SUPER GT第3戦セパン「エヴァンゲリオンレーシング」リポート 初号機、表彰台を目前で逃す |
セパンサーキットを走行するエヴァンゲリオンRT初号機 IM・JIHAN 紫電 |
6月19日、AUTOBACS SUPER GT第3戦「SUPER GT INTERNATIONAL SERIES MALAYSIA」(以下、第3戦セパン)の決勝レースがマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで開催された。レース結果などはすでに別記事で紹介しているので、本記事ではCar Watchの読者に人気の高い、エヴァンゲリオンレーシングの各セッションの詳細、マシン、ドライバー、レースクイーンのフォトギャラリーなどをお届けする。
開幕戦の習熟走行でエンジンを壊した7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTION(カルロ・ヴァン・ダム/水谷晃)は今回も欠場。より一層2号車 エヴァンゲリオンRT初号機 IM・JIHAN 紫電への期待が高まる。
期待が高まる理由は紫電がセパンを得意としているからだ。2009年は予選でトップタイムを記録するが、ウエイトハンデに関する規定違反で失格。最後尾からのスタートとなるが、強烈な追い上げを見せ優勝している。2010年は予選1回目にトラブルが出てタイムなし。決勝日朝のフリー走行でトップタイムを出し、予定どおり最後列からの追い上げを見せたが、接触によりマシンにダメージを負いリタイヤとなった。過去2年間は驚異的な速さで後方から抜きまくるレースを展開している。
通常のシーズンはゴールデンウィークに開催された富士の後にセパンとなるが、今年は5月下旬に岡山で第1戦が開催されたのでインターバルが短い。日本からマレーシアは船便でマシン、機材を送る必要があるため、岡山でレースを終え、月曜から木曜までメンテナンスと準備を行い、金曜日にはマシンを送り出すというタイトなスケジュールだった。特に前戦の岡山では、レース序盤にコースサイドの縁石に乗り上げたショックでドアが開いてしまうというトラブルに見舞われ大きく後退してしまったので、ドアキャッチ周辺の見直し、対策を行い送り出した(はずだった)。
6月のセパン、7月のSUGO、8月の鈴鹿の3戦は暑さとの戦いとなる。セパンは暑さに加えスコールに見舞われる可能性も高い。加えて現地で万一の事態、大きなクラッシュや、パーツの故障、破損があった場合に対応できない可能性があるという別の怖さもある。なお、今回の正式エントリー名は「EVANGELION RT TEST-01 IM・JIHAN Shiden」だが記事中では「エヴァンゲリオンRT初号機 IM・JIHAN 紫電」とする。
■公式練習(6月18日)
セパンサーキットは1周5.5kmとSUPER GT開催サーキットでは、鈴鹿に次ぐ2番目のロングコース。バックストレートとメインストレート以外はコーナー区間が多く、直線スピードよりコーナーリング性能でタイムを稼ぐ紫電が得意とするサーキットだ。
2番手タイムを出すがトラブル発生 |
10時から開始された公式練習は加藤選手からコースイン。4周目には2分10秒477と10秒台に入れ、5周目に2分10秒170のGT300クラストップタイムをたたき出した。その後もピットインを繰り返しセッティングを煮詰め、15ラップを消化して高橋選手に交代した。
高橋選手は3年ぶりのセパン。当時の勘を取り戻す必要もあり、残り1時間あまりを走り込む予定だった。ところが高橋選手に交代した直後、「ハンドルが重い!」との訴え直ぐにピットイン。簡単な点検を行うが特に異常はない。停止時にはパワーステアリングは効いている。モーター内部の故障であれば、残り時間では対処のしようもないので、とりあえずもう一度コースに出て、とても走れないようであればドライバー判断で走行を中止することとした。
高橋選手は、突然重くなるステアリングと格闘しつつ2分16秒台まで入るが、症状は悪化し走行中止。症状は、ステアリングが問題ない時もあれば、一気に重くなる場合もあり残りの走行時間はキャンセルとなった。セッション後半で4号車 初音ミク グッドスマイル BMWが2分08秒994を出し2番手に落ちるがトラブルさえ解決すれば優勝を狙えるポジションだ。
午後の予選に向け原因の究明、修理を行わなくてはならないが、クラッシュ等の修復や、明らかに原因が分かっているトラブルと違い、こうした原因がハッキリしない場合、どこまで分解を行うかの判断が難しい。ドンドンと掘り下げて行って、予選走行までに組み付けが完了しなければ元も子もない。
パワーステアリングのモーターユニットがこれまでにないほど高温になっており、これによる誤作動が疑われた。交換してみるのが手っとり早いが、このパーツ単体で安めの軽自動車1台分程の高価なパーツ、通常は非常に信頼性が高く滅多に壊れる物ではないのでスペアパーツの持ち合わせがない。ピットでの停車時には作動しているので、モーターユニット以外の個所を点検していくと同時に、走行風や、ブロアファンを利用しての熱対策を行い午後の予選に備えた。
