国土交通省とNASVA、衝突試験車両を秋葉原で一般公開
平成21年度自動車アセスメント結果発表会リポート

会場には全5台の試験車両が展示された

2010年4月21日開催



 国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)は4月21日、東京都千代田区にあるベルサール秋葉原で、自動車安全性能比較である自動車アセスメントの2009年度テスト分の評価結果を発表、試験車両を一般公開した。その中でも最も安全性能が高い車を表彰する「自動車アセスメントグランプリ'09/'10」には、スバル「レガシィ」が選ばれた。

 国土交通省 自動車交通局 技術安全部 審査課長 江角直樹氏によれば、2009年中の道路交通による死者数は4914人であり、5000人を下回るのは57年ぶりだと言う。また、交通事故による死亡者を状況別に見ると、自動車に乗っていて亡くなった人は大幅に減少しているが、相対的に歩行中に巻き込まれた死者の割合が高まっていて、全体の34.9%を占めると言う。そうしたことから、今後ますます尽力しなければならないと自動車アセスメントの必要性を語った。

会場となったベルサール秋葉原国土交通省 自動車交通局 技術安全部 審査課長 江角直樹氏交通事故による死亡者数は9年連続で減少し、交通事故発生件数と負傷者数でも5年連続で減少している
国土交通省 自動車交通局 技術安全部 審査課 ユーザー情報企画官 佐藤健二氏

 自動車アセスメントの詳細については、同課のユーザー情報企画官 佐藤健二氏が説明した。

 自動車アセスメントでは販売実績の高い車両を中心に2009年度のテスト車両として12車種を選考。さらにメーカーからの委託による5車種を加えた全17車種でテストを行っていると言う。

 テスト内容としては、55km/hでコンクリート壁に衝突するフルラップ前面衝突試験、64km/hでアルミハニカムに車幅の40%を衝突させるオフセット前面衝突試験、前面にアルミハニカムを装着した950kgの台車を55km/hで側面から衝突させる側面衝突試験のほか、歩行者保護性能として、歩行者を巻き込んだ事故の際に、歩行者の頭部がぶつかる可能性が高いボンネットやフロントガラス部の衝撃吸収具合の評価などをしている。

 アセスメントは1995年からスタートし、テスト内容を少しずつ充実させてきているが、2009年度のテストでは新たに、後ろから追突された場合を想定した後面衝突頚部保護性能試験、後席のシートベルトの使い勝手を評価する使用性評価試験、後席のシートベルト装着率向上のため、座席ベルト非装着時警報装置評価試験を追加。また、従来のオフセット前面衝突試験では、運転席、助手席に乗せていたダミーヘッドを、運転席と助手席側後席に変更して、後席乗員保護性能評価を加えていると言う。

自動車アセスメントの試験概要

 2009年度にテストを行ったのは、トヨタ「プリウス」「マークX」「ウィッシュ」「ランドクルーザープラド」、ホンダ「インサイト」「ステップワゴン」、日産「キューブ」「NV200バネット」、マツダ「アクセラ」、スバル「レガシィ」、BMW「ミニクーパー」、ダイハツ「ミラ ココア」のほか、メーカーから委託された5車種の計17車種でのテストを実施している。

 そのほかチャイルドシートアセスメントも実施しており、自動車アセスメントの結果と合わせ国土交通省の自動車総合安全情報Webサイトや、NASVAのWebサイトなどで公開していると言う。

自動車アセスメントグランプリはレガシィ
 2009年度の評価車両の中でもっとも優秀な性能を持った車両を表彰する自動車アセスメントグランプリの発表と表彰は、NASVA理事長の金澤悟氏により行われた。

 選ばれたのはレガシィで、表彰を受けた富士重工業 スバル商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャー 熊谷泰典氏は、「私どもスバルには、衝突というわずか0.2秒くらいの出来事にこだわってすべてを掛けているエンジニア達がいる。そういった取り組みが今回の結果につながったと考えている。また、この素晴らしい結果を、レガシィを選んでくれたお客様に報告できることをうれしく思う」とした。

NASVA理事長 金澤悟氏グランプリ車のレガシィは、発表に合わせてアンベールされた。用意されたのは側突試験を行った車両だNASVAからトロフィーやメダルなどが贈られた

 また、レガシィの安全性能の高さについて、技術的な説明も行われた。熊谷氏によれば、レガシィに搭載される水平対向エンジンは、エンジン高が低いため、ボンネット下のクリアランスがとりやすく、歩行者保護に有利だと言う。また、前面衝突時には、エンジンがフロア下に潜り込むような構造にすることができるとし、スバル車が衝突安全、歩行者保護の両面で優位であることを述べた。

富士重工業 スバル商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャー 熊谷泰典氏スバルの安全思想。事故に至る前段階から安全を最優先していると言う水平対向エンジンならではの低いエンジン高により、歩行者保護性能で優位になる
ボンネットの構造やフェンダーの取り付け方でも歩行者保護を考慮したものになっている前面衝突時にはエンジンがフロア下に潜り込む設計としている
新環状立骨構造により全方向からの衝撃に対応するエアバッグやシート構造といった基本的な部分にもこだわった結果だと言う側突試験を行ったレガシィと熊谷氏

 会場には、プリウス、インサイト、ミニクーパー、バネットの試験で使用した車両が展示・公開されていたが、グランプリ発表後は、それまでベールに包まれていたレガシィもほかの展示車両と同様に並べられ、会場を訪れた一般の来場者にも公開されていた。

側突試験を行ったレガシィ。サイドインパクトビームがしっかり受け止めているためガラスも割れていない車内から見た運転席ドア。ドアがゆがんでシートを押しているが、乗員のスペースは確保されている後席側もシートが押されてゆがんでいるのが分かる
歩行者保護の試験で使ったボンネットも装着されていたワイパーなどの構造物により、クリアランスがとりにくい部分でもテストが行われているレガシィの評価結果
プリウスはオフセット衝突試験車が展示されていたフロントタイヤが押されているのがわかるフロントドアも押されて多少だがチリが合わなくなっている
ニースペースも含めてライフスペースは確保されているのが分かる今回からオフセット衝突で後席乗員の保護性能も評価されることになったプリウスの評価結果
インサイトもオフセット衝突試験車を展示前面はフレームごと大きくゆがんでいるのが分かるキャビンには目立ったゆがみは見受けられない。ライフスペースも確保されている
インサイトの評価結果今回唯一の輸入車であるミニクーパー。展示車両は側突試験車だドアの内張りまでが大きくゆがみ衝撃の大きさを物語る
フロントウインドー部には歩行者保護の試験を行った跡がある人の頭部がぶつかる可能性の高い場所で試験を行うため、車種によってテストを行う場所が多少異なるミニクーパーの評価結果
商用車として唯一評価に加わったNV200バネット。フルラップ前面衝突試験車両を展示フロントフェイスが大きくつぶれている見た限りではキャビンに大きなゆがみは見受けられない
NV200バネットの評価結果会場では、車両展示のほかテスト時の映像も一般公開されていた会場周辺では、今回のテスト車両も含む全106車種の評価結果を掲載した冊子が配布された

(鈴木賢二)
2010年 4月 22日