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「RA301」とトロロッソ・ホンダ「STR13」がオーバルコースで共演した「Honda Racing THANKS DAY 2018」
今季で引退するダニ・ペドロサ選手がラストラン
2018年12月10日 14:20
- 2018年12月9日 開催
本田技研工業は、栃木県茂木町にあるツインリンクもてぎにおいて「Honda Racing THANKS DAY 2018」を12月9日に開催した。
Honda Racing THANKS DAYは例年12月に、ホンダのモータースポーツ活動へのファンの応援を感謝するイベントとして行なわれており、F1、MotoGPなど同社の4輪、2輪双方のドライバー、ライダー、マシンなどが集合してさまざまなイベントが行なわれる。かつ、入場料は無料とされており、ツインリンクもてぎには熱心なファン約2万4000人が足を運び、盛大に開催された。
この中では、2018年のSUPER GTのチャンピオンであるジェンソン・バトン選手がドライブする第1期ホンダF1の「RA301」と、現行F1マシンであるトロロッソ・ホンダ「STR13」が共演したり、今シーズンをもってMotoGPからの引退を決めたダニ・ペドロサ選手がファンの前でラストランを行なうなどのメモリアルなイベントがいくつも開催された。
その一方、ホンダ系のドライバーが参加して行なわれたカート大会「Honda Racing Kart CUP」では、余興であるにも関わらず本気を出したあのF1ドライバーが“今季初優勝”して非常に盛り上がるなど、ドライバーたちも普段のレースでの緊張感がない非常にリラックスした雰囲気の中で行なわれた。
ホンダの八郷社長も登場し、ファンに今年の成果と応援に対してのお礼を述べる
イベントそのものは朝から始まっているが、お昼から全体のセレモニーとして「ウイナーズラン」が行なわれた。ウィナーズランは、今年チャンピオンを取った車両やバイクなどが走行するセッションになり、スーパーフォーミュラでチャンピオンを獲得した山本尚貴選手の「SF14」、SUPER GTでチャンピオンを獲得したジェンソン・バトン選手の「NSX-GT」などがオーバルコースを疾走して、レーシングコースとオーバルコースの間に設けられたステージへ向かってパレードした。
その後、F1ドライバーのピエール・ガスリー選手やインディカー・シリーズドライバーの佐藤琢磨選手などのホンダのドライバー、そしてMotoGPのダニ・ペドロサ選手などのライダーがステージに上がり、ファンに挨拶を行なった。このステージでは本田技研工業 代表取締役社長の八郷隆弘氏がファンに向かって挨拶し、MotoGPの世界チャンピオン、スーパーフォーミュラ、SUPER GTの2冠を獲得したことなどの成果をファンに報告すると共に、詰めかけたファンに対して応援を感謝した。
Story of Honda F1ではトロロッソ・ホンダ STR13とRA301が時空を超えて共演
15時30分ごろから行なわれた「Story of Honda F1」では、ホンダのパワーユニットを搭載した2018年型のトロロッソ・ホンダ STR13と、過去のホンダF1のマシンが時空を超えて共演するという催しが行なわれた。
過去のホンダF1のマシンは、第1期ホンダF1(1964年~1968年)時代のRA301(1968年)と、第2期ホンダF1(1983年~1992年)のロータス100T(1988年)、マクラーレン・ホンダ MP4/6(1991年)の3台。このうち、ロータス100Tは車両の問題で走ることができず、RA301とマクラーレンMP4/6が走行することになった。
RA301は1968年に登場したホンダのニューマシンで、1967年のイタリアGPでジョン・サーティースがドライブして、僅差でホンダの2勝目を記録したRA300の後継として開発されたマシン。優勝こそ無かったものの、1度のポールポジションと2度の表彰台を記録するなどの結果を残している。このRA301は、ツインリンクもてぎにあるホンダコレクションホールに動態保存されているものだ。
マクラーレン・ホンダ MP4/6は1991年に登場したホンダV12エンジンを搭載した車両で、開幕からアイルトン・セナが4連勝するなどしてスタートを切ったが、後半は急速にシャシーの信頼性を改善したウイリアムズ・ルノーに追い上げられて、第15戦(当時は全16戦だった)の鈴鹿での日本グランプリまでウイリアムズのナイジェル・マンセルとのチャンピオン争いがもつれたが、最終的にマンセルがリタイアに終わったことで、セナのチャンピオンが確定。そのレースで、セナは援護をしてくれたチームメイトのゲルハルト・ベルガーに最終コーナーで勝利を譲るという、当時も大きな議論を呼ぶレースになったことを記憶しているオールドファンも多いだろう。今回走ったMP/6はそのベルガー仕様になっていた。
