岡本幸一郎の「エコチャレンジ」「10リッターチャレンジ」挑戦記
CR-Zを使って“Ecoでスポーツ”してきました


 無限(M-TEC)と、鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎを運営するモビリティランドが今シーズンから実施しているのが、ハイブリッド車「CR-Z」を使ったモーターレクリエーション・プログラム「Honda Sports&Eco Program」だ。Honda Sports&Eco Programは、“Ecoでスポーツする”を合い言葉に、「操る・磨く・競う」楽しさを気軽に体感できるものとして実施されている。

 このHonda Sports&Eco ProgramにCar Watchも参加し、そのプログラムの1つである「エコチャレンジ」と「10リッターチャレンジ」に参戦。ドライバーは、本誌でもおなじみのモータージャーナリスト岡本幸一郎氏だ。


 普段からCar Watch編集部とやりとりはあるのだが、あるとき編集部から「岡本さん、鈴鹿でレースにでませんか」という電話が。クルマに乗ることであればと、二つ返事でOKし、Honda Sports&Eco Programに参加してきた。

 Honda Sports&Eco Programには、「お試しプログラム」「操る楽しさプログラム」「晴れ舞台プログラム」という3段階のプログラムが用意され、車両は専用仕様のハイブリッド車「CR-Z」がレンタルされる。

 それぞれの詳しい内容は、このプログラムのWebサイト(http://www.honda-crz-se.jp/)をご覧いただきたいのだが、その最大の特徴はプログラムで使用されるCR-Zがレンタルであることだ。サーキットを走るプログラムであれば、ある段階以上は自分でクルマを用意する必要があった。それが上位プログラムになっても、レンタルのCR-Zで楽しめる。それだけに参加するハードルも低く、初心者にもお勧めのモータースポーツ体験となっている。

 Honda Sports&Eco Programでは、プロの指導で技術を磨く「操る楽しさプログラム」を修了した参加者に対して、「晴れ舞台プログラム」の「エコチャレンジ」と「10リッターチャレンジ」が設定されている。今回筆者が参加したのは、この晴れ舞台プログラムになる。

 4月14日、15日に鈴鹿で開催される「2&4レース」のサポートレースとして、晴れ舞台プログラムが初開催されることになり、そこに、一般参加者に加えて、筆者を含むプレス関係者数名が参加する運びとなった。

 まずは、レンタル車両の仕様をざっと説明しよう。CR-Zには、無限製フルエアロをはじめ、無限製パーツがふんだんに組み込まれている。同じく無限製の6点式ロールケージが張り巡らされ、バケットシートや4点式フルハーネスなどを装着したコクピットは、まさにレーシングカーのよう。インストルメントパネルには同プログラムのための専用メーターを搭載し、フロントスクリーンとリアウインドーには、そのマシンのバッテリー充電量がどのくらいであるかが外からも分かるようにした、エコインジケーターランプが設置されている。

晴れ舞台プログラムで使用したCR-Z。各部に無限の手によるチューニングが施されており、安全にレースが楽しめる

 足まわりは専用スペックのサスペンションキットとブレーキパッドが与えられ、セミレーシングタイヤ(ウエット時およびスクールではエコタイヤ)を履く。減衰力や車高の調整は不可。エンジンおよびIMA、トランスミッションは無改造で、今回は6速MTのみだが、プログラムにより希望者はCVTを選ぶこともできる。

 また、オーバーレブ(6800rpm)をすると、強制的にスロー走行(約60km/h)となるようなシステムが組み込まれている。10リッターチャレンジ用のモードでは、モーターアシストを任意に作動させることのできるオーバーテイクシステムが設定されているあたり、ハイブリッドカーならでは。F1のKERSみたいで面白そうだ。

まずは、燃費競争のエコチャレンジに参加
 4月13日の昼前に鈴鹿サーキットに到着し、午後の練習走行に参加。鈴鹿サーキットの本コースを走るのは何年ぶりだろう? とにかく2回目なのだが、以前走ったときよりもコースはきれいになっているし、パドックまわりも見違えるほど一新されていて驚いた。

 それにしても、ひさびさに鈴鹿を走って、本当にエキサイティングなコースだとあらためて実感した。F1ドライバーの多くも鈴鹿を絶賛しているらしく、筆者がいうのもおこがましいが、同感、同感(笑)。

 翌14日は、いよいよ「晴れ舞台プログラム」のメインイベントだ。

 朝一番で「エコチャレンジ」が行なわれ、そのリザルトを予選順位として、夕方に「10リッターチャレンジ」が行なわれる。参加者は、報道関係者が7名、一般参加者が8名、ゲストドライバーの清水和夫氏(賞典外)という、計16名。

 報道関係者の中には、元GTドライバーやフレッシュマンレース優勝経験者などウデ自慢の猛者も名を連ね、一方の一般参加者も本当にビギナーという人から、同プログラムの「アドバンススクール」まで受講した人や、FJレース経験者までと幅広い。筆者も浅いながらもレース経験はあるが、はたしてどこまで通用するか……?

