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【ピレリS耐 開幕戦鈴鹿】「SUZUKA“S耐”春の陣」は、99号車 Y's distraction GTNET GT-Rが優勝。注目のST-TCRクラスは97号車 Modulo CIVIC TCRが優勝
2018年4月1日 19:27
- 2018年3月31日~4月1日 開催
3月31日~4月1日の2日間にわたり、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)において、ピレリスーパー耐久シリーズ2018(以下、ピレリS耐)の開幕戦にあたる「SUZUKA“S耐”春の陣」が開催された。
12時20分より5時間の予定で戦われた決勝レースでは、最上位クラスとなるST-Xクラスでは99号車 Y's distraction GTNET GT-R(浜野彰彦/星野一樹/藤波清斗組)が優勝。2017年シーズンから始まり、注目のクラスとなりつつあるST-TCRクラスでは97号車 Modulo CIVIC TCR(植松忠雄/中野信治/大津弘樹/小林崇志組)が優勝した。
本記事ではピレリS耐の概要、車両の種類、そしてその中でも注目のクラスとなりつつあるTCRについて紹介していきたい。
ピレリS耐は8つのクラスから構成されており、開幕戦には52台の車両が出走
ピレリS耐の最大の特徴は、さまざまな車両が戦っているという車両の多様性にある。複数のクラスが用意されており、具体的には以下のクラスに分かれている。
ピレリS耐シリーズのクラス分け
クラス | 説明 | スーパー耐久での車両例 |
---|---|---|
ST-X | FIA-GT3 | ニッサンGT-RニスモGT3、アウディR8 LMS GT3、ポルシェ911GT-R、メルセデスAMG GT3、レクサスRC F GT3 |
ST-Z | FIA-GT4 | - |
ST-TCR | TCR | ホンダシビック Type-R、アウディRS3 LMS、フォルクスワーゲン ゴルフ GTI TCRなど |
ST-1 | 排気量3501cc以上ないしはスーパー耐久機構が認めた車両 | ポルシェ911 GT3 CUP |
ST-2 | 排気量2001~3500ccの車両で4WDないしはFF | スバルWRX STI、三菱 ランサーエボリューションX、マツダ アクセラ ディーゼル ターボ |
ST-3 | 排気量2001~3500ccの車両でFRないしはMR | レクサス RC350、トヨタ マークX、レクサスIS 350、ニッサン フェアレディZ |
ST-4 | 排気量1501~3000ccの車両 | トヨタ 86、マツダロードスター、トヨタ ヴィッツGRMNターボ、ホンダ インテグラ Type-R |
ST-5 | 排気量1500cc以下の車両 | マツダロードスター、マツダ デミオ ディーゼル ターボ、ホンダフィット3 RS、マツダデミオ15MB |
ピレリS耐にはST-X、ST-Z、ST-TCR、ST-1、ST-2、ST-3、ST-4、ST-5という8つのクラスがあり、複数のクルマが混走している。ST-XはFIA-GT3、SUPER GTのGT300でも使われている車両。GT-RやR8などのスーパーカーも走っているクラスになる。ST-ZはFIA-GT4用のクラスだが、今回のレースはエントリー車両なしで走っていない。ST-TCRには後述するように、最近注目を集めているTCR規格で作られた新しいレーシングカーとなる。ST-1以下は、特認車両もあるが基本的には排気量で決められているクラスになる。
このため、ST-XにはニッサンGT-RニスモGT3や、アウディR8 LMS GT3といった生粋のレーシングカーが走っており、ST-5に関してはホンダフィットのような大衆車が走っているという、車両のバラエティに富んだシリーズとなっている。このため台数も多く、シリーズとしては最大60台、今回のレースでは52台がスターティンググリッドに並んでいる。
バラエティに富んでいるのは車両だけではない。走っているドライバーもバラエティに富んでいる。そもそもピレリS耐のコンセプトが、プロドライバーとジェントルマンドライバーの両方が走れるシリーズとなっており、SUPER GTを走っているような有名なプロドライバー、初めてレースに挑戦するようなジェントルマンドライバー、実に多種多彩なラインアップになっている。
例えば、ST-Xクラスには、星野一樹選手、平峯一貴選手、山内英輝選手などの現役GT300ドライバー、さらには荒聖治選手、土屋武士選手といったかつてSUPER GTを走っていたベテランドライバーが走っており、それらの有名ドライバーとジェントルマンドライバーが組んで走っている、それがピレリS耐の特徴となる。