今回のStory of Honda F1は、2019年はレッドブルに昇格するためトロロッソF1では最後の走行となったガスリー選手がSTR13を、バトン選手がRA301を、佐藤選手がMP4/6をそれぞれドライブした。佐藤選手のMP4/6はレーシングコースを走っただけだったが、ガスリー選手のSTR13とバトン選手のRA301は、レーシングコースだけでなくオーバルコースも走行。さらに、2台ともオーバルコースのメインストレートではパワーユニットのサウンドを響かせながら走行し、グランドスタンドに詰めかけたファンを喜ばせていた。
今シーズンで引退するMotoGPのダニ・ペドロサ選手がファンへの別れを告げる
今回のイベントのもう1つのハイライトは、フィナーレの1つ前に行なわれたホンダのMotoGPライダーであるダニ・ペドロサ選手の引退セレモニーだ。ペドロサ選手はスペイン出身のMotoGPライダーで、MotoGPには2006年からレプソル・ホンダより参戦。通算31勝とホンダのMotoGP活動に大きな貢献をしてきた。残念ながらチャンピオンには手が届かなかったものの、ランキング2位を2回記録しており、記録よりも記憶に残るタイプのライダーだ。ペドロサ選手は7月にMotoGPから今シーズンをもって引退することを発表しており、今回のHonda Racing THANKS DAYがホンダのライダーとしてのラストランになった。
ペドロサ選手は、ロードレース世界選手権125ccクラス、ロードレース世界選手権250ccクラスといった下位カテゴリーでチャンピオンを取り、MotoGPに昇格。それから一貫してホンダチームで参戦してきた。そのため、今回は125cc時代のRS125RW、250cc時代のRS250RW、そしてMotoGPでのRC213Vをそれぞれ駆ってロードコースを疾走したほか、最後はオーバルコースを走り、多くのファンが詰めかけていたグランドスタンド前まで疾走し、ファンに別れの挨拶を告げた。
SUPER GTの模擬レースには佐藤琢磨選手とピエール・ガスリー選手という夢の組み合わせが参戦
Honda Racing THANKS DAYの恒例イベントになっているSUPER GTやスーパーフォーミュラなどによる模擬レースは今年も開催された。中でも注目を集めたのは、SUPER GTの模擬レースだ。
SUPER GTの模擬レースには、ホンダの開発車両となる99号車がゲストとして参加しており、そのドライバーは2017年のインディ500勝者である佐藤選手と、トロロッソ・ホンダの今年のドライバーであり、来年レッドブル・ホンダに昇格するガスリー選手という2人。いずれも現行型のNSX-GTに乗るのは初めてということもあり、特別ハンデが与えられることになった。というのも、このSUPER GTの模擬レースは7周で行なわれるのだが、必ずその途中でピットインしてタイヤ交換とドライバー交代をする必要がある。99号車の2人はレギュラー陣に比べてマシンに慣れていないという圧倒的に不利な状況のため、タイヤ交換は免除されることになった。
ところが、レースが始まってみると、やはりレギュラー陣が圧倒的に有利。与えられたタイヤ交換免除のハンデも、99号車はドライバー交代にタイヤ交換以上の時間がかかってしまい生かすことができなかった。それもあって99号車の2人は最下位に終わってしまった。このレースで優勝したのは今シーズンのチャンピオンである100号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/ジェンソン・バトン組)。チャンピオンの貫禄を見せつけて、終盤2位に上がっていたEpson Modulo NSX-GT(ベルトラン・バゲット/松浦孝亮組)を振り切って優勝した。
レース終了後には、優勝した今シーズンのチャンピオンである100号車を先頭にして、6台のNSX-GTがサーキットをパレード。ホンダの8年ぶりのGT500クラスチャンピオンを祝った。
他にも、「Honda Cars CUP Honda Racing THANKS DAY スペシャルレース」では、ホンダの軽自動車「N-ONE」を利用したワンメイクレースであるN-ONE OWNER’S CUPに参戦するHonda Cars社内チームによるエキシビションレースに、バトン選手、佐藤選手、ガスリー選手、山本選手、中野信治選手が最後尾から参加するというユニークな企画。だが、レースが始まると、バトン選手、佐藤選手、ガスリー選手は、そうしたジェントルマンドライバーが相手でも容赦なし。最後尾からどんどん追い抜いていき、7周のレースが終わる頃には、佐藤選手が4位、バトン選手が5位に浮上するなどしており、手加減なしのレースを展開して詰めかけたファンを喜ばせていた。
トロロッソ・ホンダのエースドライバーであるガスリー選手が、今年初めて優勝したレースとは?