 まずはエコチャレンジ。ここで競うのは速さではなく燃費。あらかじめ設定された基準タイム内で、いかに燃料使用量を少なく走るかを競う。前日の練習走行では、速い人で2分50秒を切るタイムをマークしており、この日の基準タイムも、ドライであれば3分ちょうどの予定だったところ、エコチャレンジの開催時の天候はあいにくの雨だったため、基準タイムはプラス15秒の3分15秒とされた。

 与えられた走行時間は20分。筆者の車両は4号車だ。コースインして、まず様子見。結構滑るので、決して無理しないよう心がける。運転の仕方は燃費を心がけ、ブレーキをなるべく使わず、ヒール&トウは使わない。さらに、ギアは高めにしてアクセルペダルを開け気味にしたほうがポンピングロスが少ないこと、高速走行時には一気に走行抵抗が増すので、速度の上限は145km/hにとどめたほうがよいことなどを、ゲストドライバーの清水和夫氏よりアドバイスいただいたので、それを実践して走った。

雨の鈴鹿にコースイン筆者のクルマは4号車。燃費を心がけて運転した

 ちなみに、前述のオーバーブーストボタンは、10リッターチャレンジのみで作動し、エコチャレンジ用のモードでは作動せず、エネルギー回生とアシストは自動制御となっている。

 コクピット内のディスプレイには、ラップタイムごとの燃料使用量は表示されるが、ラップ途中には、自分が今、どのくらいのタイムで走っているか分からないので、まったく手探り。燃費を意識して走ると3分19秒台と遅すぎたり、まずはタイムをクリアしなければと思ってペースを上げると、使用燃料が0.9Lを超えてしまったりと、なかなかちょうどよいところに合わせるのが難しい。

 そのうちウインドーが曇ってきたのだが、エアコンを入れると燃費が落ちてしまうので、その1周は捨ててエアコンを入れて曇りを取り、改めてトライ。ようやくコツがつかめてきて、ラストチャンスの6周目に、3分14秒614のタイムで、使用燃料は0.743Lをマーク。ライバルの動向が定かではなかったが、まあまあかなと思っていたところ、結果は4番手。なかなか上出来ではないか?

エコチャレンジの結果は4番手。思ったよりもよい成績だった

 エコチャレンジは、基準タイムの中で、できるだけ燃料を使わなければいいのだから、速い人が必ず勝つとは限らない。誰にでも上位進出のチャンスがあり、そこに挑戦する楽しさがあると思う。

レース前のブリーフィングを受ける筆者。本気で好成績を狙っていました

いよいよ10リッターチャレンジへ
 そして午後、メインイベントの10リッターチャレンジの開催時刻が近づいてくる。ほかのカテゴリーの予選でコース上に大量のオイルがまかれるトラブルがあり、その復旧にかなりの時間を要したため進行に遅れが生じたが、予報どおり雨は上がり、コースは徐々に乾いていった。

 ちなみに、名前に「10リッター」と付いているが、今回は8周のレースのため、実際に10L使うと、すべて全開で走れてしまう。そこで、レンタル車両をGTドライバーの道上龍選手がドライブしての燃料使用量をもとに、事務局がエコとスポーツのバランスを考慮して使用可能燃料量を決定した。その値は、1周あたり0.80Lという計算になり、×8周の6.40Lに決定。レース開始1時間前に発表されたが、結構キツそうだ……。

 実際には燃料タンク内にはもっと多い燃料が入っていて、コンピュータが使用燃料をモニタリングして演算。6.40Lを使い切りガス欠と判定されると、ハザードランプが点灯するとともに、擬似ガス欠症状として、約60km/hまで強制的にスローダウンするようプログラムされているとの説明があった。つまり、外部からも走行車両のガス欠状況が分かるようになっている。

 ディスプレイには、各周のラップタイムと使用燃料量とともに、あと何L残っているかなどが表示されるのだが、この数字とにらめっこしながら、どういう走り方をするかを考えながら走るのが難しく、そこがこのレースの醍醐味。もちろん、前述のオーバーテイクシステムをいつ使うかも重要なポイントだ。

 陽も傾いた17時過ぎ、前述のトラブルの影響で予定よりも遅れたが、いよいよコースイン。17時15分、フォーメーション開始。17時19分、ついにレーススタート!