今シーズンより、F1へのタイヤ供給などでおなじみのイタリアのタイヤメーカーであるピレリがシリーズスポンサーになっている。全チームにピレリのタイヤが供給されており、タイヤのサプライヤーが昨年までの横浜ゴムから変わったため、新しいタイヤをいち早く使いこなすことが今シーズンの鍵になると考えられている。
世界的に盛り上がり始めているTCRの車両が走るST-TCRは要注目
ピレリS耐の総合優勝を争うのはクラスのポテンシャル的にST-Xクラスだが、2017年からスタートしたST-TCRクラスに今注目が集まっている。このST-TCRクラスにはホンダ シビックTCR(FK8ベース)、ホンダ シビックTCR(FK2ベース)、アウディ RS3 LMS、フォルクスワーゲンGOLF TCRという4種類の車両が参加している。
このST-TCRに参加出来る車両は、TCRという欧州を中心に普及が進んでいる新しいタイプのレーシング・ツーリングカーになっている。TCRは2017年まで開催されていたWTCCを立ち上げたマルセロ・ロッティー氏の会社であるWSCが立ち上げた車両規定。
WSCが認定した車両で、自動車メーカーが量産車(12カ月に5000台以上生産されている、4ドアないしは5ドアで、FF)がベースである必要があり、最大全長4.2m以下、1.75~2Lの量産ターボエンジン(同一メーカーのモノであれば載せ替え可能)などの規定が決まっている。これだと幅広い車種が参加できるだけでなく、WSCによるBOP(Balance Of Performance)が定められており、それにより厳密に性能調整されることで、性能を拮抗させている。
このため、多くのメーカーがTCRに対応したレーシングカーに取り組んでいる。例えば、ホンダの場合は昨年までWTCCのホンダワークスチームだった、JAS Motorsportがマシンを製造してレーシングチームに販売する形になっている。
WSCはTCRの主役はマニファクチャラーではなく、プライベートチームと位置づけており、マニファクチャラーはそうしたカスタマーチームをサポートするという立場で参加するとしている。このため、プライベートチームにとって参加しやすいシリーズとなっており、それに合わせて世界中でTCRに基づいたレースが開催されており、グローバルに盛り上がりつつあるカテゴリーになっている。
このTCRは世界中で急速に発展しており、今年からWTCCに変わるツーリングカーの世界的なシリーズとなるWTCR(FIAワールドツーリングカーカップ)もTCRの規定に基づいている。このWTCRはWTCCと同じように世界を転戦するシリーズとなっており、日本でもスーパーフォーミュラの最終戦と併催で10月27日~28日に、鈴鹿サーキットで開催される(関連記事:鈴鹿サーキット、ワールド・ツーリングカーカップ(WTCR)と全日本スーパーフォーミュラ選手権最終戦を同日開催)。
こうしたTCRをいち早く取り入れたのがS耐で、2017年からST-TCRとしてスタートした。ただし、一般的なTCRレース(例えばWTCR)は、かつてのWTCCと同じでスプリントのツーリングカーレースだが、S耐はTCR車両が走るレースとしては唯一の例外と言ってよい、耐久レースフォーマット(例えば今回のレースの場合は5時間レース)になっている。これが大きな違いとなる。
このため車両も耐久レースを走れるようにタンクが拡張されているなど変更が加えられているが、車両そのものはスプリント用になっているので、各チームともそれをどうやって耐久レースに適合させていくのか、それが課題になる。特に第3戦に予定されている富士SUPER TEC 24時間レース(5月31日~6月3日開催)の24時間レースでどう戦っていくかが、各チームにとって大きな課題になりそうだ。
開幕戦の総合は99号車 Y's distraction GTNET GT-Rが、ST-TCRは97号車 Modulo CIVIC TCRが優勝
12時20分から行われた決勝レースは、2018年シーズンから新しく導入されたFCY(フルコースイエロー)が何度も導入される荒れた展開になった。このFCYが出されると、コース上すべてが黄旗区間となり追い越しは禁止、各車両はすべて上限50km/hの速度制限が行なわれる。このタイミングがピットストップにちょうど重なったチームは得をし、そうでないチームは損をしというFCYが明暗を分ける展開となった。
FIA-GT3車両を利用して行なわれた最上位クラスのST-Xでは、ニッサン GT-R ニスモ GT3同士によるトップ争いが展開された。2017年のチャンピオン車両で、ポールポジションからスタートした24号車 スリーボンド 日産自動車大学校 GT-R(内田優大/藤井誠暢/平峰一貴組)がそのまま逃げ切るかと思われたが、レース中盤にでたFCYで、2位を走っていた99号車 Y's distraction GTNET GT-R(浜野彰彦/星野一樹/藤波清斗組)がほぼ同じタイミングでピットに入り、その間に24号車との差を逆転してトップに立った。
