JKA、日本サイクルスポーツセンターに伊豆ベロドロームを設置
有名選手を招いて「CYCLING IS ONE、TRACK PARTY」開催

日本サイクルスポーツセンターに設置された伊豆ベロドローム

2011年10月29日開催



 競輪やオートレースの振興法人であるJKAは10月29日、静岡県伊豆市の屋内型自転車競技場「伊豆ベロドローム」で自転車エンターテインメントイベント「CYCLING IS ONE、TRACK PARTY」(以下TRACK PARTY)を開催した。

 会場となった伊豆ベロドロームは、伊豆市の「日本サイクルスポーツセンター」にこの10月1日にオープンしたばかりの施設。競技用のトラックは、日本初となる国際自転車競技連合(UCI)の世界標準ルールに準拠した競技場で、今年の全日本選手権はここで開催されている。地上3階、地下1階建の建物の中央に、競技トラックが設けられている。常設の観客席数は1800席(仮設でさらに1200席)、最大収容人員は4500人。

日本自転車競技の中心地、日本サイクルスポーツセンターに新たに誕生した屋内競技場。サイクルスポーツセンターは、自動車の試乗会などが開催されることも多い

 自転車競技用のトラックは、周回コース両端のコーナーに傾斜(バンク)が付けられたすり鉢状になっているのが特徴で、日本国内でよく知られているトラック競技施設はいわゆる「競輪場」だ。ただし、一般的な競輪場のトラックは、1周が400m前後で、舗装はコンクリートやアスファルト、バンクが30度前後なのに対し、伊豆ベロドロームは、1周250m、走路表面は木製の板張り、バンクは45度にもなる。国際規格に完全準拠の競技施設ということで、国際大会に向けた選手育成や競技会の開催など、オリンピックや世界選手権などの自転車トラック競技の強化が期待される。

 今回のTRACK PARTYは、全日本選手権に続く同施設で開催されるイベントで、ヨーロッパで行われている「6日間レース」と呼ばれるトラック競技イベントをモチーフとしたもの。6日間レースは、屋内自転車競技場で料理とアルコールを楽しみながらトラック競技を観戦するというもので、文字どおり6日間かけて開催される。本場のヨーロッパでは、主に10月から2月上旬にかけて各地で開催され(近年は開催数が減っているようではある)、野外の公道で行われるロードレースのオフシーズンに開催されていることもあり、大物ロードレース選手が参加することもあり、冬場の自転車イベントとしては人気の高い。

 TRACK PARTYは、この6日間レースのスタイルを1日にギュッと凝縮したもので、会場内のアリーナ席(トラックの内側の区画)はパーティ会場のような華やかさ。料理、アルコールを含めた飲料が振る舞われ、レースの合間にはDJイベントも行われる。ショーアップされた演出は、お堅い「競技会」やギャンブルのメッカ競輪場とは全く異質のもの。一種お祭りのような雰囲気ではあるのだが、レース自体は真剣勝負で大迫力。実際、この日は2種目で日本新記録が生まれている。

TRACK PARTYの客席見取り図。スタンド席のほか、トラック内側にアリーナ席が設けられた。なお、アリーナ席はドレスコードありスタンドのコーナー部分から見たトラック全景。中央のエリアがアリーナ席。天井の窓、各種照明設備もイベントの演出に一役買っている
傾斜が最大で45度にもなるコーナー。競技によってはフェンスギリギリの一番上を選手が猛スピードで走り抜けていく。まさに目の前を通過していくのでものすごい迫力

海外で活躍するロード選手5名によるスペシャルレースの1レース目の模様。負けず嫌い5人が集まっているので当然レースは白熱!

国内外の有名選手が続々参戦
 伊豆ベロドロームのお披露目イベント的な意味合いもあるため、今回は参加選手も華やか。オリンピックを目指す国内トップクラスのトラック選手(競輪のトップ選手が中心。国内ロードレースでも活躍する愛三工業レーシング所属の西谷泰治選手らや、大学生選抜選手も参加)、世界選手権王者のテオ・ボス選手(オランダ、ラボバンク所属)をはじめとするトラックレースとロードレースの両方をこなす海外有名チーム所属選手、さらには海外ロードレースで活躍する日本人ロードレース選手、新城幸也選手(チームユーロップカー所属)、土井雪広選手(スキル・シマノ所属)、別府史之選手(レディオシャック所属、2011年ロードおよび個人タイムトライアルの全日本チャンピオン)、福島晋一選手(トレガンヌ・プロアジア所属)、宮澤崇史選手(ファルネーゼヴィーニ所属)が一堂に会した。

 また会場での解説は、かつて世界選手権を10連覇し、本場ヨーロッパでは今なお伝説の選手として知られるという中野浩一さんが担当。さらに、ジロ・デ・イタリア区間42勝、「イタリア最強スプリンター」「イタリアの伊達男」「スーパーマリオ」の異名を持つ元世界チャンピオン、マリオ・チポッリーニさんがスペシャルゲストとして来場、大歓声を集めた。

世界的な大物もイベントに来場。日本からは世界選手権10連覇の中野浩一さん、イタリアからはイタリアの名スプリンター、マリオ・チポッリーニさんが来場。中野さんは10連覇時の自転車でパレード走行。チポッリーニさんはなんとスペシャルレースに出場。引退してしばらく経っているが、相変わらずのムキムキボディーはさすが

多彩な競技が一気見できる
 残念ながら日本ではメジャーとは言えない自転車のトラック競技だが、ひとくちにトラック競技と言ってもその種類は多彩だ。この日は以下の9種目、男女合わせて19レースが行われた。

