【特別企画】開発責任者同乗試乗!! 新型「インプレッサ」
竹内明英プロジェクトゼネラルマネージャーに聞く


昨年の11月30日に発表され、12月20日に発売されたスバル(富士重工業)の新型「インプレッサ」。5ドアの「インプレッサ スポーツ」と4ドアの「インプレッサ G4」のボディータイプが用意され、エンジンは1.6リッターモデルと2.0リッターモデルをラインアップ。2.0リッターモデルには、安全運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」のver.2搭載モデルも用意され、先代までとは大きく異なったものとなっている。そこで本稿では、新型インプレッサの開発責任者である竹内明英プロジェクトゼネラルマネージャーを助手席に招いた、同乗試乗記を掲載する。

 インプレッサをドライブし、レビューをお届けするのは、初代インプレッサWRX(GC8型)、2代目インプレッサWRX(GDB型)をかつて愛車とし、ドライビングスキルの高さには定評のあるモータージャーナリストの斎藤聡氏。試乗した車両は、販売の好調が伝えられる新型インプレッサの中で、最も売れ筋となっている5ドアの2.0i EyeSight(4WD)を選択した。


新型インプレッサの右に立つのが、開発責任者の竹内明英さん。同乗走行しながら、お話をうかがった

注目の安全運転支援システム「EyeSight(ver.2)」
 4代目となる新型「インプレッサ」が発売された。車格の概念を超えるさまざまな価値を凝縮したクルマという意味合いを込めて「New Value Class」をコンセプトに掲げて開発された今度のインプレッサは、先代と異なり、スポーツモデルであるWRXとは別のクルマとして設計開発されたのだと言う。

 しかし、それではこれまでのモデルにあったオーバークオリティなお買い得感が消えてしまうのではないか? それ以前に、この量販クラスに2つのシャシーを作ることは非効率な気がするのだが、その辺りをどのように考え、インプレッサをどんなクルマにしたかったのだろうか?

 お屠蘇気分の抜けない1月上旬。インプレッサの開発責任者である商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャーの竹内明英さんを助手席に、一歩踏み込んだインプレッサの実像について直接聞いてみることにした。

 今回の試乗車には、EyeSight(ver.2)が搭載されているが、当初EyeSight搭載モデルは、発売が遅れるという話もあった。実際には発売時にEyeSight搭載モデルもラインアップされており、その点について尋ねてみた。

 竹内さんは、「同時発売としたのには背景があるのです。当初はインプレッサそのものの発売は一刻も早めたいとして、本来はもう少し早く立ち上げることにしていたのですが、震災の影響で日程の立て直しを余儀なくされました。でも、お待ちになっているお客様には何としても年内には御披露目できるようにと考え、EyeSight装備車のタイミングも合わせることにして高まる期待に一気に応えようとしたのです。通常はEyeSightのセッティングにはある程度時間が必要なのですが、そこはちゃんと日程を確保しながらも年内の同時発売は譲れない条件としました」と言う。

 新型インプレッサに搭載された、EyeSightの印象について少し触れておこう。巷では“ぶつからないクルマ?”として注目を集めているEyeSightだが、実際の道路上ではEyeSightによる緊急ブレーキが作動するというケースは少ないと思う。あえて体験するためにブレーキを踏むのを我慢していると、走行状態から前車の運転にあわせて減速→停止まで、行ってくれる。渋滞でよそ見をしてしまい、ブレーキを踏み遅れて“ドキッ”とするような場面でアシストしてくれるというわけだ。ブレーキを踏み遅れて、前のクルマに急接近するような状態、通常の走行では前を見ていれば間違いなく強くブレーキを踏みたくなるような状況になるまで、作動せずにいてくれる。 あくまでドライバーの意思を優先した、エマージェンシーな安全機能であることがうかがえる。

 追従機能は秀逸。3段階の車間を選ぶことができ、走行シーンに応じて車間を設定できるようになっている。先行車の加減速に対する応答速度を配慮してセッティングされているため、前のクルマが雑な加減速を繰り返していると、EyeSightもぎくしゃくした走りになることがあるが、基本的にはスロットルの開け方、閉じ方が滑らかで応答がよいので、もたつく感じはかなり少なくなっている。

