日産、「リーフ」のバッテリーを活用したビル蓄電システムの実験を開始

2011年7月11日



 日産自動車とフォーアールエナジーは7月11日、電気自動車(EV)「リーフ」のリチウムイオンバッテリーと太陽光発電を組み合わせた充電システムの実証実験を、神奈川県横浜市の同社グローバル本社で開始し、報道関係者にその設備を公開した。

 この実験では、同社5階に太陽電池を設置し、ここで生み出される電力をEVの充電に使う。EVの電力を太陽光や風力のような再生可能エネルギーで作り出せば、発電から走行まで、いわゆる「ウェル・トゥ・ホイール」におけるCO2排出がゼロになる。

 しかし再生可能エネルギーには、時間や天候によって発電量が不安定という欠点がある。そこで、再生可能エネルギーで発電した電力を蓄電池に貯めておき、より使いやすくする。この蓄電池に使われるのがリーフのバッテリーだ。リーフには容量24kWhのリチウムイオンバッテリーが搭載されているが、これをグローバル本社4階に4つ設置している。

リーフのバッテリーの2次利用を手がけるフォーアールエナジーの坂上尚社長。手に持っているのはリーフのバッテリーパック

EVバッテリーのリサイクルを目指した実験
 リーフのバッテリーを定置して蓄電池として使うのは、「再生可能エネルギー→EV」の流れに、リーフのバッテリーのリサイクル事業の検証を組み込むのが狙いだ。

 バッテリーは使うほど劣化していくものだが、EVのバッテリー容量は大きく、EVを動かすには使えないバッテリーでも、家庭などの蓄電池としてなら十分使えるだけの能力が残っている。中古のEVのバッテリーを他の用途に回せば、資源の有効活用になる。

 これを睨んで同社は住友商事と合弁で、2010年9月にフォーアールエナジーを設立。リーフを始めとするEVのバッテリーを再利用する事業の確立を目指している。

 フォーアールエナジーが狙うのは、中古のEV用バッテリーを集め(再利用:Reuse)、残存能力の同じようなモジュールを揃えて用途に応じたバッテリーパックに組み替え(再製品化:Refabricate)、家庭や事業所用の蓄電池などとして販売(再販売:Resell)するサイクルを確立し、ゆくゆくはバッテリー自体のリサイクル(Recycle)も手がけること。4つのRで「フォーアール」と言うわけだ。

フォーアールエナジーの事業内容フォーアールエナジーのロードマップ日産グローバル本社での実験は中型蓄電システムのため

 すでに同社は12kWhの住宅用小型蓄電システムを開発し、実証実験を経て12月にはモニター販売を開始する。リーフなど日産のEVから大量にバッテリーが供給されることを背景に、競争力のある価格を設定する。

 日産グローバル本社での実験は、公共施設や商業施設用の中型蓄電システム開発に向けたもの。充放電特性とパターン、太陽電池とEV充電器と蓄電池の最適な組み合わせを検証し、商品化を検討する。

 現状では中古のバッテリーがないため、日産グローバル本社に設置されているのは新品のバッテリー。フォーアールエナジーの計画でも、中古バッテリーを用いた商品は2016年に販売することになっている。

グローバル本社の蓄電システムの概要

年間1800台のEVを充電可能
 5階テラスに設置された太陽電池はソーラーフロンティア製のもの。黒いパネルが同社製太陽電池の特徴で、これが488枚、テニスコートにして1.5枚分あり、最大で40kWhの電力を生み出す。年間で約1800台のEVを充電できると言う。

 この電力は4階に行き、山洋電気製の太陽光発電用パワーコンディショナーと、同社製グリッド管理装置を経て、リーフのバッテリー4基による蓄電装置に貯められる。この蓄電装置には、まさにリーフに搭載されているバッテリーパックそのものが4つ、ラックに収められている。

5階に設置された太陽電池4階のグリッド管理装置
蓄電池のラック(左)とその中(中)。リーフ用のバッテリーユニットがそのまま4つ入っている(右)。この機械室全体が温度管理されているため、バッテリー用のクーリングシステムはない

 グリッド管理装置は、太陽電池からの電力と、商用電源からの電力を、蓄電装置やEV充電器、グローバル本社構内での消費電力に振り分ける役割を持つ。太陽電池からの電力はグローバル本社に3つあるEV用急速充電器と14の普通充電コンセントへ主に給電されるが、発電された電力が余っている場合は、蓄電池に貯める。蓄電池がフル充電されている場合は、グローバル本社構内で使う。太陽光発電の電力が足りないときは、蓄電された電力や商用電源の電力で補う。

 この電力の流れは、グローバル本社1階の日産ギャラリーに設けられた4枚のディスプレイで見られるようになっている。

日産ギャラリーのディスプレイ。発電量や蓄電量をリアルタイムで見ることができる。取材時は午前中で、まだ発電量が少ない

 

渡部執行役員

大容量バッテリーがスマートグリッドの鍵
 同社の渡部英朗執行役員は「電気はさまざまな資源から創出できる、多様性に優れたエネルギー。リーフの24kWhの大容量バッテリーで、いろいろな資源が使えるという強みをより一層発揮できる」「24kWhは、日本の一般家庭の平均的電力使用量の2日分」と述べ、この容量のバッテリーがあれば「再生可能エネルギーによる余剰電力の蓄電」「ピークカット(電力ピーク時間帯にリーフのバッテリーから電力を供給すること)」「災害時のバックアップ電源」「夜間電力の有効活用」などに使え、「エネルギーの貯蔵・放電による効率的なマネジメントをしていかなければならない。これが発展していくとスマートハウス、スマートコミュニティー、スマートグリッドといった社会の実現になっていく。そのためにはリーフのようなEVとバッテリーの技術力をうまく活用していかなければならない」と訴えた。

 同社は現在、リーフのバッテリーから住宅に電力を供給する仕組みを検討しており、「ここがスマートハウスの入口」と述べて、スマートグリッドを見据えたシステムづくりを進めていること、リーフに搭載されたデータセンターと常時接続通信するカーウイングスが、より効率のよいエネルギー利用に活用できることをアピールした。

電気はさまざまな資源から作ることができる。これを大容量バッテリーに貯蔵し、効率よく活用することが、スマートグリッドへの入口

(編集部:田中真一郎)
2011年 7月 11日