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【ピレリS耐 開幕戦鈴鹿】開幕戦クラス優勝を果たした、97号車 Modulo CIVIC TCRのドライバー、童夢に今季の意気込みを聞く

「TCRというカテゴリー自体を盛り上げていきたい」と、童夢 高橋社長

表彰台で開幕戦の勝利を喜ぶ97号車 Modulo CIVIC TCRの4人のドライバー

 3月31日~4月1日の2日間にわたり、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)において、ピレリスーパー耐久シリーズ 2018の開幕戦「SUZUKA“S耐”春の陣」が開催された。

 当日の模様は別記事「『SUZUKA“S耐”春の陣』は、99号車 Y's distraction GTNET GT-Rが優勝。注目のST-TCRクラスは97号車 Modulo CIVIC TCRが優勝」でお伝えしたとおりだが、世界的に盛り上がりを見せ始めている「TCR規格」の車両を利用するST-TCRクラスで優勝したのが97号車 Modulo CIVIC TCR(植松忠雄/中野信治/大津弘樹/小林崇志組)だ。

 その97号車 Modulo CIVIC TCRのドライバーやチーム関係者からレース前に話をうかがう機会を得たので、本レポートでその模様をお届けしたい。

童夢のレーシングチーム部門が2017年に復活。エースカーは97号車 Modulo CIVIC TCR

開幕戦のST-TCRクラスで優勝した97号車 Modulo CIVIC TCR

 97号車 Modulo CIVIC TCRの母体となっているのは、日本のレーシングコンストラクターであり、レーシングチームである童夢だ。童夢と聞いて「DOME-ZERO」を思い浮かべるオールドファンも多いことだろう。DOME-ZEROは1978年にスイスのジュネーブで開催されたジュネーブ・モーターショーに出展されたコンセプト・スーパーカーで、スーパーカーブームの時代にはモデルカーや“スーパーカー消しゴム”で多くの自動車少年の心をつかんでいた。

 その童夢は、その後レーシングカーコンストラクターとしてのポジションを確立していく。1970年代代後半からはDOME-ZEROをベースにしたレーシングカーでル・マン24時間レースに参戦したり、1980年代半ばにはトムスと組んで、トヨタのグループCカーを製造。やはりそれでル・マン24時間レースに参戦していた。

 1980年代後半~1990年代に、童夢はフォーミュラーカーのコンストラクターになっていた。現在のスーパーフォーミュラの前身であるフォーミュラ・ニッポンのさらに前身となる全日本F3000選手権に、当初は海外のコンストラクターのシャシーで、後に自社製シャシーを製造して参戦し、1994年にはマルコ・アピチェラ選手のドライブで見事チャンピオンに輝くなどの成果を出している。その後は、F1参戦に向けたテストシャシーを試作したり、F3のシャシーを製造するコンストラクターになったり、2000年代代にはホンダのSUPER GT用NSXの開発を行なったり、2010年代に入ってからはFIA-F4のシャシー、さらにはSUPER GTのマザーシャシーを製造したりと、一貫してレーシングコンストラクターとして歴史を歩んできた。童夢は日本が世界に誇るレーシングコンストラクターだと言ってよい。

 童夢は長年、創業者の林ミノル氏により経営されてきたが、2015年に現オーナーに売却され、現在は高橋拓也氏(高ははしごたか)が代表取締役社長として経営を行なっている。2016年には台湾にカーボン製造工場を持つKCMGコンポジットインターナショナルと業務提携を発表(別記事参照)するなど、レーシングコンストラクターとしての新しい時代を歩み始めている。

 童夢は2013年までSUPER GTのレーシングチームとして活動していたが、現在はそれを休止。FIA-F4のシャシーやSUPER GTのマザーシャシーの製造・供給に集中してきたが、2017年からホンダ「シビック TCR」をひっさげて、スーパー耐久シリーズという新しいレースシーンに帰ってきた。ただし、シビック TCRそのものは童夢が製造しているのではなく、製造を担当するイタリアの「JAS Motorsport」から童夢がレーシングチームとして車両を受け取って参戦する形になっている。

