STI、「WRX STI tS」でニュルブルクリンク24時間にチャレンジ
クラス優勝を目指してレーシーに作り込まれたtS

ニュルブルクリンク24時間参戦メンバー。STIの社員やディーラーメカニックなどで構成される

2011年3月10日発表



 STI(スバルテクニカインターナショナル)は3月10日、「第39回 ADAC Zurich 24時間レース(ニュルブルクリンク24時間レース)」に、同社の「WRX STI ts」で出場すると発表した。同日富士スピードウェイで参戦車両の公開とテスト走行を行った。レースは6月23日~26日に開催される。

富士スピードウェイで行われた記者発表監督はこれまでと同様、辰己英治氏。車両開発も辰己氏が中心となって行ってきたと言う今回から新たに加わる佐々木孝太選手

 ニュルブルクリンクは、F1やDTMも開催される全長5.1kmのグランプリコースと、通称オールドコースと呼ばれる全長20.8kmのノルドシュライフェを組み合わせた世界最長のコース。特にノルドシュライフェは山岳部を抜けるロードコースで、300mの高低差と170以上のコーナーを持つ。路面はいわゆるレーシングコースのように管理されたものではないため、世界中のさまざまな道の要素が含まれており、自動車メーカーが市販車両の最終テストに使うことでも知られている。

 スバルもいち早くニュルブルクリンクでテストを行っており、インプレッサにおいてはデビュー当時からニュルブルクリンクでのテストを実施。その進化がニュルブルクリンクのラップタイムによって語られることも多かった。

 そしてスバルのワークスであるSTIが車両を開発し、世界で最も過酷な耐久レースの一つであるニュルブルクリンク24時間レースに参戦を始めたのは2009年。今回で3回目となる。

 今年の参戦チーム体制は、これまでと同様STI車両実験部部長の辰己英治氏がチーム監督を務め、ドライバーは2008年からニュルブルクリンク24時間にチャレンジしている吉田寿博選手、昨年よりSTIチームで参戦しているカルロ・バン・ダム選手(オランダ)、地元ドライバーのマルセル・エンゲルス選手(ドイツ)。さらに今年新たにチームに加わったのが、SUPER GTでレガシィB4を駆っている佐々木孝太選手だ。

グランプリコースとノルドシュライフェを組み合わせたニュルブルクリンク特に難関とされるのがノルドシュライフェ。全長20.8kmもあるため、コースの一部だけが雨ということもよくあるスバルとニュルブルクリンクとの歴史は深い
ニュルブルクリンク24時間レースの概要一昨年、昨年のリザルト今年は清水和夫氏の代わりに佐々木孝太選手を加えた布陣

勝つために大幅に改良された参戦マシン
 マシンは、2月25日から正式発売となったSTIのコンプリートマシン WRX STI tSをベースにしたもの。過去2年は5ドアモデルで出走のため、4ドアモデルでの出走は初となる。

 昨年のマシンでは、ドアとボンネットをカーボンにするのみだったが、今年はさらに前後バンパー、フロントフェンダー、トランクリッドもカーボン化。ルーフはもともとベース車がカーボンだが、ピラー内部のぜい肉を落として軽量化したと言う。5ドアモデルに比べ重量の重い4ドアモデルがベースであるが、それでも昨年のマシンと比べ20kg軽い1220kgとなった。また、特にボディー上側の軽量化ができたため、軽量化と併せて低重心化ができたとは辰己氏。

 また、大型のリアウィングが付いたのが目立つが、やはり高速コースのニュルブルクリンクでは、空力パーツは重要とのことで、5ドアで参戦したとしても、今年はウィングを付けるつもりだったと言う。

参戦マシンの外観
バンパーはカーボン製。アンダースポイラーが付くグリル部にtSのエンブレムが付くフロントフェンダーもカーボン製
ボンネットもカーボン製。アウトレットが追加されている裏から見るとカーボン製だということがよく分かるルーフがカーボンなのはベース車のWRX STI tSと同様
サイドやリアガラスはアクリルに変えられるドアは前後ともカーボン製。これは昨年と同様タイヤはダンロップ、ホイールはBBSの鍛造ホイールだ
目視で分かるほどキャンバーが付いている。フェンダーも外に引っ張り出したような感じだトランクリッドもカーボン製。ベース車のtSと同様トランクスポイラーが付く大型のリアウィング。昨年との大きな違いの一つだ
コクピット全景メーターはMoTecオーディオはなく各種スイッチ類が並ぶ
トランスミッションはノーマルと同じ6速シートはレカロ製フルバケットシートルーフから取り込んだ外気でドライバーを冷やす仕組みだ
車内にはたくさんのロールケージが張り巡らされる後席にあるのは安全タンク(ガソリンタンク)