EyeSight(ver.2)で追従走行。3段階の車間設定ができるため、走行シーンにあわせて選べばよいだろう

 個人的には、もっとも短い車間は割り込みされにくいが、やや短すぎる印象があるので、心理的に余裕のある車間は中間の設定がよいのではないかと思う。いずれにしても、追尾機能が加わったことでオートクルーズコントロールの利便性を本格的に体感できるようになったと言ってよい。「EyeSightが発売当初からラインアップに加わっていることもあって、EyeSight装着車が設定されている2.0リッターモデルでは、販売台数の7割近くがEyeSight付きです」(竹内さん)とのことだ。

大きくならなかったにも関わらず、居心地のよさを感じる新型インプレッサ
 クルマ自体の作りについてはどうだろう。じつはクルマに乗っていて感じたのは、息苦しさのない室内の居心地のよさだった。大人4人が乗っても、意外な程の快適さに、実はちょっと驚いていた。クルマの居心地のよさを決定づける要因として、乗員に見合った必要な空気の量があるという説がある。どんなに広く感じても、4人乗ると息苦しく感じるクルマがある。その反対にコンパクトに感じるのに、意外にゆったりするクルマ。その要因の1つが室内の空気量にあるというわけだ。インプレッサは、4人の大人が乗って移動していても、窮屈な感じも息苦しさも感じなかった。明らかに室内が広くなっている。

 それを竹内さんに伝えると、「ボディーサイズは先代と比べて1mmも大きくしていないんです。ボディーを大きくして室内が広くなったと感じるのは100mmレベルの変更をした場合なのです。10cmくらい長くならないと広くなったと感じない。幅もそうですね。頑張って10mmや20mm大きくしたところで、かえってお客様のご不満につながるだけなのではないか? だとすれば、取り回しのよさや今までのベストなサイズ感をキープした上でいかに居住性を高めるかを考えよう。このクラスに期待されるお客様は、広いことは歓迎するが大きいことは望まないのだ。ということで今回のインプレッサは、ボディーサイズに関しては全長・全幅ともに先代とまったく同じサイズなのです」「その代わり室内は細部まで見直して、徹底的に広く感じられるように作りました。ですから実質的な室内空間はかなり広くなっています」との答えが返ってきた。

 コンセプトについても聞いてみた。言葉を操るのはたやすいが、それを実車に反映するのは決してたやすいことではない。ましてや愚直というくらい実直にクルマを作ってきたスバルである。その中にはたして竹内テイストはどんなふうに込められているのだろうか。

 「竹内テイストはともかく、私なりのこだわりみたいなものは反映されていると思います。まずこのクルマを手掛けるときに考えたのが、実際に購入する人の優先順位に沿ってクルマを作ろうということです。これまでスバルのクルマは、“走ればよいのは分かるんだよね”、と言っていただけるくらい優れた走りの性能を持っています。ただ、ディーラーなどに行って話を聞いてみると、乗るところまでいかない方も多いとのこと。それで私なりにお客様が購入の段階までにたどるショッピング・プロセスを考えてみたのです」

 「そのプロセスは、1.知る、2.調べる、3.見る、4.乗る、という段階を踏むのです。確かに自分もそう行動していると思いませんか? まずテレビのCMや雑誌でその存在を知り、スタイルや燃費などを知るわけです。そしてスタイルなどに興味を持ったら、今度はインターネットや専門誌などでサイズや環境性能、安全装備などを調べてみる。それでさらに興味がわいたら実際にディーラーなどに行ってクルマに触る。そして最後にクルマに乗ってみる。ここまで来てようやく質感や手触り、乗り味などをチェックするわけです」

 「お客様はこうした段階を経てクルマの購入に至るわけですから、クルマを知ったときのスタイルがいま一つだと、次の段階にはなかなか行ってくれないわけです。だからサイズにもこだわりましたし、室内の使いやすさや広さ感にも力を入れました。乗ってもらえばそのよさは分かってもらえると思いますので、どうやってそこまでお客様にたどりついていただくようにするかなのです」

 竹内さんは、インプレッサとWRXを別モデルとし、関連付けないと決めたのもこれが理由なのだと言う。たとえば「WRXにも使うからここの部分のパーツを追加しておこう」といったことをしたくなかった。インプレッサならではの魅力を引き出すための軽快さも作り出したかった。そのためWRXに必要なことはWRXという車種を開発する際の検討項目としてもらい、インプレッサは純粋にインプレッサの魅力を引き出すためにクルマを作りたかったのだと言う。その結果、ホワイトボディー重量は先代に比べ22kgも軽くなっていると言う。それでいながらボディー剛性は曲げもねじりも10%以上高くなっている。