97号車 Modulo CIVIC TCR
97号車 Modulo CIVIC TCRのコックピットまわり
97号車 Modulo CIVIC TCRのエンジンルーム
ホンダ「シビック TCR」でST-TCRクラスに参戦
スタープレイヤーが並ぶ97号車
タンクは耐久レース仕様になっている

 今シーズンの童夢は、「Modulo Racing with DOME」として97号車 Modulo CIVIC TCR(植松忠雄/中野信治/大津弘樹/小林崇志組)と、「DOME RACING」として98号車 FLORAL CIVIC TCR(飯田太陽/加藤寛規/濱口弘組)の2台を走らせている。

 このうちエース格とされているのが97号車。ホンダの用品開発・販売子会社であるホンダアクセスのブランドであるModuloをメインスポンサーとしており、ドライバーも元F1ドライバーの中野信治選手、2017年までホンダのSUPER GT GT500ドライバーだった小林崇志選手、そして今シーズンからGT300クラスに「Modulo Drago CORSE」からModulo KENWOOD NSX GT3で参戦(別記事参照)する大津弘樹選手、そして過去に数シーズンに渡りSUPER GT GT300クラスに参戦経験があるジェントルマンドライバーの植松忠雄選手という組み合わせで、上位クラスのST-XやST-TCRクラスを見渡しても“スーパー耐久最強のドライバー布陣”と言ってよい。

左から植松忠雄選手、MOTULのレースクィーン、Moduloプリティの生田ちむさん
MOTULのレースクィーン、Moduloプリティの生田ちむさん
タイヤはピレリタイヤ
ピレリのレースクィーンの2人

97号車 Modulo CIVIC TCRの活躍でTCRを盛り上げていきたい

左から株式会社童夢 取締役開発部長 チーム監督 中村卓哉氏、植松忠雄選手、大津弘樹選手、小林崇志選手、中野信治選手、株式会社童夢 代表取締役 高橋拓也氏(高ははしごたか)
株式会社童夢 取締役開発部長 チーム監督 中村卓哉氏

――まず、中村監督に。このチームの現状を教えてほしい。

中村卓哉氏(童夢 取締役開発部長 チーム監督):今年で参戦2年目となり、今回から新車となるFK8型を投入する。ドライバー陣も中野選手に継続してもらった他、植松選手、小林選手、大津選手という強力な布陣を敷いている。

――新型のシビック TCRの特徴は?

中村氏:新設計になっているが、前のモデルからキャリーオーバーされているところは多い。今回はクルマが入ってくるのがギリギリになってしまったので、テストでの走行距離が稼げていない状態。

――他車との位置関係はどう考えているか?

中村氏:昨日の状況などから考えると、非常にクロスしたところにいるのではないかと考えている。そのあたりはTCRのBOP(Balance Of Performance:性能調整)がちゃんと機能しているのだと感じている。

――ピレリタイヤに変わった印象はどうか?

中村氏:グリップ感とか耐久性などについてはヨコハマ(タイヤ)さんとはかなり違うなという印象。ワンメイクなのだが、かなり攻めていらっしゃると感じている。

――今シーズンの目標は?

中村氏:目標はもちろん一番高いところを狙っている。

植松忠雄選手

――ドライバーの皆さんにこのクルマの感想を聞きたい。

植松忠雄選手:レーシングドライバーとして16~17年やってきたが、乗り始めから全開でいけてそこそこ乗りやすいクルマというのは初めてだった。癖がないのだが、やはりFFなのでそこへの調整は必要だと感じている。

大津弘樹選手

大津弘樹選手:FFのレーシングカーに乗るのは初めてで、(GT300クラスでチームメイトの)道上さんが2017年のWTCCでシビックに乗っていたので、そのコツなどを聞いて対処した。走った感想としては思った以上に普通のレーシングカーで、立ち上がりでアンダーが出やすいなどのFF車だからというのはあまり感じていない。このレースはレース時間が長いので、タイヤの摩耗とかもケアしていかないといけないし、いろいろ経験できる年だと思っているので、先輩方から吸収しつつ成長していきたい。一緒に走らせていただく先輩ドライバー方は、皆さん自分に足りていないいいところをお持ちで、そういうところを吸収していきたい。