・200mタイムトライアル
周回とバンクを利用して助走し、最終周回の200mのタイムを競う個人競技

・スクラッチ
多人数(今回は17人)で15kmを走り、ゴールの着順を競う

・ケイリン
日本発祥の競技(元になったのはもちろん競輪)。5人でゴール着順を競う。先頭誘導付きで一定周回した後、誘導が退いてから本格的にレースが始まる点が特徴

・ポイントレース
多人数で一定周回を走り、決められた周回ごとの着順や周回差で獲得する特典の合計を競う

・個人追抜
2人で対戦してタイムを競う競技。トラックの180度反対側(ホーム側とバック側)から同時にスタートするというのが独特

・エリミネーション
多人数競技。一定周回ごとに最後尾の選手がレースから除外されていき、生き残った選手がゴール着順を競う

・スプリント
中野浩一氏が世界選手権で10連覇した競技。2人で対戦し、ゴールを競う競技。レース前半は、仕掛けのタイミングや位置取り、空気抵抗などを考慮して、ほとんどその場に停止したり急加速したりという駆け引きが行われる

・フライングチームスプリント
3人1チームの複数チームで行う競技。1周回ごとに各チームの先頭を走る選手がレースから退き、最終走者がゴールしたタイムを競う

・マディソン
6日間レースの花形競技。2人1チームの複数チーム(今回は8チームが参加)で行う。16人がレースにトラックを走行している状態になるが、周回数をカウントされるのは各チーム常に1人で、バトンリレーのようにタッチによって選手交代を行う。このタッチがマディソンの醍醐味で、高速で走行しながらチームのパートナーと手をつなぎ、前方に放り投げるように加速させるのが特徴

競技のひとつ、ケイリンの前半戦の模様。選手5人の集団の前を先導車(特別仕様の電動アシスト自転車)が走り、ペースを作る。ちなみに、日本の競輪の場合はこの先導車もピストバイク
マディソンの選手交代のシーン。パートナーの手を握って前に投げ出す。このタッチワークのテクニックもマディソンの見どころ。トラック競技の中では競技に参加している選手数が多い部類なので、敵味方入り乱れたやり取りが面白い

 ロードレースの場合、競技を観戦する場合には特定の観戦ポイントで選手の通過を待ち、周回コースの場合は次に選手が来るまで数10分待つ、ツール・ド・フランスなどに代表されるスタート・ゴールが1本道のレースの場合は選手が通過したらそのポイントでの観戦はそれで終了だ(移動して次のポイントで見るしかない)。

 目の前を集団が通過していく迫力とスピードは生観戦ならではの魅力だが、現地観戦はレースの全容がつかみにくく、待ち時間も長いのが難点だ。一方トラック競技では、客席の目の前にあるトラックでレースが行われているので、常にトラック全体を見渡せるので、競技のルールさえ大まかに理解できれば、レースも把握しやすい。

 伊豆ベロドロームの場合は、コーナー部分は座席なしのフリーエリアなので、バンクの頂上部まで駆け上がってきた選手が猛スピードで直線に駆け下りていくのがまさに目の前で見られ、ロードレース観戦とはまた違う迫力を体感できる。また、今回のイベントでは、選手がアリーナ席内を経由してトラックに出入りするため、アリーナ席の観客は、競技前後の選手と気軽に交流できるという特典も。熱心な自転車ファンにはたまらない仕掛けだ。

 トラック競技に明るくない筆者は、ロード選手のレースを取材に行ったのだが、海外で活躍する日本人ロード選手5人によるレースはこの日2回行われた(スクラッチとケイリン)。同じ自転車競技とはいっても、使用する自転車もルールもまったく異なり(ロード用の自転車は多段変速のロードバイク。トラック競技には最近何かと話題になっているピストバイクを使う)、特にケイリンについては「実際にやったことはない」「ルールよくわかってない」などと不安なことも言っていたが、レースはほかの競技と同様に白熱。各選手ともにレースとイベントを満喫したようで、レース後のトークショーでは、満面の笑みで「すごい楽しい!」を連発していた。また、普段は競輪やトラック競技で活躍する選手の皆さんも、華やかなショー、多くの観客の声援の中で競技を行うのは格別だとコメントしていた。

日本人ロード選手5人のスペシャルレース後のトークショーの模様。普段と違う環境・バイク・競技に参加して「とにかく楽しい!」と満面の笑顔。別府選手はトークショー後、アリーナ席でギリギリまでファンのサインに応えていた。選手とファンの距離の近さが魅力

トラック競技の魅力が伝わる生観戦
 近年の健康ブームなども手伝って、日本では今スポーツ自転車が広くブームになっているのはご存じのとおり。また、それに伴い交通事故も増えており、警察庁が自転車と歩行者の事故に関連する対策を打ち出してきている。

 このところの自転車ブームはロードバイクを中心としたもので、アマチュア対象の参加型のレースやイベントも多数開催され、同時に国内外のプロ・実業団のレース観戦も話題になっている。一方のトラック競技は、ギャンブルとしての競輪という一面の影響もあってか、オリンピックなどでメダルを獲得できる可能性のある競技の割には、一般に浸透しているとは言えないだろう。

 しかし、実際に競技を観戦してみると、スピード感や迫力は強烈なものがあり、多彩な競技のルールが分かってくるとその魅力がさらに高まる。自転車トラック競技の普及(観戦ファン層の拡大)には、TRACK PARTYのような「競技の魅力を目前で体験できる楽しいイベント」は有効だろう。今回は伊豆ベロドロームのお披露目という意味もあって、同会場での開催となったのだろうが、新しいファンの獲得に向けて、同種のイベントの都内などでの開催も目指してもいいのではないだろうか。さらにパワーアップしたTRACK PARTYを、また開催していただきたい。

(内田泰仁)
2011年 11月 2日