Honda Racing THANKS DAYの魅力はそうした本コースだけでなく、コース外で行なわれるトークショーなどのさまざまなイベントにもある。その中でも例年人気を集めているイベントが「Honda Racing Kart CUP」というカート大会だ。このカート大会は、2輪、4輪のライダーとドライバーが参加するカート大会で、ツインリンクもてぎのレーシングカートコースを利用して行なわれる人気のイベントだ。今年は多くのファンが見守る中、2輪、4輪それぞれにレースが行なわれた。レースは2名1組で、途中で必ずピットインして交代すること、5分間の予選でグリッドを決定するなどのルールで行なわれた。
4輪の回では、ホンダの国内ドライバー(SUPER GT、スーパーフォーミュラ)に参戦するドライバーだけでなく、F1ドライバーのガスリー選手、今年はFIA F2に参戦していて2019年は国内レースに参戦する公算が強くなっている牧野任祐選手、福住仁嶺選手も加わって行なわれた。このため、組み合わせもシャッフルされており、小暮卓史選手がバトン選手と組んで英語でコミュニケーションする姿を見ることができたり、ガスリー選手は塚越広大選手とパートナーを組んで参加したり、普段あまり見られない組み合わせということもあって、興味深いシーンがいくつも見ることができた。
ポールを獲得したのは山本選手が予選を走った山本尚貴/松下信治組。次いで、ジェンソン・バトン/小暮卓史組という順位で、奇しくも今年100号車の2人が、フロントローを占める形となった。
だが、レースでは塚越選手からガスリー選手に替わり全車がピットストップを終えると、ガスリー選手が猛烈に追い上げを開始。最終的にはトップを走っていた小暮選手に追いつくと、シケインの入り口で小暮選手のインを捉えて、やや接触しながらもオーバーテイクすることに成功。逆に小暮選手は弾き飛ばされてタイムロス。その後、小暮選手も追いかけたものの、その差を詰めることはできず、ガスリー/塚越組がそのまま優勝を飾った。そのガスリー選手は優勝インタビューで「今年初めてのレース優勝で嬉しい」とジョークを口にして、会場は大きな笑いに包まれた。
グランドスタンド裏に設置されたModuloステージでは、異例(?)のメディアによる公開取材会が行なわれる
グランドスタンド裏のグランドスタンドプラザでは各社のブースなどが出展されており、常時多くのファンで賑わっていた。中でもホンダ純正アクセサリーを取り扱うホンダアクセスのブースでは、今年同社がModuloブランドでスポンサードしてきたSUPER GT GT300クラスの34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3、スーパー耐久シリーズのST-TCRクラスに参戦して見事チャンピオンを獲得した97号車 Modulo CIVIC TCR(開幕戦のレポートはこちら)をフィーチャーしたブースを用意しており、両チームのドライバーによるトークセッションを行なっていた。
中でも13時から行なわれたのは、34号車のドライバー2人(道上龍選手、大津弘樹選手)とメディアの関係者が登壇し、メディア関係者が公開取材するという形のステージになった。そのメディア関係者というのはホンダスタイル 佐橋健太郎氏、クリッカー編集長 小林和久氏、そして筆者という3名。