レース前に旧知の大井貴之氏としばし歓談。作戦の探り合いをしているわけではありません。ちなみに優勝は大井氏でしたスターティンググリッドに並ぶいよいよ10リッターチャレンジのスタート。予定よりスタート時刻が遅くなったため、日差しは柔らかなものとなっていた

 まずは完走が大事と思い、燃費を抑えるため、はやる気持ちを抑えながら控えめにスタートした筆者は、1コーナーまでに5台、ヘアピン進入までに1台の計6台に、ごぼう抜きされしてしまった……。結果10番手までダウン!せっかくの予選順位が台無しだ。

 挽回を図ろうと試みるも、どうしても燃料を多く消費してしまうので、それも容易ではない。スタートの重要性をあらためて痛感した。ところが、前に出たマシンの中に、やはり燃費のきつい人もいたようで、途中で1台、もう1台と、なんとかオーバーテイクをしかけることができた。なんとか8番手まで挽回。

 オーバーテイクシステムは、すでにスピードに乗った状態で使うよりも、コーナー立ち上がりなど、エンジン回転数の落ちた状態からの加速で使うほど有効で、ONにするとしないとでは大違い。ここ一発というときももちろん有効だが、燃料の消費を抑えながらタイムアップを図ることもできるはずだ。

 市販車では任意にON/OFFにすることができないので、今まであまり意識したこともなかったのだが、IMAシステムというものが、実はこれほど走りに貢献しているということを知ることができたのも収穫だった。

 ファイナルラップ突入時には、あまり正確に覚えていないのだが、燃料残量は0.5Lぐらいと表示されていたような気がする。おそらくガス欠なしには完走は不可能。それでも、できるだけよい結果につながるように、最後までベストをつくすのみだ。

 デグナーカーブを抜けたあたりで燃料残量は0.2L。ヘアピン、スプーン、そして、西ストレートに入ったところで、ついにガス欠! ハザードが点灯し始め、万事休す……。

 後ろからマシンが迫ってきたので、ガス欠の自分がジャマをしてはいけないと思い、130Rの手前で左に寄せて道を譲った……と? ところが勢いよく筆者を抜いていった2台のマシンも、なんとハザードが点灯していた。ということは、彼らもガス欠??

 とりあえず、そのまま2台に続いてチェッカーを受けたのが、けっきょく自分のマシンも、レース前に聞いていた擬似ガス欠症が出ず、最後まで普通に走れてしまった。あとで判明したことには、どうやらプログラムにミスがあり、使用可能な量の燃料を使い切っても擬似ガス欠症状が出ない状況になっていたとのこと。

 それでも順位は、規定によりチェッカーを受けた順となるので、正式結果は10位。ちょっと悔しい。今後はこのようなプログラムミスがないよう、事務局も十分に気をつけるとのことだった。

戦いすんで日が暮れて。次回チャンスがあったら、さらに上を目指します。10リッターチャレンジは、しっかりスポーツでした

 そういえば余談だが、このイベントと同時期に開催されたF1中国GPで予選4番手と注目を集めた小林可夢偉選手も、スタートで何台も抜かれて、決勝は10位に終わったんだよね……。

 縁あって参加し、貴重な体験をすることができた今回のHonda Sports&Eco Program。単に速さを競うのでは、尻込みしてしまう人も多いのではないかと思うが、このプログラムは、速く走るためのドライビングスキルと、エコドライブのスキルの両面を備えていないと、よい結果につながらないところが奥が深い。

 そして、ビギナーにとっては、操る楽しさを知り、ステップアップしていくことで、憧れの鈴鹿サーキットやツインリンクもてぎという「晴れの舞台」が必ず待っていると思うと、がぜんやる気になれるのではないかと思う。筆者も予選はよかったが、決勝は少々不本意な結果だったので、さらにウデを磨いて精進し、機会があれば、ぜひまたリベンジしたいと願う次第である。

(岡本幸一郎/Photo:奥川浩彦)
2012年 4月 24日