ニュース

「2020年は着実にチャンピオンを狙う年にしたい」。ファンイベント「TCM 2019」で佐藤琢磨選手

熱田護カメラマンが写真集「500GP」を手に登壇

シーズンの振り返りと来年に向けた意気込みなどを語る佐藤琢磨選手

 2017年のインディアナポリス500マイル・レースで優勝した佐藤琢磨選手は、公式ファンクラブ「Takuma Club」向けのイベントとして「TCM(Takuma Club Meeting)」を例年年末に開催しており、2019年も12月14日に「TCM 2019」を都内で開催した。佐藤琢磨選手は2019年のインディカーシーズンを振り返ったほか、足を運んだファンからの質問に答え、最後には参加者1人ひとりとの握手会を行なった。

 また、握手会で佐藤琢磨選手のオフィシャルカメラマンを務める松本浩明氏によるミニトークショーが行なわれたが、そこに特別ゲストとしてF1カメラマンの熱田護氏も登壇。熱田氏がインプレスから発売する予定のF1写真集「500GP」を紹介するひと幕もあった。

2つのポールと2勝を挙げた佐藤選手の2019年インディカーシーズン

スペシャルトークショー

 2017年のインディ500ウィナーである佐藤琢磨選手だが、その2017年シーズンが頂点だったということはなく、その後も確実に勝ち星を挙げている。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングにチーム移籍して最初のシーズンとなった2018年は、終盤戦のポートランドで1勝を獲得。その勢いを次シーズンにつなげるべく、2018年はシーズンオフに入る前にチームとの契約更新を発表した。インディカーでは多くの場合、契約に関する発表はシーズンオフに行なわれることが多いのだが、それだけチームが佐藤琢磨選手に残ってもらうことを重視したことの表われと言えるだろう。

佐藤琢磨選手
MCを務めた川崎かおりさん

 そうして始まった2019年シーズンだが、最初のハイライトは第3戦の「HONDA INDY GRAND PRIX OF ALABAMA」だ。このレースにおいて佐藤琢磨選手は今シーズン初めてとなるポールポジションを獲得し、そのままポール・トゥ・ウィンを実現した。

 佐藤琢磨選手がインディカーでポール・トゥー・ウィンを実現するのは初めてのことで、「もともとバーバーは好きなコース。チームメイトのレイホールも予選2位で、ロードコース初ポールを実現した。スタートダッシュを狙ってレッドタイヤ(オルタネイト・タイヤ)を選択し、後続をぶっちぎった。タイヤ交換で5秒ぐらいのミスをして抜かれることもあったが、最後のフルコースコーションからのリスタートを決めて、後続を辛くも振り切ってゴールした」とレースを振り返った。

第3戦 アラバマでポールポジションを獲得
ポールポジションのトロフィ
レース展開の解説
第3戦 アラバマで優勝
第3戦 アラバマの優勝トロフィ

 また、その後に行なわれたインディ500では、序盤に周回遅れになりながらも終盤に追い上げて3位になったが「昨年のインディ500はクルマがまったくだめだったが、今年はレース中のクルマの動きはよかった。終盤に追い上げて、前のパジェノーとカーペンティアを追い上げている時はリアが重く、クルマが合わせ込めていない状況で2台に追いつくのは難しかった」と述べ、かなり僅差に見えたインディ500での3位だが、実際には苦しい状況だったと説明した。

インディ500のレース解説

 そしてテキサスでの第9戦「DXC TECHNOLOGY 600」では再びポールポジションを獲得。「エンジニアとセッティングを詰めることができて、ポールを獲得した」と説明した佐藤琢磨選手だが、決勝レースではピットボックスに止まり切れないというミスもあり、レースで上位に入ることができなかった事情などを説明した。

テキサスでポール獲得
テキサスでのポールトロフィ

 そして、多くのファンに注目されたポコノでの第14戦「ABC SUPPLY 500」における、ライアン・ハンター・レイ選手、アレクサンダー・ロッシ選手とのスタート時のクラッシュで批判を受けた件については「TV放送だと僕が動いたように見えていたが、何もしていないのにこんなことになって残念だと思っていた。その後、チームがオンボード映像やテレメトリーのデータを確認して、僕が動いていないことを証明してくれて、非難の声もなくなっていった。そんな辛い時にはファンの声が本当に支えになった」と述べた。

