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【インタビュー】日本人で初めて世界三大レースの「インディ500」で優勝した佐藤琢磨選手に聞く

ホンダ チーフエンジニア 田辺豊治氏のコメントも掲載

2017年5月28日 開催

日本人として初めて世界三大レースの「インディ500」で優勝した佐藤琢磨選手

 5月28日(現地時間)、世界三大レースの1つである101回目の「インディ500」を佐藤琢磨選手が優勝した。日本人がこのインディ500に優勝するのは初めて。優勝直後に行なわれた会見インタビューをお届けする。

1位でチェッカーを受ける26号車 佐藤琢磨(ホンダ)

 佐藤琢磨選手の26号車はホンダエンジンを搭載しており、佐藤琢磨選手がF1時代から仕事でかかわりをもっており、現在のインディカーのホンダエンジンを統括するホンダ・パフォーマンス・デベロップメント(以下、HPD) レースチーム チーフエンジニア 田辺豊治氏のコメントも掲載する。

──今の気持ちを教えてください

佐藤琢磨選手:もう信じられないですね。いや、うれしいですし、でも本当に勝ったんだという。何か現実ではないみたいで、今もあんなに天気がよかったのに嵐になっているし、誰も観客も1人もいなくなっているし。

 だけど35万人のなかで走るということだけでもスペシャルで、この5月に入ってから、チームメイトとともにクルマを作り上げてきた結果が、こういう形で、最高の形でレースをおくることができたので本当に幸せです。

──スタートからの状況を教えてください。意外とおとなしめに行きましたね?

佐藤琢磨選手:そうですね。セカンドロウ(2列目)からのスタートだったので、無理する必要はないですし、TK(トニー・カナーン選手)がすごい勢いできたのがちょっとびっくりしましたが、でも基本的に5、6番手につけたいなというイメージだったので、多少ポジションは落としましたが、まずはクルマを感じながら、その後のスティントをどう走っていこうかという意味では、そこそこにいいスタートだったと思います。

──ちょっと飛びますが、3スティント目あたりで順位が落ちる苦しいシーンがありましたが、あの辺りの事情は?

佐藤琢磨選手:ピットストップでちょっとてこずってしまって、コースにリスタートしてからの勢いを失ったんですね。モメンタムを失って1台抜かれて、その後、2台、3台、4台と一気に抜かれて、一気に下まで落ちたのですが、落ち着いて1台1台また抜いていって、最終的にはP6(6位)まで復活できたところがすごくよかったと思います。

──多分17位くらいまで落ちたのではと思います。

佐藤琢磨選手:あ、17位くらいまで落ちましたか。でもスティントがいくつか違うシークエンスの人も入っていたと思うので。それを除いたら……。それでも10台くらい抜かなきゃいけなかったですね。

──今日は大きい事故が何度もあって、後ろにいればいるほどリスクが高くなる感じがあっと思うのですが。

佐藤琢磨選手:そうですね。スタート直後は非常にリードするシーンもあって、クリーンな空気の中、前方で走るのはすごく楽でした。その代わり、後ろからチームメイトが来ていたので、練習のようにグループランで行こうかなと思ったのですが、なかなかうまくいかなくて、一気にポジションを落としちゃいました。その後は、落ち着いて順位を戻せたのはすごくよかったですね。

──レース中のクルマの自分の速さはどのような感じでしたか。たとえば、ハンターレイも強かったし、アロンソもずっと速いし。ロッシもそうでしたよね。

佐藤琢磨選手:そうですね。どちらかというとライアン(ライアン・ハンターレイ選手)と僕が今回は非常に似ているセッティングで、アレックス(アレキサンダー・ロッシ選手)とフェルナンド(フェルナンド・アロンソ選手)はかなり軽めの。軽めというのはダウンフォースが軽めだったので、彼らが先頭に出たときは速いのが分かっていましたし、クルマが2、3台のトラフィックのときは正直言って彼らのほうがちょっと速かったですね。ただ、ライアンがリードし始めたときには、僕は後ろ下がっちゃたんですけど、自分のクルマも同じようなパフォーマンス出せると思っていましたし、逆にトラフィックに入ってからビックリしましたね。トラフィックのタービュランス(乱流)がすごかったので、6速ギアも回りきって、追いかけるだけで精一杯で、とくにリスタートの直後はみんながニュータイヤで、ニュータイヤ状態だとかなり(アクセルを)踏んできますから、正直その中ではほとんど順位を上げられなかったし、逆に自分が速いとは思わなかったです。

