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インディ500ウィナーの佐藤琢磨選手が凱旋走行を披露した「Honda Racing THANKS DAY 2017」レポート
オーバルコースをインディカーが震災後初めて走行
2017年12月4日 20:23
- 2017年12月3日 開催
本田技研工業は12月3日、栃木県茂木町のツインリンクもてぎで「Honda Racing THANKS DAY 2017」を開催した。
Honda Racing THANKS DAYは、ホンダのレーシング部門であるHonda Racingのファン感謝デーとして開催されているイベントで、例年12月初旬に行なわれている。2016年のHonda Racing THANKS DAYは大人前売りで2000円というチケット代が設定されていたが、2017年のHonda Racing THANKS DAYの入場料は無料(駐車料金は有料)になったこともあり、公式発表による観客数は約2万4000人と多くのファンがツインリンクもてぎを訪れた。
今年の目玉は、言うまでもなく5月28日(現地時間)に米国で行なわれた「インディ500」を日本人として初めて制した佐藤琢磨選手による凱旋ラン。2011年の東日本大震災で被災したツインリンクもてぎのオーバルコースを、インディカーが走れる程度まで修復して行なわれた佐藤琢磨選手の凱旋ランは、今年のインディ500で使用したシャシーとエンジンがそのまま利用されているという豪華な仕様。インディ500ウィナーのエンジンサウンドがツインリンクもてぎに響き渡った。
東日本大震災以来のインディカーによるオーバル走行。最後はドーナツターンも
ツインリンクもてぎのツイン(2つの)リンクという名称は、オーバルコースとロードコースという2つのコースを持っていることに由来している。だが、現在ツインリンクもてぎで使われているのはロードコースのみで、オーバルコースはロードコースで例えばSUPER GTなどのレースが行なわれるときに駐車場として活用されるなど、本来の用途ではない使われ方に留まっている。
というのも、オーバルコースは2011年の東日本大震災で被災し、コース上に多くのバンプ(凸凹)ができてしまい、とてもオーバルコースを使ったレースができる状況ではなくなってしまったからだ。このため、2011年に開催された(今のところ最後の)Indy Japanは、オーバルコースではなくロードコースを使っており、オーバルコースでインディカーがレースをしたのは2010年のIndy Japanが最後になっている。
佐藤琢磨選手は2010年からインディカー・シリーズにフル参戦しているため、2010年のIndy Japanにも参加しており、そのときが佐藤琢磨選手にとって最初で最後のツインリンクもてぎでのオーバルレースになっている。今回、佐藤琢磨選手の凱旋走行をロードコースでなくオーバルコースで行なうため、ツインリンクもてぎではオーバルコースの一部に補修を実施。レースができるまでとはいかないものの、インディカーを走らせられるぐらいには修復され、今回のオーバルコースでのデモ走行が実現した。
その佐藤琢磨選手がドライブしていたのは、5月に行なわれたインディ500で優勝したシャシーそのもの。ホンダの関係者によれば、このシャシーはホンダがアンドレッティ・オートスポーツからすでに購入しているとのことで、今後はツインリンクもてぎのコレクションホールなどに動態保存される可能性が高いという。日本のファンからすると、あの記念すべき日本人初優勝のシャシーが、来年以降に別のドライバーが走るために使われるのではなく、なんらかの形で保存されるというのは嬉しいことだと言える。しかも、今回のデモ走行で佐藤琢磨選手自身から、搭載されているエンジンも、インディ500で優勝したエンジンそのものだということが明らかにされた。
佐藤琢磨選手によれば、シーズンのエンジン利用制限いっぱいまで利用した後、ピストンや消耗品などを交換した個体ということで、エンジンブロックなどはインディ500で使ったものということだった。このため「インディ500で轟かせていた音そのもの」(佐藤琢磨選手談)というエンジンサウンドを、Honda Racing THANKS DAYに参加したファンは楽しむことができた。
デモ走行では、まず最初にオーバルコースのピットでエンジンを始動。コースインして数周した後にメインストレート上にマシンを停止して、佐藤琢磨選手からファンへの挨拶が行なわれた。その後、再びメインストレート上でエンジンをスタートして走行を開始した佐藤琢磨選手は、やはり数周してチェッカーフラッグを受けると、メインストレート上で何度もドーナツターンを披露して詰めかけたファンを喜ばせた。