ポコノではスタート後にクラッシュ
チーム独自のオンボード映像

 そのポコノでのレースから1週間後に行なわれた第15戦「BOMMARITO AUTOMOTIVE GROUP 500」では、逆境を見事に跳ね返して優勝。これにより、ロード、ストリート、オーバル、ショートオーバルという4種類のコースすべてでの優勝を実現することになった。「レースで勝つのはいつでも嬉しいけど、前の週のポコノで言われのない非難を受けた状況でのレースということで、チームのみんなが喜んでくれた。信じられない優勝で、神様がいるんだなぁとあらためて思ったぐらい」とその時の気持ちを説明した。

第15戦で今期2勝目
マディソンの優勝トロフィ

 このように、佐藤琢磨選手の2019年シーズンは、2ポール、2勝というこれまでのキャリアで最高の結果となっている。ダブルポイントのレースとなるシーズン最終戦(第17戦)で上位フィニッシュできなかったこともあり、選手権のランキングは9位になってしまっていたが、最終戦までは6位につけるなど結果を残しており、今シーズンで3勝以上した選手はチャンピオンになったジョセフ・ニューガーデン選手とインディ500で勝利したサイモン・パジェノー選手しかいないことを考えれば、佐藤琢磨選手がすっかりインディカーシリーズの「勝てる選手の1人」として数えられるドライバーになったと言えるだろう。

チームスタッフからのコメント。エースドライバーとして頼られる存在になっている

 トークショーの終盤では、英国 グッドウッドで行なわれたオールドレースマシンの祭典「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で伝説的なF1マシン「マクラーレン ホンダ MP4/4」に乗って感動したことなども語られ、2020年について「来年はドラマなく着実に走りたい。この間も2日間チームに行って技術ミーティングをしてきた。こんなにやることがあったんだというぐらいチームは多くのことをやっている。来年はしっかりとチャンピオンシップを狙っていきたい。ここ数年は成績が残ってきているが、自分に残された時間も多くはないので、2次曲線的に成績を上げていきたい」と述べ、2020年はタイトルを狙う年にしたいと述べた。

マクラーレン ホンダ MP4/4の運転で感動したと語る佐藤琢磨選手

2019年のレース活動を漢字1文字で表現するなら「優」と佐藤琢磨選手

質問コーナー

 トークセッションの後には恒例の質疑応答のセッションを実施。指名されたファンが質問をして佐藤琢磨選手が答える形で進行された。質疑応答の後にはプレゼント抽選会、じゃんけん大会も行なわれた。

――自分はF1のメカニックを目指してこれから海外に行こうと思っている。佐藤選手は英語をどうやって勉強したのか?

佐藤琢磨選手:最初の方は酷かった。英語は嫌いじゃなくて映画を字幕で見るなどしていたので、英語をしゃべりたいと思っていた。鈴鹿のスクール時代から英語を勉強し始めたが、本格的に勉強するにはすべてを英語にするしかないと思って、イギリス時代は老夫婦の家にホームステイさせてもらった。それでだんだんと何を言っているか分かるようになってきた。当初はすべて日本語に直していたので遅かったが、それが変わるようになるまで1年ぐらいかかった。マネージャーもメカニックもすべてイギリス人だったので、ある時から話せるようになっていった。メカニックとも最初は通訳してもらっていて、なかなか通じなくてお互いにもどかしかったけど、だんだんとお互いに理解が進んでいった。そうして一緒の時間を過ごすことで、英語力は上がっていく。

――レース以外にはまっている趣味は?

佐藤選手:クルマは好きなので……、それ以外で言うと今は時計。かつてはセイコーさんと、今はブライトニングさんと一緒にやっていて、いろいろな時計を着けている。即位の礼に参加させていただいた時も時計を貸していただいて着けていった。時計はクオーツよりゼンマイで動くのが好き。

――今年のレース活動を漢字1文字で表現するとしたら何か?

佐藤選手:そうだなぁ、「優」かな。優勝の優、ポコノの後にみんなの優しさに触れた。

――SRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)のプリンシパルを務められていますが、この間のレースで卒業生のレース前の態度が問われていたが……。

佐藤選手:前後の詳しい事情を知らないので、何とも言えませんが、何か事情でもあったのではないか。

――カートで速く走る方法を教えてほしい。

佐藤選手:100万円ぐらいあれば(笑)。練習する時はうまい人、速い人の走りを見るのがいいだろう。ラップタイムと照らし合わせて、それを自分の走りに取り込んでいくのがいい。

――来シーズンのエアロスクリーン導入で、各チームの勢力図は変わってくるか?