小林崇志選手

小林崇志選手:変な癖がなくて非常に乗りやすいクルマだ。今回はギリギリにクルマを持ち込んだのでセッティングなども変えてなく、ほとんど吊しで周回している状態だが、ロングをやっても問題なく完成度は高いと感じている。

スーパー耐久というレースは、FIA-GT3から我々のTCR、86とかロードスターまでと速度差が大きいクルマが混走しているレース。SUPER GTだと2つしかないクラスが、スーパー耐久では8つもある。そうした多彩な車両と速度差が、さまざまなドラマを生み出すレースで、お客様を飽きさせないレースだと感じている。

(他車との差については)アウディはストレートが得意な車両で、シビックはコーナリングが得意な車両。その得意な部分をうまく生かしてレースをやっていけば、予選は3位だったが十分逆転できる可能性があると感じている。アウディのチームはすでにタイヤのテストなどもできているようなのに比べると、我々のチームはテスト不足ではあるが、そこはドライバーの力やチームの力でカバーしていきたい。

中野信治選手

中野信治選手:クルマに関しては去年までと同じで、ドライバーに優しいクルマになっている。ドライバーがクルマの動きに合わせてスムーズに走ってあげればタイムが出る。このサーキットは去年の結果を見る限りはアウディ勢に有利なサーキットだと思っているが、予選タイムを見ると2017年に比べて差が縮まっており、レースになればいいレースができると思っている。

――童夢にとってスーパー耐久に参加する意義とは?

株式会社童夢 代表取締役 高橋拓也氏

高橋拓也氏(童夢 代表取締役社長):TCRのカテゴリー自体が、カスタマーレーシング向けの商品。その中で、2017年と同じくスタープレイヤーの97号車がイメージリーダーとして、しっかり走らせる車両として非常に注目度が上がっている。そしてもう1台の98号車の方はメインにジェントルマンドライバーの組み合わせとしてやってもらっている。こうした活動を通じて、S耐に参加されている他のチームの方などから「TCR車両はどうやったら買えるのか」などのお問い合わせをひっきりなしにいただいている。アウディさんもそうだが、TCRというカテゴリー自体を盛り上げていきたいと考えている。

新車のFK8型シビック TCRで見事に優勝をゲット、目標のシリーズチャンピオンに向けて好発進

 今回のインタビューは4月1日の決勝レース前に行なったものだが、このインタビュー終了後の決勝レースでクラス2番手からスタート(予選では3位だったが、予選2位の車両がグリッド降格ペナルティを受けてクラス2位からスタート)した97号車 Modulo CIVIC TCRは、予選でクラストップを獲得した19号車 BRP★Audi Mie RS3 LMSが序盤で早々にリタイアしたこともあってトップに浮上。ほとんどの周回をクラストップを走行した。途中給油、ドライバー交代のためのピットストップで順位を譲ることもあったが、最後のピットストップを全車が終えると再びトップに戻り、そのままチェッカー。FK8ベースとなった新車の初レースで見事クラス優勝を果たすことができた。

 しかもインタビュー中にもあったとおり、今回はイタリアからのマシン納入がギリギリになってしまったこともあり、セッティングなどに関してはほとんど何もしていないだけに、チームとしてはまずは安堵したというのが正直なところではないだろうか。

 中野選手は今シーズンの目標について「結果はもちろん大事だが、チームメンバー全員で楽しみながらレースをやっていくことを目標としている。みんなが目標目標とガツガツしすぎないように環境を作っていくことが大事。そうしていれば、われわれにはシビックといういいマシンがあるので、勝手に結果がついて来る」とインタビューの最後で語ってくれた。まさに、今回の開幕戦の結果は、その中野選手の言葉どおりの結果になったと言っていいのではないだろうか。シーズン初戦はチームにとっての究極の目標であるシリーズ・チャンピオンに向けて最上の滑りだしになった。

レース後にクラス優勝を喜び合うチームクルー