SUPER GTフル参戦を発表したバトン選手は多くのイベントに登場
今回のHonda Racing THANKS DAYでは、インディ500の王者となった佐藤琢磨選手だけではなく、もう1人の主役が存在した。それが別記事(ジェンソン・バトン選手、2018年のSUPER GTフル参戦を電撃発表)でも来シーズンからSUPER GTに参戦することをお伝えしたジェンソン・バトン選手だ。
こうした発表は、記者会見のようなフォーマルな形で行なわれるのが通例だが、今回バトン選手が自身のSUPER GTフル参戦を明らかにしたのは、グランドスタンドプラザに設置された特設ステージで行なわれたファン向けのトークショーの中だった。それだけバトン選手が自分自身の口から日本のファンに伝えたかったということだろう。
バトン選手のファンサービスはそれだけではない。ドライバーのカート大会に参加したり、後述するSUPER GTの模擬レースに、マクラーレン・ホンダの正ドライバーに今年昇格したストフェル・バンドーン選手とコンビを組んで参加したりと、さまざまな走行や催し物、サイン会などに積極的に参加している印象だった。
そして極めつけは、“第2期ホンダF1時代”のマクラーレン・ホンダF1マシンのデモ走行に、バトン選手とバンドーン選手が参加したことだ。バンドーン選手は1988年に16戦15勝を実現してアイルトン・セナが初めてのチャンピオンを獲得した伝説のマシン「マクラーレン・ホンダ MP4/4」をドライブ。バトン選手は1991年にアイルトン・セナが最後のF1チャンピオンを獲得したマシンである「マクラーレン・ホンダ MP4/6」をドライブした。
F1におけるマクラーレン・ホンダのコンビネーションは今年で終了してしまうが、その最後の年のHonda Racing THANKS DAYで、現代のマクラーレン・ホンダの2人のドライバー、しかもどちらもホンダに深い敬意を払っているドライバーが第2期のマクラーレン・ホンダのF1マシンに乗って走ったことは、ファンにとって嬉しいイベントとなった。
なお、パドックにはトロロッソカラーに塗られた「N-BOX カスタム」も展示されていた。N-BOXは「2017-2018 日本カー・オブ ・ザ・イヤー」の最終選考の候補である「10ベストカー」にもノミネートされているホンダの軽自動車で、軽自動車ながらADAS(先進安全運転機能)となる「Honda SENSING」が全車に標準装備されることなどで人気を集めている。
現場に足を運んでいたファンにも、すでにレッドブルやトロロッソのジャンパーを着ている人がちらほらいるなど、2018年に向けてトロロッソ・ホンダも動き始めている印象を受けた。そのトロロッソ・ホンダのドライバーに決定しているピエール・ガスリー選手も、スーパーフォーミュラで今年所属したTEAM 無限のSF14をドライブして登場しており、バトン選手、バンドーン選手、ガスリー選手という新旧ホンダF1ドライバーの3人が並ぶ豪華なイベントでもあった。
SUPER GT、スーパーフォーミュラ、WTCCなどさまざまなホンダレーシングカーが走行
このほかにもロードコースでは、SUPER GT、スーパーフォーミュラという日本の2大カテゴリーに参戦するホンダ車両を利用した模擬レースが行なわれた。とくにSUPER GTの模擬レースには、現行の「NSX-GT」の前の車両になる「HSV-010 GT」、さらにはNSX-GTの開発車両が99号車のカーナンバーをつけて参加した。
その99号車をドライブしたのも、バトン選手とバンドーン選手という今季のマクラーレン・ホンダF1ドライバー(バトン選手はリザーブだが)の2人。とくに来シーズンからSUPER GTにフル参戦することを発表したバトン選手にとってはいいテストの機会になったかもしれない。その一方でバンドーン選手は、この前日のリハーサルでわずかに乗ったとはいえ、SUPER GTの車両を走らせるのはほぼ初めての機会。ドライバー交代終了後のピットアウト時にはエンスト寸前になるなど、やや苦戦している様子だった。
記者が気になったのは、この99号車のタイヤにブリヂストン製を使っていたことだ。ホンダの開発マシンのタイヤがブリヂストンであると分かったことに加え、今回バトン選手は初めてSUPER GTのマシンでブリヂストンのタイヤを履いたことになる。8月の「鈴鹿1000kmレース」にスポット参戦したときは横浜ゴムのタイヤを履く16号車 MOTUL MUGEN NSX-GTからの参戦となっていただけに、今回はブリヂストンのタイヤ装着は“やや示唆的だな”と感じた。
