日本発×日本初、普通免許で乗れるリバース・トライク「ウロボロス」が登場

2010年6月24日
329万7000円



写真中央がオートスタッフ末広の中村正樹氏、2輪業界では知る人ぞ知る人物。左がデザイナーの根津孝太氏、右奥は操安アドバイスの本多秦一氏

 1985年から合法改造にこだわった独自の手法で、数々のカスタム車を製作してきたオートスタッフ末広。その長年のノウハウを凝縮して生み出されたリバース・トライク(前2輪・後1輪)「ウロボロス」の発表試乗会が6月24日、千葉サーキットで行われた。

 完成車は事前に、テスト走行と撮影の為に都心部を走行。その個性的で未来的なスタイリングは大変な注目を集め、近未来の乗り物としての可能性を予感させた。

 現在、サイドカーと並んでトライクは趣味性の高い乗り物として認知されている。道路交通法の改正で免許制度が今後大きく変わる可能性もあるが、2010年6月現在、ウロボロスは普通免許での走行が可能である。

 大雑把に説明すると、操作がオートバイであっても車体が傾斜(バンク)しない4輪的運転特性の3輪車は、クルマに該当しヘルメットは不要となる。しかし3輪であってもカーブで車体を傾けなければ曲がれない運転特性ならばオートバイとみなされ、自動2輪免許が必要となりヘルメットの着用が義務付けられる。

 道路交通法では普通自動車、道路運送車両法では側車付き2輪車に区分されるという、極めて複雑な状況下にトライクは置かれている。勿論、このウロボロスは道交法ではクルマであるからヘルメットの着用の義務は無い。しかしオートスタッフ末広は安全面からヘルメットの着用をオーナーに推奨している。

オートスタッフの中村正樹氏の長年の技術の蓄積と、znug designの根津孝太氏のデザインによって生み出された日本初のリバース・トライク。0uroboros(ウロボロス)とは自分の尾をくわえたヘビで、「死と再生」を意味する

試乗
 ウロボロスの乗車姿勢は、前傾の緩いグランドツアラーのようだ。跨った瞬間に1Gによるサスペンションの沈み込みを明確に感じられる。これは高品質なオートバイの感覚だ。シートは幅広で柔らかく、乗り心地がよい。ただし、停車時に左右にハンドルを切ろうとしても、オートバイやパワーステアリング装備車のように簡単には動かない。

 レバー式のパーキングブレーキを解除してクラッチを繋ぐ。ウロボロスのサイズは2950×1620×1080mm(全長×全幅×全高)。ヤマハの1000ccの4気筒は、するすると400kgオーバーの巨体をチェーン駆動で押し出す。クラッチミートにコツは要らない。発進時にオートバイのように運転者が車体をバランスさせる必要がないので、初心者や女性でも臆することは無いだろう。なおエンジンは変更することができる。

 停止時には動かなかったハンドルが、今度はしっかりとした手応えで反応してくる。速度にステアリングを同調させるのは、レーシングカートの感覚にも似ている。

 ブレーキは3輪連動ブレーキを装備、操作は右足で行う。現代のオートバイのようにフロント側に制動荷重が集中せず、車体全体が路面に沈み込んでいく。フロントブレーキレバーがハンドルに装備されてはいるが、あくまで補助的役割である。当然シートベルトは無いので、制動時に運転者は自らの体をホールドする必要がある。

 140馬力を発生する4気筒エンジンは、ギア比をロングに変更し、ピックアップは穏やか。2速で全開にしても、ホイールスピンを誘発するような事はない。

駆動はチェーン。騒音規制等の設定はオートバイの車検規定となる。排気音はベースとなったFZR1000と同様だが、若干抑えられているようだタイヤサイズは185/55 R16。ブレーキキャリパーをダブルで装着。大径の方がメインで3輪連動式。小径の方は独立したフロントブレーキレバーで、あくまで補助的役割、前ブレーキを多用するオートバイユーザーに配慮したリアの駆動輪は205/55 R16。スイングアームは方持ち式
ハンドル角度は現在のオートバイのカテゴリーではツアラー的なゆったりとした角度。調整機能は持たないが、オーナーの体格や好みに合わせて変更できる中央にタコメーター、左が水温計。燃料系は無く右側の警告ランプが点滅する。その他はデジタルモニターに表示される
幅広だがシート高は低く、足つきに不安はまったくない。スポンジは柔らかいが反力がしっかりあるので、長距離走行にも十分対応する

 ハンドリングは意図的に弱アンダーステアにセッティングされている。つまりコーナリング時には操舵を担うフロントの2輪が、遠心力でアウト側に引っ張られるわけだ。製作者側には、「過敏にレスポンスするハンドリングは恐怖心に繋がる」という思想がある。よい意味で緩慢な車体をダイナミックに操作する、そういった感覚を優先してハンドリングを決定した。先に述べた穏やかなエンジン特性も同様で、オートバイの経験のない普通免許層をターゲットにするのなら、このセットアップは絶妙である。

 トライクやサイドカーを運転する際、最もおそれられるのが横転事故。ウロボロスは中村氏のノウハウによってこの3輪車特有の不安要素を取り払った。さすがにオーバースピードでコーナーに入ると、アウト側のフロントタイヤがスキッド音を発する。これが第1段階の警告であるが、そこからの懐が深い。通常の路面であればタイヤがグリップを失うことはまずないだろう。旋回中にアクセルを急閉しても走行ラインは乱れない。さすがに2人乗りの状態で急激な旋回を試みると、イン側のタイヤが少し地面を離れる場合があった。しかし横転に結び付くような気配は微塵も感じられない。

 「バイクにない安定感、クルマにない操縦感」というコンセプト通り、日常速度域でも存分にスポーツ性を堪能できるウロボロス。この新生リバース・トライクは高出力・高性能化が進むスポーツカーやリッターバイクとは全く違う新しい世界を見据えている。有機的なフォルムを運転していると、まるで従順な未来の「大型機械生物」に跨っているような高揚感すら覚える。

 この大型機械生物の性格や外観は、飼い主の趣向で完全オーダーメイドができる。搭載エンジンやハンドリングをもっと過激に、もしくは穏やかな方向にオーダーすることが可能だし、カラーリングも自由自在である。試乗車の仕様で329万7000円。この価格を高いとするか、安いとするか? それは我々の「感性」次第なのかもしれない。

保安部品などはなるべく小型の物を装着し、デザインコンセプトに忠実なフォルムを再現しているステップエンドに滑り止めのリングが追加されている。ブレーキペダルの長さと角度が絶妙で、瞬時に的確に制動できる。タンデムステップはブラッククローム仕上げイグニッションスイッチはシート右下
二重になったウインドーシールドはデザイン上の演出。勿論実用性もある。ちなみにトライクの高速道路の制限速度は80km/h燃料キャップはスズキのオートバイ用を流用。燃料タンクの容量は22L流線型とエッジを組み合わせた独特のデザイン。見る角度によって表情が変わる
リンク式サスペンションはナイトロン。ウロボロス専用のセッティングが施される。固めのバネにゆったり目の減衰特性の組み合わせ積載能力は計118L。さまざまな用途に対応する

(鈴木広一郎 )
2010年 6月 29日