佐藤選手:勢力図は大きく変わると思う、もちろん、レイホールチームが1位になる!(笑)。正直どうなるかは分からない。チームでは科学的に検証していて、かなり空気の流れ、空力特性が変わる。現在、HPD(米国でのホンダのモータースポーツ関連の研究所)で風洞実験などをしているが、ある程度は答えが出はじめている。重量物が上に乗るので、メカニカルなセッティングなどは変わっている。ホンダ代表、シボレー代表のチームが実走行をしており、そのデータを全チームでシェアしているが、やっぱり実走行をしているガナッシやペンスキーは強い。われわれのチームも秘密兵器が2つぐらいあって、それがどうなるかはふたを開けてのお楽しみに。

――将来的に自分のレーシングチームを作る可能性はあるか?

佐藤選手:それは夢としてある、F1だと現実味がないけど、インディカーはエントラントとドライバーが一緒という例は少なくない。可能性の話をすればゼロではない。何かきっかけがあればやりたいとは思っている。今、日本でも次世代の子たちも育ってきており、その子たちが上がってくるまでは頑張りたい。

抽選会の様子

――日本人が世界で戦うために足りないことは何か?

佐藤選手:自分も世界で戦っているという意識があるけど、足りないものはいっぱいある。が、スキルで劣っているとは考えていない。ドライバーにとって重要なのはチームの求心力、まわりを引き込む力だ。例えば2輪では日本人が何人も世界チャンピオンになっていることからも分かるように、ライディングスキル、ドライビングスキルでは劣っていない。その上でチームが1つになれば、2勝挙げたりできるし、チャンピオンにだってなれる。その意味では本物を知って、触れることが大事だ。そうしないと本当の意味で体に入ってこない。そういうことに気付く力があれば日本人という垣根を取り外せる。

――日本グランプリの週に東京で着物を作る時にセブ(セバスチャン・ベッテル選手)と会ったと聞いたが?

佐藤選手:セブと会ったのは本当に偶然で、着物のお店でテーブルの上で布を広げながら話をしていたら、外国人が入ってきて、どっかで見たことあるなと思ったら、あれセブじゃんということになった。セブもちょっと空いてる時間にフラッと日本文化に触れたいと立ち寄って着物を作りたいという話だった。久兵衛でご飯を食べる前の30分だけ空いているということで、急いで試着するのに付き合った(笑)。その後、お店の人が完成させてセブに送ったらしい。何よりお店の人がびびりまくっていた(笑)。

じゃんけん大会の様子

――来年のインディでバトルしたいドライバーは誰か?

佐藤選手:アレクサンダー・ロッシとはやりたくないよね(笑)。でも、彼は前に来るだろう(笑)。エリオは来年出るかどうか分からないし、自分としては正直誰かということなくて、その時に乗れているドライバーが前に来ると思うので、そのドライバーをやっつけたい。強いて言えば、来年はペンスキーさんがインディカー全体のオーナーになったので、ペンスキーには負けたくないかな。ただ、どんなドライバーが来ても、2012年のような失敗はしない(笑)。

(仲よしとされるウィル・パワー選手はどうかと問われて)ウィルとはオーバルでホイール・トゥ・ホイールのバトルはなかったですね。どうもトニーがオーバルだけに出るのではないかという話があって、来年、通年でシリーズ戦に参戦する40歳超えのドライバーは自分だけになってしまって、最年長みたいなので頑張っていきたい。

キッズ向けじゃんけん大会

――来年は最年長になるということですが、体力や体調の方は問題ないか?

