スバル、FRスポーツ「ボクサー スポーツカー アーキテクチャ」説明会 水平対向エンジン搭載位置を低く、後方に |
展示は新型インプレッサ(奥)とともに行われた |
スバル(富士重工業)は5月16日、コンセプトモデル「ボクサー スポーツカー アーキテクチャ(BOXER Sports Car Architecture)」と、年内に米国での発売を予定している新型「インプレッサ」の説明会を開催した。新型インプレッサについては、別記事を参照していただき、ここではボクサー スポーツカー アーキテクチャに絞ってお届けする。
ボクサー スポーツカー アーキテクチャは、トヨタ自動車とスバルが共同開発中のコンパクトFRスポーツカーのコンセプトモデル。トヨタ側が「FT-86 II concept」「FR-S concept」とエクステリアデザインを公開しているのに対し、スバル側は量産車につながるようなエクステリアデザインは一度も公開せず、このボクサー スポーツカー アーキテクチャで、エンジンやトランスミッション、サスペンションなどの内部ディメンションを示すのみ。これには、トヨタは企画・デザインを担当、スバルは開発・製造を担当するという共同開発のあり方に関連するところがあるのかもしれない。
トヨタの「FT-86 II concept 」(左)と「FR-S concept」(右)。いずれもコンセプトカー。FR-S conceptのほうが発表時期が新しく、デザインは変化し続けている |
富士重工業 スバル商品企画本部 副本部長 上級プロジェクトゼネラルマネージャー 増田年男氏 |
■エンジン搭載位置は、120mm低く、140mm後方に
スバルでこのボクサー スポーツカー アーキテクチャの開発に携わるのは、スバル商品企画本部 副本部長 上級プロジェクトゼネラルマネージャー 増田年男氏。増田氏によると、このコンセプトカーは、軽量・コンパクト・低重心でスポーツカーの心臓部として最適な「スバル・ボクサー・エンジン」をより低く、より後方へ搭載。従来のスバル車と比べ、120mm低く、240mm後方へ移動していると言う。
また、エンジンを低く搭載できたことで、ボンネット高も低くでき、ドライバーの着座位置を下げ、低車高シルエットを実現。現在公表されているボディーサイズは、4200×1770×1270mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2570mmとなっており、現行インプレッサ WRX STIの4590×1795×1470mm、ホイールベース2625mmと比べて、全長と全高が大幅に短くなっている。ただ、トヨタのコンセプトカーではボディーサイズは若干異なるものとなっており、量産デザインとなった際には同様に若干の変更を受けるかもしれない。
ボクサー スポーツカー アーキテクチャの外観。シースルーボディーとなっているため、エンジンやトランスミッション、サスペンションの構成がよく分かる。マフラーは、まだ取り付けられていない |
ボクサー スポーツカー アーキテクチャで提示されているエンジン位置、前後輪の車軸位置、トランスミッション配置、サスペンション形式、などの基本ディメンションは量産車でも同様。「生産の都合上、数ミリ異なってくるかもしれないが、ほぼこのままとなります」(増田氏)と言う。
とくにエンジン搭載位置を低くした効果は明らかにあるようで、「現在各所で実走テストをやっているが、テストドライバーは(走行後)笑顔で降りてくる」「ゴーカートのようなハンドリング」「単純に速さを追い求めるだけでなく、軽快でわくわくするハンドリングを基本にシンプルなレイアウトでまとめている」(増田氏)と、さまざまな言葉で、その特徴を語った。とくに印象的だったのが、「立った大人のひざの下、ちょうどスネのあたりにエンジンがある」という言葉で表現したエンジン搭載位置。身長178cmの増田氏が実際に展示車の横に立ち、エンジンのある高さを示してくれた。
ボクサー スポーツカー アーキテクチャの横に立つ増田氏。身長は178cm | エンジンの搭載位置を指し示す。この低さがポイント | 正面から。エンジン搭載値がとても低いのが分かる |
横から。タイヤの高さより飛び出して見えるのは、量産車では樹脂製となるエアインテークのみ。エンジンの主構造物は、タイヤに隠れてしまうほどの高さに収まる | タイヤサイズは前後とも215/45 R17 | ホイール穴は5穴 |
■ショートストロークタイプの新世代ボクサーエンジン搭載か?
このボクサー スポーツカー アーキテクチャに搭載される水平対向4気筒 DOHC 2リッターエンジンは、筒内直接噴射とポート噴射を併用するトヨタの直噴技術「D-4S」を採用。現時点では自然吸気エンジンのみ。展示車に搭載されているエンジンは、斜めコンロッド、カムシャフトのチェーン駆動、シリンダーヘッド形状と、新世代ボクサーエンジンであるFB20型の特徴を備えている。
搭載エンジンはFB型となるのか?という質問に対し、増田氏は「FB型ファミリーを搭載します」と答えるのみ。Car Watchでも何度か取り上げているとおり、このFB20型の最大の特徴は従来のEJ20型と比べ、ボア×ストロークを92×75mmから84×90mmへとロングストローク化したことにある。増田氏は、この新型FRスポーツカーに搭載するエンジンの特性を「高回転まで伸びるエンジンの素性を活かしながら、高効率な燃焼を実現」と表現。現在は出力・トルクの伸び上がりの気持ちよさなど1つ1つ詰めている段階と言い、高回転まで気持ちよく回るエンジンであることを特に強調した。
高効率な燃焼は主に直噴によって得られるものだろうが、高回転を得るには原理的にショートストロークタイプのほうが有利。FB20型と明言せず、“FBファミリー”との表現を行う意図として、フォレスターに搭載された中低速のトルク向上を狙ったFB20型とは異なる、ボア×ストロークに変更が加えられ、よりショートストロークとなった新世代ボクサーエンジンが搭載されるのかもしれない。なお、エンジン外観からは、吸気系・排気系ともに可変バルブタイミング機構のAVCSを採用しているところも見て取れた。
搭載エンジンは、FB20型ではなくFBファミリー。同系列であるものの、同型ではないということ | FB20型と同様、カムシャフトをチェーンで駆動する | コンロッドは、FB20型同様斜めタイプ |
吸気系・排気系ともに可変バルブタイミング機構のAVCSを採用していると思われる | エンジンを横から。左が進行方向になる。水平対向エンジンらしく、カウンターウエイトは少な目 |
■トランスミッションは「今の時代にあったものを」
サスペンション形式は、フロントはマクファーソンストラット、リアはダブルウイッシュボーンで、とくにリアタイヤの接地性に配慮していることがうかがえる。素材は不明だが、各種アーム類も剛性の高そうな形状をしており、その走りには期待したいところだ。
トランスミッションは、FRとなったことでコンパクトなものとなる。スバルの4WDトランスミッションは前車軸が一体となった構造をしており、前輪を駆動する必要のないFRレイアウトとしたことから、低く搭載できるようになった(逆に言えば、現状のレイアウトでは、4WDはほぼ不可能)。スポーツカーのトランスミッションとなると、ATモデルに加え、MTモデルの登場も期待したいところだが、増田氏は「今の時代にあったものを」とコメントするのみで、現時点で形式・種類ともに不明。12月に開催される「東京モーターショー2011」には、より量産車種に近いものが出展されるため、そのころにはどのような形式のトランスミッションが用意されるかが明らかになっているだろう。
なお、このボクサー スポーツカー アーキテクチャは、5月18日~20日にパシフィコ横浜で開催される「人とくるまのテクノロジー展2011」に展示される。スバルとトヨタが共同開発した、最新FRスポーツカーに込められた技術を、ぜひ間近で見てほしい。
(編集部:谷川 潔)
2011年 5月 17日