■予選(6月18日)
14時15分開始の予選ギリギリに組み上がったマシンに高橋選手が乗り込みコースイン。アウトラップを終え作動状態を確かめつつストレート通過したところで高橋選手から「ダメダ~!!」と無線。パワーステアリングが効かない症状が進行し、徐々にハンドル操作そのものができないほど重くなり、かなり速度を落としてもコーナーを回りきれない。
なんとかピットに戻ったが、40分の予選セッション内での修理は不可能。グリッド上位を決めるSUPER LAPへの進出どころか、予選突破もできなくなってしまった。実際には決勝レースへの出場は、シード権もあるし嘆願書の提出により可能だが、このトラブルを修復しない限り決勝をまともに走ることはできない。
パワーステアリングユニットのメーカーであるKYB(カヤバ)のエンジニアもピットにつきっきりでいろいろアドバイスをくれるが、結論はユニットを交換するしかなさそうだ。日本のサーキットならこうしたトラブルでも、翌日にはパーツを調達し修復可能であろうし、いざとなれば部品のクラック等もどこかしらのガレージの溶接機、工作機械等を借用し修復することもできる。しかし海外戦では致命的である。
チーム同士でパーツ類の貸し借りをする事もよくあり、このユニットも多くのマシンに使われているが、スペアまでセパンに持って来ているチームがない可能性が高い。今年のセパンはこれで万事休すかと思われた。
そこへKYBのエンジニアが段ボール箱を抱えて走ってきた。同じユニットを使用するチームを訪ねてもらい、たまたま持ち合わせが有ったライバルチームが快く貸してくれることになった。箱からピカピカの新品のユニットを取り出し、とりあえずカプラーを接続、簡単な作動チェック。故障したユニットとは明らかに動きが違う。
予選は走ることができなかったが、とにかくこれで決勝を走ることができる。結果として3年連続の最後尾からの追い上げを見せることになりそうだ。
■フリー走行(6月19日)
パワーステアリングのユニットを交換した2号車 エヴァンゲリオンRT初号機 IM・JIHAN 紫電は加藤選手がステアリングを握りコースイン。決勝用のセッティングで2分10秒833のクラストップタイムをたたき出した。最後尾スタートも3年連続だが、決勝日朝のフリー走行のトップタイムも3年連続となった。
決勝への課題は3年ぶりに走る高橋選手がほとんど走行できていないこと。高橋選手はフリー走行の残り15分とサーキットサファリの30分を走り込み2分13秒台までタイムを短縮。決勝をこのタイムで走れれば上位争いには充分だ。
フリー走行で加藤選手がトップタイムを出す | 高橋選手は走り込みに徹する |
ピットウォークに多くのファンが集まった |
■ピットウォーク、グリッドウォーク
SUPER GTではピットウォーク、キッズウォーク、グリッドウォークなど数多くのイベントが行われ、多くのファンがピットやグリッドでマシン、レーサー、レースクイーンと身近に接することができる。日本から応援に来たファンも多いが、現地の方にもエヴァンゲリオンレーシングは大人気で、ピットにはいつも多くのファンが集まっていた。
毎戦エヴァンゲリオンレーシングのレースクイーン人気は高く、カメラの砲列が集まる。今回はシンジ役の清水恵理さんとマリ役の水乃麻奈さんの2人が参加、多くのファンがシャッターを切っていた。
国内のサーキットではパドックにチームのテントが用意されるが、セパンは暑いので各ピットに部屋が用意されている。今回は控え室でも撮影を行ったし、ピットウォーク以外にパドックでも撮影を行ったのでフォトギャラリーでご覧いただきたい。
スタート前のウォームアップ走行。最終チェックも行いグリッドへ発進 |
グリッドウォークでも多くファンが集まった | 3年連続で最後尾グリッドからスタートすることとなった |
フォーメーションラップは最後尾をゆっくり走行 |
■決勝(6月19日)
朝のフリー走行は強い日差しの中で行われたが、決勝が始まる16時には曇り空となっていた。気温は35度、路面温度は45度とセパンとしてはやや低め。いよいよ加藤選手のパッシングショーの開幕だ。
フォーメーションラップを終え全車スタート。セパンは1コーナーでのアクシデントが多いので車間を取りやや後方から安全重視でスタートを切った。予想に反し1コーナーは全車接触もなく通過。加藤選手も最後尾で安全に走行、ここから加速し4コーナーまでに2台をパス、1周目を16位で通過した。ここからは予定通りのパッシングショー。2周目に13位、3周目に12位、5周目に11位、6周目に10位とごぼう抜きを見せた。