 サスペンションは、全長を短くし車高を落としている。フロントはサスペンションの取り付け位置も含めてベース車と共通だが、車高を下げることにより、アームがバンザイをした状態になっているため、ナックルとアームの間にロールセンターアジャスターを入れている。

 リアに関しては、ボディー側を加工し、サブフレームの取り付け位置自体を上に移動。さらにサブフレーム取り付け部のブッシュにも、一部は固めつつも一部はある程度動くようなセッティングにしているとのこと。これらも発想はtSに通じるものだと言う。また、tSに使われるフレキシブルタワーバーやドロースティフナーなども、多少形が変わっている部分もあるが、装着されている。

フロントサスペンションとブレーキ。ブレーキはAPレーシング製写真中央の耐熱クロスの内側にロールセンターアジャスターが入っているレーシングカーではあるが、アーム類などはベース車のまま。ただしブッシュを一部ピロに変更するなどしている
ベース車でも使われるフレキシブルドロースティフナーも装備リアブレーキとサスペンション車高を落とすため、サブフレームの取り付け位置を上に上げている

 エンジンまわりでも改良が加えられた。エンジンはEJ20をベースにピストンなどの軽量化を行ったもの。SUPER GTなどで使われるものとは異なる。また、インテークマニホールドの形状を変更し、吸気効率のアップと、吸気管長をそろえた。これによりインタークーラー位置が後退している。そのほか、エアクリーナーの交換などは昨年と同様。これにより最高出力は250kW(340PS)/5500rpm、最大トルク461Nm(47kgm)/3000rpmを発生。昨年モデルより7kW(10PS)アップしている。

エンジンルームインマニの形状がベース車とは異なるインマニの形状変更のためインタークーラーが少し後方になり、その分バルクヘッドを逃がしている
エアクリーナーは昨年と同様エアクリーナーにはダクトが付き、フロントバンパー開口部まで繋がるフロントバンパーの開口部の一部が、エアクリーナー用の吸気ダクトとなっている
リアデフオイルクーラーマフラー

 全体的に見ても昨年と比べだいぶ改良が加えられているが、参戦するSP3Tクラスは、フォルクスワーゲンシロッコやアウディTTS、オペル アストラなど強豪がひしめくクラス。一昨年はクラス5位、昨年はクラス4位となっているが、今年は優勝を目指すため、大幅な改良に踏み込んだのだと言う。

富士スピードウェイでテスト走行
 実際に富士スピードウェイをテスト走行した結果、最初の走行で昨年のマシンでのタイムを1秒上回るタイムを記録した。辰己氏によれば、これはニュルブルクリンクで15秒ほどの短縮になるだろうとのこと。

富士スピードウェイでドライバーが初試乗

 ステアリングを握った吉田選手とカルロ・ヴァン・ダム選手に走行後の印象を聞くと、昨年のマシンと比べ、低重心化とリアがしっかりしたことで安定性が増したと語った。ただしその分フロントが負けてしまい、タイトコーナーが曲がりにくいとはカルロ・ヴァン・ダム選手。

 これに対し辰己氏は、ニュルブルクリンクは富士スピードウェイの高速コーナーくらいのコーナーが続いて、タイトコーナーはないので、リアが勝ち気味なのはある程度想定の内とのこと。ただしどっしりと安定しながらも、よく曲がる仕様を今後はレース車両だけでなく目指しているとした。

 今年の目標を聞くと、監督、選手ともに「クラス優勝」と口をそろえ、気合い十分のチーム。レースの模様はスバルモータースポーツマガジン内のスペシャルサイトでレポートされるほか、スバルトラベルサービスが観戦ツアーも企画している。

走りが安定したうえに、軽量化で立ち上がりもよくなったと言う吉田寿博選手タイトコーナーでの挙動が気になるというカルロ・バン・ダム選手高速コーナーの多いニュルにあわせ、安定方向にセッティングしたと言う辰己氏

(瀬戸 学)
2011年 3月 11日