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STI、エアロダイナミクスが向上した「WRX STI」のニュル24時間レース参戦車両を公開
クラス優勝奪還を目指して富士スピードウェイでシェイクダウン
(2015/3/9 14:32)
- 2015年3月4日開催
- 富士スピードウェイ
STI(スバルテクニカインターナショナル)は3月4日、富士スピードウェイでニュルブルクリンク24時間レース(43.ADAC Zurich 24H Rennen)に参戦するマシンのシェイクダウンを行い、その模様を報道陣に公開した。2014年同様、現行型「WRX-STI(CBA-VAB)」でのエントリーだが、その内容を昨年から大きく進化させ、2011年、2012年と連続でクラス優勝を飾るものの2013年には2位、そして2014年は4位に終わったSP3Tクラス(排気量2リッター以下のターボ車)での3度目のクラス優勝を目指す。
2015年1月に東京オートサロンで発表されていたチーム体制に変更はなく、辰己英治チーム総監督、小澤正弘監督が昨年同様に指揮をとる。ドライバーは昨年から引き続き佐々木孝太選手、マルセル・ラッセー選手(ドイツ)、カルロ・ヴァンダム選手(オランダ)が担当するとともに、今年からニュルブルクリンク24時間レースの経験も豊富なティム・シュリック選手(ドイツ)が加わった。
なお、シェイクダウン当日はSTI代表取締役社長 平川良夫氏、辰己英治チーム総監督、小澤正弘監督、佐々木孝太選手が参戦への意気込みを語った。
●平川良夫STI代表取締役社長
「外観は一見変わらないように見えますが、ボンネット内は去年と比べかなり大きな違いがあります。また、今日はウエット気味の路面ですが、数年前のSUPER GT300のタイムくらいで走りたいと思っています」
●辰己英治チーム総監督
「2011年、2012年の勝利によっての気の緩みはなかったと思っていましたが、振り返ってみて、何が何でも勝たないと日本に帰ってこれない、というくらいの覚悟があったかといわれれば、やはり若干の気の緩みはあったかもしれません。昨年の結果に対し大いに反省し、今年の車輛製作に臨みました」
●小澤正弘監督
「我々の武器は信頼性と耐久性、そして24時間戦ううえでの安定性。しかし我々はライバルに対し、まだまだクルマの性能が足りないというところを本気で真摯に見直し、今度はライバルの性能も凌駕するよう車輛製作に取り組んできました。今年は優勝を勝ち取ってきますのでご期待ください。よろしくお願いします」
●佐々木孝太選手
「今まではいつも吉田寿博先輩がチームを引っ張ってくれていましたが、今年は日本人ドライバーが1人になり責任も重大だと思っています。昨年は本当に悔しい思いもしました。(そういう悔しさをバネに)チームがドライバーのことを考え、乗りやすくかつ戦闘力が上がっているのではないかと思っているので、今日はしっかりテストして煮詰めていきたいと思っております」
写真で見るWRX STI 2015年ニュル24時間レース参戦車輌
車両名:SUBARU WRX STI NBR チャレンジ2015
全長:5120mm(2014年モデル比+230mm)
全幅:1860mm(2014年モデル比+25mm)
全高:1395mm
ホイールベース:2650mm
車重:1200kg以上
エンジン形式:EJ20 水平対向DOHCターボ
排気量:1994cc
エアリストリクター:φ38
変速機:6速シーケンシャルギヤボックス
サスペンション:フロント ストラット / リア ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:フロント ブレンボ製6ピストン / リア ブレンボ製4ピストン
ホイール:BBS製18×10J
タイヤ:ダンロップ(260-660R18)
2014年の参戦車輌との一番大きな違いはハンドル位置で、今年は左ハンドル仕様となった。ニュル24時間レースを走る車両のほとんどが左ハンドルであることを考えれば、コースマーシャルが振るフラッグが「左側にいるであろう」ドライバーが見やすいように振られている可能性があると考え採用した。実際にあった、昨年のダブルイエロー区間での追い越しを反省し、ドライバーの不注意を車側で少しでも減らそうという配慮だ。また、コースも右回りで必然的に右コーナーが多く、左ハンドルの方がブラインドコーナーの奥が見やすいこと、欧州のドライバーが右ハンドルに不慣れだということも左ハンドル採用の理由だ。
なお、ベースのマシンは海外で発売されている左ハンドルの量産車ではなく、開発拠点である日本で調達しやすい右ハンドルの日本仕様をベースとし、ハンドル位置を左にわざわざ変更している。それによってマスターバックの位置が変更になってタービンとの位置関係が変わり、熱対策上も有効だったとのことだ。
左ハンドル化やパドルシフトの採用とともに大きく見直されたのが空力だ。シェイクダウンに先駆け、2月21日には群馬県太田市の富士重工業敷地内にある風洞実験施設で空力性能データが採取されている。リアウイングが2014年モデルに比べ車体後方に移されているのは、ダウンフォースをより強くするためだ。
車両開発を指揮する辰己英治総監督によると、エンジン出力を10PS上げても最高速は2km/hほどしか上がらないのに対し、CD値を0.2向上させると最高速は10km/h程度上がるとのこと(ちなみに2015年モデルのCD値は0.36)。中高速コーナーが多いニュルブルクリンクにおいて空力の効果は絶大なのだ。
ニュルに向かってシェイクダウン開始
シェイクダウンは佐々木孝太選手によって行われた。佐々木選手自身、2015年モデルに乗るのは初めてだったので、まずピット内でシートの調整等の作業が行われ、その後富士スピードウェイのコース内での走行が始まった。午前中はコースをSTIが占有しての走行であったため、ニュル参戦車輌と同時にSUPER GT GT300に参戦中のBRZがテスト走行していた。
低速コーナーからの立ち上がりは4WD車が速いものの、ニュルブルクリンクに多く見られる中高速コーナーが弱いWRX STIにとって空力の改善は必須。富士スピードウェイならコカコーラコーナーから100R、第13コーナーが似たようなタイプのコーナーだそうだ。
昨年同様、今年も全国のディーラーから選抜されたメカニックがサービスマンとしてチームに加入し、ニュルブルクリンク24時間レースに挑む。選抜されたメカニックは北は北海道から、南は南九州までの6店舗から選ばれた6人。
右ハンドル車の左ハンドル化をはじめ、必勝体制で臨む2015年のマシンは例年以上に改造個所が多い。しかし、それは既存の奇抜なパーツを採用することなく、あくまでもスバルの量産車を作る技術、STIのコンプリートカーを作る技術、スポーツパーツを開発する技術を総動員して作り上げる。そこがこのマシンの一番のポイントだと辰己総監督は語る。そして、この過酷なニュルブルクリンク24時間レースをそのようなスタンスで臨むことが、次のスバル車やSTIコンプリートカー、スポーツパーツの開発に直結するとのことだ。
また、STIですでに販売されているフレキシブルドロースティフナーやフレキシブルタワーバーは、2015年のマシンにも実践投入されていて、その効果は大きいという。
マシンは、4月11日~12日にニュルブルクリンクで行われるクオリファイレース、そして4月25日にはVLN(ニュルブルクリンク長距離選手権)に出場してマシンのセットアップを進め、5月14日~17日に行われるニュルブルクリンク24時間レースに臨む。