このあたりからは上位陣なのでまとめて料理するのは難しくなる。しかし加藤選手の快進撃は止まらない。7周目には87号車 リール ランボルギーニ RG-3(織戸学)を抜き9位、8周目には86号車 JLOC ランボルギーニ RG-3(青木孝行)、14号車 SG CHANGI IS350(阿部翼)を抜き7位、9周目には26号車 Verity TAISAN Porsche(峰尾恭輔)を抜き6位、10周目には33号車 HANKOOK PORSCHE(影山正美)を抜き5位まで浮上した。
8周目に86号車を抜き7位へ | 9周目に26号車を抜き6位。33号車の背後に迫る | 10周目に33号車を抜き5位へ |
後続を引き離し上位陣に迫る |
レースの1/3を過ぎ各車ピットインが始まった。14周目に11号車 JIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458がピットインし4位。18周目には2位争いをする27号車 PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリとの差が10秒を切りストレートでは肉眼でマシンが見えるところまで追いついてきた。
20周目にはその差を4秒まで縮めロックオン。21周目に27号車 PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリ、22周目に88号車 JLOC ランボルギーニ RG-3がピットに入り見かけ上の2位までポジションをアップした。ラップタイムはトップ独走の4号車 初音ミク グッドスマイル BMWとほぼ同じタイム。10周目に29秒だった差が14周目には25.4秒まで縮まり、その後また広がり24周目に28秒と互角のペースで走行を続けた。25周目に4号車 初音ミク グッドスマイル BMWがピットイン、見かけ上の順位だが最後尾からついにトップまで登り詰めた。規定一杯の29周目までトップをキープしピットイン、タイヤ無交換作戦で高橋選手にステアリングを託した。
2位争いをする88号車、27号車に後方から徐々に接近 | 27号車がピットインし3位 |
3位でコースに復帰した2号車 エヴァンゲリオンRT初号機 IM・JIHAN 紫電と4位の27号車 PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリとの差は21.9秒。残り周回数は12周ほど。ラップタイムが1.8秒ほど遅くても逃げ切れる計算だ。31周目のラップタイムの差は1.954秒、32周目は2.194秒。高橋選手のラップタイムは2分15秒前後なので、このペースのままだとレース終盤に追いつかれてしまう。2分13秒台までタイムを上げられれば表彰台を獲得できそうだ。
この時点ですぐ後ろを走っていたのは22号車 R'Qs Vemac 350R(城内政樹)。序盤のトラブルで6周遅れだが、ラップタイムは2分12秒台とかなり速い。タイムは速いが、争う必要がないので先行させようと思った矢先に「当てられたー!」と高橋選手から無線が入る。
ピットインを済ませ3位で復帰。後方は周回遅れの22号車 | 周回遅れの22号車が後方から迫ってきた | 抜かれた際に接触。ドアが開いてしまった |
ドアが開いたまま走行を続けた | コーナーでは大きくドアが開く(Photo:Burner Images) | 後方から急速に27号車が接近。この直後にピットインし10位へ後退 |
33周目のバックストレート手前の14コーナーでイン側に飛び込んで来た22号車 R'Qs Vemac 350Rが接触。接触だけなら問題はなかったが、高橋選手から無線で「またドアが開いたー」と悲痛な叫びが入った。ラップタイムも16秒台に落ちオフィシャルからオレンジディスク(ピットイン)の指示も出て36周目にピットイン。ドアを閉め念のためガムテープで固定しコースに復帰するが10位まで後退してしまった。そのまま10位でゴールし、かろうじて1ポイントはゲットしたが目の前にあった3位表彰台を逃がしてしまった。今シーズン初の表彰台だったがけに悔やまれる結果となった。
3戦連続のトラブルだが、レース内容は徐々に表彰台、優勝が近付いている。次戦は7月30日、31日開催のSUGO。昨年は優勝しており、復帰予定の7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONとともに、少なくとも表彰台、できれば優勝をを狙いたい1戦となる。
■エヴァンゲリオンレーシング フォトギャラリー
以下に、エヴァンゲリオンレーシング関連の写真をフォトギャラリー形式で掲載する。画像をクリックすると、フルHD解像度(1920×1080ピクセル)などで開くので、その迫力の写真を楽しんでほしい。また、拡大写真については、Tv(シャッター速度)、Av(絞り数値)などのEXIF情報を一部残してある。撮影時の参考にしていただければ幸いだ。
(奥川浩彦/Photo:奥川浩彦、Burner Images)
2011年 6月 29日