構造設計のスペシャリストが手がけた4代目インプレッサ
 新型インプレッサは、ホイールベースが先代よりも25mm長くなり、キャビンも200mm拡大(Aピラーの付け根の位置を200mm前方に移動)しての軽量化と剛性アップだ。おざなりなボディーワークでは到底達成できない。

 実は竹内さんの出身は構造設計という部署で、ボディー構造のスペシャリストなのだ。そのバックボーンこそがWRXとの共用化を止め、インプレッサのためのインプレッサ作りをさせたのだろう。その1つの結果が軽量化とボディー剛性アップの両立なのだ。こだわりは、ボディー設計だけにとどまらない。

 「室内ってどうやると広く見えると思います?」、竹内さんからそんな質問を受けた。「室内を明るくすることです。そのためにはガラスエリアや窓は広いほうがよく、視界のよさとも関係してきます。ところがデザイン性ばかりを追求してしまうと、窓をスマートに描き過ぎたり、キャビンの包まれ感を強調し過ぎたりしてしまうことがあります。フロントウインドーも同じで、大きすぎるとさまざまな課題も出てくると。じゃあそれをどうにか両立しよう、ということになるわけです。そこで、室内の圧迫感をなくす方策として、ダッシュボードの位置を低くしているのです。目の高さ基準で60mmくらいですが、低くすることで前方の圧迫感が大幅に少なくなっています。適度な見晴らし感も出てきます」

 後席の開放感に効果のある、前席シートバックは大きめですよねというと、竹内さんは待ってましたとばかりに話し出した。「シートバック高を低くすると後席の開放感がよくなるんです。でも、ホールド感やドライバビリティ、安全面からみるとシートバックは絶対に低くできないと思っていました。フォルクスワーゲンなどのドイツ車を見てもシートバックはいかついくらい大きいですよね。それがホールド性や運転のしやすさにつながっているのです。ですからインプレッサでも従来よりもシートバックを高くして、座る性能を高めています。その代わり、シートの肩の部分を少しなで肩に削るなど、工夫を凝らして、後席に座ったときの圧迫感を取っているのです」と、そのシートデザインに込められた思いを語ってくれた。

 新型インプレッサの後席に座ると、ドアの厚みが薄くなり、はっきり感じられるくらい横方向の広さ感が増しているのに気がついた。この点に関しても、「ドアは全部見直しました。ボディーサイズが同じだから居住性も先代と同じでよいというわけではありませんからね。ドアの中身のレイアウトを見直したり、余計なでっぱりをすべて取り払ったりして、横方向の空間を拡大しています。これが座ったときにゆったりとした感じになるのです。ただひじ掛け下のところは側突(側面衝突)の安全性に効きますから、ここの厚みはわざと残して腰の方までしっかりとカバーしています」

 この辺りも竹内さんならではのこだわりなのだろう。このほかにも細部に至るまで工夫と配慮が効いている。

 具体的には、例えば前席ドアポケットの形状。A4ファイルがちょうど入る大きさになっており、しかもポケットの片側が細く絞ってある。これによってファイルが折れ曲がって落ちないように工夫されている。また、センターコンソール、エアコンコントローラー下の大きな小物入れは、ボトルタイプのガムが入るサイズに、サングラスケースも入れられるようにしてあり、前席助手席アームレストの凹みはiPodが収まるサイズにしてあるのだと言う。

 「隙間に成り行きで物置きスペースを作っても役に立たないんです。何を入れたいのか、どんな使い方をするのかを考えて、それに適した大きさになるように工夫して作ることが大切なのです」と竹内さんは語る。そんな機能的な工夫の真骨頂ともいうべきものがドアミラーの位置だ。窓の付け根からドアボディーにミラーを移動させている。「ミラーの位置を変えたことで、特に左側の死角が少なくなって、ぐっと取り回しがよくなりました」

新型インプレッサの各部には、竹内さんのこだわりが反映されている

 サラッと答えてくれたが、ミラーは窓の付け根のほうが取り付けやすいしデザイン的にもよい。そのほんの僅かなデザイン性を捨てることで得られる、その数倍の運転のしやすさ。それをあっさり決断できる機能性の鬼というべき合理性が、竹内さんらしさなのではないだろうか。構造設計のスペシャリストが作り上げた4代目インプレッサの魅力は、「人が使いやすいか、楽しいか」を基準にした、ぬくもりのある合理性で構成されている。“New Value Class”の本質はそこにあるのだろう。

(Photo:安田 剛/斎藤 聡)
2012年 1月 18日