というのは、通常SUPER GTでテストなりに参加する場合、ドライバーもタイヤメーカーと契約してタイヤを履く形になっているという。もし他銘柄のタイヤを履くドライバーが自社のタイヤをテストした場合には、なんらかの情報が競合メーカーに漏れる可能性があるからだ。2018年もF1で走るバンドーン選手はともかくとして、来シーズンからSUPER GTにフル参戦することが決まっているバトン選手が、仮にダンロップや横浜ゴムといったブリヂストンの競合メーカーのタイヤを履くチームに所属する場合、バトン選手が自社のタイヤを試すのをブリヂストン側が嫌がる可能性がある。
そう考えれば、すでにバトン選手のチームはブリヂストンを履く3チーム(8号車 ARTA NSX-GT、17号車 KEIHIN NSX-GT、100号車 RAYBRIG NSX-GT)のどれかである可能性が高いと考えることができるのではないだろうか。そうしたことが垣間見えたという意味でも、なかなか興味深い模擬レースだったと言えるだろう。
また、先日行なわれた最終戦カタールの予選でブレーキトラブルが発生してしまい、惜しいところでチャンピオンを落としてしまった、WTCCのホンダワークスチームも参加。マカオ戦のオープニングレースで3位表彰台を獲得した道上龍選手、ドライバーズランキング2位となったノルベルト・ミケルズ選手、さらにはバルセロナテストでクラッシュして療養に入るまでシリーズをリードしていたティアゴ・モンテイロ選手が登場し、ミケルズ選手と道上選手がデモ走行を行なった。
グランドスタンドプラザにはさまざまなメーカーブースなどが出展される
また、グランドスタンドプラザにはドライバートークショーの舞台となったステージが設置されたほか、各メーカーによる物販ブースや展示などが行なわれた。
例えばタミヤやエブロのブースでは、プラモデルやスケールモデルを展示・販売していた。ユニークなのは両ブースともに、展示・販売されている製品のほとんどがホンダ車のプラモデルやスケールモデルなどになっていたことだ。
また、ホンダの純正用品を販売するホンダアクセスのブースでは、アンバサダーを務める水村リアさんの“レーシングスーツの等身大パネル”で写真を撮ってSNSにハッシュタグをつけて投稿すると、ホンダアクセスのドリームサポーター“くるタム”のぬいぐるみキーホルダーがもらえるキャンペーンを行なっていた。
また、10時からはホンダアクセスが今シーズンサポートしていた、100号車 RAYBRIG NSX-GTの高橋国光監督、64号車 Epson Modulo NSX-GTの中嶋悟監督によるミニトークショーなども実施された。今年、64号車は10年ぶりに鈴鹿1000kmレースで優勝したこともあり、中嶋監督もご機嫌で「まぐれと言われるのだが、勝てたのはうちのチームがピット作業が速かったから。その最大の要因になったのが、片手で持てるModuloのホイールだ」と発言。半分本気とも冗談ともとれる、もしかしたら来季のスポンサー継続を見据えた(?)コメントでファンの笑いを集めていた。
ミニトークショー終了後には高橋監督、中嶋監督のサイン会が行なわれたが、なんとModuloのロゴ入りエコバッグに両監督がサインを入れてくれるという豪華仕様で、人数限定で手に入れたファンは大喜びだった。
MotoGPとインディ500の王者が並んでオーバルコースをパレード
11時10分から行なわれたオープニングセレモニーでは、ホンダのドライバー、そして2輪のライダーが勢揃いして観客に挨拶を行なった。ここでは本田技研工業 代表取締役社長 八郷隆弘氏がスピーチ。八郷氏は「F1に関しては皆さまのご期待に添うことができず、我々自身も悔しい思いをしている。マクラーレンは今後はよきライバルとして、来年はトロロッソと確実に成長していきたい。スーパーフォーミュラとSUPER GTに関しては後半戦に戦闘力を高めてきた。来年は勝ちにこだわってチャレンジしていきたい」と述べ、ホンダとしても期待外れの結果に終わったF1は、2018年はトロロッソとのパートナーシップで着実な進化を果たし、スーパーフォーミュラとSUPER GTに関しては勝ちを狙っていくと語った。
また、夕方にはフィナーレが行なわれ、佐藤琢磨選手がドライブするDallara DW12 26号車と、MotoGPでチャンピオンを獲得したマルク・マルケス選手の「RC213V」を先頭に、参加した多くの車両がオーバルコースを利用したパレードに参加。最後はオーバルコースのストレートに整列し、参加したドライバーがステージ上からファンに挨拶してHonda Racing THANKS DAY 2017は閉幕した。