ニュース
STI、“ニュル24時間レース3連覇”を目指す2017年仕様「スバル WRX STI NBR CHALLENGE」公開
パワー志向のエンジン改良と旋回性アップを狙う空力変更を実施
2017年3月9日 07:00
- 2017年3月7日 公開
STI(スバルテクニカインターナショナル)は、5月25日~28日にかけてドイツ・プファルツ州アイフィル地方のニュルブルクリンクで開催される「第45回ニュルブルクリンク24時間レース」に2017年も参戦する。
このチャレンジは2008年から始まった活動で、今期は10年目となる節目でもあり、2015年、2016年に続いてクラス3連覇を目指す大事な年となる。そこでSTIでは参戦車両を新車から製作し直し、心機一転レースに挑むこととなった。参戦車両は「スバル WRX STI NBR CHALLENGE」。
2017年の参戦車両は量産車のよさを生かしながら、さらに「速く」「意のままに操る」ことを目標に開発し、車両に改良を施している。具体的には加速性能とトップスピードの向上を図るため、エンジンパワーの向上を図ったほか、エンジン特性にマッチしたトランスミッションも採用。さらにシフトチェンジの時間短縮を狙って、シフトレバーを廃止してパドルシフトを採用した。
シャシーもジオメトリーの最適化、剛性バランスの改善、車体の軽量化、慣性モーメントの低減、フロントダウンフォースの向上などを行なってコーナーリングスピードを高めている。こういった改良を施したうえで、欧州の有力メーカーが多数参戦する2.0リッター以下ターボエンジン搭載クラスの「SP3T」に参戦する。
チーム監督は2016年に引き続きSTIの菅谷重雄氏が務める。また、チームには全国のスバル特約店から選抜されたメカニックがレースメカとして帯同する。ドライバーも2016年と同様に、カルロ・ヴァン・ダム選手、マルセル・ラッセー選手、ティム・シュリック選手、山内英輝選手の4人という布陣だ。
STIとスバル(富士重工業)のモータースポーツ活動計画については1月に開催された「東京オートサロン 2017」の会場で発表済みだが、STIは3月7日に富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で参戦車両のシェイクダウン走行を報道関係者向けに公開。同時に参戦活動の趣旨や技術面について解説する説明会を開催したので、その模様をお伝えする。
説明会はスバルテクニカインターナショナル 代表取締役社長の平川良夫氏の挨拶から始まった。
平川氏は「このニュルの24時間レースにはWRC(世界ラリー選手権)を撤退した2008年より参加していて、今年でちょうど10年になります。クルマのほうも2世代の車両で参戦してきました。昨年はレース日程の急な変更、天候不順などがあったなか、完走し、優勝することができました。今年も多くのパートナーのみなさまをはじめ、大勢の方から熱い声援と期待を頂いているなかでのチャレンジとなります。その期待に沿うために今年新しく作ったクルマのこと、メカニックやドライバーの意気込みなどをこれから紹介していきたいと思います」と語っている。
なお、STIではニュルブルクリンクのことを「NBR」と表現しており、本稿でも以降はNBRとする。
続いて、3連覇に向けた取り組みについて菅谷監督から解説が行なわれた。「昨年は波乱の展開のなかでも、中盤から終盤を順調に進めたのですが、楽ができたわけではなく、強いライバルがレース半ばで戦線を離れたことも我々が優勝できた理由の1つです。そして今年、再びNBRに挑戦する機会をいただいたので、3連覇に向けて昨年の反省点を改善したクルマ作りを行なってきました」。
「改善にあたって、チームはクルマに対して改善ポイントを4つ挙げました。1つめは最高速が低かったこと、それからコーナー立ち上がりの加速にもう少し改善が必要ということ。また、中低速コーナーが連続する区間でのパフォーマンスが不足していて、このままではライバルに追いつき、前に出ることはできないと考えています。また、スタートしてすぐの序盤が遅い印象ですので、この点も改善が必要です」と解説。これらの問題点について、具体的に改善項目を挙げて改良を加えているという。
改善点についてはエンジン・パワーユニット、車体関連の各責任者から補足の説明が行なわれた。まずはスバルテクニカインターナショナル パワーユニット技術部 パワーユニット設計課 課長の柳岡寬典氏の説明からだ。
「去年までは『パワーユニットが絶対に壊れない』『絶対に完走する』という部分に主軸を置いていたのですが、やはり抑えているぶんストレートが遅いということもありまして、今年は出力を上げることを意識したエンジンとしています。ベースエンジンはEJ20という量産で使っているものなので、100%作り直したというところもありますが、なかでもピストンを専用のものに変えて圧縮比を上げています。それに、これまでは低中速を重視したような4-2-T(ターボ)形状のエキマニを使っていましたが、出力を上げる目的で4-2-1の形状にしています。それに合わせてターボ自体もシングルスクロール化しています」と解説。
このような改良でエンジン本体の能力は高まっているのだが、レギュレーションでリストリクター径を小さくすることによる大幅な吸気制限が行なわれるので、正直なところでは以前のエンジンと比べて100%同レベルのパワーまでは上げ切れていないという。そこで足りない部分を、ギヤ比の見直しやシフト操作に掛かる時間を短縮するためのパドルシフトの導入、軽量フライホイールの採用、センターデフの制御変更などによって補っているとのことだ。
車体関連についてはスバルテクニカインターナショナル 車体技術部 部長の毛利豊彦氏から改善点について説明された。
毛利氏は「今年のクルマについて、空気抵抗の数値は据え置きとしていますが、コーナーリング速度をアップさせるためにダウンフォースをしっかり稼いでいくことをやっています。今日のテストではまだ使用していませんが、フロントアンダーパネルも前方を跳ね上げた形状のパーツを新たに用意しています。NBRはアップダウンが激しいコースなので、状況によってクルマの床下に入ってくる空気量が変わることがあります。するとダウンフォースもそれに応じて変動するものですから、変動をできるだけ少なくして床下の空気をスムーズに流すことを狙っています。さらにフロントのタイヤハウスに入った空気ですが、これも溜まると抵抗やクルマを持ち上げる力になってしまうので、より効果的に抜けるようエア抜き対策も強化しています」とのことだった。
車両に関する説明が終わったところで、テストの作業がひと段落してピットからSTIのテクニカルアドバイザーと務めている辰己英治氏とドライバーの山内英輝選手が駆けつけた。
山内選手が3連覇に対しての意欲を語ってくれたほか、辰己氏は「10年目という記念すべき年ですので、勝ってお世話になった方々への恩返しができるよう準備を進めてまいります。これからドイツに送るまでのあいだに進化させて、スバルが唱えている“安心と愉しさ”が本物であるということを証明して見せます」と語ってくれた。
そのほか、取材時間内に撮影できた個所の写真を掲載するので、新しく製作した参戦車両の作り込みを見てほしい。ちなみに、シェイクダウン走行は当初2回に分けて行なわれる予定となっていたが、走行1回目でエンジンの変調が起きたため、大事をとって2本目の走行はキャンセルとなっている。