その後、24号車 スリーボンド 日産自動車大学校 GT-Rが猛烈な追い上げを展開し、ヘアピンでオーバテイクしようとしたところ、24号車と99号車 Y's distraction GTNET GT-Rは接触。この接触は24号車側に非があると判断され、24号車にピットスルーペナルティが出されてしまった。
これによりトップに立った99号車 Y's distraction GTNET GT-Rだが、純粋なラップタイムでは24号車 スリーボンド 日産自動車大学校 GT-Rが速く、どんどん追い上げていき、終盤に向けてトップ2の争いは残り15分の段階でわずか10秒差となったが追い上げはここまで、結局99号車 Y's distraction GTNET GT-Rが逃げ切って総合優勝、クラス優勝を果たした。2位は24号車 スリーボンド 日産自動車大学校 GT-R、3位は777号車 D'station Porsche(星野敏/荒聖治/近藤翼組)がそれぞれ獲得した。
ST-TCRクラスは、予選でクラストップだった19号車 BRP★Audi Mie RS3 LMS(HIROBON/YOSSY/篠原拓朗/奥村浩一組)がスタートしてすぐ、右フロントを破損してコース上にストップしてしまった。これでトップに立ったのは、予選3位だったが予選2位がグリッド降格ペナルティを受けたためクラス2位からスタートした97号車 Modulo CIVIC TCR(植松忠雄/中野信治/大津弘樹/小林崇志組)。これを激しく追い上げたのが、10号車 Racingline PERFORMANCE GOLF TCR(PhilippeDevesa/密山祥吾組)だった。
97号車 Modulo CIVIC TCRは今回から新型車両を導入したばかりで、そのハンデがある中でのレースながら、非常に安定したレースを展開。最後のピットストップがFCYとタイミングにドンピシャにはまり、10号車を突き放してそのまま優勝した。クラス3位は45号車 プリズマ☆イリヤ RS3 LMS(竹田直人/白坂卓也/田ヶ原章蔵組)が獲得し、3つのメーカーがそれぞれ表彰台に乗るという、BOPによる性能調整がうまくいっているというTCRの特徴を示したレース結果となった。
このほか、ST-1は47号車 D"station Porsche cup(星野辰也/織戸学/浜健二組)、ST-2は59号車 DAMD MOTUL ED WRX STI(大澤学/後藤比東至/井口卓人/石坂瑞基組)、ST-3は38号車 muta Racing ADVICS IS 350 TWS(堀田誠/阪口良平/新田守男組)、ST-4は86号車 TOM'S SPIRIT 86(松井孝允/中山雄一/坪井翔組)、ST-5は2号車 TEAM221ロードスター(筒井克彦/大塚隆一郎/山下潤一郎組)。
レース結果(抜粋、結果は暫定)
総合順位 | クラス順位 | カーナンバー | 車両 | ドライバー | タイム |
---|---|---|---|---|---|
1 | ST-X/1 | 99 | Y's distraction GTNET GT-R | 浜野彰彦/星野一樹/藤波清斗 | 5時間00分06秒872 |
2 | ST-X/2 | 24 | スリーボンド 日産自動車大学校 GT-R | 内田優大/藤井誠暢/平峰一貴 | +14秒543 |
3 | ST-X/3 | 777 | D'station Porsche | 星野敏/荒聖治/近藤翼 | +1分18秒900 |
9 | ST-TCR/1 | 97 | Modulo CIVIC TCR | 植松忠雄/中野信治/大津弘樹/小林崇志 | +11周 |
10 | ST-TCR/2 | 10 | Racingline PERFORMANCE GOLF TCR | PhilippeDevesa/密山祥吾 | +12周 |
11 | ST-3/1 | 38 | muta Racing ADVICS IS 350 TWS | 堀田誠/阪口良平/新田守男 | +12周 |
13 | ST-TCR/3 | 45 | プリズマ☆イリヤ RS3 LMS | 竹田直人/白坂卓也/田ヶ原章蔵 | +12周 |
17 | ST-1/1 | 47 | D'station Porsche cup | 星野辰也/織戸学/浜健二 | +14周 |
18 | ST-2/1 | 59 | DAMD MOTUL ED WRX STI | 大澤学/後藤比東至/井口卓人/石坂瑞基 | +14周 |
21 | ST-4/1 | 86 | TOM'S SPIRIT 86 | 松井孝允/中山雄一/坪井翔 | +16周 |
34 | ST-5/1 | 2 | TEAM221ロードスター | 筒井克彦/大塚隆一郎/山下潤一郎 | +25周 |
次戦は、4月28日~29日。スポーツランドSUGO(宮城県柴田郡村田町菅生)で開催される。