日産とオーテック、「ライフケアビークル」の生産工場を公開
LVユーザーの気持ちが分かる「エイジングスーツ」体験も実施

「ライフケアビークル」が生まれる現場でさまざまな取り組みについて紹介

2012年3月27日開催



直列6気筒エンジンをモチーフにしているとも言われるオーテックジャパン本社が会場

 日産自動車とオーテックジャパンは3月27日、神奈川県茅ヶ崎市にあるオーテックジャパン本社/工場でライフケアビークル(LV)に関する説明会を実施した。

 「ライフケアビークル」は日産ディーラーを通じて販売されている福祉車両の総称だが、日産グループでは「ユーザーの幅広い生活シーンをサポートするクルマ」という意味合いを与えたものとなっており、多彩な車種ラインアップに助手席が回転したり、電動ステップが出てきたりといった簡易的な装備から、車いすをそのまま車内にリフトアップする大掛かりな仕様までを用意している。

 説明会では、まずオーテックジャパンLV商品・販促企画部の島本圭子部長から、スライドを用いた座学でLVの基礎知識や開発手法、同社がLV開発・生産で重視しているポイント、福祉車両を取り巻く環境や今後の展望などが解説された。

オーテックジャパンの島本圭子部長利用者の中心は高齢者だが、現在では幅広い年齢層でLVが利用されるようになった介護保険には「1人で入浴できなくなる」という適用の目安があるそうだが、湯船に出入りする動作と、クルマに乗り降りする動作は共通点が多いと言う。介護保険で生活が支援されるように、LVがカーライフを支援するのだ
自工会による福祉車両の分類は、介助される人のための「乗込み補助」「車いす仕様車」と、自分で運転する人のための「運転補助装置」という3種類。LVではフルラインアップ戦略を推し進めていると言う購入先が一般家庭なのか、介護サービスなどの団体なのかで利用形態が異なるため、それぞれに合ったLVをラインアップする
乗り込みを支援する「アンシャンテ」シリーズはLVでもとくに力が注がれており、ユーザーからのリクエストを盛り込んださまざまな独自技術で進化を続けている
車いすに座ったまま車内に乗り込める「チェアキャブ」シリーズ。用途に合わせて軽自動車からキャブオーバーバンまで用意され、さらに今夏デビューを予定しているNV350キャラバンでも同時発売に向けて開発が続けられているとのことLVの中で少し毛色が違う「ドライビングヘルパー」シリーズは、足を使わず手の操作だけでクルマを運転するアイテム。最新モデルの「ドライブギア タイプe」はアクセルを電子制御にして滑らかな加速を実現。EVのリーフのほか、ティーダやノートなどに設定している
LVの開発ではユーザーの意見を重視し、レースイベントやモーターショーなどに積極的にブースを出展してユーザーとの交流を図っており、これまでにも数多くのアイディアが製品にフィードバックされている
日本が「高齢化社会」と呼ばれていたのは昔のこと。すでに1995年には高齢化率が14%を超えて高齢社会になり、2007年からは高齢化率21%以上の超高齢社会。4人に1人が65歳以上の高齢者という時代も目の前で、LVの必要性は高まる一方だ
高齢者にとってブラック内装のような暗い色はコントラストが判別しづらくトラブルの元になる。そのためLVではシート表皮をベージュ系にしたり、追加装着するバーなどをオレンジ色にすることで、使いやすい車内空間としているカタログなどの表記でもユーザーからの意見を反映。使う人のメンタル面に対する影響も性能の大きな要素となる福祉車両らしいエピソード

多種多様なニーズに応えるべく、工場内で1枚の鉄板状態からパーツを自作
 30分ほどの座学に続き、LVを生み出す工場見学がスタート。一部の作業エリアなどでプライバシーの観点から撮影が禁止になったものの、LVに関連するすべての作業工程を、要所で現場担当者からの解説を受けながら見学できた。

いざ工場見学へ

 車体の各部分にLV化のパーツ類を装着するためにクルマが並べられた光景は、一見して自動車メーカーの生産ラインを連想させるが、実際には作業が終わるとそれぞれがエンジンをスタートさせて次の作業エリアまで自走していく。日産自動車の工場をラインオフした車両に架装を行っているオーテックジャパンならではの、微妙に違和感のあるシーンとして印象に残った。

LV化パーツの組み付け工程
オートステップ装着作業中のキャラバン アンシャンテワゴン系のLVが多い中に混ざって作業を待つブルーバードシルフィ アクシス

 また、LVに限らず、オーテックジャパンではユーザーニーズに適格に対応するべく多彩で独自性の強いパーツが必要になるため、使用する多くのパーツや部材を同工場内で製作している。1枚の鉄板を切り抜き、折り曲げ、溶接するほか、シート、ステップ、リフターなどのモーターを制御するワイヤーハーネス、3列シート車の車内移動スペースを確保するための少しコンパクトなシートなどを、パーツサプライヤーに頼らず自作しているのだ。

パーツサプライヤーに頼らず、使用する多くのパーツや部材を同工場内で製作している。また工場内の一角には、作業員が腕を磨く「技能道場」が設置されていた
NV200 バネット チェアキャブ用のシート
ワイヤーハーネスなどの組み上げブース
工場内でオーテックジャパン創立10周年記念コンセプトカー「オーテック・A-10」を発見! 5ドアハッチバック車のラシーンをベースにセダン化しただけでなく、インパネやシートなどを新調し、SR20DE改エンジンを縦置きにして後輪を駆動させるという意欲作

 工場見学の終了後には、LVユーザーの気分を疑似体験する「車いす・エイジングスーツ体験」が行われた。身体片側の肘や膝、足首の動きを制限し、さらに手首・足首、ベストにウェイトを装着。目には視界が黄色くなるゴーグルをかけ、手袋で指先の動きも抑制するエイジングスーツを着用した状態でLVの効果を体験したところ、とくに電動ステップのありがたみがはっきり確認できた。

マジックテープとゴムひも、ウェイトなどで身体の動きを制限して高齢者の身体状況を疑似体験助手席スライドアップシートは回転と前後動作が細かく入れ替わり、前後のピラーと上手に距離を保ちながら動いていくので身体がぶつかるような心配がない電動ステップを使わずに乗車しようと悪戦苦闘中な状態。動きを制限された左足は、身体を車内に押し入れることも、とりあえず車内に上がることもできず、ステップを使う場合との難易度の差に驚かされた
セレナ アンシャンテ・助手席スライドアップシート車多くの人にとって、車いすは見たことはあっても実際に運用する機会はそれほどないはず。介助するときはちょっとでも離れるときはブレーキでロックをかけるのが大切とのこと
車いすの目線は介助者より低い位置になるので速度感が高まる。座る人を恐がらせないよう、ゆっくりした速度を心がけるのがポイントとなるオーテックジャパンが車いすメーカーと共同開発し、オーテックエルコが販売しているLV対応型の車いす

(佐久間 秀)
2012年 3月 29日