STI、ニュルブルクリンク24時間に参戦を表明 富士スピードウェイでシェイクダウン、ライバルはシロッコ |
STI(スバルテクニカインターナショナル)は3月10日、ドイツ ニュルブルクリンクサーキットで5月13日~16日に開催される「第38回ADAC Zurich24時間レース」(通称:ニュルブルクリンク24時間レース)への参戦を発表し、富士スピードウェイで参戦マシンのシェイクダウンを行った。
ニュルブルクリンクサーキットとは、ドイツ西部のアイフェル地方にある、F1も開催されるグランプリコース(5.1km)と、オールドコースとも呼ばれるノルドシュライフェ(20.8km)の2つのコースからなるサーキット。24時間レースは、これをつないだ約26kmのコースで争われる。ワークスからプライベーター、最新マシンから旧車まで、計200チーム以上が参戦する。
特にオールドコースはスピードレンジが高い上に、高低差300m、170以上のコーナーがあり、ブラインドコーナーも多い。その全長の長さゆえ路面状況は均一ではなく、さらに標高の高さから天候も変わりやすく、コースの一部区間だけが雨ということもよくある。コースの途中で雨が降り出しても、タイヤ交換ができるピットまでは遠く、全体から見て雨が降っている区間が短いのであれば、スリックのまま行くこともあるとのこと。
スバルでは、表だっては初代インプレッサでのタイムアタックが最初となっているが、実は初代レガシィの開発のころからオールドコースを使っていた。当時のタイムアタックでもドライバーを務めていたのが、今回のドライバーである清水和夫氏だ。ニュルブルクリンク24時間にスバルが参戦するのは、2005年からで今回が5回目。一昨年はSP6クラスに出走し、クラス5位、総合57位。昨年はSP3Tクラス(2000cc以下の過給器付きクラス)で出走し、クラス5位、総合33位という結果を収めており、今年もSP3Tに参戦する。
多くの自動車メーカーがテストでも使うオールドコースと、F1も開催されるGPコースからなる | スバルとニュルブルクリンクとの関わりは20年以上前に始まった | ニュルブルクリンク24時間レースの開催概要 |
STIチームの参戦体制。チーム総員数は約28名 | 2009年からのチームパートナーに加え新規スポンサーも増えた | ニューマシンのカラーリング。白いボディーと「STI NBR CHALLENGE」のロゴが新鮮 |
参戦車両 |
今回のドライバーは、清水氏に加えスーパー耐久でインプレッサでの優勝経験もあり、今回で4回目の出場となる吉田寿博選手と、2008年にインプレッサでSUPER GTにスポット参戦したカルロ・バン・ダム選手、そして、現在選考中だと言うドイツ人ドライバーの4人。
チーム監督は、昨年と同様にSTI車両実験部長の辰己英治氏が務める。辰己氏によれば、これまでは既存のレース車両を改良してきたが、今回は新規にマシンを作ったと言う。ベース車はインプレッサSTI WRX spec Cを使うが、ウインドーガラスを初め、spec Cならではのパーツはほぼ変更されてしまっている。
チーム監督はSTI車両実験部長の辰己英治氏 | ニュルブルクリンク走行経験が豊富なモータージャーナリストの清水和夫氏 | インプレッサに精通したレーシングドライバーの吉田寿博選手 |
昨年のマシンとの主な変更点は、軽量化と重量バランスの改善だと辰己氏は言う。前後ドアをカーボンとしたほか、辰己氏も手伝って、ボルトの1本1本まで余っている長さを削り落とし、約60kgの軽量化に成功。現状1240kgの車重だが、本番までに1230kgくらいまで持っていきたいとした。重量バランスでは、燃料タンクをリアのオーバーハングから前席後方に変更し、搭載位置も低くしている。
前後ともドアをドライカーボンとし、軽量化を図る | 後席の位置に設置された燃料タンク。表面の凸凹のあるパネルは断熱材で、これも新採用で軽量化に繋がっていると言う | |
インテリア。余計なものはすべて排除され、メーターはモーテックのデータロガーに置き換えられる | オーディオの部分には、VDCのモードセレクトスイッチや、DCCDのモード切替スイッチなどが並ぶ | シートはレカロ製 |
