017年12月11日 16:11
- 2017年12月10日 開催
インディカー・シリーズに参戦している佐藤琢磨選手は12月10日、自身のファンクラブの会員向けイベントとして例年年末に行なっている「TCM2017」を東京都渋谷区の山野ホールで開催した。
Car Watchでもこれまでたびたびお伝えしているが、佐藤琢磨選手は5月28日(現地時間)に開催された第101回「インディ500」で、シリーズ参戦8年目にして念願の初優勝。日本人初の快挙を遂げた大活躍の年になったこともあり、TCM2017のチケットはソールドアウト状態で、例年よりもさらに多くの観客を集めて盛大に開催された。
イベントでは、自動車ライターの大谷達也氏がゲストとして登場し、日本人初優勝を飾ったインディ500を中心にして、今シーズンの振り返りが行なわれたほか、佐藤琢磨グッズ抽選会、ジャンケン大会、サイン会などが行なわれた。
レイホールへの移籍は「アンドレッティがホンダ陣営に残るか不透明だったため」
TCM2017のオープニングでステージの幕が上がると、2017年シーズンに佐藤琢磨選手がドライブしたアンドレッティ・オートスポーツ26号車のカラーリングに塗られたダラーラ DW12・ホンダが現れるという演出でイベントが始まった。その後、佐藤琢磨選手が観客席を1周しながらステージへ向かうというファンには嬉しい演出も用意され、多くのファンと握手したりハイタッチしながらステージへと登壇した。佐藤琢磨選手は「レーサーになってから20年、追い続けた夢がなかった。サポートしていただいた皆さんのおかげ、ありがとう」と詰めかけたファンに呼びかけると、会場からはおめでとうの声が飛んだ。
今回のTCM2017には、先日ツインリンクもてぎで行なわれた「Honda Racing THANKS DAY 2017」(別記事「インディ500ウィナーの佐藤琢磨選手が凱旋走行を披露した『Honda Racing THANKS DAY 2017』レポート」参照)で日本で初めて一般公開、展示が行なわれたボルグワーナートロフィ(別記事「インディ500の優勝トロフィ『ボルグワーナートロフィ』、米国外で初の一般公開」参照)も展示されており、佐藤琢磨選手自身からファンに対して“トロフィにはめ込まれた自分の顔の位置”などが紹介された。
その後、自動車ライターの大谷達也氏が壇上に呼ばれ、司会のアナウンサーを交えて3人でのトークショー形式でイベントが進められた。スクリーンには2017年に行なわれたレースの映像が流され、それを見ながら佐藤琢磨選手、大谷氏、アナウンサーがトークを行なう形でイベントが進行されたが、大半は佐藤琢磨選手自身による解説で、TV中継では分からない裏話などが紹介された。
そこから、日本人として初めての優勝を果たしたインディ500での活躍に時間が割かれた、佐藤琢磨選手は「中盤でやや順位が下がったときに、ウイングを下げてダウンフォースを減らす方向にしようかという話が出た。しかし、そのあと天気が晴れ方向になっていきそうで、タイヤがキツくなっていくと考えたので我慢しようとなった。後半戦でトップのマックス・チルトンとバトルになったが、並ぶところまでいったがなかなか抜けなかった。そこで、エリオ・カストロネベスが来ていたので、エリオを前に出してチルトンを攻略する糸口にしようと考えた。抜かれた後は『エリオ頑張れー』と念を送っていた」と解説して観客を沸かせた。
そして「残り5周で、イエローが出たら嫌だなと思ってエリオを抜いてトップに立った。後はエリオを攪乱しつつ、エリオがどの段階で来るのかを見極めながら走っていた。チェッカーを受けた瞬間は、自分でも何を言ってるか分からなくてただ叫んでいた」と、インディ500でチェッカーを受けた瞬間を振り返った。
その後、そのよきライバルとなったカストロネベス選手からのビデオメッセージが紹介されたり、内閣総理大臣顕彰式、さらには米国のトランプ大統領が来日したときに、トランプ大統領夫妻、安倍総理大臣夫妻との晩餐会に招待されたエピソードなどが紹介された。