佐藤選手:実はこれから人間ドックに入ってチェックする(笑)。毎年インディカーでは厳しい検査があって、そこで1回も引っかかったことはないのだが、さすがにチェックはしておいた方がいいだろうと。

――キャノピーが入るなどで勢力図は変わると思うが、来シーズンの展望を

佐藤選手:来シーズンに関しては、今年上位に入れずに取りこぼしたところを上げていかないといけない。去年は18位に終わってしまったようなサーキットを8位に上げて、平均して順位を上げていかないといけない。チャンピオンになるためには平均して5位というのがマジックナンバーで、常にトップ5に入ることが大事。得意不得意をなくしていかないといけない。来年は開幕戦からポール・トゥ・フィニッシュを目指す。

松本カメラマンによる全体写真撮影

松本カメラマンと熱田カメラマンのトークショーが行なわれ、熱田カメラマンの写真集「500GP」をアピール

左からMCの川崎かおりさん、熱田護カメラマン、松本浩明カメラマン

 イベントの後半は、佐藤琢磨選手と参加者1人ひとりの握手会が行なわれ、それと平行してミニトークショーを実施。最初は佐藤琢磨選手のオフィシャルカメラマンを務める松本浩明氏とMCの川崎かおりさんによるミニトークショーが行なわれた。

 松本カメラマンは佐藤琢磨選手が欧州でジュニアフォーミュラーを走らせている時代から撮影を続けており、F1時代、そして現在もインディカーシリーズに帯同して佐藤琢磨選手の撮影を続けている。モータースポーツ系のメディアに掲載されている佐藤琢磨選手の勇姿は松本カメラマンが撮影している写真であることが多く、ファンからもよく知られた存在だ。

松本カメラマンと2020年の佐藤琢磨選手のカレンダー
松本カメラマンの写真を使った2020年の佐藤琢磨選手のカレンダー
松本カメラマンのサイン会

 そんな松本カメラマンが撮影した写真を使って作成された2020年のカレンダーがTCM 2019のブースで販売されており、合わせて松本カメラマンのサイン会も行なわれていた。太っ腹なことに、別にカレンダーを買わなくてもサインしてもらえるとあって、多くのファンがさまざまなグッズにサインしてもらっている姿が印象的だった。なお、カレンダーは今後、前出の佐藤琢磨選手公式ファンクラブのWebサイトでも販売する計画があるということなので、TCMの会場で買えなかったファンはそちらをチェックしてみるといいだろう。

JRPAの写真展「COMPETITION」のチラシ

 また、松本カメラマンはJRPA(日本レース写真家協会)の会員であるが、その松本カメラマンの写真も展示される写真展「COMPETITION」が、東京会場では2020年1月15日~26日にAXISギャラリーで、名古屋会場では2020年3月11日~22日にアーツギャラリー名古屋で開催される(別記事参照)。その松本カメラマンと佐藤琢磨選手によるトークショーが2年に1度開催されており、2020年1月にそのトークショーが行なわれる予定で、「1月17日ごろじゃないかと思っている」と、まだ決定していないものの、開催予定であることが明らかにされた。年内に佐藤琢磨選手の公式ファンクラブやJRPAのWebサイトなどで告知する予定ということなので、佐藤琢磨選手のファンはこちらも要注目だ。

熱田護カメラマン

 ミニトークショーの後半には、松本カメラマンの盟友と言えるF1レースカメラマンの熱田護氏が登壇し、松本カメラマンとのトークを繰り広げた。熱田カメラマンはF1での撮影が500戦を数えるというベテランカメラマン。近年のF1は年間レース数が21戦になっているが、かつては16戦だったことを考えると、実に30年近くの歳月がかかっている計算になる。熱田カメラマンは、そうした500戦の撮影素材を元にした写真集「500GP」をインプレスから出版する予定になっており、そのサンプルを会場に持参してファンに公開した。もちろん、佐藤琢磨選手のF1時代の写真も掲載されており、そのページをチラ見せしていた。

佐藤琢磨選手のコメントも帯に入っている熱田カメラマンの写真集「500GP」
写真集発売を記念する写真展「500GP フォーミュラ1の記憶」も開催
佐藤琢磨選手の勇姿も収録

 熱田カメラマンによれば、この写真集の発売を記念して「500GP フォーミュラ1の記憶」という写真展が12月19日~2020年2月8日にキヤノンギャラリーS(東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階)で開催予定とのこと。詳しくはデジカメ Watchの記事を参照いただきたい。また、この開催に合わせ、12月21日に佐藤琢磨選手とのトークショーが行なわれる予定になっているが、こちらはすでに満席となって募集は締め切られているとのことだった。

会場に展示されていた佐藤琢磨選手のレーシングスーツとヘルメット