 ただ、10ラップ、20ラップしてくるとタイヤのデグラデーション(タイヤの表面が荒れること)が始まって、ここをギャレットと一緒に注意してクルマを作っていたんですね。ですから非常にクルマが安定していて、デグラデーションというか性能劣化は一番少ないクルマの1つだったと思います。

 ですから15ラップすぎからどんどん順位を上げることができて、そこが今日の強さだったと思いますね。

──終盤の危ないシーンがありましたけど。やはりエリオとのところが大変でしたか?

佐藤琢磨選手:そうですね。さっきのクラッシュの話の続きになってしまいますが、中段グループにいるとああいうアクシデントも起きてしまうので、そこら辺は自分も攻めるところと引くところと今日はかなり意識してやったつもりなんですけど、最後の10周ですね、リスタートしてから、あそこは本当に行かなきゃいけないところでエリオと3ワイドでターン1を取った(トップに立った)ときというのは、あのオーバーテイクが今日の勝ちにつながったと。あそこでクッションを置いて、エリオが僕のところに来るまで数周かかっていて、そこはすごく助かったし。ただ、ラスト3ラップで彼らに追いつかれて、また、サイドバイサイドになりましたけど、ターン1(について)今年は自分もイメージをずっと持っていたので、今回はきっちりと正しい方向でできました。

──夜中のレースであるにもかかわらず多くの日本のファンが見られていたと思うので、日本のファンにメッセージというかコメントをお願いします。

佐藤琢磨選手:本当にファンの皆さんに感謝してもしきれないですね。僕がレースを始めたときからずっと応援していただいて。ファンだけでなく、スポンサーもそうですし、ホンダのスカラシップのプログラムを取ってここまで来ましたらから。長い道のりでしたけど、本当に、こういう形でインディ500を勝ったことはうれしかったです。日本もまだまだ復興途中ですごく大変な状況なので、僕自身も“With JAPAN”のプログラムをもっともっと強くして、子供達に夢を与えたいと思っているし、自分自身も今日勝ったことでさらにもっと上に上がりたいなという気持ちが強くなっているので、まだまだ続けていきたいなと思っています。

──インディ500の優勝は、これまでの琢磨選手のレース人生において、どういった意義がありますか?

佐藤琢磨選手:どのレースも優劣をつけることはできないと思いますね。ロングビーチの優勝もとってもスペシャルだったし。だけどインディ500を勝つというのは本当に今までの自分のレース人生の中でも最高の瞬間ですし、この優勝は自分だけではなくて、日本もそうだし、チームにとってもそうだし、ホンダにとっても本当にスペシャルな優勝だと思うのでまだ実感が湧かないのが正直なところです。

HPD レースチーム チーフエンジニア 田辺豊治氏のコメント

 最高の結果で、インディ500を終えることができ、まず、チーム・アンドレッティ、HPDのスタッフ、日本でサポート、応援してくれた本田技術研究所をはじめとするホンダの仲間、ホンダカーズの皆さんに感謝させていただきますとともにこの勝利を分かち合いたいと思います。

 1994年からHondaとしてアメリカンオープンホイールの頂点に挑戦してきましたが、日本人ドライバーの佐藤琢磨選手とともに勝利できたことに、最大の感謝とともに「おめでとうございます」と言わせていただきたいと思います。ただ、アロンソ選手をはじめとするエンジンが原因でレースを終えたドライバー達には申し訳ない気持ちでいっぱいです。いち早く原因をつきとめこのあとのレースにつなげていきたいと思います。

 日本のレースファンの皆様の声援に感謝するとともに今後ともご声援いただきますようお願いいたします。

佐藤琢磨選手の優勝パレート。オープンカーに乗ってコースを1周した