また、2018年シーズンに、アンドレッティ・オートスポーツからレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLLR)に移籍することになった経緯について、佐藤琢磨選手は「シーズン中からレイホールの15号車の速さがずっと気になっていた。2012年にボビー(RLLRの共同オーナーであるボビー・レイホール氏)のところで走っていて、そのときからずっと戻ってこいと言ってくれていたが、体制などが整わなくてずっと実現していなかったが、来年はどうかという話が持ち上がった。そのころ、マイケル(アンドレッティ・オートスポーツのチームオーナーであるマイケル・アンドレッティ氏)からエンジンメーカーの変更がある可能性があって、シボレーでも走れるかと聞かれたが、それは無理でしょうと」。
「ホンダさんとも相談して、マイケルの決断を待つということもできたが、チームの財政状況を見ているとシボレーに行く可能性もあって、他の選択肢が埋まってしまってから慌てて下位のチームと契約というのは避けたかった。レイホールは2017年こそディクソン(チップ・ガナッシ・レーシングのスコット・ディクソン選手)に次いでホンダ勢2位だが、2015年と2016年はホンダ勢トップで、メカニカルグリップに強みを持っている。それらを評価してレイホールへの移籍を決めた」と説明した。
インディ500の佐藤琢磨選手は「マイクハナサーズ(?)」などの裏話が明らかにされる
トークショーの後半は、ファンからの質問に佐藤琢磨選手が答えるQ&Aコーナーとなった。「2018年のインディ500で現地観戦するとしたらお薦めは?」という質問に対しては「1コーナーの迫力が凄いが、2階席は毎年買っている人がいるので入手が難しい。1階席の真ん中あたりぐらいまでがお薦め」と答えた。
また、ファンの少年から出た「レースに1年出るのにいくらぐらいかかるのですか?」という直裁的な質問には「結構高い(笑)。チャンピオンを狙うチームであれば10億円ぐらいが必要になる、でも、心配しなくてもいい。優勝すれば戻ってくるから(笑)。大事なことはレースを始めるとき、プロになるとスポンサーを得ることができるから。レースをするということは多くの人に支えられているということで、常にそうした方々に感謝を伝えることが大事」と解答した。
ビクトリーバンケットと呼ばれるインディ500表彰イベントの裏話を、というリクエストには「ドライバーが決勝順位の順番に呼ばれてスピーチする。順位が上がっていくにつれて盛り上がっていくが、1位のドライバーだけがチームメカニックを呼んで、勝利した車両も展示される。下位だと持ち時間が少ないのだが、優勝者は『いくらでも話していい』と言われる。たぶん、主催者は僕にマイクを渡したらどうなるのか知らなかったのだと思う(笑)。気がついたら15分、18分となった、式の進行を示すディスプレイに“早く、早く”とメモが出てきて、最後はプレゼンターが早くしろと言い出す始末だった(笑)。優勝したのにもっと“早く”と言われるとは思わなかった」と会場を笑わせた。
また、アスリートであればすべてうまくいってるばかりではなく、ときには批判されたりもすると思うが、どのように乗り越えているか?という質問には「信じること。夢があって追いかけて、叶えたい目標を達成する。それを具現化するにはアクションを起こさないといけない。もちろん失敗することもあるので、そのときはネガティブなことを言われることもあるけど、なるべくそういうのは見ないようにして、なんで失敗したのかをよく考える。失敗はチャンスで、徹底的に原因を考えて解決策を考えていけば、また成長できる。自分も1987年に鈴鹿サーキットでF1を見てから30年で夢が叶った、信じる力が大事だ」と述べた。
最後に、カートをやっているという少年の「レーシングドライバーとしてトレーニング以外に大事なことはあるか?」という質問には「走ること以外に大事にしていることは、感謝の気持ち。レースには多くの人が関わっている、クルマを作るのにいくらかかっているか、そういうことがあるからレースができる。1人で頑張れることは限界があって、そこに感謝の気持ちが生まれれば、それを何かの形でお礼をお返しできるチャンスがあり、それが次の世代につながっていく」と、述べた。
その後、佐藤琢磨選手のグッズをプレゼントする抽選会、さらには、ジャンケン大会が行なわれ、抽選会ではインディ500のミルクボトル、ヘルメットのバイザー、インディ500のパンフレット、キャップ、シャツ、グローブ、シューズなどがプレゼントされた。ジャンケン大会ではシューズ、バイザー、キャップなどが景品として用意されたほか、子供向け限定でイラスト15枚が用意された。その後、参加者全員による記念撮影、握手会などが行なわれて閉幕した。