ホンダ、市販2輪ロードレースマシン「NSF250R」
2012年から始まるMoto3クラス用として開発

市販2輪ロードレースマシン「NSF250R」

2011年6月8日発表
174万9510円



 ホンダ・レーシング(以下HRC)は6月8日、市販2輪ロードレースマシン「NSF250R」を発表。6月9日にから予約を受け付け、12月に発売を開始する。価格は174万9510円。発表会では、その開発の狙いや、開発コンセプトが紹介された。

 HRCは、本田技研工業のレーシングマシンの開発、レースチームの運営などを担当している。現在、2輪の世界選手権MotoGPにおいて、レプソル・ホンダチームとして参戦も行っている。

2輪ロードレースの排気量別クラス構成。2012年からMoto3クラスが新設される

 そのHRCが新たに開発し、一般に市販を行うマシンが、単気筒 水冷4ストローク DOHC 4バルブ 249.3cc エンジンを搭載するNSF250R。2輪の世界選手権レースは、排気量別にGP500(500cc以下)、GP250(250cc以下)、GP125(125cc以下)とすべて2ストロークエンジンを用いて行うものだった。2002年には、4ストローク 990cc以下のMotoGPクラスを新設。2002年は、MotoGPとGP500の混走であったが、2003年からはMotoGPに統一されている。その後、990cc以下では最高速が350km/h近くに達するなど性能が上がりすぎたため、2007年からは800cc以下へと下げられ現在へ至っている(当初は最高速、ラップタイムとも下がったが、現在は990cc時代と遜色ないものとなっている)。

 同様に、GP250クラスも2010年からは、4ストローク 600cc以下のMoto2クラスへ移行。エントリークラスである、GP125クラスは2012年から 単気筒4ストローク 250cc以下のMoto3クラスへと移行する。

 HRCが新開発したNSF250Rは、このMoto3クラスの新設に対応するもので、国内のロードレース選手権のJ-GP3クラスにも使用できる。ボディーサイズは、1809×560×1037mm(全長×全高×全幅)。ホイールベースは1219mmで、車重は84kg。搭載するエンジンは、まったくの新開発のもので、最高出力35.5kW/13000rpm、最大トルク28.0Nm/10500rpmを発生する。

新開発の4ストローク単気筒エンジン。燃料供給はPGM-FIを採用する

コンセプトは「Next Racing Standard」
 発表会には、HRC代表取締役社長であり、本田技術研究所 二輪R&Dセンター 常務執行役員でもある鈴木哲夫氏が登壇。HRC(その前進のRSC時代を含む)が34年にわたり、GP125クラス用の「RS125R」など市販2ストロークマシンを提供し、その累計生産台数は1万5000台を超えており、世界グランプリで通算131勝の実績を挙げていることを紹介。

 また、HRCの方針として125ccクラス(エントリークラス)には、ワークスマシンは投入せず、市販ロードレースマシンの提供とキットパーツの販売を通じて、モータスポーツ活動を支援してきたと言う。新たに始まるMoto3クラスでも、その方針を採用し、NSF250Rのワークスマシンなどは投入せず、市販マシンの販売を通じて、モータースポーツ活動を支えていく。

HRC代表取締役社長 鈴木哲夫氏HRCの125ccレーシングマシン販売実績

 NSF250Rの詳細については、開発を担当した本田技術研究所 二輪R&Dセンターの塚本飛佳留氏より解説が行われた。このマシンのコンセプトは「Next Racing Standard」だと言い、これまで多くのチームが採用してきたRS125Rとサスペンションの基本構造、タイヤサイズなどを同一としながら、RS125Rを超える性能を実現。「軽量クラス特有の必要最小限のコンパクトな車体」「クイックさとレスポンス性とダイレクト感を備え、ライダーの技量を許容する幅広いセッティング性能」を持つと言う。

本田技術研究所 二輪R&Dセンター 塚本飛佳留氏

 その技術的ハイライトとして、前方吸気、後方排気によって充填効率の向上を図り、シリンダーを後方に15度寝かすことによって、マス(重量)の集中を図った新開発の単気筒エンジンがある。このエンジンには、ホンダの持つ4ストロークテクノロジーが注ぎ込まれており、高回転エンジンに対応するチタン製バルブ、厚さ31.5mmという軽量薄型ピストン、軽量ナットレスコンロッド、ニッケル・シリコンカーバイト(Ni-SiC)メッキシリンダーなど、特許申請中を含む数々の技術が採用されている。

排気は逆S字排気を採用エンジン性能曲線。RS125Rより、トルクバンドが広い。コーナーからのスムーズな立ち上がりが可能と言うニッケル・シリコンカーバイト(Ni-SiC)メッキシリンダー
カムシャフト。オートデコンプ機能を備えるピストンとコンロッドピストンとコンロッド構造。ピストンの高さは31.5mm、ナットレスコンロッドを採用する
ピストン背面。リブにより剛性を確保するエンジンレイアウト。前方吸気、後方排気吸排気ともチタン製バルブ
吸排気のポート形状オフセットシリンダーを採用。これにより爆発時のフリクションを低減クランクケース部と、トランスミッション部は別々に潤滑油系統を備える。これによりギア比の変更が容易になる
カセット式トランスミッション

 また、車体に関しても、エンジンの出力のための逆S字マフラーを基本とし、超々ジュラルミンとも呼ばれる7000系アルミ(7N01)を採用したプレス構造のスイングアーム、同じく7000系アルミ押し出し材のツインチューブフレームなど、軽量・高剛性の材料を惜しげもなく使用している。

 フロントサスペンションは内径35mmの倒立テレスコピック式、リアサスペンションはモノショックのプロリンク式を採用。ブレーキは、フロントがラジアルマウントキャリパーの対向4ピストンで、ブレーキディスクはフローティングタイプの296mm。耐フェード性を考慮し、4mm厚のものにしていると言う。ラジエーターも、前面投影面積を抑えつつ、冷却効率を高めた湾曲式のものが付いているなど、HRCの持つ技術が存分に注がれている。

 レース車両として使っていく際に気になるのがメンテナンスコスト。とくに2ストローク 125ccから4ストローク 250ccとなったことで、部品数は大幅に増えている。これに関しても、部品の耐久性が上がったことなどで、従来より下がると言う。

大きさは従来のRS125Rと同様NSF250Rのステアリングまわり。トップブリッジにホンダのウイングマークが記されていたレース仕様なのでタコメーターのみ。左のランプはシフトアップインジケーター
7000系アルミ押し出し材のツインチューブフレームが、エンジンを囲むフロントサスペンションは、倒立タイプのテレスコピック式ラジアルマウントのブレーキキャリパー。異径4ピストンを採用する
リアスイングアームは、7000系アルミのプレス構造リアディスクブレーキ。キャリパーは、フローティングタイプ右リアステップ。直下にマフラーが見える

 HRCはこのマシンによって、モータースポーツの底上げと、将来このマシンからステップアップしたMotoGPライダーが誕生することを目指していく。なお、NSF250Rの発表と同時に、一般市販車であるCBR250Rのベースレース車の参考展示も行った。これは、NSF250Rが狙う世界レベルのレースではなく、さらに参加しやすいレースを対象とするものとなる。

エントリー層に向けた、CBR250Rのベースレース車も参考展示されたCBR250Rベースレース車

(編集部:谷川 潔)
2011年 6月 8日