筆者が最初にした質問は「大津選手は今年大活躍でしたが、来年GT500に上がるという噂は本当ですか?」と、今年同チームを追いかけていたファンであれば誰もが聞きたいであろう疑問。というのも、大津選手は昨年までF3を走っていたとは思えない安定ぶりで、特に後半戦の第6戦 スポーツランドSUGOで4位、第7戦 オートポリスで3位表彰台という同チームが大きく躍進する原動力となった。また、今年から参戦し始めたスーパー耐久シリーズでも、97号車 Modulo CIVIC TCRでチームで最も周回数をこなすなど、チームの大黒柱としてこちらでもタイトル獲得の原動力なった。このため、来年のSUPER GT GT500クラスに昇格もあり得るのではないかと、業界では期待が高まっているからだ。
これに対する大津選手の答えは「もちろんホンダさんとはお話しさせていただいているし、道上さんもプッシュしてくれている。ただ、まだ自分でもどうなるのか正直分かっていないが、やるべき事はやって来年に繋がればいいと考えている。目の前のことをただやっていくだけというのが今の心境。もちろん、このチームで学べることもまだまだ多いし、来年も道上さんと一緒にやれる機会があるならぜひにとも思っているが、GT500に上がれる機会があるならそれはつかみにいきたい」と述べ、現時点ではこのチームに来年残るのかも含めて未定で、今後ホンダともよく相談して決めていきたいと述べた。
今年チームメイトとして、そしてチームリーダーとして若き大津選手を育てる立場にあった道上選手も「もちろん実際に走ってみないと分からないが、現在のGT500はフォーミュラの要素が強く、これまでフォーミュラに乗ってきた大津選手なら十分に通用すると思う。チームとしては、彼と1年やってきてお互いのことをよく分かってきた面もあるので、来年も一緒にやれればとも考えているが、もしそちらへ行くなら残念な気持ちもあるが、もしそうなら快く送り出して、次の若いドライバーを探していきたい」と述べた。
大津選手から見た先輩ドライバー道上選手の印象は「連絡をすごくこまめにくれる。そのため、自分は走ればいいという環境を与えてくれたことが助かった。ただし、ヘルメットを被ってからもケータイを見ているのを見たときには、早くコクピットに行ったほうがいいんじゃないかと思った(笑)」と道上選手のきっちりしている一面と、意外な一面を冗談を交えながら語ってくれた。なお、道上選手としては「たまたまだった」と釈明。
そして、34号車の今年のハイライトとしてやはり外せない、第5戦 富士スピードウェイで他車に後ろから追突された大クラッシュについて、道上選手は「調子がよかったし、クルマのセットアップも決まっていた。あの時は持ち込みセットが調子よく、新しいタイヤに変えてコースインしたばかりだった。そこで、クルマの左側を見て安全を確認してターンインしていったら、右からいきなりどーんと来られて、思わずチームに無線で自分じゃないよと言ってしまったほど混乱していた。当たり方を見ると、相手に何かがあるということはすぐ分かった。昔レースで腰をやってしまったときと同じぐらいの痛みが来たので心配だったが、恐る恐るベルトを外して大丈夫だと確認できた」とその時のことを振り返ってくれた。
すべての車両がオーバルコースのメインストレートに停車してエンジンサウンドを響かせる
コース上で、イベント広場で、そしてカート場でとさまざまな催し物が行なわれたHonda Racing THANKS DAYだが、日の入りに近い16時30分からはフィナーレが行なわれ、参加した車両の大部分が多くのファンが詰めかけているグランドスタンドとステージの間にあるオーバルコース場に整列した。その後、全車両によるエンジンサウンドをツインリンクもてぎに響かせるセレモニーが行なわれ、多くのファンがエンジンサウンドに聴き入っていた。最後には全ドライバー、ライダーがステージ上に登壇し、ドライバーとライダーを代表して、このイベントでファンと別れを告げることになるダニ・ペドロサ選手がファンに別れの挨拶を行なってイベントは終了となった。