自工会志賀会長、電気料金値上げによるコスト増加に懸念
2月期定例記者会見より

記者会見で質疑応答に臨む自工会の志賀俊之会長(写真左)と名尾良泰副会長(写真右)

2012年2月16日開催



「もの作りをなんとか残そうと努力している現場を見れば、電気料金の17%値上げがどれだけ厳しいか理解できるはず」と語る志賀俊之 自工会会長

 自工会(日本自動車工業会)は2月16日、定例記者会見を実施し、志賀俊之自工会会長が2月上旬に発表した国内自動車メーカー各社の決算内容についての意見を述べるとともに、自動車産業を取り巻く社会情勢などについて質疑応答を行った。

 冒頭では、昨年から続けられているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加に向けた協議に入るとの政府表明について、歓迎するとの姿勢を改めて強調。世界経済に対しての貢献が大きいこと、USTR(アメリカ合衆国通商代表部)が集めたパブリックコメントでも、日本のTPP参加を歓迎する回答が9割近くになってることなどを紹介した。

 また、TPPに関連して、日本の自動車市場が輸入車に閉鎖的であるという一部からの主張に対して、日本市場では2000cc以下の小型車が主流であり、このニーズに的確に対応している欧州メーカーは1996年以降、市場シェアを向上させているという数値データを示し、「日本市場はオープンであり、輸入車を制限する規制も慣行も存在しない」と反論した。

 このほか、日系自動車メーカーがアメリカで販売する車両の約7割が北米で生産されていること、日系自動車メーカーがアメリカ製部品の購入額を年々大きくしていることなどについても触れ、日米自動車産業の繋がりの深さについてもアピールした。

TPPに関する自工会の主張経済規模世界3位の日本がTPPに参加する意義は大きいと主張北米で販売される日系自動車メーカーの車両は約7割が現地生産であることを紹介

 記者との質疑応答では、時節柄の質問として出たメーカー各社の第3 四半期決算と来期以降の展望について述べられた。

サプライチェーン強化に向けた主な取り組み

 志賀会長は、グローバルビジネスである自動車産業を世界全体で見た連結決算と、国内市場での単独決算で差が出ていることを指摘。連結決算では海外市場の伸びで黒字となっているものの、国内単独では東日本大震災の影響や円高による為替差損で大きく赤字になっており、「日本に本社を置いて日本に納税する企業の姿としては健全でない」と述べるとともに、単独決算でも早い段階で黒字化を図る努力が必要になるとの考えを示した。また、「円高傾向の中でどのような事業形態を取るのか、生産規模や雇用をどうバランスさせながら維持していくのかなどが課題になるだろう」とコメント。

 一方、来月で東日本大震災から1年が経過する。自動車業界もサプライチェーンの寸断などで大きな影響を受けたが、この災害から得た教訓や新しい取り組みなどがあるかとの質問に対して、これまでは1次部品メーカーまでだった実態把握を震災後に2次以降のメーカーまで広げたこと、パーツ発注先の複数社化や汎用品化、輸入部品の採用拡大といったリスク分散化などを進めていると解説した。

「電気料金の値上げがもの作りにどれだけ影響するのか知ってほしい」
 また、志賀会長は東京電力が計画している、企業向け電気料金の値上げについても言及。

 あくまで事例的な数値としながらも、年間100万台を生産する日産自動車では100億円、自工会全体では1000億円の電気代を支払っていると言う。イメージとしては、クルマ1台で1万円の電気代が使われている計算になる。そのため電気料金が17%の値上げになる場合、パーツの生産段階での上昇分まで含めて計算すると、全体で2000円~3500円のコスト増になる試算になる。

 その一方で、各メーカーは円高などに対応するためコスト削減に努めていることから、志賀会長個人としては東京電力も同レベルの原価低減、コスト削減の努力がないと電気料金の値上げに理解できないとの見方を示した。「実際問題として、電気料金が値上げされても簡単に車両価格に上乗せはできず、現場とサプライヤーを圧迫することでしわ寄せが吸収されることになる」と述べ、電気料金の値上げがもの作りにどれだけ影響するのかを知ってほしいと苦しい胸の内を明かした。

(佐久間 秀)
2012年 2月 16日