外装は、昨年のマシンでも使われ、後のR205に採用された前後アンダースポイラーや大型ルーフスポイラーが今年のマシンでも装着される。加えて、新たにフロントにアンダーパネルが追加されている。清水氏によればスバルは実車の入るムービングベルト付きの風洞装置を導入したとのことで、特にフロア下の空力の改善には期待が持てると言う。
そのほか、サスペンションをビルシュタイン製としたり、レギュレーションの変更に合わせて、リム幅を拡大したりが昨年との変更点となる。
エンジンはノーマルと同じ2リッターターボをベースに、耐久性向上のため、ピストンやコンロッドをWRC仕様の鍛造品に変更、ポートもひと通り手を加えている。タービンにはR205で採用されたツインスクロールボールベアリングターボを採用するが、インタークーラースプレーはレギュレーションに違反するため付けていない。ほかにエアクリーナーや排気系が交換され、最高出力は243kW(330PS)/5500rpm、最大トルクは461Nm(47kgm)/3000rpmを発生する。
エンジンルーム。フレキシブルタワーバーが目を引く | インタークーラーを外したところ。エンジン本体に外見上の違いは見えない。ラジエターはアルミ製に変更されている |
タービンはR205と同じものを使う | エアクリーナーの変更が目立つ。ダクトがフロントバンパーの方に向かって伸びている |
ブレーキは前後ブレンボ製を採用するが、R205のフロント6ピストン、リア4ピストンのものではなく、フロントにはレース用の4ピストン、リアにはベース車と同形状の2ピストンを使う。これはスーパー耐久レースで長年開発してきたブレーキとのことで、レース使用での信頼性や、耐久レースでのパッドの持ちでも煮詰められている。ニュルブルクリンクはブレーキの熱があまり上がらないサーキットであり、さらにバネ下重量の軽量化という観点から、6ピストンではなく4ピストンを選んだと清水氏が付け加えた。さらにABSやマスターバックも今回初めて搭載できたと言う。
フロントにはS耐でも実績のある4ピストンブレンボ、リアはベースグレードでも使う2ピストンブレンボを装着。実は昨年までの仕様では、ABSもマスターバックも装着が間に合わなかったのだと言う |
この日のシェイクダウンで走った清水氏は「すごく軽快感があって、シェイクダウンでなんとなく素性は分かるが、基本的なところはよい感じ。重心高とか慣性モーメント、絶対重量によって扱いやすさが増している」と言い、「吉田選手は午前中のウェット路面で走ったが、多少オーバーステアが出てもコントロールできたと言っている。ニュルブルクリンクの速さは、イコールドライバーがどれだけ安心してハイスピードを維持できるかがポイントだ」と言い、扱いやすさの向上がニュル向きであることを語った。なお、この日の富士スピードウェイのテストでは1分53秒前半を出しており、「ニュルブルクリンクなら去年と比べ1周10秒くらい速いタイムになるだろう」とした。
富士スピードウェイでシェイクダウンしたニュル24時間レース仕様車。1分53秒台前半のタイムで走行し「セッティングが詰まれば52秒台は入る」と清水氏 | ||
ドライバーを務める清水和夫氏 | 吉田寿博選手 | ドライバー2人と辰己氏。限られた時間でセッティングを煮詰める |
辰己氏によれば、「私を含めほとんどがレース素人の社員。さらにディーラーのメカも数人いる。実はプロ中のプロも一人二人入っているが、それは我々があまりにも素人なので、助言をいただいている」と参戦チームが手作りのものであることを語った。その上で「我々としては、スバルファンのためにこのイベントに取り組む」とした。目標は同じクラスに参戦するフォルクスワーゲンのワークスチームが走らせるシロッコに勝つこと。「世界一のメーカーにSTIごときが挑むのは大それているが、クルマをたくさん売ることではかなわないが、ある特定の分野でSTIの技術を持ってすれば、勝てるかもしれない」と意気込みを語った。今後は社内テストコースで最終的に煮詰め、3月末には車両をドイツに輸送すると言う。
(瀬戸 学)
2010年 3月 11日